第二百話 vs精霊騎士、三
今回はハクとクガの戦いになります!
では記念すべき第二百話です!
「はああああああ!!!」
「くっ!?」
クガが放つ強力な拳を俺はエルテナで何とかかわしながら俺は自分も攻撃を仕掛ける。その拳は音速を超えたような速度で打ち出されており、空気の壁を穿つような音とともに俺に繰り出されてきた。
キラは自分よりも弱いと言っていたが、その近接戦闘だけならはっきり言って遜色ないレベルのもので、力も反応速度も神妃化を実行しなければついていけないくらいの強さを持ち合わせている。
「この程度か人間?」
クガはそう言うと魔術を無詠唱で発動して俺の体に叩きこむ。それは普通の風魔術だったのだが、込められている魔力が尋常でないので、その威力は必然的に跳ね上がり俺の肋骨ごと粉砕した。
「ぎゃあああああああああああああ!?」
血反吐を破棄ながら地面を転がった俺はすぐさま態勢を立て直して転移を使い背後に移動するとそのままエルテナを脳天に振り下ろす。
「これでどうだ!!!」
「フン!」
「なに!?」
俺の攻撃は脳天を防いだクガの腕に直撃し見事にその威力を相殺されてしまう。
なんつう硬さだ、この精霊!
俺はそう思いつつも咄嗟にリーザグラムを蔵の中から取り出し距離を取ると、第一神核すら苦しめた剣の応酬を放つ。
「黒の章!」
「ほう」
二本の剣は激しい光を帯びながら無数の剣線を描き出し、クガの肉体に傷をつけていく。さすがにこれは効いただろうと思った矢先、クガはその攻撃を受けながら口を開き喋りだした。
「お前のように弱きものがキラの主というのはやはりありえないな。少なくともキラは俺ごとき一瞬で叩き潰すぞ?」
嘘つけ!
いくらキラだって今の状況を見たら驚くに決まってるわ!!!
どうやらこの精霊騎士さんは星神に洗脳どころか力も分け与えられているようで、話に聞いていた実力より数段強化されているらしい。
でなければ神妃化した俺の動きについてこられるはずがない。仮にも制限しているとはいえキラと同等に戦ったレベルまで出力を引き上げているのだ。
それでキラがこいつに余裕で勝利しますなんて言おうものなら、それこそ主として問題だろう。
「へえ、そうかい。だったらこの攻撃から抜けて見ろよ?」
俺は黒の章をさらに速度を上げながら続け、クガにそう言い放つ。
「余程自分の力に自信があるらしいが、油断しないことだな」
クガはそう言うと風を切り裂きながら振るわれていたはずのエルテナとリーザグラムを両手でつかみ取り俺本体ごと地面に叩きつけた。
「かはっ!?」
背中から地面に激突したことによって、肺の中にある全ての空気が吐き出され一瞬呼吸ができなくなってしまう。
クガはそんな俺に立て続けに拳を振り上げ攻撃を繰り出してくる。さすがにそれをくらうわけにはいかないので、転移で出来るだけ距離を取るように移動した。
どうやら今までの戦いからクガの戦い方のスタンスというのは、拳や蹴りを主な攻撃方法としたもののようだ。
しかもサシリのような魔力や神格といった力を込めながら肉弾戦を繰り広げるタイプでもなく、その身に宿る筋力だけで相手を組み倒すスタイルらしい。
とはいえ魔術やそれに準じるものを使っているので、決して魔力を扱えないというわけではなく、精霊の真骨頂である超常的な魔力現象も残している。
つまりただでさえ神妃化の強さに着いてこられる実力を持っている上に、まだまだその天井を見せていないという俺にとってかなり不利な戦いとなっていたのだ。
「なかなか、やるじゃないか精霊騎士」
俺は半ば冷や汗を浮かべながらクガに向かってそう言葉を投げかけた。
「貴様が単に弱いだけだ。そもそも精霊という高位な存在に人間が抵抗できるはずがない」
「…………。かつて人間と精霊の共存を望んでた存在の言葉とは思えないな」
俺がキラの話から聞いていたクガという精霊騎士はもっと人間に対する優しさの心が見えていたはずだ。
だが今のクガはその人間を見下すような発言を大量に吐き出し、まるで人間を嫌っているかのような雰囲気さえ感じとれてしまう。
「あの頃の俺はやはりキラの言う通り馬鹿だったのだ。人間という心に闇を住まわせている者たちとの共存など夢物語にもほどがある。そもそも人間は何故力を求める?何かが欲しいからか?我欲を満たしたいからか?誰よりも強くありたいからか?違うだろう?人間は力を持ったところで戦いしか生み出さない。それは今までの歴史から見ても歴然の事実だ。つまり人間がどのような目的で力を持とうが、結局その矛先は我ら精霊や世界にしか向けられない。そんな存在と共存など出来るはずがない!」
確かにそれは一種の事実だ。
俺も今まで力に酔いしれた人間をたくさん見てきた。冒険者にしても騎士団にしても勇者にしてもそうだ。力を持つ者の近くには常に戦いという血が流れる舞台が用意されている。しかもそれを避けようとせず、人間はわざわざその中に自ら身を投じるのだ。
かくいう俺もその一人だろうし、リアという絶対最強の存在の力を行使している時点でその言葉には反論できない。
だが、それでも過去のクガとキラが追い求めたその気持ちは偽物ではないはずだ。
人間と共存し、この世の全ての生物によって作り出される平和は絶対に夢物語ではない。残念なことに志半ばでクガは倒れてしまったが、そこに秘められた感情はたとえクガ本人であっても蔑ろにしていいものではないのだ。
「でも、キラはお前を騎士に取り、ともに人間との共存を目指したことを後悔はしてなかったぞ?」
