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第二百九話 第四ダンジョン、四

今回は神核前最後の階層になります!

では第二百九話です!

 エリアとサシリが第三層の魔物を倒したことによって第四層に俺たちは到着した。

 第三層では比較的シンプルな黒色の石畳が広がっている空間が広がっていたのだが、この第四層はまったく違う体相になっており、全てが金色に染まった黄金の部屋が展開されているようだ。

 それは部屋に入る前の階段の段階から始まっているようで、俺たちがその階段を下っている場所から煌びやかな金が現れていた。


「よし、次は妾が戦うぞ!」


「私も戦うもん!」


「私もねー」


 第三層での戦闘を二人に譲った三人は今度こそ戦闘に参加するようで、高揚感を浮かばせながら力強い言葉を呟いた。


「………張り切るのはいいが、油断はするなよ?」


 俺は若干呆れながらもその三人に注意を促しておく。

 戦いにおいて慢心や油断というのは非常に危険で一瞬の隙がその命すら消してしまうことがあるのだ。しかも今回は魔武道祭や競技祭などの試合ではなく本当の殺し合いだ。そこに生半可な気持ちで挑めばそれこそ死という可能性すら浮かび上がってくる。

 とはいえ、このメンバーが負ける光景は想像出来ないんだけどね……。

 だって、片や精霊の女王で片やSSランク冒険者で片や強大な魔術の使い手なのだ。この三人を同時に相手にするのはさすがの俺でも骨が折れる。

 実のところ俺もその中に入って一緒に戦おうと思ったのだが、それはアリエスたちに全力で止められてしまった。

 曰く、俺が参加すると自分たちが動く前に全て片付いてしまうから、とのことらしい。

 いや、別に俺だってそんな身勝手なことはしませんよ!ちゃんとメンバーのことも考えて動きますとも!

 と思っているのだが、どうやらアリエスたちにそれは通じないらしく、しぶしぶと先程と同じように我が姉妹メイドたちと見守ることになったのだ。

 ちなみにエリアとサシリも俺たちと同じく見学組なのだが、第三層で好きなように戦ったため、その表情は晴れやかなものとなっているようだ。

 くそー、俺も戦いたいんだけどな………。

 すると、そんな俺を憐れむようにリアが話しかけてくる。


『まったく、情けないのう主様は。気にせんでもどうせ次の階層で神核と戦えるじゃろうが。それまで我慢するのじゃ』


 いや、まあそうなんだけど、やっぱり準備運動っていうのは大切なわけで、それをしないと体が………。


『どうでもいいが、アリエスたちは先に進んでおるぞ?』


 ぐっ…………。なんか反応が冷たいな、おい。

 俺は大きくため息を吐き出すとそのままアリエスたちの背中を追いかけて第四層ボス部屋の目の前までやって来た。


「それじゃあ、開けるぞマスター?」


「あ、ああ。どうぞ………」


 依然として溢れ出てくる気配は凍えてしまうほど冷えたものだったが、今の俺にはやる気になっているアリエスたちを止められるわけもないので、思考を停止させながらその言葉に頷いた。

 キラが勢いよくその扉を開けるとそこは、やはり階段から続いているように黄金が敷き詰められた部屋になっており、中には赤色の絨毯が全面に敷かれているようだ。

 どうやらこの場所にある黄金は魔力によってそう見せているだけであって、実際のところ他の階層と変わらない材質で出来ていた。

 まあもし本当に金で出来ていたら、それこそ大量の人間がこのダンジョンを攻略するだろうし、王国の完全な持ち物になっているだろうな。

 俺はそう頭の中で結論付けると、その部屋の真ん中にいる巨大な存在を凝視する。

 その姿は巨大ではあるが人型のようで、身には煌びやかなドレスと何かの宝石をあしらったようなネックレスがぶら下がっている。

 一見すれば魔物とは思えないのだが、その肉体を見た瞬間その考えを即座に捨てる。

 部屋の灯りによって映し出されたその体には肉はなく、真っ白な骨の巨人がそのドレスを身にまとっていたのだ。


「さしずめ、骨の女王ってところか?」


「ええ、そのようですね」


 俺は隣にいたシラにそう呟くと、戦闘を開始する三人から離れ部屋の壁際まで移動した。

 感じられる力は先程のヘラシュナータよりも大きく古代種でもない魔物にしては相当上位に位置する存在のようだ。

 アリエスたちは各々装備を構えその魔物と対峙する。

 おそらくあの魔物はアンデットの性質を持っている魔物だ。

 アンデットとは基本的に肉体が消滅し、なおも動き続ける者を指し示す言葉で、あの巨大な骨の女王が元々肉体を持っていたかは定かではないが、それでも骨を動かしている時点でその属性を持っていることは確かだろう。

