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第百九十七話 語られる精霊の過去

今回はキラの過去が明らかになります!

では第百九十七話です!

 この世界において精霊とはどの生物よりも早く命を宿した生命体だ。

 世界創造の直後からその空間に住み着き、今に至るまで神秘の結晶ともいえるような存在として君臨してきたのだ。

 それは属性という概念を持ち魔術、魔法の原点として位置付けられたともされている。

 精霊は特殊な力を宿し、魔術や魔法では手の届かない領域の現象を引き起こすことが出来る存在とされ、長い間人間はその力を追い求め欲してきた。

 それは精霊にとって自らの住処を奪われ屈辱的な意味しか持たず、日に日に精霊と言う存在は人間から見えないところで生活するようになっていったのだ。

 それが結果的に現在でも受け継がれており、精霊の姿を認識できる人間が少ないことに直結する。

 ただそんな中、一人の精霊だけは全ての精霊と人間の共存を望んだ。

 それこそが、のちに精霊女王に騎士として仕えることになる精霊騎士クガである。

 この精霊騎士という言葉は、人間の騎士が精霊を従えているのではなくて、精霊女王に仕える精霊の騎士という意味で付けられたものだ。

 クガはどうにかして精霊と人間の共存の道はないかと模索した。人間という力しか求めていない醜い存在とどう付き合っていくか、それだけを念頭において行動したのだ。

 その結果、はじき出された答えは、一人では何も出来ないということ。

 たった一人の精霊が何をしようと世界は変わることは無く、無常な時間だけを流し続ける。

 だが、ここでクガは諦めなかった。

 自分に出来ないのであれば他人を頼ればいい。それが可能な強大な力を持つ存在に。

 そしてクガが辿りついた先が精霊の長であるキラであった。

 キラは当時から絶大な力を保有しており、進行してくる人間達をその力で吹き飛ばし、精霊たちを守り続けていたのだ。

 それは一介の精霊に過ぎないクガにとっては雲の上のような存在で、本来であれば近づくことさえもおこがましいと忌まれてしまうほど、キラは偉大だった。

 しかしクガは藁にもすがる思いでキラに自分の意思を訴える。


『女王!どうにかして人間と共存する道は選べないのですか!このままでは永遠に力を求める戦いが続いてしまいます!』


 だが、その言葉は人間に対して憎悪しか持っていないキラには届いておらず聞く耳すら持ってもらえない。


『くだらんな。あの人間という存在がこれまで妾たち精霊に、世界に何をしたと思っている?力を貪るだけではなく、神聖な空間を次々に開拓し我が物にしていったのだぞ。そのような存在と共存など、浅はかにも程がある』


 それは今まで精霊が受けてきた仕打ちを考えれば当然のことで、誰が聞いても正論だった。

 それは当然クガにもわかっていることであり、同じ痛みを受けたことだってある。だが、このままこの争いが続けばより一層事態は深刻化するだけだということを、クガは見通していた。


