第百九十四話 全学園対抗競技祭、個人戦、二
今回もハクが無双します!
では第百九十四話です!
「なんというか相手の生徒が災難に思えてくるな………」
キラはハクが余裕で召喚術式で呼び出された魔物を切り倒す姿を見てそう呟いた。
「まったくですね……。あれでは相手選手も浮かばれませんよ……」
エリアがキラに続くように言葉を発する。確かに神核や星神の使徒でさえも何食わぬ顔で倒してしまうハクにとって一介の生徒など、蟻にも等しいくらいの力としか捉えてないはずだ。
別にそれを蔑んだり馬鹿にしたりするわけではなく、むしろ普通に対処しているのだが、それが余計に惨い光景を演出しているようで実力の差というものをはっきりと表してしまっていた。
しかしその対戦選手の心とは裏腹に会場は更なる盛り上がりを見せているため、キラたちは非常に微妙な気持ちになっていたのだ。
するとその言葉を聞いていたほかの五人が申し訳なさそうな表情をしながら俯き、それぞれに言葉を漏らした。
「な、なんか、ご、ごめん………」
「す、少し、やりすぎたかしら……」
「………」
「う、うん………。わ、私も熱くなりすぎちゃったかも……」
「ご、ごめんなさい………」
それはおそらく昨日と一昨日に行われた団体戦とタッグ戦でアリエスたちが見せた半無双試合について言っているようで、五人全員が薄ら笑いを浮かべながら下を向いている。
「違う違う。それはまだ可愛いほうだ。あのマスターの無意識にやってのける惨劇に比べれば全然まともだぞ」
「そうです!アリエスたちがやったことはハク様に比べれば、まだ優しさがあります!でもハク様のそれはかえって相手選手にダメージを与えているんです!」
本人が聞いていたら猛反発するような台詞を軽々しく吐いている二人であったが、その言葉を聞いてたアリエスたちはむしろ複雑な表情を浮かべて声を唸らせる。
「それはそれで……、悲しいというか……」
「ええ………。ハク様に追いつけないというのを突きつけられているというか………」
「ちょっと………悲しい………」
「やっぱり、ハク君には敵わないのかな…………」
「むなしくなってくるわね………」
五人が更に落ち込み出したところを見たキラとエリアは声を大きく荒げて怒りを露にした。
「「ああ、もう!面倒くさいな!!!しばらく黙ってろ!!!」面倒くさいです!!!しばらく黙っててください!!!」
そのやり取りを離れてみていた生徒会長が困った表情をしていたのだが、それは誰にも気づかれることはなかった。
気づけば早いもので個人戦も準決勝まで来てしまっている。そもそもどんなに多くても三回ないし四回しか戦うことのないこのトーナメントにおいて試合が長引いたりアクシデントが起きない限りは比較的早く試合は進んでいくようだ。
実際、俺の試合が行われた直ぐ後に準決勝の第一試合が始まり、その試合があまりにもあっけなく終わってしまったため、長めのお昼休憩が始まっていた。予選ではその休憩すら与えられないほど試合数が多かったので、なんとなく新鮮に感じてしまう。このまま一度アリエスたちの下へ戻ってもよかったのだが、移動するのが面倒だったので、この場で時間を潰すことにしたのだ。
というわけでこういう時に話し相手になってくれる相棒が俺にはいるので、心の中で会話を始めてみた。
『そういえば、俺のもう一つの人格って最近出てこないよな?どうなってるんだろう?』
『唐突じゃのう……。エルヴィニアでは最終盤アリエスが何かしていたようじゃからそれが影響しているのではないか?』
勇者たちを退けイロアのパーティーと邂逅したとき、俺の人格がまたしても入れ替わり俺自身の意思とは関係なくイロアのパーティーを壊滅させた。その最後、アリエスがもう一つの人格に対して何かをしたような気がするのだが、体を乗っ取られていたのと記憶が定かではないため、俺もあの現象についてはわからないことが多かったのだ。
それがあの人格にどのような影響を与えているのかはわからないが、今のところなんともないのでやはり現状維持を貫くしかないという状況になっている。
『やっぱりあの能力が原因なのか?』
『それはほぼ確定じゃな。妃の器にから溢れ出た最後の能力、あれこそがその人格の正体じゃろう。真話大戦では使いこなしているように見えたが、今はそうでもないのじゃろう?』
