第二百二十四話 学園王国vsオナミス帝国、五
今回はシラとシル視点です!
そして事態は第六章へと進行していきます!
では第二百二十四話です!
「おらおらおら!行くぞお前ら!」
「「「「「「おーーーーー!!!」」」」」
「す、凄い気迫だね………」
「え、ええ………。まあ悪いことではないんだけど……」
ハクやアリエスたちが戦闘を始めたころ。
時を同じくしてシラとシルがいる冒険者と王国の騎士、魔導師たちの戦場も動き始めていた。
アリエスとエリア、ルルンが先導して帝国軍に突っ込んでいったのを皮切りに、応援に駆け付けていた冒険者や王国軍も戦闘を開始していたのだ。
「しかもアリエスたちが派手に動き回っているから、触発されてるのね………」
「う、うん………」
冒険者たちには今回の戦いで見事勝利を収めれば多額の褒賞金が出ることになっている。それは殺さずに捕らえた帝国兵一人単価で金額が決まっており、冒険者はそれを目的に掲げ行動している。
また王国軍の騎士、魔導師はもちろん国の安全を第一に考え出陣してきている。それがまあ今回は冒険者たちを利害が一致しているのでともに戦うことになっているのだ。
そこにはハクたちの誘導的な思惑があったのだが、国民を守ることを最優先に考えた結果なので、誰もとやかく言うことはなかった。
「それじゃあ、私たちもそろそろ行こうかしら。アリエスたちだけに頼るわけにもいかないわ」
「うん………!」
そう言うと二人は自分たちの得物である魔剣サタラリング・バキを取り出し、冒険者たちに続く形で動き出した。
アリエスたちが先導しているおかげで大半の帝国軍は殲滅されているが、それでも元の絶対数が多いのでどうしても取りこぼしてしまう部分が出てくる。そこをシラたちが打ち倒していくという流れだ。
「はっ!」
「ふっ!」
シラとシルは周りの冒険者や騎士の動きを遮らないように高速で帝国兵を切り倒していく。今回は気絶が前提なので刃を当てず、最終的に拳や蹴り、サタラリング・バキの柄を使って意識を刈り取っていく。
「おいおい、あの嬢ちゃんたちすげえぞ………」
「ああ。メイド服なんて着てるからとんだお荷物だと思ってたが、ありゃあ俺たちより強いぜ……」
シラとシルは確かにハクのパーティー内では非力なほうに入ってしまうのだが、今までの戦闘や学園での授業を通してその力は格段に上昇していた。それは通常の冒険者ではもはや目に捉えられないほどで、十分人外クラスの動きに成長していたのだ。
「こうなったら俺たちも負けてられねえな。ほらほら!どんどん行くぜ!」
「あ!てめえ、それは俺の獲物だっての!」
シラとシルは戦いながらそんな光景を見て、少しだけ笑みを浮かべてしまう。
「悪い方たちではないと思うけど、凄くわかりやすいわね」
「うん………。単細胞?」
「それは悪口じゃないかしら………」
シルのちょっと抜けたボケに半目で突っ込みを入れたシラは、メイド服を翻しながらシルと呼吸を合わせて攻撃を繰り出していく。
今の段階ではサタラリング・バキの能力は使用せずに対応できている。しかし、冒険者や騎士たちが群がっているこの戦場では味方の位置把握が非常に難しい。サタラリング・バキの能力はそれすらも一度に把握できる力なので、積極的に使っていきたいのだが、未来を穿つだけならまだしも、完全な未来予知まで使用するとさすがに疲労が出てきてしまう。
これから先なにがあるかわからない戦場で軽はずみに使えるものではないのだ。
するとそんな二人の近くに先程ハクと話していたいかにも強そうなイケメン騎士が、帝国兵を吹き飛ばしながら近づいてきた。
「驚きました。あのハク殿のパーティーメンバーということは聞いていたのでそれなりにお強い方たちなのだろうとは思っていましたが、ここまでの実力を持っておられるとは、脱帽です」
「いえ、それほどでもありません。むしろあなたのほうがお強いようですが?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。ですがまあ一応この国の騎士団長を務めておりますので部下よりは働かないと陛下から叱られてしまうんです」
その騎士はそう言うとすぐさま近づいてきた帝国兵を魔術と剣技の複合技で切り飛ばす。
その動きはさすが騎士団長ということあって洗練されており、無駄が一切ないものになっていた。
「騎士団長ということは、シーナさんもご存じなんですか?」
シラはかつてシルヴィ二クス王国で出会った若い女性騎士団長を思い浮かべながら呟いた。
「シーナ?………ああ、シルヴィ二クスのですか。ええ、知っていますが、お知り合いなのですか?」
「少しですが、それなりに深い関係はあります。以前王国ではお世話になりましたから」
シラはその騎士団長との会話を続けながらシルとともに攻撃を続ける。両者ともに話をしながら戦闘を難なくこなせているというは、相当の実力があるからだ。
「そうですか。彼女は若くして騎士団長という地位に上り詰めましたから、苦労していることでしょう」
「あなただって若いように見えますが…………」
実際その騎士団長はイケメンと称するにふさわしく、いつぞかの聖剣士なんか目ではないくらい落ち着いた風格を持っており、シラの目から見てもそれなりの男だった。
「確かに私もまだ二十代ですが、やはり彼女は別です。十五歳で騎士団長に任命されるというのは尋常ではありません」
「ちなみに言っておくと、あそこで戦っている黒髪のエルフはルルンといってシーナさんの師匠なんですよ?」
騎士団長の言葉を聞いたシラは得意そうな笑みを浮かべながらルルンを指さすと、そう呟いた。
「え!?そ、そうだったのですか。それは一度ご挨拶したいものです」
