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第二百十七話 災いの予兆、一

今回は少しだけ勇者サイドが出てきます!

では第二百十七話です!

 時は少しだけ遡り、ハクたちが学園王国に到着したころ。

 オナミス帝国にて。


「はあああああああ!!!」


 異世界に召喚された空糸拓馬は帝国宮廷内の訓練場で剣を振り続けていた。それは全身に覇王の力を滲ませ周囲の地面を隆起させながら、他の勇者さえ引いてしまうほどの力を放出させている。

 拓馬の固有スキル覇王は勇者たちに与えられた能力の中でも一番強力なものだった。というのも結衣が持っている剣帝や消滅結界のような単一の効果をもたらすものではなく、戦闘のどの展開によってもその力を発揮できるスキルだからだ。

 威圧や気配の流れを読み、身体能力や魔力を爆発的に上昇させる。それは仮に同じ勇者である結衣の剣帝の力を持ってしても打ち倒せるのもではなかった。

 その拓馬ががむしゃらになって毛を振るい続けている。

 隣でずっと見守っている結衣もその気持ちはわからなくもないのだが、少しだけその身を心配していた。


「た、拓馬?もう六時間も動き続けてるわよ?す、少し休んだら………?」


「いや、まだだ!まだ終われない!あいつに追い付くまでは絶対にやめない!」


「それはわかるけど………」


 拓馬が言っているあいつというのは当然ハクのことだ。

 拓馬たちは帝国の命令だったがエルヴィニア秘境にいるエルフたちを捕らえにその場所へ向かった。最初は何の問題もなくエルフたちを確保していき、順調に物事は進んでいった。

 しかしそこに現れたのがダンジョンの中から出てきたハクたちだったのだ。ハクたち一行は瞬く間に拓馬たちを叩き潰し戦況をひっくり返した。

 仮にも勇者としての力を授けられた拓馬たちをだ。

 自分の新たな力に絶対の自信を寄せていた拓馬たちにとってそれはプライドをへし折るだけでなく、自分たちの存在意義すら否定していった。

 そして見せつけられたのは圧倒的実力差。

 まるで蟻でも踏みつぶすかのような力で拓馬たちは捻りつぶされた。しかも後で聞いた話ではあのハクも自分たちと同じ世界から呼び出されているようで、それがさらに拓馬たちにショックを走らせる。

 エルヴィニア秘境を出た当初は全員が全員、絶望に染まった表情をしていたのだが、帝国に捕まっているようなこの状況では逃げることはおろか、負けることすら許されない事実を突きつけられている今、拓馬たちが取れる行動は一つしかなかった。

 それが、今拓馬たちが行っている自己強化だ。

 勝てないならば勝てるレベルまで実力を上げればいい。

 ちなみに拓馬たち勇者には自分と相手の力を数値的に視認できる能力が備わっている。当然それはエルヴィニアで戦ったハクたちにも使用したのだが、ハクの取り巻きはまだ視認できたのだが、ハク本人に関しては見ることはおろかその能力すら発動しなかったのだ。

 つまりそれはそれほど実力が離れていることを示しており、拓馬たちに取れる行動はたった一つに絞られたというわけである。

 しかし、同じ勇者の結衣や他のクラスメイトたちも今の拓馬の無茶苦茶な鍛錬は見ていられるものではなかった。


「おいおい、あいつ大丈夫か?」


「う、うん………。空糸君、今日ずっとあんな感じだよね……」


「次の遠征でぶっ倒れてもしらねえぞ……」


 しかし、そんな拓馬の心の中にはあの白いローブを羽織った青年しか捉えられていない。


(ハク=リアスリオン!僕はお前を絶対に倒す!帝国がどうとかそんなものは関係ない!僕自身の意思でお前を斬る!)