『まあ、それはそうなんだが、それでも使えないというほどじゃない。加減は出来ないけど、あの絶対的な力は行使できる。だけどそれが理解できないんだよな』
気配探知、気配創造、そして残っている最後の能力。これらは三つは何度も言うように俺という妃の器から漏れ出した俺専用の力だ。そのはずなのだが、最後の能力だけはいまいちその操作が慣れない。初めは強大な力ゆえ、と思っていたのだがリアと同化した今でも使いこなせていない時点で、おかしなことが起きているのは確定的のようだ。
そもそもその能力ははっきり言って強すぎてあまり俺自身も好いていない力なので、あまり気にしていなかったのだが、その力があの人格と何か関係があるとわかって以降、色々と考えることが増えてしまった。
『あの力だけは私も専門外じゃ……。そもそもあの状態のゼロを殺した力を解析しろというほうが無茶な話じゃよ』
『まあ、それもそうなんだけどな』
真話大戦の終盤においてイレギュラーな十二階神であるゼロは今考えてもかなり強力で最終的にその残された能力を使って倒したのだが、その威力はリアさえも驚くもので、理論とか物理法則とかそういったものでは到底説明できない力のようだ。
リアがわからない以上、俺が考えたところで無駄か、と考えを放棄したときどうやら丁度昼休憩が終わったようで準決勝第二試合が始まろうとしていた。
俺は腰を下ろしていた椅子から立ち上がると、そのままスタスタとステージに足を進ませる。
まあ、難しい話は後で考えよう。
脳内の思考をそうやって切り替えるとエルテナとリーザグラムに手を置きステージに姿を出すのだった。
「さて!いよいよこの競技祭も残すところ二試合となりました!!!注目の準決勝第二試合の対戦カードは去年惜しくも準優勝となったララワール魔術学校からヘレーナ=ヴィンザリア選手と団体戦、タッグ戦に引き続き三冠を狙うシンフォガリア学園からハク=リアスリオン選手です!!!ヘレーナ選手はララワール魔術学校の中で主席という素晴らしいポジションにいるようで、その実力は本物のようです!対するハク選手は言わずもがな朱の神と呼ばれているSSSランク冒険者で、初戦は召喚された古代種の魔物をいとも簡単に切り倒しています!この戦いはどちらに軍配が上がるのでしょうか」
へー、あの女の子学校のトップなのか。
個人戦は実力者が揃うって言うし当たり前といえば当たり前か。
俺はその実況に合わせてエルテナとリーザグラムを抜く。今回は魔術を放ってくる相手と戦わなければいけない。であれば同調の能力を持つリーザグラムは効果的なはずだ。
するとヘレーナとかいう少女もローブの中から一冊の本を取り出し、それを俺に向けながら戦闘態勢に入った。
どうやら俺がアリエスに渡した魔本と同じようなものらしく、感じられる魔力は比べ物にならないほど低いが、それでも魔力はよく流れているようだ。
「それでは試合開始ですーーーーーーー!!」
俺はその言葉がかかった瞬間、先ほどとは違い一気に相手との距離を詰め攻撃を開始した。エルテナとリーザグラムを同時に振るいヘレーナの脇腹を薙ぐ形で狙う。
しかしそれはヘレーナも予測していたようで、目にも留まらぬスピードで魔術を展開する。
「空の爆釘!」
水色の魔方陣がヘレーナを中心に展開したかと思うとそれは透明な空気の釘を作り出し、エルテナとリーザグラムに寸分の狂いもなく直撃する。
「へえ、無詠唱で魔術を発動するなんてなかなかやるじゃないか」
「SSSランク冒険者だからって、私は負けるつもりはないわ」
「いい気概だな。そういうの嫌いじゃない」
初めから俺の名声に怖気づいて何もしてこない奴より、相手の実力を知っていても懸命に挑んでくる奴のほうが俺は好感が持てる。
よってこういうタイプの人間は嫌いではなかった。
とはいえこれは勝負だ。勝つ時は勝たなければいけない。
弾かれた二本の剣をすぐさま元の位置に戻すと、剣をクロスさせるように上から振り下ろす。
それはヘレーネにあたりはしなかったものの爆風を呼び起こしヘレーナの体を大きく後退させた。
「くっ!なら、こっちだって負けてないわよ。空の断罪!!!」
な!?
