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第二百十五話 十三年前

今回はハクとアリスの過去に迫ります!

では第二百十五話です!

 ああ、またこれか。

 俺は直感的にそう感じてしまった。

 見渡す限りその空間は真っ暗な場所で、上も下もわからないその場所は決して初めて来るところではなかった。

 最近ではよく訪れている。

 それも決まって何かが俺の身の近くで起きているタイミングが多い気がするが、それは何の因果かはわからない。

 その空間の中心にはやはりあいつが立っていた。

 金色の髪を携えたどことなくリアに似ているその少女は俺の到来に気が付くと、笑顔を振りまきながらこちらに話しかけてくる。


「随分派手に戦ったね、ハク?」


「うるさい。あれくらいしないと勝てない相手だったんだからしょうがないだろう」


 実際、今俺が戦っていた神核は神妃化を限りなく上昇させなければ手が届かないほどのレベルの実力を保有していた。それはアリエスたちの力を吸い取った部分が大きいが、それでも今までの神核とは一線を画す存在だったことは頷くしかないだろう。


「ふーん。ま、それもハクらしいと言えばハクらしいか」


 その少女は俺の目の前でクルリと回転すると、顎に人差し指を当て何かを考えるような素振りで言葉を吐きだす。


「それにしても、あの『鍵』は強力だねー、まだ表には出ていけないよ。あの子の意思もあるのかもしれないけど、ハクの記憶というよりは私の大切なものを代償に私にある程度の自由を許すなんて、運命のいたずらとしか言えないようなことを平然と要求してくるんだもの。まったく神妃さんも、厄介だけど凄いものを作ったよねー」


 またこの少女は俺にわからないことを言う。

 前だって「鍵」がどうとか言っていたが、その謎はまだ解決していない。


「何か言うんだったら俺にもわかるように説明しろよ」


「そーね、簡単に言えばハクが私の名前をここで思い出せないのは、私がここでハクと会う代わりにそれを『鍵』が封じ込めているから。そういうことなの」


「それに何のメリットがある?お前の名前をここで封じることに必要性を感じないが?」


「特段それに意味はないわ。強いて言えば私の中の一番大切なものだったってことぐらいかしら?」


「はあ?まったくわからないんだが………」


 するとその少女は俺の後ろに回り込み背中をくっつけてお互い髪の毛が当たるような体勢になり、会話を続けた。


「ねえ、ハク?私たちが初めて会った時って覚えてる?」


「何をいきなり………。去年の夏だろ?」


「ううん、そうじゃなくて十三年前のことよ」


 十三年前。

 それは俺とこの少女があの真話大戦を引き起こすよりもさらに前の出来事。

それは遡れば全ての原点であり、全ての始まり。

妃の器である俺が二妃のこの少女と本当に初めて出会った日。


「忘れていたけど、思い出させられたって感じだな、あれは」


「そうよね、あれは私だって忘れていたもの。でもあれのおかげで、私たちはもう一度会うことが出来たって言っても過言じゃないわよね?」


「まあ、そうだな」


 その話をするには一通り、真話大戦と神妃、二妃の存在を語る必要がある。

 そもそも神妃は神話大戦の際に自分の力を二つに分けてその存在を保とうとした。それは器を変えながら継承されていき、真話大戦のときにはこの少女に受け継がれていたのだ。

 しかしそれはあくまで二妃の片割れ。

 ではもう一人の二妃はどうなっていたか。

 それを紐解くのがこの十三年前の出来事だ。

 答えを言ってしまうと、もう一人の二妃は既に殺されていた。それはちょうど十三年前のタイミングで、真話大戦のように群がってきた十二階神によって無残にもその命を散らしていたのだ。

 そこで問題になってくるのが殺された二妃の力の拠り所に関してである。

 収まる器をなくした力は一人でに動き出し、新たな器を探した。二妃の力を継承するものは基本的に長い年月をかけて選定される。

 今回のように急にその器を見つけようと思って見つけ出すことが出来るものではない。

 つまりその結果なにが起きたかというと、この金髪の少女に全ての力が集結させられたのだ。しかもその数日前にこの少女も前の二妃から力を継承されており、そのタイミングはかなり都合のいいものとなっていた。