『それは最もです。ですが、それでもこのままこの状態に手をつけなければ事態は悪化する一方です!ですからどうかそのお力をお貸しください!』


 クガとて一人の精霊だ。キラが守るべき対象であり、掛け替えのない同胞。

 ゆえにこの意見をそう簡単に無下にはできない。

 そう思ったキラは無言で立ち上がると、その下げられた頭を見つめてこう呟いた。


『ならば証明して見せろ。お前の意思、そしてその力を。力無きものに未来は変えられん』


 クガは他の精霊たちに比べればそこそこ強大な力を有していた。しかしそれはキラに匹敵するようなものではなく、あくまで通常の精霊と比べて、という話だ。

 つまりこの戦いの結末など、始まる前からわかっている。

 勢いよく始められた精霊同士の戦いは開始数秒で決着がついた。

 だが、それでもクガは諦めず立ち続ける。


『ま、まだ終わってません………。こ、これからです………』


『わからんな。何故そこまでして人間を庇い続ける?妾たちにとって人間は害悪な存在でしかないというのに』


『それでも………。それでも、それが未来の精霊たちを守ることに繋がるからです………』


 無様にも立ち上がるクガを見ていたキラは一度思考をめぐらせ溜め息を吐き出すと、クガに手を差し伸べ起き上がらせる。


『はあ………。そこまで言うのなら、行動で示してみろ。お前はこれから妾の騎士となり、思うように動け。そして妾を使いやれるだけやってみるんだな』


 キラはそのクガという一人の精霊の意志を汲み取り、そう言葉にした。

 キラもあまり争いというものは好きではない。人間がもし何もしてこなくなるのなら、それが一番だと考えていたのだ。

 それからというもののクガはキラに使えながら、その権力と力を行使し様々な行動を起こした。時には人間に力を貸したり、また会話をしてみたり。

 その行動は次第に人間と精霊の隔たりをなくしていき、対等に話すことが出来るような関係を築いていたのだ。

 またそれと同時にキラとの関係も少し進展を見せた。キラは自分に仕える騎士が弱いのがどうも許せなかったらしく、クガをひたすら鍛え続けたのだ。

 それはキラとクガの主と部下と言う関係を取っ払い、敬語すら使わない関係へと発展させた。

 こうして全ては順調に周り、ようやく安定した世界がやってくる。誰もがそう思っていたのだが、とあることがきっかけでその全てが破綻する。

 その出来事というのは、またしても人間という存在の身勝手な欲望だった。

 精霊たちと対等に話をしていた人間でなく、まったく違う人間達が精霊の住処に攻め込んだのだ。

 それはキラやクガたちでも想定外のことであり、対処するのが大幅におくれ被害はどんどん拡大していく。

 とはいえ、このころのキラとクガは圧倒的とも言える力を保有していたので、そのような人間を屠ることは容易くでき、なんとか状況を立て直していった。

 この戦いは一日では終わらず、数日に渡って繰り広げられ戦火は広がっていく。

 そしてその何日目かの夜にキラとクガは二人でこんな話をしていた。


『やはり無理なのではないか、人間と共存というのは………』


『何言ってるんだ。それじゃあ、俺たちを信じてくれた人たちに失礼だろう』


『それは、そうだが………。しかしこの状況を目の当たりにするとその気持ちが揺らいでしまう………』


『まあ、わからなくもないけどな。だけど、ここまで来たらやりきるしかないだろ?その先にはきっと幸せが待っているはずだ』


 キラはそう意気込むクガの横顔を見ると、少しだけ表情を和らげ静かに頷く。


『そうだな。お前と言う馬鹿精霊を雇ったのは妾だ。そこは責任を持たなければな』


『ば、馬鹿精霊!?それは言いすぎだろう!』


 キラとクガか交わした会話はとても賑やかで楽しそうなもので、これから起きる悲劇など想像することすらできないものだった。

 そして運命の日がやってくる。

 それは精霊と人間が戦っているさなかに起きた。

 キラとクガがお互いに背中を合わせながら戦っているときに、二人も予想だにしなかった量の人間が転がり込んできたのだ。

 とはいえ二人にとってはまったく問題なく対処できるはずだった。

 しかし、運命というのは残酷なものここでとてつもない爆弾を落としていく。

 キラは毎度のように根源を操りながら人間達を蹴散らしていた。だがその瞬間、人間達が余暇に仕掛けていた罠にかかってしまい大きく体制を崩す。

 それは一種の痺れ罠のようなもので精霊にも聞くような魔術が仕掛けられていたのだ。

 そしてそれを好機とばかりに人間達は一斉にキラに襲い掛かる。


『くっ!?』


