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第二百二十八話 決着、そして………

今日からまた更新していきます!

では第二百二十八話です!

 気配殺し。

 それこそが妃の器に宿っている最後の能力だった。

 元のハクが所持していながらもその力の強大さゆえに使ってこなかった最終奥義の一つ。

 凶暴な人格のハクはその能力を惜しみもなく巨大化した拓馬に打ち放った。

 すると差し出された右手から何やら青白いモヤのような煙が漂い始め、拓馬の体にまとわりつき始める。

 それは殺気も魔力も神格も帯びていない純粋な力の塊で、たとえ絶離剣であっても切り裂くことのできない絶対的な破壊の象徴。

 拓馬にまとわりついたその青白い煙は何を起こすわけでもなくその場に漂っている。


『ギャアアアアアアアアアアア!!!』


 巨大化し暴走している拓馬は、その煙を打ち払うかのように咆哮を上げ、ハクの下へ攻撃を仕掛けるべく動きだす。

 だが、それは無残にも気配殺しの力によって阻まれることとなる。


「死ね」


 ハクは短くそう呟くと気配殺しの能力を発動させ、その具象を呼び起こす。

 瞬間、拓馬の動きは停止し、気配殺しの煙が全身を覆いつくした。

 それは何の音もたてず何かを壊すような動きを見せながら、拓馬に襲い掛かっていく。血も悲鳴も気配さえも傷つけないまま、その力は本領を発揮していく。

 それから数秒後、ハクは一つため息を吐き出すと、その能力を解除し力を収める。


「はあ………。まったく、この程度の相手にこの力を使うことになるとはな。オーバーキルにもほどがあるぜ。しかも本来難しい命を消すなっていう命令付きだ。お前だったら絶対に不可能だからな?」


『俺なら他の方法で無力化する。というかあれでもやりすぎだ』


 ハクは元のハクにそう言葉をぶつけると、自身が組み倒した拓馬の様子を確認する。

 そこには先程のエルテナの攻撃で切り裂かれた傷を大量に残した人間の拓馬が倒れていた。今しがた感じられた暴力的な力の気配はなくなっており、姿も元に戻っている。


「馬鹿言え。大分加減はしたんだ。そもそもこの力は絶対的な消滅を呼び込む力なんだぞ?そんなもので存在を消さないように調節することの難しさをわかって言ってほしいぜ」


『……………お前がやるって言ったんだろうが』


「うるせえ!少し黙ってろ!」


 ハクはもう一人のハクにそう怒鳴り声をあげると、倒れている拓馬に近づき状態を見てみる。

 気は失っているものの命に別状はないようで小さな呼吸音を鳴らしながら眠っているようだ。


(能力というよりも、あの力を発動させていたよくわからない力の核は気配殺しで消滅させた。だがそれでもこの拓馬とかいうガキは勇者としての能力を残している。これがある限りまた今みたいな状況になりかねねえな。さて、どうするか………)


 とハクが一人で考えを巡らせていると、その後ろからいきなり何かがぶつかってきた。


「ガハッ!?」


「拓馬!!!」


 それはキラたちと戦闘を離れてみていた結衣であり、ハクの背中を吹き飛ばしながら倒れている拓馬に駆け寄っていく。


「いってえな………。あの女調子に乗りすぎだ。………おい、キラ!しっかりあいつを抑えとけよ!」


 ハクは近くに寄ってきていたキラにそう言葉を投げかける。

 するとキラはまったく興味がなさそうな表情で返答した。


「あんなじゃじゃ馬、抑えられるわけがないだろう。というか妾が命令されたのは今のマスターではなくいつものマスターだ。お前の意見を聞き入れる気はないぞ?」


「チッ。どいつもこいつも減らず口を………」


「で、マスター。お前、一体何をした?」


 キラは無残にも気を失っている拓馬を見ながら首を傾げハクにそう呟いてきた。キラたちが見ていた限りではハクが右手を伸ばした瞬間、青白い煙が現れそれが巨大化していた拓馬を沈めさせたようにしか見えていないのだ。


