第二百十話 第四神核、一
今回から第四神核との戦いがスタートします!
では第二百十話です!
第四層のボスに君臨していた骨の女王を倒した俺たちは黄金の階層をさらに下り、神核が待っているであろう第五層に足を踏み入れていた。
そこは全てが黒曜石で作られたような黒い結晶を使った部屋のようで、その部屋の扉以外は透き通るような漆黒の鉱石がダンジョンを構成しているようだ。
神核が住んでいる部屋に近づくほど、濃厚な殺気は増していき肌をピリピリと刺激してくる。
俺は部屋の前にたどり着くと、先程までとは打って変わって表情を引き締めると、そのままエルテナに手を添え、メンバー全員に語り掛けた。
「次は神核が相手だ。今までの敵とはわけが違う。気を抜くなよ」
その声はトーンが幾分か下がり若干殺気が滲みだしてしまった。しかし俺のパーティーメンバーはいまさらそのようなものでビビることはなく、むしろ笑顔で返答してくる。
「もちろん!私だって今はもう戦えるんだから、心配しないでよ!」
「ええ、足手纏いにはなりません!」
「姉さんの言う通りです………!」
「前の神核戦ではまったく戦えませんでしたが、今回は私だって戦いますよ!」
「そうだねー、エルヴィニアの神核よりも多分ここの神核のほうが強いんだろうけど、これだけのメンバーが集まってれば大丈夫だよ!」
「ふん、妾は精霊女王だぞ?下らん心配は必要ない」
「私だって一応血神祖って呼ばれてるんだから、そう簡単にやられないわ」
俺はその声に大きく頷くと、そのまま目の前にある扉に手をかけ勢いよく開け放った。
その動作と一緒に、部屋の中にある松明が独りでに点灯し、青白い光を放ちだす。
照らされた部屋の内部は、不気味な紋章が彫り込まれた漆黒の壁と、何やら無駄に天井の高い空間が広がっていた。
今までの神核たちと戦てきた場所は、前階層に神秘的なフロアが用意されていたのだが、どうやらこのダンジョンにはそのようなものはないらしく、前階層どころか最終階層にもそのような場所は用意されていないようだ。
むしろそのような空間は必要ないと言っているかのようで、侵入者を拒むことしか考えていないような造りになっていた。
「やけに静かな場所だな」
キラがその部屋の内部を見ながらそう呟いた。確かに痛いほどの殺気が放たれているのにそこには誰一人待ち構えているものはおらず、壁に立てつけられている松明が燃える音しか聞こえてこない。
一体どうなっている?
神核どころか魔物すら姿が見えないぞ?
今までならば神核側から襲い掛かってくるか、むしろ待ち構えているかの二択だったのだが、今回のようにその姿すら発見できないのはいまだに未体験の出来事であった。
気配探知を使用してみてもこの空間には何一つ気配を感じ取ることは出来ず、明らかにおかしな状況が出来上がっていたのだ。
さすがにこのままでは埒が明かないと思い、そろそろ何か行動を起こそうとした瞬間、俺の背後にまるで氷を当てられたかのような悪寒が走った。
『油断しすぎだ』
急に耳元で声がしたので俺は咄嗟にエルテナを抜き辺りを見渡すが、今この瞬間狙われているのは俺ではなく、パーティーメンバーたちであった。
「「「「「「「「きゃああああああああああ!?」」」」」」」
アリエスたちは俺が振り向いた瞬間、何か目に見えないものに引きつけられるように、天井付近の壁に吸い寄せられ、勢いよくそこに激突した。
「な!?一体これはなんなんだ!」
俺はそう叫びながらアリエスたちに駆け寄ろうと空を駆け始めるが、それを予測していたであろう何者かが俺の体を圧倒的な力で地面に叩きつける。
『考えが単調だな』
「がああああああああああ!?」
地面になっている石畳に猛スピードで叩きつけられた俺は呼吸が一瞬停止し、息が出来なくなる。
しかしこのままではマズいと直感が脳内で警報をならしているので、何とか魔力だけ働かし、転移で出来るだけ後方に距離をとった。
そしてそのまま俺は視線を天井付近に向け仲間たちの様子を確認する。
見たところ何やら見たことのない魔法陣がアリエスたちに働いており、その体を壁に貼り付けさせているようだ。しかもあろうことか全員が背中から勢いよく打ち付けられたことによって気絶しており、目を開いているものは誰一人いなくなっている。