ここで上位魔法かよ!?
しかも空魔法って…………。よほど魔力量に自身があるのか?
俺はそう思いつつも上空から降り注いでくる圧倒的な空気の圧をリーザグラムで払い避けながら、その本体を見つめる。空気に囲まれて形成されているのは巨大な刃のようで、触れればどんなものでも切断しそうなほど、その刃には魔力が込められていた。
ま、そっちが刃を形成してくるならこっちも似たようなものを作ってみるか。
俺はそう思い至るとリーザグラムを腰の鞘に戻し、気配創造でエルテナと同じくらいの長さの刃を作りだす。
「沈みなさい!!!」
ヘレーナがその魔法を容赦なく俺に向かって放ってきた。
しかし対する俺は依然笑顔を浮かべながら左手に持っている気配創造の刃を、その魔法目掛けて投擲した。
力と力が激突し、激しい光と空気の流れを会場全体に巻き起こす。
大きさ的にはヘレーナの空の断罪の方が明らかに巨大なのだが、力の勝負は大きさではなく込められている力の量とその性質が大きな鍵となってくる。
みると空の断罪の刃は気配創造の力に押され始めているようで白色の亀裂を大量に走らせ今にも壊れてしまいそうな状況になっていた。
「ま、まだ、まだよ!」
するとヘレーナは更に魔力を放出し魔方陣を展開する。
それはどうやら光魔術のようで、発動した瞬間空の断罪の力が倍増した。
おそらく補助系の魔術だったのだろうが、それでもやはり小さな気配創造の刃には押されている。あの第二神核を倒した力なので普通の魔法でどうにかできるものではないのだが、そんなことをヘレーナは知っているはずもないので、まだ諦めず奮戦していた。
しかし、力の差というのは非情なもので空の断罪は簡単に破壊され消失した。
「どうする?まだ続けるか?試合が始まってから二、三分程度しかたってないが」
「あ、当たり前よ!私は諦めない!」
俺はその言葉を聞くと、惜しい話だが試合終了の文言を口にした。このままでは今の魔法でかなり消耗しているヘレーナの魔力さらに減り続け、いずれは倒れてしまうはずだ。
魔力切れで負けるのはヘレーナも望んでいないだろうし、俺もそんなつまらない決着は望んでいない。
「星辰の息吹は泉水より」
それは十二階神オーディンの力であり、この言葉と同時に大量の魔方陣が区間に出現する。
「そ、それは!?」
「いいか?今から俺が魔術の頂点を見せてやる」
本来このようなものを使う必要などないのだが、ちょっとしたプレゼントだ。これを見て挫折するかもっと努力するかはヘレーナ次第だが、何かしらの刺激はあるだろう。
俺が発動したオーディンの力は大気中にある魔力という魔力をかき集め膨大な力へと変容していく。それは次第に収束しバレーボールくらいのサイズに収まると俺の手の中に納まった。
「これが本当の魔術だ」
俺はそう呟くとそれをヘレーナに向けて打ち放った。玉が繰り出されるのではなく、そこから溢れ出る魔力の奔流がヘレーナを襲う。
「きゃあああああああああああああ!?」
会場は虹色の光に包まれ目を開けることはおろか、目を閉じていても眩しいくらいの光が空間を覆いつくした。
その眩い光が晴れると、そこには無傷のヘレーナと腕を差し出している俺だけが残っていた。
「え?わ、私、何もダメージを受けてない?」
まったく痛くもかゆくも無い攻撃に驚いているヘレーナだったが、自分の右腕を見てその表情が固まる。
「対象の設定。魔力のコントロール。圧倒的破壊。学ぶことはまだまだたくさんあるぞ?精進するんだな」
ヘレーナの右腕には本来あったはずの腕輪が忽然と無くなっており、俺の魔術によって焦がされた見るも無残な残骸だけがステージに落ちていたのだ。
「試合終了――――――――!!!!私もよくわかりませんでしたが、ヘレーナ選手の腕輪をハク選手が見事に消失させました!!!よって勝者はシンフォガリア学園です!!!」
俺はそのアナウンスを聞き終えると、息を一度吐き出しエルテナを鞘に収め、そのままこの後の決勝が行われるのを腕を組みながら待つのであった。
次回は個人戦ラストになります!
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