第二百二十話 学園王国vsオナミス帝国、一
今回から学園王国vsオナミス帝国の戦いが幕を開けます!
では第二百二十話です!
そしてついにその日はやってきた。
俺たちが第四ダンジョンの神核を倒してから約三週間後。
卒業を間際に控えた俺たちの下にとうとうイロアから託された結晶が反応を示したのだ。
「来たか」
その結晶は元々深みがかった色を持ち合わせており、その内部すらよく見えないような構造だったのだが、今は一転して眩い光を放ち黄緑色の光を放っている。
この三週間の間、俺たちは出来るだけ対策してきたつもりだ。
いくら学園王国とはいえ本当の戦場に学生たちを引き入れる気はない。そんなことをすれば実力に関わらず、命の取り合いという場に出されただけで足がすくんでしまう生徒が続出してしまうだろう。
ということで学生という戦力を排除したこの王国を守らないといけない。であればやはりここで出てくるのは冒険者と国王直属の騎士、魔導師たちだ。
彼らに関しては常に戦いという場に常時身を置いているので、改まって覚悟を要求する必要はない。
冒険者たちは俺とルルンが、学園王国国王にはエリアが談判しに行き、なんとか話をつけることに成功したのだ。
王国の騎士や魔導師に関しては自分たちの国が危険に晒されているので二つ返事で了承を得たもの、問題は冒険者たちであった。
基本的に冒険者というのは自由性が一番に尊重される。どの依頼を受けるも自由、誰とパーティーを組むかも自由、どの国や町に行くのも自由。これこそが冒険者の特徴なのだ。
それはいくら王国のピンチとはいうものの、国家戦略に左右されない彼らにとってそれに従う義務はない。
当然今回もそう上手くはいかず参加してくれる冒険者もほとんどいなかったのだが、それはギルド本部の計らいで特別クエストという形を取ってもらい、かなり多くの報奨金を出すことで人手を集めることに成功したのだ。
つまりこの王国の主戦力は王国直属の騎士、魔導師。学園王国に集まっている冒険者たち。そして俺たちパーティーということになった。
はっきり言って兵力を数で評価するならば、五分五分というとこで、学生たちを出さない俺たちが少しだけ劣っているような形になっている。
しかし戦いが始まればパンドラが先制攻撃を打ち出すし、それに続いて俺たちが動きだす。それによって大部分の戦力を削る予定になっているので、特に心配はしていない。
しかし一番問題になってくるのはやはり勇者たちだ。
この存在たちだけは俺とキラ、サシリの三人で相手をしなければならない。
確かにアリエスたちもこの数か月間で相当強くなっているのだが、それも奴らだって同じだろうし、圧倒的な実力を持っている俺たち三人が相手をすることになっている。
ルルンやエリアとて囲まれてしまってはさすがに対処することはできない。よってアリエスたちは先制攻撃で落としきれなかった兵士たちを倒してもらうことにしたのだ。
「まさか、あいつらが?」
アリエスが真剣な表情で俺に聞いてくる。
今現在は学園の中におり、授業真っ最中のタイミングなのだが、奴らは夜襲ではなく堂々と昼間を選択してきたようだ。
夜襲というのは不意を突く分にはとても効果的な戦い方なのだが、それは同時に味方の動きも捉えられなくなるということなのだ。魔術も魔法もない戦いであれば両者ともに条件は一緒なのだが、この世界においてその常識は通用しない。
よって昼も夜も関係なく攻める、というよりはむしろ昼の方が全然攻めやすいということなのだろう。
「ああ、それもかなりの大軍を連れてきているみたいだ」
イロアからの結晶もそうだが、俺の気配探知、それとパンドラからの念話によってその数はとてつもない数になっているということが伝わってきている。
「他の連中は気が付いているのか?その結晶を持っているのはマスターぐらいしかいないだろう?」
キラが何かをせかすようにそう呟く。
