第二百六話 第四ダンジョン、一
今回は第四ダンジョン第一層を攻略します!
では第二百六話です!
「「「「「「「ぎゃああああああああああああああああああああ!?」」」」」」」
第四ダンジョンに入り、今から早速その攻略を開始しようとしていた矢先、俺以外のパーティーメンバーの絶叫が響き渡った。
というのも一番初めに登場した鳥型の魔物はアリエスとシラ、シル、エリアが順にその力を発揮し討伐されたのだが、どうやらそれがトリガーになっていたらしく、今アリエスたちはこのダンジョンに住まう大量の魔物に追いかけられていた。
鳥型の魔物が倒されたことによって出現した魔物は、一見するとオーガのような魔物だったのだが、口からは涎をたらしその体臭は息をしていられないくらい臭いもので、女性陣たちは皆、魔術や魔法すら使わずひたすらその魔物から逃げていたのだ。
しかもどうやらその魔物は男性には興味がないようで、俺はまったく相手にされておらず、何度も何度も無視され目の前を通り過ぎている。
どうりで学園の生徒も下層に到達できないわけだ………。主に女性陣がだが………。
しかもその魔物の匂いは他の魔物を集める力があるようで、俺たちの周囲にはすでに大量の魔物が群がり始めていた。
「………なんだろう、ダンジョンってこんな緩いものだったっけ?」
俺は一人寂しく追いかけられているアリエスたちを眺めながら、周囲の魔物をエルテナで切り払っていく。
「そういうのはいいから、早くこの魔物どうにかしてよハクにぃ!!!!」
アリエスが俺の顔を物凄い形相で睨みながらそう言葉を発してくる。
えー、だってそいつ臭いじゃん。
俺だって近づきたくないわけですよ。
「マスター!早くどうにかしろ!また抱き枕にされたいのか!!!」
あ、それは嫌です。
というかほぼ毎日左腕は枕にされてるけどね………。
仕方がないので気配創造で死のレベルまで気配を吸い取り、その肉体ごと消滅させる。それはどうやらその異臭からも気配を吸い取ったようで、その魔物が消えるころにはその匂いも綺麗さっぱり消え去った。
「はあ、はあ、はあ。と、とんでもない目にあいました………」
「う、うん………。まさかあんな強敵がいるなんて思いもしなかったよ………」
エリアとルルンが自分の膝に手をつきながら息を荒らしてそう呟く。
いや、実力的には今のあなたたちなら余裕だったと思うんですけど?
確かに俺だってあんな奴に触れるのは絶対に嫌だが、魔術や根源を使えば触ることなく倒せただろうに………。
「私がこんな低レベルな魔物に追い回されるなんて屈辱だわ………」
そんなエリアたちに続くようにサシリも珍しく冷や汗を流しながら言葉を漏らす。
………今のあなたはどう取り繕っても格好よくは見えませんよ?
