第百九十九話 vs精霊騎士、二
今回はキラサイドに視点が向きます!
では第百九十九話です!
ハクが精霊騎士であるクガと対峙したその頃。
キラはアリエスたちを引き連れて、学園王国内に散らばっている精霊たちの対処に回っていた。
王国内の学生や住民にも普段は見えないその姿が見えてしまっており、競技祭でにぎわっていたムードが完全に瓦解してしまっている。
今のところその精霊たちは敵意を向けてはいるものの攻撃はしてきていないようで、学園王国自体に被害はまだ出てなった。
「キラがダンジョンにこもった時も思ったけど、精霊ってこんなにたくさんいるんだね」
アリエスが絶離剣レプリカを片手にそう呟いてきた。
「まあな。世界最古の存在だ。年月を重ねているだけあってそれなりの個体数は生きている。しかし、今ここにいる精霊たちはやはりおかしい」
キラはアリエスの言葉に返答しながら、街を駆けまわる足をさらに進める。
「それはこの痛いまでの敵意とは別にですか?」
エリアがキラの隣を走りながら不思議そうにそう呟いた。
「ああ。そもそもクガは私の騎士であったが、それほど他の精霊たちからは好かれていなかった。このように慕われたような大侵攻というのはどう頑張っても不可能なはずだ」
かつて自分の理想を叶えるためにキラに迫ったクガは、精霊の頂点であるキラの一番近いところに位置し、同じ時を過ごした。
それは他の精霊にとってはとても羨ましいことであり、中には不満の種を募らせていた者もいたらしい。
それから考えるとクガに引き寄せられるようにやってきたこの状況は不可解というほかない状況だったのだ。
「ッ!あれ、多分精霊たちよね?」
急に目を見開いたサシリが顔をあげ、何かを指さしながらそう言葉を発した。
そこには一際大量に集まっている精霊たちの群れがあり、人間では到底出せないような魔力を放出しながらその場に留まっていた。
キラはその状況を確認するとすぐさま飛び上がり精霊たちに近づく。
「では、行ってくる」
するとその精霊たちはキラの姿を見た瞬間、一瞬だけ驚いたような表情を見せると、すぐさま威圧を放ちキラを迎え撃つ。
「よくもまあ、妾にそのようなことができるようになったな」
キラは怒っているわけでもなく、蔑んでいるわけでもなく、どこか悲しい雰囲気を滲ませながらそう呟いた。
「悪いが、お前たちの記憶、覗かせてもらうぞ」
その言葉と同時にキラの周囲から暴力的とも思えるほど強大な力が吹き荒れ、その場にいる全ての精霊たちを取り囲む。
キラは精霊の女王であると同時に自身の精霊属性として記憶を司る精霊でもあるのだ。本来精霊の属性というのは無属性を抜かした六属性に分類されるのだが、このキラだけは特別で規定の分類法には当てはまらない。
これはあのクガでさえも成しえなかったことであり、通常の精霊とはやはり一線を画す存在なのだ。
それゆえハクと初めて戦ったときもその記憶を空間に干渉させ照射し、思い出という記憶を弄ぶことで戦闘を有利に進めようとしたらしい。
そして今回は、クガとこの精霊たちがこの学園王国にやってくる前に何かしらの出来事があったのではないか、と睨んだキラは自らの力でその記憶を覗き見ようとしたのだ。
(クガがなぜ復活することが出来たのか、そしてなぜこの王国に攻め込んできたのか。それがわかれば全ての謎が解けるはずだ)
そう考えたキラは全力で精霊たちの記憶を覗いていく。
それは無数にある砂の粒から一つの真珠を見つけるような作業だったが、今のキラにとってそれは特段難しいことではない。
(これか。ようやく見つけたぞ)
キラは精霊たちの記憶に共通して格納されている一つの出来事を発見すると、その中を暴くためにさらに力を流し込む。
だが。
『そう簡単に覗かせると思うかい?』