俺とキラが初めて会ったとき、キラはやはり人間に対して大きな憎悪を抱いていた。しかしそれは決してクガとの日々を打ち消すものではなく、他の精霊たちを守るために働かせていたいわば防衛本能だ。
そして先程自らの過去を語っているときのキラはどこか嬉しそうでもあり悲しそうだった。
そんなキラがクガとともに歩んだ道に後悔の念を抱いているはずがない。
俺はそうクガに呟くとリーザグラムをしまい絶滅する乖離の剣を蔵から取り出すとそれとエルテナを同時に構え戦闘態勢に入る。
「それは間違った考えだ。もしキラがいまだに人間と共存する道を諦めていないのだとすれば、今度こそ俺が正しい道に戻してやる!」
瞬間、クガの姿が消えたかと思うと俺の背後にいきなり現れとてつもないスピードで拳を突き出してきた。
「死ね、人間!」
俺はその攻撃をエルテナで受け流すと絶離剣を全力でその腕に叩き込んだ。
「お断りだ、精霊!」
その攻撃は見事にクガの腕を根元から切り落とし、霧散させる。
「があああああああ!?」
どれだけ強靭な肉体を持っていようが絶離剣の能力を受けて耐えられるものではない。
俺はその絶叫しているクガに対しさらに重ねがけるように気配創造の力も投入する。
周囲のありとあらゆるものから気配という存在の定義そのものを吸い取って、無数の刃を形作っていく。
「まだ終わらせないぜ?」
俺はそう呟くと生成した気配創造の力を一斉に叩き込んだ。
第二神核の破格とも思える竜の肉体を砕いた技だ。いくら精霊とはいえ肉体だけでなくその存在自体にその刃は突き刺さるはずだ。
そう俺は思っていると、ついにクガが精霊としての強さをここで発揮してきた。
「なめるなよ!」
クガの言葉はすぐさま体の中に宿る力を呼び寄せ、現象を巻き起こす。
それは俺の刃を見えない何かで握りつぶすように破壊していき、空を覆うほど大量にあった気配創造の力を全て消失させた。
だが、俺はそれで踏みとどまることはせず、転移でその背後に回り込むとクガの首に自分の両足を巻き付け宙に浮きながら先程のクガと同じように、クガの体を背中から地面に叩きつけた。
「お返しだ!」
「があああ!?」
さらに身もだえているクガを俺は右足で気飛ばし無理矢理距離を取らせる。
クガはその攻撃を受けてもなお、気配すら揺らぐことはなく苦悶の表情だけを浮かべながら地面に足をつき立ち上がった。
「その剣………。なるほど、どうやらとてつもない業物のようだな」
クガは俺の左手に握られている絶離剣を眺めながらそう呟いた。
「まあな。お前がいくらバカ固い体を持っていようと、この絶離剣の前なら紙も同然だ。今度は腕だけじゃなくて、その四肢全てを切り裂いていてやる」
俺はクガを睨みつけながらそう呟くと両手に収まっている二本の剣をくるくると回転させ構えなおした。
するとその言葉を聞いたクガは額に残っている左手を当てて声高らかに笑い出した。
「ハハハハハハハハハハハハ!」
「何がおかしい?」
ついに星神の洗脳が強化されたか?と俺は一瞬不安になったのだが、どうやらそうではないようで、むしろクガ自身の力がその体に集められていた。
「人間風情が共存の道すら拒みあまつさえ精霊に牙を向く。その行いの罪深さを理解せず、さらに俺の体を切り裂くか。なるほど、どうやら本当に殺されないと事態を飲み込まないらしいな」
「なに?」
俺がさらに質問を投げかけようとした瞬間、クガの切断された肩がうごめき、その中から切り落とされた腕が再生され始めた。
それは光をかき集めて結束させているような光景であり、俺のように無理矢理細胞を繋ぎ合わせるのではなく、精霊という身体組織に基づいて腕を生やしているようだ。
「う、うっそん…………」
俺はその光景を見ながら心の中の気持ちを思わず口に出してしまう。
いや、精霊という存在は体のつくりも特殊なのかもしれないけれど、絶離剣で切り落とした腕が再生するとか聞いてないよ!
なんというか第一神核と戦っているような気分になってくるな…………。
するとクガの力はその腕を再生させただけにとどまらず、さらに力自体が増幅していく。
「人間、その醜い存在を根絶やしに出来るのなら、俺は全力を使うことも惜しまない」
クガはそう言いうと眩い光に包まれ、その姿を隠した。
その光が晴れたときには、周囲の空気は歪み、光さえも捻じ曲げてしまうほどの力がクガを中心に渦巻いていた。
そのクガの姿は先程までより神々しい光を発しており、虹色の髪は長く伸び、その先端は軽く跳ね上がっている。さらに目は赤と青のオッドアイに変色しており、その容姿すらもまったく違うものに変化していた。
「これから本番だ。人間よ、精霊の力についてこられるか?」
俺は目の前の事態になかなか思考が追い付かず、しばらく立ち尽くしていたのだが、すぐさま我に返ると二本の剣を力強く握り締め、これから先の戦いに内心冷や汗をかきながらクガを見つめるのだった。
投稿を開始して約二か月と一週間が経過し、お話もついに二百話を超えるものとなりました!
一日三話更新というペースで進めているので進行が早いのは当然なのですが、そこには見てくださっている読者の皆様の応援があってこそ実現できる結果なのです!
それはpvやブックマークとった形でしっかりと私に届いており、執筆の励みになっております!
ですのでこれからも末永くこの作品を見ていただけると幸いです!
第五章はまだまだ続きますので、お楽しみください!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