確かにこの結晶はイロアから直接貰ったものなので原則SSSランク冒険者以外は所持していない。例外でいれば王城にそれが一つ置いてあるくらいなのだが、それでは冒険者ギルドに情報がいかない。
であれば。
「ギラン先生。そういうことなので学園長にギルド本部に連絡を入れるように言っておいてくれませんか?帝国軍がやってきたと」
いつもなら眠そうにしているギランだが今日ばかりは、俺の言葉を聞いた瞬間から目を大きく変えており、その言葉にも大きく頷いた。
「おう、任せておけ。だが、お前らも気をつけろよ?いくら強くても戦いは何があるかわからないからな」
「はい、では行ってきます」
俺はギランにそう言うと帝国軍が向かってきている王国の関所前に転移を実行した。
さすがに結晶の効果範囲内に入っただけなので姿は見えないが、その不穏な空気は既に充満しており、肌を焼くような痛さが少しだけ感じられる。
「いよいよだね、ハクにぃ」
「ああ、やれることはやった。あとは俺たちがどれだけ動けるかにかかってる」
正直言って王国の騎士や魔導師といった連中や冒険者にはあまり期待していない。というのも勇者たちが出てきた場合本当に太刀打ちできないからだ。その他の有象無象に集中してもらわないと、それこそ死人が出てしまう。
一国と戦争をおっぱじめようって時に死人を出さないようにするなど甘い考えなのかもしれないが、あくまでも俺は流血沙汰は避けるように戦いたいのだ。
しかし相手はそうではない。
このような即席の軍隊ではなく初めからこの国を落とすことだけを考えて作られた舞台だ。それに太刀打ちするには一騎当千の力を持つ俺たちがより動かなければならない。
つまりはどれだけ対策しようと俺たちの活躍にかかっているわけだ。
「まあ、言うほど大した輩ではない。さっさと捻り潰すぞ、マスター?」
「そうです!今の私たちなら余裕です!何千、何万人いようと全員捕縛しますよ!」
「対大人数戦というのはもう何度か経験済みだからね。まかせてよ!」
「私たちは冒険者の方々を援護します。さすがに誰もつかないというのは問題でしょうから」
「お任せください、ハク様………」
「神核戦では戦えなかった分、存分に暴れるわ」
『今回はわしも戦うぞ』
みんな気合十分なようで、その目にはやる気と闘志がメラメラと沸き上がっている。
おそらくみんなエルヴィニア秘境でのことを根に持っているようで、無事に解決したというもののその帝国に対する敵対心というは消えていないようだ。
当然それは俺も同じであり、特に勇者たちについては半日ほど喋り倒せるくらいの鬱憤がたまっている。
つまりはそれをこの戦いで直接ぶつけようということなのだ。
「よし、それじゃあ全員装備を整えとけよ。今回は神核戦とは違い意思を持った人間が相手だ。からめ手も使ってくるしフェイントだって使う。くれぐれも油断しないようにな」
俺はみんなにそう言うと神妃化を実行しそのままエルテナとリーザグラムを腰にさす。一見すればいつも通りの装備だが、はっきり言ってこれが今の全力装備だ。
確かに絶離剣を出すという方法もあるのだが、あの剣よりも実はリーザグラムの方が位の高い剣で、このような本気の戦闘の際にはそれを使うようにしている。
というのもリーザグラムは俺が元の世界にいるときにその世界そのもの託された剣だ。俺はリアが保有する無数の神宝を所持しているが、その中でもこのリーザグラムという剣は相当上位に位置するものになっている。
全てのものと同調する力は全てのものを切り裂く剣よりも幾分か性能がいい。よって俺は今回もこの二本の剣で戦いの赴くというわけなのだ。
というわけで各自装備を整えていると、その上空から可愛らしい声が降り注いできた。
「神妃さんー。そろそろ動きますかぁー?」
「「「「「「「パンドラちゃん!!!」」」」」」」
その声の主はずっと帝国軍の動きを観察していたパンドラ張本人で、にこやかな笑顔を振りまきながら地上に降り立った。