 アンデットという存在には白、光属性の攻撃が有効的でその魔術や魔法を放つことが出来れば戦いを有利に進めることが出来るとされている。

 しかしアリエスたち三人の中にその属性の攻撃手段を持つ者はいないので、威力重視の戦いになるだろう。

 俺はそんな考えを膨らませながら全員が無事に無傷で勝利するように祈りながらその光景を見守るのだった。








「よし、行くよ!」


 アリエスは大きな掛け声とともに魔本を勢いよく開き魔術を発動する。


氷の終焉(アイスインフェルノ)!!!」


 それはいつもお馴染みの氷属性上位魔術でアリエスの得意技でもある攻撃だった。骨の女王の頭上に大きな魔法陣を描き出し雪と氷の雪崩を重力の方向に叩き落とす。

 轟音とともにその重量と威力に押しつぶされたかに見えたのだが、一瞬膨大な力が沸き上がったかと思うとすぐさまその魔術を打ち払い骨の女王は咆哮を上げた。


「キュウエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」


「うーん、あいつ魔術の耐性でもあるのか?」


 俺は首を傾げながら誰に問いかけるわけでもなくそう呟いた。


「でしょうね。あのドレスから妙な力を感じるもの」


 サシリは俺の問いに答えると自身も目を細めその戦いを観察する。


「ほう、アリエスの魔術を受けてもビクともしないか。だが、これならどうだ?」


 戦っているキラは頬骨を片方だけ高く吊り上げると、右手をゆっくりとかざし根源の文言を唱える。


根源の爆撃マタタキハハカイノウタ


 キラの言葉に従うように集められた根源は骨の女王と同じサイズの円環を出現させ、巨大なレーザー砲のような攻撃を放つ。

 さすがにキラの攻撃は空間そのものを歪ませるほど強力な一撃のようで、そのレーザー砲が放たれた瞬間、空気が振動し鼓膜を破るかのような不快音を発生させた。


「ギギェエエエエエエ!?」


 骨の女王はその攻撃を正面から受け止めようと腕を交差させながら防御の姿勢を取る。しかしキラが扱う根源というのは通常の魔術とは性質そのものが違う。

 よって骨の女王が持つそのドレスの力もまったく皆無となりその身にダメージを叩き込んだ。


「それじゃあ、今度は私の番だよ!」


 キラの根源が直撃している最中に唯一手の空いているルルンがレイピアを抜き、視認できないような速さで部屋を駆け巡った。

 そして根源が消失すると、タイミングを合わせるかのように音速を超えた突き技が放たれる。


「かわしきれるかしら?」


 ルルンはそう笑いながら、自身のレイピアを足の踊りに合わせるように振るっていく。

 さすがは舞踏姫だな、何度見てもあの動きは真似できない………。

 通常剣を振るう時に足は開いたままが多いのだが、今のルルンはむしろクロスさせることで予測不可能な動きを演出し、無駄のない攻撃を仕掛けている。

 骨の女王はキラの根源に続いて剣の応酬という連続攻撃に苦戦していたが、一度大きな声を上げると虚空から二本の巨大な長剣を取り出すと、それをルルンめがけて振り下ろしてきた。


「ギャアアアアアアアアアオオオオオオオ!!!!」


「ッ!?ちょっと、マズいかな………」


 ルルンは冷や汗を流しながら急いで距離を取る。しかしいくらルルンが早く動こうと、その攻撃を完全に回避できるタイミングではなかった。

 これがもし一人で戦っていた場合は命すら覚悟しなければならなかっただろう。

 だが今行われているのはルール何でもありの殺し合いだ。つまり必ずしも一人で戦わなければいけないなんてことはない。


「はあああああああ!?」


 ルルンに襲い掛かる二本の剣を受け止めるようにアリエスがその間に割り込み、絶離剣レプリカを差し出しながらその攻撃をはじき返した。

 普通ならルルンのレイピアもアリエスの絶離剣もこのサイズの剣を受け止められるはずがないのだが、そこは神宝のレプリカである絶離剣の見せ場で、重量や材質に関係なくあらゆるものを切り伏せる魔剣の力は物理法則をもひっくり返したのだ。