「ああ?そんなこともわかんねえのか?いちいち説明してやる義理は……」


「いいから答えて」


 ハクが目線を逸らそうとした瞬間、その目の間にサシリがグイッと顔を寄せてくる。


「ぐっ!?本当にあいつのパーティーっていうのは面倒な女しかいないな……」


「「何かいったか?」かしら?」

 

「…………。はあ………。わかったよ、答えりゃいいんだろ!…………気配殺し。この器に宿っている最後の力だ。俺はそれを使った」


「気配殺し?それはマスターの妃の器の力か?」


「ああ、そうだ。基本的に俺は存在を殺すことに特化している。逆に言えばそれしかできない。だがこの気配殺しは存在そのものに死よりも取り返しのつかない消滅を叩き込むものだ。これを受ければこの世界にいる者は問答無用で消え去る。それは生き物だけでなく、物体やこの世の全てが対象になる。まあ、絶対の凶器ってやつだ」


 気配殺しというのは存在の定義自体を破壊する能力だ。

 それを使えば事象の生成でさえも再生できない一撃を叩き込むことが出来る。それは時間の流れさえも超越し、何をしても取り戻すことの出来ない結果を残すのだ。


「ならその力を使ってハクは何をしたの?」


「簡単なことだ。あの勇者を暴走させている核を破壊したんだよ。俺にもくわしいことはわからないが、あいつら勇者たちには何か奇妙な力が纏わりついている。それがトリガーになってあの現象を引き起こした。それを気配殺しで消しただけだ」


「あの人間は生きているのか?」


「その点はあの甘ちゃんに口酸っぱく言われたからな。問題なく生きている。俺としては面倒な限りだったがな」


 ハクはそう言うとエルテナを腰の鞘に戻し、腕を頭の後ろに持っていき手で枕を作るような姿勢を取る。


「元のハクはどうしてるの?」


「あいつはちゃんと中にいる。というか今のあいつならすぐにでも俺を押しのけて出てこられるはずだ。心配しなくてもいずれ俺は消える」


 するとハクは拓馬を介抱している結衣の方に目線を向けながら黙ってその光景を見つめる。

 しばらく三人、いやクビロも合わせれば四人で二人を見張っていたのだが、その直後何やらまたしてもハクの背中に衝撃が走った。


「ガハッ!?こ、今度はなんだよ!!!」


「あなた、また出てきたの!?早くハクにぃを返して!!!」


 それは先程まで帝国軍を片っ端から片づけていたアリエスで、その表情は完全に憤怒のものに変わっていた。

 どうやらアリエスとエリア、ルルンは帝国兵の山を築き上げて戦闘が激化していたハクたちの下へやってきたのだ。

 それもアリエスたちはハクが身に纏う空気がいつもと違うことを見抜いていた。


「少々気に入りませんね。あなたもハク様であることは知っていますが、私の好きなハク様ではありません」


「うーん、今の彼もエルヴィニアを守ってくれたからなんとも言えないんだけど、それでもいつものハク君のほうが好きかな」


 ハクはメンバーたちの否定的な反応に目をそらしながら、明らかに不満そうな顔を浮かべた。さすがにここまで拒絶されれば堪えるものがあるのだろう。


「早くして!じゃないと、また私が………むぎゅ!?」


 アリエスがさらに言葉を投げようとしたとき、ハクがその口を右手で摘み上げた。


「少し黙ってろ。別に俺はお前たちを傷つけはしないし、あいつもしっかりと残っている。もうしばらくすれば俺は強制的に戻され、あいつが復活する」


「……………本当なの?」


 アリエスは口を掴まれた手を払い避けながら、訝しげな顔を浮かべハクに問いかけるが、ハクはその言葉には返答せず残っている勇者たちの処理を考え始めた。


(やはり、あの勇者たちはただ星神に力を与えられたっていうだけの存在じゃねえな。というかこのまま生かしておくほうがさらに被害が広がる。通常の能力も気配殺しで消しておくか?)


