第二百七話 第四ダンジョン、二
今回は第二層を攻略します!
ですがメインは第三層以降なのでわりとあっさり終わります!
では第二百七話です!
キラの足蹴りを顔面に受けた俺は軽い脳震盪を起こしながらもなんとか立ち上がり、ようやくたどり着いた第二層の中を見渡した。
この第二層は第一層と同じく天井がかなり高い空間になっているようだが、その内装はまったく違い、囲まれた壁の外に見えるのは巨大な天使をかたどったような石像が何体も並んでいたのだ。
それは俺たちが今立っているところにも、縮小したかのような天使像が大量に並んでおり、弓を構えたようなポーズでこちらを見つめている。
第一層ではおそらく卒業試験として潜入した学生たちが設置したであろう灯りがたくさん設置されていたため、視界は比較的安定していたのだが、この第二層になるとその灯りは途端に少なくなり、天使像を不気味に照らし出す程度の光しか届いてなかった。
能力でいくつか光球を生成し光源を確保した俺たちは、道が開けている方向に歩き出す。その通路に並ぶような形で天使像は乱立しており、その瞳には俺たちは移っていないものの、常に視線を感じるような感覚が俺たちを襲った。
「な、なんか怖いね、ここ………」
アリエスが俺の腰に抱き着きながらそう呟いてきた。
「え、ええ………。しかもこの石像たち全て笑っているから余計に、ね…………」
シラの言うと通りこの石像たちは左手に弓を、右手に矢を持ちながら正面を見つめ、その口は笑っているのだ。
それは石像だからかもしれないが感情のない笑いで、どこか俺たちを嘲笑うかのような雰囲気さえ醸し出していた。
この世界には天翼族という種族が存在する。
今目の前にある天使像はアリエス曰くその天翼族にそっくりらしいのだが、頭の上に浮いている天輪だけはないようで、それが天使と天翼族の違いになっているのだという。
基本的に天使というのはこの世界において人間の妄想の中に登場する空想上の生き物のようで、遥か昔に天翼族に見とれた人族が作り出したと言われているのだ。
ちなみに俺たちの世界では神々の使いや神話の色々な部分で登場するので、架空の生き物ではなく本当に存在していたらしい。今はヘルやフレイヤのように消えてしまっているが、リア曰く太古の昔には間違いなくその姿はあったらしい。
というわけで、俺にとってもアリエスたちにとってもそれなりになじみの深い天使をモチーフにした石像の横を通り過ぎながら、俺たちはひたすらダンジョンを進んでいく。
どうやらこの階層は殆ど魔物という魔物が存在しておらず、道中でいきなりエンカウントするということはなかった。
だが、仮にもダンジョンであるこの場所において平和的な空間など存在していない。
俺は自分の両隣を歩いているエリアとサシリの動きを止めるように両手を差し出し、その進路を塞ぐ。
「ん?どうしたの?」
「何かあるのかしら?」
二人の言葉に軽く頷いた俺は、地面に転がっている小石を拾い上げるとそれを開けている道のど真ん中に投げ込んだ。
するとその石を破壊するかのように通路の両端から物凄いスピードで矢が二本打ち込まれる。
「やっぱりな」
「何がやっぱりなの、ハクにぃ?」
アリエスがよくわからないといった表情で俺に問いかけてきた。
「この並んでいる石像の中で、今矢を放ってきた二つから妙な魔力を感じた。おそらく通過する者を攻撃するようにできているんだろう」
よく見るとその石像は明らかに矢を構えているポーズが違い、どこから供給されているのかはわからないが少量の魔力が流れているようだった。
まあ、それほど威力の高い攻撃ではないようだし、仮に一般の学生や俺たちが受けたところでそれほどのダメージにはならないだろうが、それでも不意打ちの罠としては十分な機能を果たしている。
「まあこれは、はっきり言って脅しだろうな。それこそこの先にはこのような罠はたくさんあるだろう。気は緩めぬようにな」
キラは俺の言葉を引き継ぐ形で言葉を発すると、その石像を指先に集めた少量の根源で破壊した。
その後もこのような罠はキラの言った通り大量に仕掛けられており、石像の前を通過しただけで針が飛び出てきたり、落とし穴が作動したり、はたまた爆発したりとありとあらゆる小さな罠が仕掛けられていた。
とはいえ、第一層の魔物たちに比べれば大したことはなかったので、あまり時間を消費せずこの階層の攻略は進んだ。
だが。
ここで俺たちは考えもしなかった事態に直面する。
「な、なあ?この道さっきも通らなかったか?」
「そ、そうですね………。先程破壊した石像も見られますし、おそらくそうなのでしょう………」
エリアが困ったような表情をしながら俺の言葉に頷く。
というのも、エリアが言った通り俺たちはどれだけ進んでも同じ道にしか辿り着いておらず、何度も集会するような形で歩き続けていたのだ。
道は基本的に一本しかないので迷いようがないはずなのだが、それでもなぜか同じ場所ばかり通過しているようだった。
一応気配探知は使っているのだが、それでもその反応はかなり微妙なものしか返ってこず、魔物の気配もないため現在位置の把握がかなり難しい状況となっていたのだ。
「確かに私たちの感覚も何かを捉えているようです。それが何かはわかりませんが………」
シラはシルを見ながらそう言葉を吐き出した。