「まだまだ行くよ!」


 アリエスはその剣を弾き飛ばした瞬間、骨の女王の体に飛び移りその骨を両断していく。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 どうやら骨になっても痛覚は宿っているようで今まで聞いたことのない絶叫を骨の女王は轟かせた。


「では妾も行こうか」


 その光景を見ていたキラは既に新たな攻撃の手段を整えており、その根源を圧倒的な気配と共に発動する。


根源の停滞ハジマリハカイキスルトキノナガレ!!!」


 キラが放ったそれはかつて俺を仕留めるためにも使用し、最近では星神の使徒を消滅させたキラ自慢の技だ。

 バキバキと空間の壁を砕いていくそれは真っ黒な根源で、黄金によって光り輝いているこの部屋の灯りを全て吸収するかのような力を放出している。

 あいつ、完全に楽しんでるな。

 というか周りの被害を少し考えてほしいぜ………。

 キラも俺と初めて会ったときよりその実力は成長しているようで、今ではあの根源を使用すると俺が絶離剣を出したときにおこる空間の破壊まで引き起こしてしまうようだ。


「はあ………。張り切りすぎだ」


 俺はそう言いながらも空間の次元境界を底上げし、その破壊を何とか止める。

 キラが放った根源は勢いよく骨の女王に激突し、その体の半分を吹き飛ばした。


「キュエエエエエエギャアアアアアアアアアア!?」


 元々骨であるがゆえにそれほど痛々しさは感じないが、文字通り体を半分もがれているので今では立っているのも辛そうな状況になっているようだ。


「アリエスちゃん!ここは引き付けるから、アリエスちゃんは魔術の準備を!」


「うん!」


 ルルンはそう言うとアリエスと入れかわるような形で前に出ると、その体を駆け上がり、骨の女王の顔面部分に向けてレイピアを突きつける。

 本来このような魔物に対してレイピアという武器は向いていない。正攻法で攻めるなら大剣やハンマーといった粉砕することでなぎ倒すような武器出ないと攻略は難しいのだ。

 しかしルルンは持ち前の動きと経験で何とかその状況を覆していた。

 もちろん武器の硬度的に破壊するのは難しいが、的確に攻撃するポイントを変えることによって相手の注意を上手く逸らしているようだ。


「ルルン、さすがですね。私にはできませんよ………」


 エリアが鬼神のごとく動いているルルンを眺めながらそう呟いた。

 センスの塊であるエリアにそう言わせるというのは生半可なものではない。実際俺も学園ではその剣技に苦戦させられっぱなしだったので共感できる。

 するとルルンに言われて魔術の準備をしていたアリエスの魔力が急に膨れ上がった。

 どうやらキラが自分の魔力を分け与えているらしい。


「ほら、やるといい。全力の一撃をかましてやれ」


「うん!行くよ!閑地万却の雷(ティタグラム)!!!」


 瞬間、いつもよりも遥かに大きな竜が天井に姿を現し、ルルンが抑えている骨の女王に襲い掛かる。

 閑地万却の雷(ティタグラム)の力は再生不能。つまり仮にこの攻撃を受け、なおもその身を残していたとしても多大なダメージを受けるのは間違いない。

 まして今はキラの魔力を供給してもらっているので絶大な威力を秘めた一撃になるだろう。

 その竜はルルンが退避したのを確認すると、すぐさま骨の女王に飛び掛かり骨の女王を消滅させる。閑地万却の雷(ティタグラム)は何の問題もなくその骨の肉体を完全に焼き尽くし欠片すらも残さず消え去った。

 爆音と暴風が吹き荒れる中、最終的に勝ち残ったのはやはりアリエスたちで、その三人は部屋の中央で嬉しそうな笑みを浮かべながら勝利の味に浸っている。




 そして開かれた第五層への扉からはかつて感じたことがないほどの殺気と負の感情が流れ出してきたのだった。


次回は第四神核との戦闘がスタートします!

エルヴィニアでの第三神核戦からは大分時間がたってしまいましたが、ようやくその姿が露わになります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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