 それは今の俺のように神妃の力を全て扱えるようなもので、半ば完全な神妃と変わらない力を保有することになったのだ。

 それが十三年前。

 そしてそれこそが俺とリア、そしてこの少女を関連付ける出来事なのだ。


「それじゃあ、もう一度見てみよっか」


「は?」


 俺は背中にくっ付いていたその少女の言葉に驚き、振り返ろうとしたのだが、その瞬間辺りを埋め尽くすような光が俺の目をつぶし、意識を丸ごと飲み込んだ。











 蝉が鳴り響く夏。

 それはあの時も容赦なくやってきていた。

 照り返すような日差しは地面を鉄板のごとく熱し、靴裏を焼き上げている。

 五歳の俺はこの日、いつもと同じように町の中にある公園に向かっていた。俺が住んでいる町には基本的に二つの公園がある。

一つは大衆向けに作り出された大きな公園で連日多くの人でにぎわっており、遊具がありデートスポットにも最適な場所になっている。

 二つ目はちょっと外れた場所にある公園でかなり小さな面積しかもっておらず、そこに人が集まることは滅多にないと言っても過言ではないくらい人気がないところだった。

 で、かつての俺がその時向かっていたのは、その小さな公園の方だ。特段友達のいない俺は大人数でスポーツやゲームをするといった習慣がなく、この夏休みは一人で公園へ赴きボーっとしていることが多かったのだ。

 この日も確かそう思い至ってその公園に足を向けていたはずだ。

公園に着くと案の定その場所には誰一人、人はおらず俺はいつもの特等席である木陰のベンチに腰を落とす。

 すると、俺の視界の中に俺と同い年くらいの少女が一人映り込んだ。その少女はまるで金でも溶かしたかのような金色の髪と海と空の色を掛け合わせた宝石のような色の双眸をもっており、五歳の俺でさえその少女を人間だと捉えるのに時間がかかってまった。

 それは人間離れした美しさからきているもので、光を反射している柔肌は、その光を全て透過してしまいそうなほど白く透き通っている。

 その時の俺はその光景に見とれていたのだが、いきなりその少女は俺に近づいてくると、無表情でこう呟いたのだ。


「…………遊ぼう?」


「え?あ、ああ、うん……」


 いきなりのことで俺も反応を戸惑ってしまったが、とりあえず頷いてその少女についていく。

 五歳児なんてその場の流れだけで友達関係を作ってしまうような年ごろだ。当然この時の俺も特段疑問を持たずにその少女と遊んでいた気がする。

 といってもその公園に設置されている遊具で戯れることぐらいしかできなかったのだが、それなりに楽しい時間を過ごしていた気がする。

 それからしばらくその公園で遊んでいたのだが、ふとその少女は何かを思い出したかのように一言呟くと公園の出口の方へ歩いてしまう。


「行かなきゃ…………」


 これまた突然のことだったので少し驚きはしたが、確かに時間を見ればそれなりの時間になってしまっているので俺も納得しつつ、その場を後にしようとする。

 だが、その瞬間。

 少女が出ようとしている出入り口に面している道路に大きなバスが通りかかったのだ。

 まずい!