「ああ、できれば箱の準備を………っておわあ!?」
俺がそう言葉にしようとした瞬間、装備を確認していたアリエスたちが一斉に、俺の体を吹き飛ばしパンドラに抱き着いた。
「うーん、やっぱり可愛いなーパンドラちゃんはー」
「この頬っぺたの感触、いつまで触ってても飽きないわ」
「………それは同感です、姉さん」
「ムフフ、パンドラちゃんはいい匂いしますねー。抱きしめちゃいます!」
「なんでかなー、アリエスちゃんやシルちゃんも可愛いんだけど、パンドラちゃんは無性に触りたくなっちゃう」
「むう、この髪の毛のモフモフたまらん」
「私も抱きしめたいわね……」
「ふええぇぇぇ!?な、なんでいつもこうなるんですかぁ!?ムニーっ!?引っ張らないでくださいぃ!痛いです、痛いですからぁ!神妃さんも助けてくださいぃ!」
「悪い、何度も言ってるけどその中に入るのは無理だわ」
「それでも神々の頂点に立つ神妃さんですかぁ!?」
と、悲鳴混じりのパンドラの声が轟いている光景を眺めていると、俺の背後からなにやらガヤガヤと大勢の人間が関所前に集まりだした。
「お、来たみたいだな」
それは冒険者たちと王国の騎士、魔導師たちでその全員の表情は既に引き締まっている。
するとその中でも明らかに強そうなイケメン風の騎士が俺に近づいてきた。
「この度はわが国の危機のために立ち上がっていただき本当にありがとうございます」
「え、あ、ああ、はい。こちらこそ」
突然の謝礼に驚いた俺だったのがだが、それでもその行動の意味をよく理解できないでいた。
今回の戦いはSSSランク冒険者が先導して迎え撃っているものである。ゆえにむしろお礼を言うのはこちらの方なのではないかと思っていたのだが。
「本来ならば我ら王国の近衛が冒険者の方々に協力を頼まなければいけない立場なのですが、今回は逆になってしまったので初めにお礼を言わせていただきました」
ああ、そういうこと。
確かに今回はイロアの働きでSSSランク冒険者が動いたが、通常世情に関りを持つことが少ない冒険者はそもそもが非協力的だ。
それが前々から準備していたとはいえ、これだけの数が集まっているのだ。確かにお礼を言いたくなる気持ちもわからなくはないのかもしれない。
「いえ、それはお互い様です。関係のない人を戦いに巻き込みたくないのは一緒ですので」
「そう言っていただけるとこちらも助かります。………そして確認なのですが、我々はどうしたらいいのでしょうか?陛下からはあなたの意思を仰ぐようにと言われていますので」
それはおそらく学園長の働きだろう。
今回の戦いで下手に軍隊特有の動きをされては、正直言って足手纏いになってしまう。ゆえに学園長は俺に指示を仰ぐように国王に進言したということだ。
「とりあえず強力な勇者たちは俺たちで押さえます。残りの兵についてですがまず先制攻撃で大半を戦闘不能にしますので、それでも立っている兵士の残党をお願いします」
「了解しました。ではお互いご武運を」
「はい」
俺とその騎士はそう言って別れると、各自の持ち場に戻る。
そしてその瞬間、俺の気配探知がパンドラの箱を設置した場所に迫っていることを伝えてきた。
俺はアリエスたちを後ろに控えさせながら、パンドラに向かって開戦の合図を出す。
「思いっきりやれ、パンドラ!!!」
「はぁい!それじゃあ、行きますよぅ!冥府の災禍」
パンドラがそう呟いた瞬間、帝国軍を迎え撃つように設置されていたその箱は膨大な魔力を放出しながら、攻撃を開始した。
さあ、始めようか。
前は奇襲だったが、今回は全面戦争だ。
いい加減力の差を思い知らせてやる。
俺はそう心の中で呟くと、かつて戦いを楽しんでいたリアのような表情を浮かべエルテナとリーザグラムを抜き放つのだった。
次回は学園王国vsオナミス帝国が本格的に動き出します!
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