 ハクはそう思い至ると、拓馬たち勇者に向けて気配殺しを使用するために足を進ませた。

 だが、次の瞬間目標の拓馬たちに新たな異変が起きる。


「な!?あ、あれは転移魔法か!?」


 キラは驚いた表情を浮かべながらその光景について見解を述べた。

 見ると拓馬たち勇者を含め、戦場にいる帝国兵全員から赤い光が発せられており、それは次第に体を包んでいっている。


「ああ?なんだその転移魔法ってのは。あいつの転移と同じか?」


「大方間違ってはいない。しかしこの魔法は大量の魔力を消費する上に太古の昔に消失したはずだ。それがどうして今の時代に残っている!?」


 すると、赤い光は帝国軍全ての兵士を覆い隠すと、その空間から完全に姿を消した。


「チッ。みすみす逃がしたか。もう少し早めに動いておくべきだった」


 ハクはそう呟くと気配殺しの準備を解き、肩の力を落とす。


「おい、聞いているな?そろそろ俺は引っ込む。でないとその憎たらしい神妃に消されるからな。あとの処理はお前が勝手にやれ」


 ハクはそう言うと二つの目を閉じ、意識を闇に沈めた。




 こうして学園王国とオナミス帝国の戦いは一方的な王国の勝利で幕を閉じた。

 だが、その結果は帝国兵全員を取り逃がすというなんとも微妙な結果に終わり、犠牲者は出ていないまでも形に残っている勝利の証は残っていなかったのだった。










 目を開けるとそこにはアリエスたちパーティーメンバーとボロボロにひび割れた地面が広がっていた。


「ハクにぃ!!!」


 その瞬間、目の前にいたアリエスが体に飛び込んでくる。その目は少しだけ潤んでおり、顔を俺の服にうずめてしまう。


「ごめん、心配かけたな」


 俺はそう呟くと、いつも通りアリエスの綺麗な髪を撫でる。


「まったくだ。いきなり人格を入れ替えるし、よくわからない力を使うし。気苦労が絶えんぞ」


 キラは腕を組みながら俺に不満の声を漏らしてくる。

 確かに今回は必然ではなく、俺があいつに表層を譲った。それがいいことだったのか、悪いことだったのかはわからないが、勇者を無力化してもメンバーには心配をかけたようだ。


「悪い。今回は全部俺の責任だ。言い返す言葉もないよ」


「本当です!ハク様は帰ったらお仕置きです!」


「お!それはいいね。私も参加しよっかな」


 エリアとルルンが他愛もない会話を繰り広げる。このやり取りを聞くと戦闘が終了したことを実感できた。

 この戦いはパンドラや事前の準備があったおかげで被害を最小に止めることができた。見たところ冒険者や騎士、魔導師たちも怪我をしているものはいるが死者はいない。

 戦争にしては本来考えられない嬉しい結果になった。

 肝心の勇者たちは捕らえられなかったが、それでもあの軍勢を押し返したというのは大きなことだろう。

 キラが言っていた転移魔法や拓馬を暴走させたあの力の正体わかっていないが、どうせ第五神核と戦うためにオナミス帝国には行かなければならない。

 そこでもし相まみえることになればその時に解明してやればいい。

 俺はそう考え、アリエスの髪を撫でながら勝利の余韻に浸る。

 すると、サシリが辺りをキョロキョロしながら、不意に言葉を発した。


「シラとシルの姿がないけど、どうしたのかしら?」


 そういえば。

 いつも何かある度に俺の傍にいるあの二人の姿が見えない。

 俺もそう言われて首を動かしながら周りを見渡す。

 しばらくその姿をさがしていたのだが、数秒後に冒険者がいる場所からシルが走ってくるのが見えた。

 シルはなにやら戦闘時と同じくらい全力で走ってきているようで、全身から汗を流し息を切らしている。


「は、ハク様!!!」


 シルは俺の目の前に着くなり、手を膝に付きながら言葉を出そうとする。


「どうした、そんなに慌てて?」


 俺は一旦アリエスを離し、シラと同じ目線まで腰を落とすと優しく問いかけた。


 そしてシルはいつもなら絶対に見せない泣き顔を俺に向けながらこう呟いたのだった。







「ね、姉さんが、どこにもいません!!!」







 それは俺たちパーティーを完全に凍らせる一言であり、これからの旅の指針を再び指し示すものだった。


次回はおそらく長かった第五章最後のお話になります!

誤字、脱字があればお教えください!


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