 瞬間的にそう判断した俺は自分の意思とは関係なくその体が動いており、ギリギリのところでその少女を突き飛ばし、自分を盾にするようにその強大な金属の塊に激突する。

 ああ、間違いなく死んだな。

 あの時はそう思ったのを覚えている。

 五歳児であっても生き物の死というものは理解できる。どれだけ小さな虫も、どれだけ大きな動物も、どんな生物にも死ぬときは訪れる。

 それが俺の場合、この日だっただけの話だ。

 半ばそう心の中で諦め、体に伝わってくる衝撃をまった。それは確実に俺の命を吹き飛ばし、絶命させる。

 結果的にそれは到来した。

 痛みもあったし、血だって流れた感覚はあった。

 しかし俺が再び目覚めたのは、すっかり日が暮れた公園のベンチで体には何一つ傷はなく、俺とぶつかったはずのバスも、突き飛ばした少女の姿も跡形もなく消えていたのだ。


 これが十三年前の出来事の全て。

 何事もない日常に溶け込んでしまった。俺とあいつの最初の出会い。

 すべてはここから始まったのだ。





「結局あの時、お前が俺に二妃の力の片方を分け与える形で俺を救ったんだよな」


「ええ、私もあんまり覚えてないけどね。普通なら力を譲渡させた瞬間、それこそ死んじゃうところだけど、ハクは妃の器だったから元々その力を受け入れるように出来てたっていうのが幸いしたわ」


「まあ、そのせいで俺の中でリアは目覚めるし、ゼロから二妃の力を持っているとか言われるし、散々だったけどな」


 この出来事は、真話大戦が起きるさらに前に起きたことであり結果的に俺とこの少女を再び会わせるきっかけになったのだが、それは全てが終わった後に気が付いた話だ。


「で、なんでまたこんなものを俺に見せるんだ?」


「うーん、そうね。まあ理由は色々あるんだけど、あの出来事はまだハクが気づいてないことが一つだけあるのよ」


「はあ?なんだそれ?」


「でも、それは多分本人が語ってくれるわ。それまで待ちなさい、神妃さん?」


「わけがわからないな………」


 するとその瞬間、いつも通りこの空間の壁がバリバリと崩れだし夢の終わりを告げる。


「じゃあ、またねハク!いずれまた会えるわ。その時はそっちの世界でね」


  その少女はそう言うと光にのまれるように消え、それと同時に俺の意識は現実世界に引っ張られると眩しい光が瞼に突き刺さってくる。

 

 っていうか、あいつはもう会えないはずなんだが………。

 これも俺の妄想がなせる業なのか………?


 俺はそんなことを考えながらゆっくりと目を開ける。


「う、うーん?…………。まっ、たく、何であんな夢をみせてくるかね、あいつは」


 目覚めたことで乾燥している目をこすりながら、辺りを確認する。

 そこには心配そうに俺を取り囲んでいるアリエスたちがおり、全員が俺の方をじっと見つめている。


「ハクにぃ!」


「ハク様!」


「ハク様……!」


「ハク様!!!」


「ハク君!」


「マスター!」


「ハク!」


 みんなはそう言うとその流れで俺に飛び掛かってくる。

 いや、待て待て待て!!!

 よく考えたら俺、かなり力を使って体動かないんだった!?

 この状況でアリエスたちが飛び掛かってきたらそれこそ大ダメージだぞ!?


「おわあ!?ちょ、ちょっと待って!今、体動かせないから!そんな飛び掛かってきたら、また意識失っちゃうから!」


 しかしそんな言葉など聞こえていないかのように、俺の体に衝撃を与えながらアリエスたちはくっ付いてきた。

 まあ、仲間に心配されるのは悪い気分じゃないんだけどね。でも体を元に戻してからでもいいと思うんだが……。

 俺はどうしたらいいかわからなかったのでリアに助けを求める。


「え、えーとリアさん?これは一体どういう状況でしょうかね……?」


『さあのう?私は何もしておらんぞ?まあ、一言言えるとすれば、苦労するんだな若者よ!って感じじゃ』


「投げたな、おい!っていうかクビロ、見てないで少し助けてくれ!」


『それは無理な相談じゃな。わしもアリエスたちの気持ちはわからなくもないのでな』


「な、何それ!?説明ぐらいあってもいいだろう!?」


 とリアとクビロにさえも翻弄される俺だったが、極めつけた涙ぐんだアリエスによって止めを刺される。


「ハクにぃ、少し黙ってて」


「は、はい!!!」


 もう、こうなった以上従うしかないので体の痛みにこらえながら、時間が経過するのをひたすら待ち続ける。

 すると、そんな俺たちを眺めていたであろう神核が立ち上がり、ボロボロになった体を動かしながら喋りだした。


「おい、人間。俺が消える前に話しておかなければいけないことがある」


次回は神核との会話がメインになります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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