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第二百二話 vs精霊騎士、五

今回はキラがメインになります!

では第二百二話です!

 ハクとクガが関所前で戦い始めたころキラたちは王国の中に群がっている精霊たちの対処に追われていた。

 今まで敵意は向きだしにしていたものの精霊たちは、ハクたちの戦闘が開始されたタイミングと同時に王国全土に向けて攻撃を始めているという事態が起きていたのだ。

 それは精霊の神秘という名の膨大な力が放たれており、競技祭によって賑わっていた街並みを悉く破壊していっている。

 この事態は王国の騎士団や冒険者たちだけでなく学園の中でも強力な力を持つ生徒でさえも駆り出される事態が起きていたのだ。

 その勢力は大量の精霊たちと激突し大きな戦火を発生させている。学園王国はこれまでこのように直接攻められることはなく、あの帝国軍を相手にしてもその侵攻を食い止めてきていたのだ。

 しかし今回はSSSランク冒険者会議で採決されたイロアの索敵結晶さえも捉えることのできない精霊というまさかの敵であったためその侵入を許してしまった。

 この巨大勢力同士の激突は本来ならば人間サイドであるこちらが圧倒的に不利はずなのだが、二つの理由によってそれが覆っていた。

 一つ目はキラたちパーティーの存在。

 当然ながらキラは精霊たちの女王であり、その影響力は星神に操られている状態の精霊たちにも相当な打撃を与えているようで、キラが放つその気配にほとんどの精霊が行動を委縮していた。

 また残っているアリエスたちもその全てが一騎当千の実力をもっているので、一人で何十体という精霊たちをまとめて相手にすることが出来ていたのだ。

 そして二つ目。

 これは単純に勢力の絶対数の問題だ。

 今この王国に集まっている精霊は前回のキラが集めた量よりも格段に少ない。数的に言ってしまえば千体いるかいないかぐらいであり、いくら強力な力を持っている精霊たちであってもこの学園王国にいる人間たちの数には及ばなかったのだ。

 学園王国はギルド本部がある場所であり、冒険者という職のものたちが他の国や町より遥かに多く集まっている。また騎士団に加え学園王国ならではの戦力である学生たちが大量にいるのだ。

 この状況が揃ってしまえばいくら精霊といえど劣勢なってしまうのは否めない。

 つまり今現在はキラたちが恐れていた精霊たちの殲滅という事態が起き始めていた。


「このままではマスターがクガに勝利する前に全ての精霊が消えてしまうぞ!」


 キラは悔しそうに唇をかみしめながら叫ぶようにそう呟いた。


「なら私は王国に行き出来るだけ精霊たちを傷つけないようしろ、と進言してきます!私は一応王女ですからそれなりの効果はあるはずです!」


 エリアはキラにそう伝えるとそのまま学園王国にある王城に向けて走っていく。


「なら私はギルドに行ってくるよー!一応SSランク冒険者だから、影響力はあると思うし!」


 エリアに続く形でルルンもギルド本部へ早々と向かっていった。


「頼んだ!」


 キラは二人の言葉に返答しながら根源を空に巻き上げ精霊たちを無力化する。本気で打ち出してしまえば先程のように、精霊の存在自体を消してしまうことになるので、できるだけギリギリの力で攻撃をしているのだ。

 それはアリエスたちも同じようで魔術や魔力波といった比較的遠距離的な攻撃を主体とし、精霊たちを交戦していた。

すると、あまり魔術が得意ではないシラとシルが急に走る方向を変え、キラに大きな声で叫んだ。


「私たちは交戦している冒険者や騎士団の方たちに直接語りかけにいくわ!エリアやルルンが動いても今すぐには止められないでしょ?」


「うん………!それは任せて………!」


 キラはその二人に無言で頷くと自分の近くに群がってきていた精霊を根源で弾き飛ばす。


(すまない………。今の妾にはこうすることしかできないのだ………)


 精霊女王たるキラは今まで同胞である精霊に自らの力を振るったことは一度もなかった。よくよく思い出せば精霊たちが言い争ったり喧嘩したり、それなりに揉め事はあったのだが、それもキラは実力行使でそれを止めたことは一度もない。