「ッッッ!?」
その瞬間、キラの脳内に何者かの声が轟くと今しがた覗こうとしていた精霊たちの記憶が全て破壊されたのだ。
当然無理矢理記憶の消去を施された精霊たちは一斉に苦しそうな顔をして、人間には聞こえない声で叫びだした。
「くそ!!!」
キラはその精霊たちに向かって苦痛から解放してあげるように根源を打ち放ち、精霊たちを消滅させた。
「キラ!?」
その光景を見ていたアリエスたちが驚愕の表情を見せながらキラを見つめている。確かにアリエスたちから見れば、今のキラは精霊たちの記憶を見ようとした瞬間、根源を使い精霊たちを殺したようにしか見えなかっただろう。
するとキラは苦虫を噛み殺したような顔をしながら、アリエスたちの下まで戻ってくる。
「な、なんで精霊たちに攻撃したんですか!」
エリアがキラにくってかかるように声を上げた。
「それは精霊を助けるためだ」
「助けるため!?まさか殺したほうがら楽になるだろうとか、そういうこと考えてないよね?」
アリエスは自分の肩に乗っているオカリナを見つめながら、キラに訝しい目線を浴びせる。
「違う。妾の根源はそもそも精霊の波長にかなり近いものだ。あのような状態になってしまった精霊たちをもとに戻すには、女王たる妾の力を浴びせるのが一番手っ取り早い。それに先程も言ったが精霊に死という概念は存在しないのだ。しかも今回は半分治療のようなものをかけているから、今頃精霊の聖地で目覚めているはずだろう」
精霊の聖地というのは、この学園王国から遥か西に行ったところにある森で、全ての精霊はそこから生まれたと言われている場所だ。クガのように瀕死状態で消滅した場合は例外だが、通常精霊が力を使い果たして消え、その後復活する際はその森からまた産まれてくる。
ゆえにキラはこのままでは精霊たちの身が持たないと判断し、自らの根源で精霊たちを消滅させたのだ。
「そ、そうなんだ……。ごめん、なんか疑うような感じになって……」
アリエスたちはキラの話を聞くと急に申し訳なさそうな表情浮かべて俯いてしまう。
「大丈夫だ。あれを見れば誰でもその反応をする。気にすことじゃない。………それよりも」
「何か問題が起きたって顔してるわね?」
サシリがキラの考えを先読みするように言葉を述べた。
キラは大きく頷くと、精霊の記憶を読み取ろうとしたときに起きた出来事を説明し出した。
「ああ。妾は自分の力で精霊の記憶を読み取ろうとしたのだが、そこである者の妨害にあったのだ。そしてそれは精霊の記憶を無理矢理破壊し、妾にあのような手段を取らせることになった」
「ある者っていうのは誰?」
ルルンが首を傾げながらキラに問いかける。
先程は精霊の記憶が破壊されたのと、いきなり脳内に声が響いたことで動転していたが、今ならその存在が誰だったのかはっきりとわかる。
それは精霊すらもまだそれほど産まれていない時代に一度だけ会ったことがある、一人の神。
「星神オルナミリスだ」
キラがはじき出した答えは奇しくもハクがクガとの邂逅によって導き出した答えと同じものだったのだ。
「「「「「「ッ!!!」」」」」」
その言葉を聞いた途端、アリエスたちの顔色がみるみるうちに変わり、より警戒の色を強めていく。
「精霊の意識の中にはクガに対する忠誠心ではなく、明らかにマスターや妾たちに対する敵意が刷り込まれていた。そもそも奴の力の痕跡が大量に残っていたからな。もしあの星神がこの件に関わっていたとすれば、今のような事態は起こせなくもないだろう」
第一、第二、第三神核をも洗脳し、その存在をハクたちに差し向けた星神オルナミリスが今回の全てに関わっている、そうキラはアリエスたちに告げたのだ。
それは何故だか簡単にアリエスたちの中で腑に落ちてしまい、また出てきたのかという考えを抱かせた。