俺はエルテナを強く握りしめながら神妃化を実行し、体に力を漲らせると俺を吹き飛ばしたであろう存在を睨みつけた。
それは黒く重たそうな甲冑を着た人型の存在で、人間の男性によく似た顔を晒しながら俺と目線を合わせている。
「お前が神核か?」
俺は確かめるようにそう問いかけるとその存在は表情一つ変えずに口だけを動かし返答する。
「ああ、その通りだ災厄者。貴様を排除するために俺はここにいる」
でたよ、災厄者って呼ばれ方。
星神に操られている神核は全て俺を災厄者という名前で呼んでおり、今回の神核もその典型パターンは破らなかったようだ。
「随分と派手な挨拶だな。そんなに俺の仲間が怖かったのか?」
アリエスたちを吹き飛ばし、その意識と身動きを奪っているこの仕掛けは間違いなく俺たちが来ることを見越して設置されたものだ。
確かに同じ時を自らの意思で生きている神核がRPGのボスのようにご丁寧に待ち構えているわけがない。
まして俺たちは今までに三体の神核を倒してきているのだ。今回のようにメンバーが揃いきっている状況をそう易々と作らせてくれるはずがなかったのだ。いくらキラやサシリといえど完全な不意打ちをくらってしまえば意識くらいは簡単に奪われてしまう。
これはリーダーである俺が失念していたことであり完全な落ち度だ。
「貴様らは個々の力を取ってみても普通の人間とは比べ物にならない力を保有している。無論、俺一人でも相手にすることは出来るが俺の一番の目的は貴様を殺すことだ。そこにプライドという下らん考えを持ち込んでまとめて相手にしている暇はない」
つまりは俺との一対一の戦いに無理矢理持ち込むことによって確実に俺を殺そうというわけか。
なるほど、色々と考えてきているようだな。
これは何度も言うように殺し合いだ。何が起きても文句は言えない場所であり、ルールに縛られることのない単純な勝利を追い求める戦いだ。それはどちらかが命を落とすことで決着する。
俺はその現実をもう一度重く受け止め、一刻も早くアリエスたちを解放するために剣を構えた。
「しかも捉えてるアリエスたちから体力を吸い取っているとは、また嫌味なことをしてくるじゃないか」
「これも貴様を殺すためだ。手段など選んでられるか」
「なら聞くが、何故俺を真っ先に捕らえなかった?仮に俺を狙っていればわざわざ戦う必要はなかったかもしれないぞ?」
「貴様はどうせあの程度の攻撃ごときで沈む奴ではないだろう?それくらいは俺も評価しているんだ。ゆえに貴様は俺が直々に叩き潰す」
確かにこの神核が言っていることは当たっている。俺にあの攻撃を仕掛けていたとしても、いくら不意打ちとはいえ意識までは失わなかったはずだ。その瞬間に、俺はあの術式を破壊し自由になっていただろう。
俺はその神核を眉間に皺を寄せながら睨みつけるとあいつが気づいていないとある存在を確認しながら攻撃を開始した。
「ようやくわかった気がするぜ、お前がかつて神核内の序列で一位だったことがな!」
今出せる全力の速さで俺は神核に接近するとそのまま剣を勢いよく振り下ろし、その脳天を狙う。
しかしその攻撃は見事に神核が持っていたエルテナよりもさらに長い長剣に阻まれ防がれてしまう。
そう、この神核は今のやり取りだけでもわかるように勝利という目標に貪欲なのだ。そこにはプライドも手段も関係ない、絶対的な意思が関わっている。
それゆえ第五神核が一位の座に上り詰めるまでは神核のなかでトップの強さを保持し続けることができたのだろう。
しかし、神核は俺の言葉に首を傾げると呆れたような口調で攻防を繰り広げながら話し始めた。
「誤解しているようだが、俺は初めから神核最強の存在ではない」
「なに?」
エルテナをかつてないほどの速さで振り回しながら、俺は神核の言葉に耳を澄ませる。
「人間たちは大人しかった第五神核を勝手に最弱と謳っていたようだが、初めからあの神核は最強クラスの力を持っていた。奴はそれを隠していただけだ」
第四神核から語られる真実に心底驚きながらも俺は攻撃を続ける。
というのも俺は今かなり焦っていたのだ。
気配探知から伝えられてくる情報は何もこの神核だけのものではない。貼り付けられているアリエスたちの気配も同時に伝わってきており、その気配がどんどん小さくなっていくのを感じ取っていたのだ。
くそ!このままじゃ、俺がこの神核に勝つ前にアリエスの体力が全部吸い出されてしまう!