 それゆえ、精霊を攻撃して無力化するしかないこの状況はキラにとって相当なストレスになっていたのだ。


「キラ?大丈夫?」


 アリエスがその隣を走りながら、そう呟く。

 見ればキラは今まで一度も見せたことがない冷や汗をかいており、顔色も相当悪い。


「あ、ああ。大大丈夫だ。妾は精霊の長だ。このような事態が起きているのに目を背けることなどできない」


「無理はしないでね?」


 アリエスは心配そうな表情を向けながら再び魔術を展開して攻撃を再開する。

 しかしその言葉とは裏腹にキラの状況はかなり悪いもので、体力的な問題ではなく、精神的にからなりのダメージが入っているようだった。


(マスターがいかにクガを無力化するか、それが今回の鍵になってくる。それにマスターはこの精霊たちを操っている力の起点がクガにあることを知らない。念話も完全に切れているし、どうしたものか………)


 クガと戦っているハクの気配はこの王国内にいても感じられ、その力が見る見るうちに上がっているのはキラも感じ取っていた。

 だがそれは相手であるクガも同じようで、キラが知っている時代のクガでは到底届かないほどの力を身に着けているようで、早々に決着はつきそうにない。

 まして今のハクはどうにかしてクガを殺さないようにしているはずだ。キラにはああ言ったもののハクは優しすぎる。

 あれほどの力を持っているにも関わらず、それを好んで誰かを傷つけるために使うことはしない。

 ゆえにクガが精霊たちの洗脳における起点だとしらない今、その存在を消すということは絶対にしないはずだ。

 キラはそう思いながらも残っているアリエスとサシリたちとともに学園王国内を走り回り目に着く精霊たちを踏み倒していく。

 すると丁度、先程までいた競技祭の会場付近に到着し、その目の前で戦闘を繰り広げている見知った人物の顔を発見した。


「学園長!生徒会長!」


 アリエスが二人を呼び、その戦闘に割って入る。

 キラとサシリもそれに追随し、群がっていた精霊たちを地面に組み倒すと、息を上げている二人に話しかけた。


「大丈夫か?」


「あ、ああ。なんとかな。だがこれはどういうことだ?あれは普段見ることも出来ない精霊だろう?それがどうしてこんなにも王国に………」


 学園長が自ら範っていた魔術の詠唱を中断し、そう呟いてくる。隣を見れば生徒会長であるフランもその言葉に頷いていた。


「すまない………同胞が迷惑をかけている………。この騒動を沈めるために妾たちも動いているのだが、少々問題が発生しているのだ」


「問題だと?」


 キラは学園長の問いかけに頷き、今までに起きた出来事を手短に全て二人に話した。


「……………。なるほど。ということは操られているだけの精霊たちが次々と倒されていっているというわけか」


「ああ。そして非常に言いにくいことなのだが、その同胞たちを傷つけないでほしいのだ。我儘な話ではあるがな………」


 キラは俯きながらそう答えると、唇をかみ切る勢いで噛み締め眉間にしわを寄せた。

 あれほどクガを消されたことで、憎悪を募らせていた人間にキラ自身が頭を下げるというこの状況は、ハクと出会う前のキラであれば絶対にありえなかったものだ。

 しかし、今はしっかりと周りが見えているので、キラは誰かを頼り助けを求めることだってできる。

 それがたとえ過去に死ぬほど憎んだ存在だったとしてもだ。

 その言葉を聞いた学園長とフランは二人同時にキラの肩に手を置き、微笑みながら喋り始める。


「ならば私は全学園の校長に呼びかけ、精霊には手を出さないように伝えておこう。ハク君がそのクガという精霊に勝つまでの間であればいくらでも耐えられるだろう」


「私は戦っている学生たちを止めてくるよ。生徒会長だし、みんな聞く耳は持つだろう」

 二人はそう言うとキラの返答を待たずに動き出し、街の中に消えていった。


「…………。妾は本当に助けられてばかりだな………。何もできない自分が惨めになる」


 キラはそんな二人の背中を見送ると、ポツリとそう言葉を吐き出した。

 今までキラはその膨大な力と女王という地位により、自分にできないことなどないと思ってきた。他人を頼るなどもってのほかで、同じ精霊同士であっても自分のことは自分でやってきたのだ。

 それがハクと出会い仲間を頼ることを覚え、その温かみを知った。

 それは決して精霊の女王であるキラに媚びを売るようなものではなく、純粋な友情と気づかいからくるもので、その気持ちに疚しさはまったくない。

 しかし、今はそれが少しだけ申し訳なく感じていた。

 精霊たちを沈めることしかできない自分に腹が立っていたのだ。

仮にも精霊女王である自分はこのままここで同じことを繰り返し続けてもいいのか?