というのも今のアリエスたちに星神という存在を良く思えるエピソードは一つもない。精々小さいときに読み聞かされたおとぎ話くらいのもので、今となってはそれが嘘偽りであることがよく理解できる。
「それじゃあ、クガという精霊が再び蘇ったのも星神が?」
シラはキラに確かめるように問いかける。
「おそらくな。奴なら神である以上それくらいは出来るはずだ。悔しい話ではあるがな」
キラはそう言うと先程まで精霊たちが群がっていた場所をジッと見つめる。
確かに根源を使えば最終的に精霊は救われるとはいえ、自らの同胞を自らの力で屠るというのはキラといえど心に相当大きなダメージを与えているようだ。
「それで………これからどうするの………?」
今まで黙って聞いていたシルがこれからの方針をみんなに尋ねる。
「そうだねー。今のところあの精霊たちを止める手段はキラちゃんの根源しかないの?」
ルルンは眉間に大きな皺を寄せながら他に方法がないのかキラに問いかけた。
「………ないこともないが、それは妾たちではどうすることも出来ない、といのが現状だ。というのも先程精霊たちの記憶に干渉した時、星神の力を繋ぎとめているのがクガであることがわかった。つまりマスターが、クガを打ち倒せばこの騒動は収まるだろう」
「で、でもそれは………」
アリエスが泣きそうな顔をしながらキラに言葉をかける。
今キラが言っているのは、星神の力とはいえせっかく蘇った自分の騎士をもう一度殺すということだ。一度過去に別れを経験しているキラにとってそれは耐えがたい苦痛だろう。
しかしキラは柔和な表情を浮かべながらアリエスの言葉に返答した。
「いや、もう別にいいのだ。確かにもう一度クガと話してみたいとは思っているが、それは本来望みすぎだ。むしろかつてのクガが今の状況をみれば間違いなく自分を殺せというはずだからな。妾ももう覚悟はできている」
「「「「「「……………」」」」」」
その言葉を聞いてもまだアリエスたちはキラの心を心配しているようで、厳しい表情をしたままだった。
キラはその空気を変えるために自分の両手をパンッと勢いよく叩くと、表情を幾分か明るくしてこう呟いた。
「つまり、マスターがあの馬鹿騎士を倒すまで、精霊たちの動きを抑止しておけばいいのだ。みんな協力してくれるか?」
キラのその問いにしばらく他のメンバーは無言だったのだが、ようやく全員がその言葉に返答する。
「うん、わかった。私はキラに協力する」
「私もするわ」
「うん……」
「わかりました、私も力を貸しましょう」
「私が出来ることであればなんでもいいよー」
「任せなさい」
それは先程のハクと別れる前とは違い、キラ自身がみんなに歩み寄った瞬間だった。
キラはその光景に満足そうに頷くと、残っている精霊たちの下へ駆け出した。
「よし、それでは行くぞ!」
ハクがクガと戦っている傍ら、キラたちもまた自らを戦いの渦へと向かわせるのだった。
とある空間の狭間。
自らが蘇らせ新たな駒とした精霊騎士を見ながら星神オルナミリスは顔に大きな笑みを浮かべながらその光景を見ていた。
イレギュラーの一人であるキラが精霊の記憶に干渉してくることは初めから予測出来ていたし、対策は講じておいた。
結果的に自分が絡んでいることは公になったものの、その内部は隠すことに成功していたのだ。
そして自分の後ろに立つ一人の存在に対して、言葉を投げかけるように星神オルナミリスはこう呟いた。
「さて、愛しの彼は一体どんな戦いを見せるかな?」
その言葉と同時に何かを反射させたような金色の光が一瞬、垣間見えたのだった。
次回はハクvsクガになります!
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