 身動きの取れないキラはなんとか根源を使い反撃しようとするが間に合わず、思わず目を閉じてしまった。


『キラ!』


 だが、その瞬間キラの変わりにその攻撃を受けたのはキラの騎士であるクガであった。キラを抱きしめるようにして庇ったクガは最後の力を振り絞り、人間達を吹き飛ばす。


『く、クガ!?な、何を馬鹿なことを!は、早く治癒を……』


 だが、それは既に手遅れなようでクガの体は既に霞み始めている。


『だ、だい、じょうぶ、だ………。せ、せい、れいは、しなない………。それは、わかってる、だろう?』


 精霊という存在に死という概念は本来存在しない。ダメージを負えば神核と同じように姿を消し回復に専念することになるのだ。

 だが。


『しかしこの傷は一生かかっても治るものではない!永遠に表に出てこれなくなるぞ!』


 多少の傷ら魔力不足ならば数年休む程度で回復できるが、今のクガが受けたダメージはクガを瀕死に追い込むレベルのもので、いくら精霊であってもその回復は何年かかるか予想できないものであった。


『べ、、べつに、いいさ……。そ、それに、さ、さいごくらい………、きしらしい、こと、できただろう………?』


 クガは最後にそう告げると空気に溶け込むかのように光となって消えていった。これは確かに死ではない。

 だが、それでも永遠の別れになることは間違いなかった。

 初めは図々しい精霊だと思っていたクガがいつの間にか相棒となり背中を預けられる存在になっていた。

 その掛け替えのない存在をなくしたキラは、静かに両目から涙を流すと、怒りを露にしながら全力全快の力を残っている人間達に解き放つ。




『覚悟はいいだろうな人間!!!その死をもって自分達の罪を償うがいい!!!』




 これがキラの過去、そして精霊が歩んできた歴史。

 この後は、知ってのとおりキラに付き添うように精霊たちが世界各地を転々とし、最終的にハクという規格外の人間と戦うことで決着する。












「それがお前の過去ってことか」


 俺は動揺しながら話してくれたキラの言葉を聞き終えるとそう呟いた。

 精霊と人間の関係はキラとの戦いである程度理解していたはずだった。だが、実際はそんな程度では推し量れないほどの血と涙があったのだ。


「キラ……」


 アリエスたちも全員が暗い表情してキラを見つめている。特にアリエスは自分に懐いているオカリナのことも気にしているので、余計に感情が入っているようだ。

 するとキラはいきなり目つきを変え、空を睨むと再び話し出した。


「今この国に向かってきているのは、おそらくクガと同質の気配を持つものだ。それが本物か偽者かはわからないが、大量の精霊を引き連れてきている以上、何かしらのつながりはあるのだろう」


「本来そのクガっていう精霊は復活するものなのか?」


 俺の言葉を聞いたキラはゆっくりと首を横に振り否定を示す。


「それは無理だ。自然治癒だけでは到底直せるものではない。それこそマスターの事象の生成クラスの力でもなければ蘇らせることなど出来るはずない」


 であれば、今接近してきているものは何なのか。

 その答えを出す前にキラは一人関所の方に歩き出す。


「おい、どこ行くんだよ?」


「決まっているだろう。クガの気配をチラつかせている奴を消しに行くんだ。そうでもしなければ妾は………」


 はあ………。

 またこいつは、一人で考え込んでいるな。

 そう思った俺はキラの正面に転移し、以前と同じように額の中心にデコピンを叩き込む。


「イタッ!?」


「もう少し冷静になれ。憤るのはわかるが、俺たちはパーティーで仲間だ。背負えるものは一緒に背負おう」


 するとその言葉に頷くようにアリエスたちも声を上げる。


「そうだよ!私たちだって役に立つんだから!」


「ええ、困ったときはお互い様よ!」


「姉さんの言うとおり………!」


「溜め込まないで、何でも言ってくださいね?それが仲間であり友達なんですから?」


「そうだよー!私達はキラちゃんの味方なんだから助けるのは当たり前なの!」


「ええ、今度は私たちがキラを助ける番よ」


 キラはその光景に驚きながら、一度顔を俯かせるとすぐさま顔を上げ笑いながらこう呟いたのだった。




「なら、よろしく頼む。妾の我侭に付き合ってくれ」




 この瞬間、かつての精霊女王とその騎士であった精霊の戦いが幕を開けたのだった。


次回はいよいよ戦いが始まります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!


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