獣人族は人族に比べ五感というやつがかなり優れている。それこそ第六感を発動させてしまうレベルで発達しており、この空間に蔓延している不可解な空気を捉えているようだ。
俺はその二人に頷き返すと、魔眼を発動しこの通路全体の様子を眺めてみる。
「うーん………。全体的に高度な認識阻害術式がかかってるな。それと隠し通路のようなものもあるらしい」
俺はそう呟くと、そのまま目では視認することができない隠された通路の前に行くと、両手でその扉を押し開けた。
すると何かの霧が晴れたように辺りの景色が変化し、通路本来の形を浮かび上がらせる。
「なるほどねー。認識阻害でこの道を真っすぐに見せてたのかー。これは気づかないね」
ルルンは今まで歩いていた道の本来の姿を見ると感心したように言葉を発した。目の前にあった一直線の道は、術式が解除されるとロの字型の通路に変わり、グルグルと同じ場所を何度も歩いていたことが判明したのだ。
俺たちは新たに出現した通路をさらに進み、そろそろこの階層も終了するかな、というところで大きく開けた場所にたどり着いた。
それは大きな扉が目の前にあり、それを覆うような形で三体の騎士像が立ち並んでおり、周りには今まで見てきた天使像とは違った形をした天使像が丸い台の上に乗っかり、左右に三体ずつ設置されているようだ。
俺は明らかにおかしい配置がなされたその光景を見ながら言葉を吐く。
「あの石像、動きそうだな?」
「うん、動くと思うよ」
「動きますね」
「動きますね………」
「絶対に動きます!」
「動くだろうねー」
「あれで動かないほうがおかしいだろう」
「動くわね」
パーティーの全員が俺の意見に同意しているようで、このあからさまなトラップに若干引け目を感じてしまった。
とはいえおそらくこの仕掛けがこの階層の目玉というか一番危険なもののようで、むしろこれがあるために魔物も罠も、そこまで鬼畜なものではないのだろう。
しかし、ここを通らなければ先に進めないのも事実なので、とりあえず当たりの様子を調べてみることにした。
当然ながら騎士像を乗り越えて奥の扉に触れてみたが、まったく動く気配はなくビクともしない。
騎士像は何かのきっかけがなければ動き出すことはないようで、今のところは問題なさそうだ。
で、一番の問題が左右に置かれている六体の天使像だ。
この天使像はそれぞれ剣、弓、槍を持っており左右に一体ずつ配置されているようで、近づいて触ってみると、どうやら若干下に沈み込むようにできているらしい。
つまりこの謎を解くことで先のフロアに進めるようだ。
「これ、どうするのハクにぃ?」
アリエスが俺の顔を見上げその天使像に指先を当てながらそう呟いてきた。
まあ、このような状況は元の世界のRPGにおいてかなりの定番要素であるし、さんざんゲームやらラノベを読み漁ってきた俺にとってこの謎を解くことなど造作もない。
というか簡単すぎてむしろ誰にでもわかると思うのだが………。
見れば目の前に並んでいる三体の騎士像は左から槍、弓、剣の順で別々の武器を構えており、おそらくはこの順で天使像沈み込ませるか、逆順で同じことをすれば解くことが出来るのだろう。
俺は左右に分かれている天使像を交互に騎士像が持っている武器の順に押していく。そして最後の剣を持つ天使像に触れた瞬間、大きな音を立てて三体の騎士像が動き出した。
「案の定ってやつだな」
俺はエルテナを腰から抜き、その石像たちの動きを観察する。
すると俺たちという標的を見つけた瞬間、自らが持っている石の武器を振り回しながら襲い掛かってきた。
その動きは第一層で出てきた魔物よりも格段に速く、体が石でできていることをまったく感じさせないスピードで攻撃を放ってくる。
俺は一番初めに接近してきた槍の石像の攻撃をワンステップで回避すると、そのままエルテナを石像の腕に押し当て、武器を持つ手を切断すると右足を振り上げまわし蹴りを叩き込んだ。
残りの二体は他のメンバーが処理しているようで、珍しくキラとサシリが前に出て交戦している。
キラはお得の根源を容赦なく打ち放ち石像自体を破壊し、サシリは血の力で粉々に粉砕していた。
まあ、こうなりますよね………。
謎解きとも言えない仕掛けと、明らかに動くであろう石像を並べられているシチュエーションで実力に何の問題もない俺たちが劣るはずがない。
見事に三体の石像を破壊すると奥にある扉の鍵が音を立てて解除され、ひとりでにその扉は開き始めた。
どうやらその扉の先が第三層になっているようで、扉が開かれた瞬間、冷たい殺気がこの空間に流れてくる。
「よし、次は間違いなく戦闘だ。みんな気を引き締めて進めよ?」
俺はパーティーのメンバーにそう問いかけると、第一層の時の過ちを二度と繰り返さぬように気配探知で周りを確認しながら、第三層への道を進む。
この先はいわゆる中ボスと呼ばれる存在との戦闘が続く。学園長から聞いた話では第三層、第四層と強力な魔物との戦闘が続くようで、記録に残っているものを読む限りでは相当力を持っている魔物が待ち構えているらしい。
第一層と第二層は色々とハプニングはあったものの、それほど難易度的に難しいものではなかったので、俺は次の階層に潜んでいる魔物に十分注意を払いつつその階層に足を踏み入れるのだった。
次回はようやくまともな戦闘に入ります!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