かくなる上は…………。
俺は今まで使ったことがないくらいの出力で妃の器から漏れ出る気配創造を使用すると、アリエスたちから体力を吸い取っているその魔術に向けてその効果範囲を絞った。そして出来るだけその力をアリエスたちに流し込むように仕向ける。
「ほう、なかなか器用な真似をするな。だが、そんなことをして大丈夫か?」
「何が言いたい?」
俺がそう呟いた瞬間、神妃化している俺の目にすら映らないような速さで神核の姿が掻き消えた。
そして気が付いた時にはすでに俺の眼前に迫っており、手に持っている長い剣が俺の腹に深々と突き刺さっていたのだ。
「脇目を振っていては、俺の動きについてこられないということだ」
「が!?ぐぎゃああああああああああああ!?」
神核はそのまま俺の内臓を掻き切るように剣を引き抜くと、俺の顔面を右足で蹴り飛ばし壁に激突させた。
焦りと痛みが全身を駆けまわる中、なんとか神妃化だけは保ち事象の生成で傷だけは修復する。その流れでアリエスたちを解放してもよかったのだが、おそらくそれをするほどの時間をこの神核は与えてくれないだろう。
俺はすぐさま蔵の中に入っている絶離剣を取り出すとエルテナと同時に構えながら、戦闘態勢を再び作り直す。
「それが、第三神核を倒した武器か」
「まあな。今からとくと味わわせてやるよ!」
その声が俺のトリガーになったようで、全力で神核に駆け寄ると左右から挟み込む形で二本の愛剣を振るう。
そのスピードは先程の神核と同等レベルのはずだったのだが、神核は難なくその攻撃を回避し、同じく剣を振るいながら言葉を発してくる。
「貴様はどうやら本当に人類に害しか与えないようだな」
「何を根拠にその言葉を吐きだしてるんだよ」
「その存在、その力、その記憶。すべてがこの世界には必要ない。貴様がいなければ貴様の仲間もこのような戦場には赴かなくてすんだはずだ」
やはりこの神核も星神に落とされているようで、自分の意思と言葉に大きな矛盾が現れている。
アリエスたちが俺に出会わなければ確かにこんな血生臭い場所には来なくて済んだかもしれない。しかし、それと俺が人類に害を与えているという話はまったく別物だ。
それすらわからなくなっている神核の話など聞いてやる気はない。
そう思った俺は本来は使用しない魔眼もフルで活用し、奴を睨みつけ直接死の概念を叩き込む。
「ぐっ!?」
さすがにこれは効いたようで本当に死ぬまではいかなかったが、大きな隙を生み出すことに成功した。
「くたばりやがれ!!!」
その瞬間に滑り込むような動きで俺はエルテナと絶離剣を高速で振り回した。
しかし、その攻撃が奴の体に当たる瞬間、転移でもしたかのようにその姿が空気に紛れるように消えたのだ。
「な!?」
俺は必死にその気配を探るがまったく網には引っかからず視認することもできない。さらには魔眼の力を使っても神核を発見することは叶わなかった。
くそ、どこにいやがる!
するとまたしても俺の耳元でささやくような声が轟いた。
『貴様に俺の姿は絶対に見えん』
その瞬間、得体の知れない何かに俺は骨を砕くような勢いで腹に攻撃を受けてしまった。
「ぎゃあああああああああああ!?」
大量の血を口から吐き出した俺は、いまだに見えない神核の姿を探しながら、奴の固有能力にある程度当たりをつけ始める。
おそらくこの神核の力は、気配を完全に遮断しそのうえで姿を透明化することはできるものなのだろう。
…………。
こ、これは俺にとって天敵かもしれないな………。
仲間を封じられ、俺自身も満足に実力が発揮できない状況を早々に作り出されてしまった第四神核との決戦は、激戦になる香りを放ちながら開幕するのだった。
次回も第四神核との戦いが繰り広げられます!
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