第二百十四話 第四神核、五
今回はアリエスたちがメインです!
では第二百十四話です!
(あれ、私何してたんだっけ?)
アリエスはぼやけている意識を何とか働かせ、自分が一体今まで何をしていたのかを思い出そうとしていた。
(確か私はハクにぃと最後の部屋に入ってそれから………。思い出せない………。でも何だか体が妙に重い………)
今アリエスの体を支えているのは何やら温かく柔らかな質感の物体だ。なんというかスベスベしていてまるで何かの鱗の上に乗っているかのような感覚だった。
そしてそのまま目に焼き付くような光を取り入れるように重い瞼を持ち上げ、辺りを確認する。
『お!起きたかのアリエス?』
アリエスの目覚めにいち早く反応したのは、いつも一緒にいるクビロであった。どうおやらアリエスが横になっているのはクビロの体の上らしい。
「クビロ………?私………どうして……」
その瞬間、意識が一気に覚醒した。
頭に流れ込んでくるのは部屋に入って背中から壁に叩きつけられるまでの記憶。それは無残にもハク以外のメンバーが拘束される瞬間だった。
「み、みんなは!?」
『心配しなくてもいいのじゃ。続々と目覚め始めておる』
クビロが言ったとおり辺りを見渡せば、同じようにクビロの上で意識を失っていたメンバーたちがその体を起こし目をこすり、その体を動かし始めていた。
とりあえずメンバーの無事に胸を撫で下ろしたアリエスだったが、その中に一番大切な人物がいないことに気づく。
部屋の中央には両腕を切り落とされた神核のような存在が横たわっていて、息を荒くしながら血を流しているが、その傍に同じく戦っていたはずの青年の姿がない。
入ってきたときの部屋は黒い漆黒のキレイな内装だったのだが、今はその原型がないほど破壊されており、意識を失っている間に起きた戦いがどれだけ激しいものだったのかを物語っているようだった。
アリエスは急いでクビロに振り返ると、その大きな顔に向かって声を上げた。
「は、ハクにぃは!?」
その言葉にクビロは頭を動かしながら自分の尻尾の先で体重を預けている黒髪の青年を指し示した。
顔は見えないがどうやら五体は無事のようで特に目立った傷もない。
アリエスは急いで黒髪の青年、ハクのところに立ち上がって向かおうとするが足に力が入らずすぐに倒れてしまう。
「う、うまく立てない………」
『無理はせんほうがよい。いくら体力は回復しているとはいえずっと力を吸収されておったのじゃから、体がいうことをきかんのは当然なのじゃ』
「力を吸収………?」
アリエスはクビロが言っている言葉をよく理解できなかったのだが、それでも今はハクの傍に行きたい一心でその重たい足を動かす。
『それに主も今の姿は見られたくないじゃろうしな』
クビロが最後に軽く言葉を吐いたのだが、それはアリエスの耳には届いておらずゆっくりとアリエスの足はハクに近づいていく。
何度も転びそうになりながらようやくクビロの尻尾にたどり着いたアリエスは出来るだけ笑顔を作りながらハクに話しかけようとする。
「さすがハクにぃだね!私たちがいなくても神核なん、か………ッッッ!?」
しかしその言葉は途中で音が出なくなってしまい、その場に膝を落としてしまう。
いつもならどのような相手と戦っても比較的超然としているハクなのだが、今回の状態はまったくもって真逆だった。
服には至る所に血の色が滲み、傷は全てふさがっているもののその顔色は真っ青を通り越して白色に近いものになってしまっていたのだ。
「ハクにぃ!!!」
アリエスは一瞬固まってしまったが、すぐさまハクに駆け寄るとその容態を確かめる。見た通り傷は一つもないようだが、その体に流れている力がいつも感じられるものに比べて限りなく少ない。
『だから言ったのじゃ。主もこのような姿は見られたくないじゃろうと』
するとアリエスと同じく意識を完全回復させた他のメンバーたちも意識を失っているハクに近づいてきた。
「これは一体どういうことだ………?」
「は、ハク様がこんな………」
「私たちが気を失っているときに何が起きていたのか説明してもらえる?」
キラ、シラ、サシリの順に言葉を漏らしていくが他のメンバーはそもそも声すら出てこないようで、全員が顔を青ざめさせている。
『それについては私が答えようかのう』
そんなキラたちの要望に応えるかのように声を発したのは、ハクの中にいるであろうリアであった。
「リアか………。お前はマスターの一番傍にいた存在だ。詳しく聞かせてもらうぞ?」
『ああ、わかっておる』
リアはそう口にするとゆっくりとわかりやすいようにアリエスたちパーティーメンバー全員にこの第五層で巻き起こった戦いの全てを話した。
第四神核がアリエスたちを拘束して体力を奪っていたこと、またかつての神核たちがこの場に再現されたこと、さらにアリエスたちから吸い取った力を使って神核がパワーアップしたこと。
その全てをリアは包み隠さず言葉にした。
それを聞いていたメンバーはより一層顔を暗くし、俯いていったのだった。
「つまり妾達はまたしてもマスターの足を引っ張ってしまったのだな………」
全ての話を聞き終えたキラが誰よりも早くそう呟いた。
確かにキラたちが捉えられたことによってハクの行動は大分制限され、神核の力を引き上げてしまったのは事実だ。
こればかりはどうしようもないとはいえ、メンバーたちの心に罪悪感を残しているらしい。
「…………ハクにぃは、大丈夫なの?」
アリエスがハクの手を握りながらリアに問いかける。