俺は心の中で悶えているメンバーたちにツッコミをいれると、第一層の天井を見上げながらそれが落ち着くのを待った。
このフロアは木の根っこに絡まった巨大で大量の魔石が浮いている関係で頭上の空間が大きく開けている。いくらダンジョンの通路が区切られていても宙に浮かびその空間を飛んでいけばサクサク進むのではないか、と思ったのだが、どうやらそれはしっかり対策されているらしく、同じく空中に浮いている魔法陣がそのような行動をしようとする輩を撃墜するシステムが組み込まれているようだ。
試しに気配創造で作り出した光球を打ち上げてみると、見事に魔術が発動し打ち落とされてしまった。
というわけで、通常通りダンジョンの中を歩いて進もうと思ったのだが、初っ端からこの大惨事である。
俺は何とか息を整えたメンバーを眺めながら魔物を切り払っていたエルテナを鞘に納め、ダンジョンの奥へと歩き出す。
「そろそろ進むぞ?このフロアはかなり広いからな。早く行かないと日が暮れてしまう」
「う、うん……」
アリエスたちはなんとかその言葉に頷き、俺の後をつけてくる。
この第一層は罠が大量に仕掛けられているというよりは、魔物の絶対数で侵入者を排除するようにできており、迷路のような通路でも曲がり角を曲がった瞬間にエンカウントすることなどざらにあった。
しかもそのどれもがそこそこ強い魔物ばかりで、学園に通っている通常の生徒ではなかなか対抗できないような実力を秘めたものばかりだったのだ。
うーん、これじゃあ普通の生徒が攻略なんてできるはずないな………。俺たちだからなんとか進めているが、それでも今までのダンジョンとは段違いに難易度が高い……。
第一ダンジョンは、それこそ冒険者が自分の実力を向上させるために侵入するくらい、比較的入りやすいダンジョンだったが、いわばこの第四ダンジョンはその環境とは真逆だ。
その中に住まう魔物も強ければ侵入することすら学園の中にあるため難しい。
挙句の果てにその最奥にいるであろう神核は過去最強レベルで強力な存在ときた。こんな状況で卒業間際とはいえ一介の学生に攻略しろというほうが無茶だろう。
そんなことを考えながら俺たちはひたすらダンジョンの通路を進んでいたのだが、急に開けた空間にたどり着いた。
そこは半径三十メートルほどある円形の空間で、その場所を中心にたくさん道が伸びている。
するとその全ての道からうなり声をあげて大量の魔物が姿を現した。
「どうやら待たせてたみたいだな」
「そのようだな」
これはエルテナを引き抜きながらそう呟き、戦闘態勢に入る。
俺の言葉に答えたキラを筆頭に、パーティーメンバー全員が武器を構えその魔物たちを迎え撃つ準備をした。
どうやらその魔物は体長二メートルほどあるダークウルフのようで、ダンジョン内のわずかな光さえも吸収しまうような漆黒の毛を纏い、鋭い牙をチラつかせながらこちらを睨みつけている。
ようやく、魔物らしい魔物が出てきたじゃないか。
俺はそのダークウルフたちを見つめながら薄っすらと笑いを浮かべると、みんなに掛け声をかけて戦闘を開始した。
「このままじゃ先に通してくれないみたいだし、蹴散らすぞ?」
瞬間、俺はエルテナを目の前にいたダークウルフの首に滑り込ませ、大量の血を噴出させながら絶命させる。
するとアリエスたちもあらゆる方向から攻めてくるダークウルフたちを、まるでの雑魚を踏み倒すかのように次々と絶命させていった。
おそらく三十体ほどいたであろうウルフたちを討伐し終わるそこは完全に血の海になっており、俺たちの靴裏に赤い鮮血がこびりつく。
ウルフがいなくなり、改めてこの空間を見てみると本当にたくさんの通路が集中しており、放射線状に道が分かれていた。
「どの道に進むのですか、ハク様?」
シラが俺の顔を覗き込むようにそう呟いてくる。
「ああ、少しまってくれ」
俺はそう返答すると、目を瞑り気配探知の索敵範囲を最大まで伸ばし次の階層へ続く階段の位置を探り始めた。
これは今までのダンジョンでもやってきていることであり、魔物や物体の気配の位置を照らし合わせ、空間の位置を完全に頭の中で地図化するのだ。これによりダンジョンを比較的安全に、そして効率的に攻略していくというわけである。
「…………よし、こっちだな」
俺は数秒ほど能力を使用した後、導き出した答えに基づき足を進ませる。
それから先もこの第一層ではことある度に分かれ道と魔物が姿を現し、俺たちの行く手を阻み続ける。
しかしいくら通常のダンジョンより難易度が上とはいえ、今の俺たちからすれば雑魚も同然なので、なんの苦労もなく歩き続ける。
唯一、その臭いオーガもどきが出てくることが心配だったのだが、あれはいわゆる初見殺しのようなものだったらしく、それ以降は姿をみせなかった。
というわけで、一応広かった第一層もなんとか終わりを見せ、第二層への階段へとたどり着いた。
「はあ………。ようやく二層目か。この第一層、どれくらい時間かかった?」
「およそ三時間くらいです…………」
「三時間か……。これは少し急いだほうがいいな」
俺はシルの言葉を聞くと大きく深呼吸した後、再び動き始め第二層への階段を下り始める。
というのも確かに階層の面積が大きいほどその攻略に時間がかかるのは必然なのだが、この後の階層も一日で突破することを考えると、少々時間を取られすぎた気がするのは否めない。
そう思った俺は急ぎ足でその階段を駆け下りる。
それに追随するようにアリエスたちも後をつけてくるのだが、この時俺は早く攻略することしか考えておらず、周囲の確認を完全に怠った。
で、何が起きたかというと。
「え?」
俺が階段を駆け下りているときに次の足場に足をおこうとした瞬間、その階段全てが一瞬にしてなくなり、巨大な滑り台のような形状に変化したのだ。
「なんじゃこりゃああああああああ!!!」
「「「「「「「きゃああああああああああああああ!?」」」」」」」
俺が崩れ落ちるようにその滑り台に流されると、当然後ろにいたアリエスたちもその巻き添えをくらい、悲鳴を上げながら転がり落ちる。
というかこういうシチュエーションどこかのダンジョンであったよな!?