その騎士団長の表情は単純に尊敬の念が浮き出ているだけでなく、高揚感を滲ませており。シラは少し笑ってしまった。
「どうやら、血が騒ぐといった感じですね」
「あ、バレてしまいましたか……。部下からもよく言われるんですよ、私は表情に出やすいって」
「それを克服すれば彼女にも一撃くらいは入れれるようになるかもしれませんよ」
「というと、今のままではやはり敵いませんか?」
シラはその言葉に会えて無言を貫き、騎士団長でも見えないほどのスピードでその場を離脱する。それに続くようにシルも騎士団長に軽くお辞儀をすると、姉を追いかけて戦場を駆けていた。
残さされた学園王国の騎士団長は、苦笑を浮かべたまま手を頭の後ろの持っていき、若干声を震わせながら言葉を口にする。
「なるほど、まずはあれを超えないといけないというわけですね」
「姉さん、珍しくいっぱい話したね…………」
「そ、それはあなたには絶対に言われたくない台詞なんだけど………」
シラとシルはそう言いながら騎士団長から距離を取り、残っている帝国兵を相手に取る。
帝国兵は以前よりも数が多いというのもあるが、その武器やスタイルは多種多様であり、単一の武器ではなかなか対抗できない状況になっていた。
シラやシルのように一騎当千の力を保有している場合ならば問題ないが普通の冒険者のレベルでは苦戦を強いられるようだ。
「シル!ここは分かれて戦うわ。このままだと相手を気絶させるどころか、こちらの陣営に被害が出てしまう」
「うん……。気を付けてね……」
「だから、それも本当なら姉である私の台詞なんだけど!」
シラとシルはそう頷き合うと左右に分かれるように、戦況が怪しいポイントに移動し戦闘を開始した。
すると、キラとサシリの力が爆発的に膨れ上がり、空の色を変える。
(なかなか、派手にやってるわね。私も負けられないわ)
シラは帝国兵五人に囲まれている冒険者を発見すると、サタラリング・バキは煌かせその中に単身で突っ込む。
「邪魔です」
その動きは疾風のごときもので一瞬のうちに帝国兵を吹き飛ばすと、嘆息しながら倒れている冒険者に手を差し出す。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。すまない、助かった」
「いえ、困ったときはお互い様です。それにまだまだ戦いは続きますのでお気をつけて」
その言葉が発せられた瞬間、シラの背後から帝国の兵士が剣を勢いよく振り上げ振り下ろしてくる。
「ッ!?あ、あぶねえ!」
「お構いなく」
シラは軽く笑いながらその兵士の腹に容赦なく蹴りを容赦なく叩き込むと、ニコリと笑いながら言葉を紡ぐ。
「こういうことも平気で起きるのが戦場です。くれぐれも油断なさらぬようお気を付けください」
シラはメイド服のスカート軽く持ち上げ頭を下げると、桃色の髪の毛を風に揺らしながら次の戦場に向かう。
そのシラの姿を見た冒険者は自分の頬をバシッと叩き、再び剣を握り締め気合を入れる。
「…………よし、あんな可愛い女の子が頑張ってるんだ。俺もやらないと!」
このようにシラとシルは次々に帝国兵を気絶させながら、ハクの思惑通り戦場の指揮を上げていった。
それは次第に戦場の空気そのものを変化させ、雰囲気を完全に学園王国に引き寄せていく。
見ればアリエスたちはもはや何人積みあがっているのかわからないほど巨大な人の塔を作っており、その全てが無傷で気絶しているというかなり奇妙な光景を作り上げていた。
「まったく、暴れるのはいいんだけど、容姿とやっていることのギャップがもの凄いわね………」
シラはアリエスたちの顔を思い浮かべながらそう呟く。
アリエスはオカリナの力も借りているようでいつもより魔術の威力が上がっているようだ。それはシラが立っている場所にでさえも冷気を流してきており、普段なら焼き付くような暑さがこみ上げてくるのに、今だけはむしろ冬のような気温がこの空間に訪れていた。
シラはそのまま、アリエスたちに負けないように再び戦場に飛び込もうとしたのだが、その瞬間、空間を激震させるような力がハクがいる方角から迸った。
「な!?こ、これはハク様の気配じゃない…………。ということは勇者が……」
シラでさえ震えてしまうほどの気配は戦場を一瞬で殺気で満たしてしまうほど強力なもので、その中には絶望と憎悪という二つの感情が渦巻いていた。
ハクのことだからまず問題はないと思うのだが、それでもシラは一度、先日の神核戦でハクの憔悴しきった顔を見ている。ゆえに心の中には少しだけ不安な感情が宿り始めていた。
(ハク様は強い。それはわかってるけど、前のような姿は見たくない………。それに私はハク様のメイド。むしろ傍にいてお助けしなければいけない立場。私はどうすればいいのかしら……)
シラはそう考えながらも自分の足が知らないうちにハクがいる方角に伸びていることに気がついた。
だが、その行く手を遮るかのように目の前に濃厚な霧が掛かり始める。
(これは………)
初めはアリエスが何か新しい魔術を使って空気中の水分を凍らせているのかと思ったのだが、その霧の中から近づいてくる人物がいることに気が付くと、すぐさま戦闘態勢を作る。
しかしその人物がシラの目の間に現れた瞬間、シラの表情は今まで見たことがないものに変わり一瞬にして凍り付いた。
「あ、あなたは………まさか……!!!」
シラがその人物と邂逅しているとき。
ハクたちが戦っている戦場では強大な力と力がぶつかり始めようとしていた。
次回は少しだけアリエス視点に戻し、それからはハクサイドになります!
第五章ももう少しで完結します!五章最後の戦いをお楽しみください!
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