 すると、拓馬が剣を振るい続けていたところに帝国の皇女がいきなり姿を現した。

 そして皇女は全ての人間を落としてしまうような柔和な顔を浮かべて、こう呟いたのだ。


「勇者様、次の遠征は三か月後、学園王国に決まりました。準備をしておいてくださいね?」


 それは奇しくもハクたちが学園王国にいる期間と重なっており、またしても災いの戦火を巻き上げるきっかけとなったのだった。








 第四ダンジョンを攻略した次の日。

 俺は学園の教室内でこの王国を旅立つ準備をしていた。

 ここに来た目的である神核は既に倒したので、今すぐにでも次の神核が待っているオナミス帝国に向かいたいところなのだが、やはりSSSランク冒険者になってしまうと、その仕事も多少はこなしていかなければいけない。

 SSSランク冒険者会議で採決された帝国の監視は順当に行われているようで、イロアが設置した結晶は問題なく作動しているようで、その調整も行っているのだ。

 また俺は一応帝国が攻めてきたときの最大戦力としてこの王国を任されている。その役目を何もせずに放りだすことはできない。

 というわけで、それに関しての対策を立てているのだが。


「一体これはどういうことなんですかね?」


 俺は自分の席の隣で繰り広げられている光景に目を馳せながらそう呟いた。


『それは主様の自業自得じゃろうが。何を思ったか知らんが、神の人形なんて出すからこういうことになるんじゃ』


「まあ、そうなんですけど………」


 俺は自分が不在のタイミングでいつ帝国が攻めてきてもいいように、ヘルやフレイヤのような神話上の存在を今ここに呼び寄せていた。

 当然、そいつの力や能力を考えて呼び出したのだが、それはヘルやフレイヤよりも大きな騒動をこの教室に巻き起こしていたのだ。

 というのも。


「うわー、この子物凄くかわいいよ!」


「ええ、頬っぺたもフニフニで柔らかいわ!」


「………姉さん、目の色が変わりましたね」


「でも本当にかわいいです!!!もう抱きしめてしまいたいくらい!」


「っていいながらエリアちゃん、もう抱きしめちゃってるけどね……」


「むう……。妾には人間の感覚というものがよくわからんが、それでも愛くるしくはあるな」


「かわいい………」


 と何故だかその存在を絶賛されているのは、俺が呼び出した十四歳くらいの少女の形をした、パンドラだった。

 パンドラ。

 この存在はギリシア神話に登場する人類最初の女性と言われている女神の一角だ。

 果たしてこの女性が人間なのか神なのかという定義は非常に難しいのだが、神々から人類の災いとして下界に降ろされる前は、冥界の神だったという話もあるのでその判別が難しい。

 とはいえ強力な力とその特異性ゆえに今回は呼び出したのだが、それがなんとアリエスたちに大人気になってしまっている。

 容姿は長い茶髪を伸ばし目は大きく、人類最初の女性と呼ばれるだけの美貌を兼ね備えている。しかしやや童顔で、なんというかキラが言ったように愛くるしさが滲み出ているような外見を持っているのだ。