俺はそう思いながらもその流れに身を任せ滑り落ちる。
一体どこまで落ちるんだ!と思っているととうとうその滑り台は終了し、勢いよく俺の体を投げ飛ばした。
「おうわああ!?」
俺の体はそのまま滑り台によってつけられた勢いを殺しきれず、地面を何度もバウンドしながらようやくその動きを止める。
「いつつつ………。なんてダンジョンなんだ………。もう少し入ってくるやつのことも考えてほしいものだな、これは…………」
俺は一人でそう呟くと服に着いた土を払いながら辺りを見渡す。どうおやら気配探知の情報的にここは普通に第二層のようで、これまた天井の高い空間になっているらしい。
そんなことを考えながら俺はふと思考を別の方向に伸ばした。
ん?
あれこの状況って、前にもあったよな。
ってことは次に起こるのって………。
「「「「「「きゃああああああああああ!?」」」」」」」
「やっぱりかよ!!!」
当然パーティーの先頭にいた俺が滑り落ちているのだから、その後ろにいたメンバー全てが俺に続けて流れてきた。
このままアリエスたちを避けることも出来るのだが、半ば自分が作り出した状況でもあるので、一人一人投げ飛ばされてくる体をキャッチしていくことにする。
「うきゅ!?」
一番初めに滑り降りてきたアリエスをやさしく抱き留めると、それに続いて出てくるメンバーを次々と腕に抱きかかえる。
シラ、シル、エリア、ルルン、サシリの順でその滑り台から降りてきており、残っているのはキラだけとなったのだが、一向にそのキラの姿が見えない。
ん?なにかあったのか?
と俺はキラの身を心配していると、何やら高らかな笑い声とともにキラが飛び上がるようにその滑り台から出現した。
「ハハハハハ!くらえ、マスター!!!」
「は?ちょ、ちょっと何を………って、グハッ!?」
キラはその滑り台の勢いを維持したまま空中に飛び上がり、俺の顔面に右足を叩き込んできた。
仮にも精霊女王の攻撃をまともに受けた俺はそのまま、後ろに倒れこみ頭の上に星をいくつも出現させる。
「辺りを確認せずに突き進むからこうなるのだ。これくらいは当然の罰だな」
確かに今俺たちがこうやって階段もどきの滑り台に投げ飛ばされているのは、全て俺のせいなのだが、それにしてはやりすぎな気が………。
すると俺が受け止めたアリエスたちが次々に体を起こし、言葉をそろえて呟き始める。
「それにハクにぃはさっきの臭い魔物に私たちが追われてるときなかなか助けてくれなかったもん!」
「女というのはなかなか根に持つので気を付けてくださいね?」
エリアがアリエスの言葉を受け継ぐように俺にそう言葉を放ってくる。
「は、はい………。き、気を付けます………」
と、まあ普段はあまり見られない光景が出来上がったところで第四ダンジョンの第二層攻略が始まるのだった。
次回は第二層の攻略を描きます!
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