今までのハクならばどれだけ衰弱しようがその能力でいとも簡単に体力を回復させ、すぐに笑顔を振りまいていた。
だが今のハクは大量の汗を流しながら苦悶の表情で意識を失っている。
『それはまあ大丈夫じゃろう。意識さえ取り戻してしまえば事象の生成でもなんでも使って復活はする。とはいえやはりあれは相当負担がかかったようじゃな』
リアは顔こそ見えないが、その声には若干の後悔が滲んでいる。
「神妃化のレベルをさらに上げたということですよね………」
エリアもハクの傍に腰を下ろしながら悲しそうに声を漏らした。
「だけど、私や星神の使徒と戦ったときもハクは神妃化の出力を上げていたわよね?それとは違うのかしら?」
サシリがエリアの言葉を引き継ぐ形で首を傾げる。
『あれはあくまでも同じレベル値の中で出力をいじっているだけじゃ。今回使用したのは、そのさらに上の領域。そもそも神妃化というのはかつての私に限りなく近づく状態じゃ。まだ人間の域にとどまっている主様の体ではあれ以上の神妃化は相当負担がかかる。だが、私の目から見てもそうでもせんかったら勝てん相手じゃったよ』
「「「「「「「……………」」」」」」」
リアの言葉に全員が声を出さず、無言になってしまう。
やはりパーティーメンバーとしてハクの傍にいる以上、その戦いに参加しハクを助けたかったという気持ちがどうしても渦巻いてしまう。
しかもあろうことか自分たちの力を利用され、それがさらにハクを苦しめたなど、到底容認できるものではなかった。
『まあ、もう終わったことじゃ。今回のことは誰も悪くはない。気にする必要はないのじゃ。主様とて下手によそよそしいほうがかえって困ってしまうぞ?ほら、スマイル、スマイル!』
唯一態度を変えていないリアがみんなにそう言葉をかけて空気を盛り上げようとするが、それでもアリエスたちの表情は明るくならない。
そこにしびれを切らしたクビロが少し強めの口調でリア言葉に同意する。
『リアの言う通りじゃ。そんな顔を下げておっては主もいい気分にはならん。それにこの神核戦だけが全てではない。もし後悔が少しでも残っているというのなら、これからの旅でそれを取り返していけばいいのじゃ』
年長者である二人の言葉を聞いたアリエスたちは、何とか気持ちに整理をつけ表情を元の状態とまではいかないものの比較的明るいものに変え、言葉を口にする。
「そ、そうだよね……。まだハクにぃの役には立てるもんね……」
「ええ、まだ私たちに出来ることは残ってるわ……」
「うん……」
「次の神核戦では絶対にハク様の助けになってみせます……!」
「そうだね、神核だけじゃなくてそれ以外の敵だって私たちが倒さないと……!」
「妾はマスターと契約した身だ。次は絶対にマスターの傍で戦ってやる……」
「私もハクの背中を守って戦うわ……」
『『はあ………』』
七人が吐き出した言葉に大きなため息をついた二人は、呆れたような表情を浮かべ小さな声で声を発した。
『これはこれで少し空回りしているような気がするのじゃが……』
『う、うむ……。主には申し訳ないが、我々にはこれが限界じゃ……』
二人が言いたかったのは、特段気にすることはないといった趣旨だったのだが、どうもナイーブになっているアリエスたちはそれを拡大解釈したようで妙なやる気を出してしまっている。
とはいえぐじぐじして蹲っているよりは遥かにいいのでリアとクビロはとりあえずその場は放っておくことにした。
ここからはハクが何とかしなければいけない領域なのだ、パーティーのリーダーとして。
リアとクビロがそんなことを考えていると、ようやく血の気が戻り始めたハクが呻き声を上げながら目を覚ました。
「う、うーん?…………。まっ、たく、何であんな夢をみせてくるかね、あいつは」
「ハクにぃ!」
「ハク様!」
「ハク様……!」
「ハク様!!!」
「ハク君!」
「マスター!」
「ハク!」
目をこすりながら意識を取り戻したハクにメンバー全員は勢いよく飛び掛かる。
「おわあ!?ちょ、ちょっと待って!今、体動かせないから!そんな飛び掛かってきたら、また意識失っちゃうから!」
だが、そんな言葉など聞く耳を持っていないアリエスたちは全員でハクの体にしがみつき、離れようとしない。
「え、えーとリアさん?これは一体どういう状況でしょうかね……?」
『さあのう?私は何もしておらんぞ?まあ、一言言えるとすれば、苦労するんだな若者よ!って感じじゃ』
「投げたな、おい!っていうかクビロ、見てないで少し助けてくれ!」
『それは無理な相談じゃな。わしもアリエスたちの気持ちはわからなくもないのでな』
「な、何それ!?説明ぐらいあってもいいだろう!?」
「ハクにぃ、少し黙ってて」
「は、はい!!!」
アリエスがハクの腕をつかみながら涙ながらにそう呟く。ハクはまるで何かに怯えるようにその言葉に従い、口をつぐんだ。
結局のところ、神核を倒したハクでさえも仲間の思いには勝てないということなのだろう。
と、ここでその光景をずっと見守っていた第四神核がタイミングを見計らって立ち上がる。その姿はハクに切り落とされた腕は当然なく、その肩からはいまだに血が流れているが、それでもその表情に殺気はなく穏やかなものに変わっていた。
「おい、人間。俺が消える前に話しておかなければいけないことがある」
次回のはハクの過去のお話になります!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は今日中です!