「ふえぇー、ちょ、ちょっとやめてください!頬っぺた千切れちゃいます!というか、神妃さんも見てないで助けてくださいよぅ!」


「ああ、悪い。俺はその中に入る無理だわ」


「そんなぁー」


 そんなこんなで神核を倒した翌日も、それなりに楽しく過ごしているわけだが、昨日は昨日であの後色々なことがあったのだ。

 まずダンジョンを攻略したことを伝えに転移で学園長の下に訪れ、ダンジョン内で起きたことをそのまま報告した。

 さすがに俺の人格や重要機密に関わることは伝えなかったものの大方の趣旨は声に出していたと思う。

 で、結局俺たちがダンジョンを攻略したということは一部の教師と生徒会長の間だけで広めることに決め、他の生徒には伝えないことにしたのだ。

 ダンジョンというのは神核という存在がいることで有名だが、仮に最終層に到達したとしてもその存在に出会える保証は限りなく少ない。

 というか会えないほうが大多数を占める。

 ましてこの第四ダンジョンは通常の階層レベルが水準より高いため、今まで第三層に到達したものがいないという有様だ。

 であれば下手に神核がいなくなったという情報は伝えず、今まで通りの運営をしていくほうがいいという判断になったのだ。

 たった一日で神核さえも倒してしまった俺たちに学園長は心底驚いていたが、それでも納得してくれたようで賞賛の言葉をかけてくれた。

 そしてそのあとは予想していた通り、パーティーメンバーでの食事会が始まったのだ。案の定店の中にある食材を全て空にしてしまうのではないかという勢いでアリエスたちは料理を胃に流し込んでいった。

 まあ、今回は体力の大半を吸い取られていたこともあり、拍車をかけて腹がすいていたのかもしれないが、それは当然俺のお財布に返ってくるわけでいつも以上にぶっ飛んだ金額の請求が俺にのしかかったのだ。

 で、寮に帰れば帰ったでグラスとの朝練をダンジョンに潜入するため後回しにした関係上、それを夜に行うことになり遠慮のないグラスの応酬を受け、とんでもなく濃い一日が展開されたのである。

 その疲れを引きずりながらの今日なので、襲われているパンドラを救出している余裕なんてものは持ち合わせていないのだ。

 俺はその光景を眺めながら大きなあくびを空中に吐き出し、これからのことを鉛筆で紙面に書きだそうと思っていると、丁度いいタイミングでイロアから魔術念話が飛んできた。

 魔術念話とは、俺とキラが精霊の契約で行っている念話をお互いの魔力を消費することで行われる疑似的な念話で、現代でいう電話を脳内でやり取りするようなものなのだ。

 基本的に魔力の消費は少ないが、これを使用しているときには体からある程度の魔力が溢れ出てしまうので、盗聴や聞き耳には使うこと出来ない。

 だが、今は普通のやり取りなので心構わずその念話に出る。


『少しいいだろうか、ハク君』


『ああ、どうした?』


『いやなに、君がついに神核を倒したという話を耳にしたからね。そのお祝いと、これからについて話しておこうと思っただけさ』


『随分と話が早いな。学園長から聞いたのか?』


『まあ、そんなところだ。それにしてもよく一日であのダンジョンを攻略できたものだ。私は入ったことはないが、それでもそれなりの難易度はある場所だと聞いていたが……』


『確かに、それなりには手強かったよ。神核戦に関しては本当に危険だったしな』


 アリエスたちが捉えられ、その上全力戦闘を一人で続けなければいけない状態は危険以外の何物でもない。その趣旨を出来るだけ声のトーンに含ませながら俺はイロアの問いに返答した。


『君にそう言わせるというのは相当だな。だが、ともあれ無事でよかった。君が無事なら事も問題なく進む』


 すると今まで明るかったイロアの声色が若干暗いものに変わり、覇気が帯びてくる。


『何かあったような言い草だな?』


『察しがよくて助かる。その話をする前に一つ聞いておきたいのだが、君は神核を倒した以上、その学園王国から動くのか?』


 さすが、SSSランク冒険者のまとめ役なだけはあるな。

 しっかりと俺の行動を予測してきている。


『ああ。だがこっちもしっかりと対策は考えている。ちょっと強力な駒を置いておくよ』


 俺はいまだにいじられ続けているパンドラの方を見ながらそう呟く。ああ見えてもパンドラの力は強力だ。それは俺もリアも重々承知している。だからこそ、この局面で呼び出したのだ。


『そうか、ならば問題ないかもしれないが、できればもう少しだけその国に留まっていてほしい』


『ん?どういうことだ?』


 イロアはどんどんその声に威圧を纏わせ、この王国で起こるであろう出来事のきっかけを俺に伝えるのだった。




『帝国が勇者たちを連れて学園王国に攻め込もうとしているという情報が入った』



次回はイロアとの念話の続きになります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は今日中です!

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