 その疑念がキラの心の中で渦巻く。

 と、その時。

 そんなキラの言葉を聞いたサシリがキラの顔を両手で軽く包み込むとその揺れている目を真っすぐ見つめながら、語り掛けるように言葉を紡ぐ。


「キラ、あなたにはまだやれることが残ってるわ」


「や、やれることだと?」


「今はハクが戦っているけれど、その相手である精霊騎士は元とはいえあなたの騎士なのでしょう?だったらその騎士を主であるあなたが止めないでどうするの?」


「い、いや、それはマスターに断られて……」


「そういうことを言ってるんじゃいないわ!!!」


 珍しく大きな声をあげたサシリにキラはビクっと体を震わせると、驚いた表情でサシリの顔を見つめる。


「あなたはこのままハクに自分の騎士を倒されてもいいの?高々ハクに断られたぐらいで、自分の意思を曲げる必要はないわ!それに今のあなたはその騎士を殺す覚悟だってある。だったらハクを倒してでもその役目を全うしなさい!それが一族の長であり、統括者の責任よ!!!」


「サシリ……………」


 サシリは自分というカリデラ君主の在り方とキラという精霊女王の在り方を被せ、今のキラに足りていないことを示す。

 最初は当然キラ自らこの騒動を抑える気でいた。しかし、そこにハクやパーティーのメンバーが介入したことによって、無意識にクガという存在を遠ざけていたのだ。

 だが、たった今サシリの言葉によってその感情は再び動きだし、意識を覚醒させる。

 するとそのやり取りを隣で見守っていたアリエスも笑顔を浮かべながらキラに言葉をぶつけてくる。


「私はサシリほどキッパリとは言えないけど、それでも自分の本当にしたいことをキラはやればいいと思うよ?このままハクにぃに任せておいてキラが後悔するんだったら、今はこんなところで油を売っている場合じゃない。それこそ今すぐにでもハクにぃのところまで行かないと!」


「アリエス…………」


 キラは二人の言葉を聞き、しばらく顔を下に向けひたすら考え込む。

 確かにキラは精霊たちの女王でもあるが、それと同時にクガの主でもなるのだ。自分にしかできないことというのは、何も精霊たちを沈めることだけではない。

 むしろクガという存在に今度こそ向き合うべきなのだ。

 キラはそう思い至ると心の整理がついたように顔を上げると勢いよく両目を見開き、初めて会ったときのように圧倒的な気配を放出すると、そのまま宙に浮かび上がる。


「本当にすまないな、二人とも。おかげで妾のやるべきことが見えた気がする。ついては少しだけこの場を開けるがいいか?」


 先程の暗い表情を一切見せつけない普段通りの超然とした態度をアリエスとサシリの見せつけるとキラはそう呟いた。


「うん!ここは任せて!」


「ええ、気のすむまで暴れてきなさい」


 アリエスとサシリはキラにそう微笑みながら返答する。

 その様子に頷いたキラは全速力でハクとクガが戦っている場所に向かった。

 その上空についてみると、そこには力を使い果たしたであろうクガとそのクガの首にエルテナを突きつけるハクの姿があった。

 そしてその瞬間、残っていた別の精霊がハクに攻撃を仕掛ける。

 またその動きに反応したハクにクガが最後の力を振り絞るように追撃を放とうとした。

 だが、今のハクにその動きが見えていないわけがない。すぐさま精霊の攻撃を切り払うと、そのままクガを殺すような勢いでエルテナを振り上げた。

 キラはその瞬間、一瞬にして二人の間に飛び込むと、自分の騎士と主に向かってこう呟いたのだ。




「こいつの最後はやはり私にやらせてくれ、マスター」




 こうしてかつて人間との共存を夢見た最強の精霊たちが、幾年のもの時を越え再び相まみえたのだった。


次回はついにキラとクガという主従同士の戦いとなります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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