第百九十一話 全学園対抗競技祭、タッグ戦、二
今回もシラとシルの戦いです!
では第百九十一話です!
「マスター、これは少し困ったことになったぞ?」
「ああ、わかってる。厄介な相手だな」
現在、タッグ戦の日程が準決勝第一試合まで終了し六番のシラ、シルペアと九番のペアが第二回戦を戦おうとしていた。
これが今までのように普通の学生レベルの範囲ならばよかったのだが、今回は違う。
「にしても、ここで魔族か。酔狂なカードを用意してきたものだ」
キラが右腕を顎に当てながらそう呟く。
魔族。
この種族は基本的に同一の見た目を取らないことで有名な人種である。ちうのも魔族は人によって成長過程がまったく違い、頭から角を生やしたり、尻尾を生成したり、肌の色が違ったりと多種多様な外見を持っている種族だ。
この世界には魔王というような虐殺非道の君主はおらず、魔族も人族や他の種族と変わりなく生活している。また見た目が人族とは違うと言っても獣人族のように迫害されてはいないようで、かなり特殊な存在なのだ。
そしてその魔族の特徴の中で最も特出している点が、魔力量と魔力操作という二点だ。魔力量は吸血鬼やエルフと遜色ないレベルで保有しており、通常の人族よりも数倍の魔力を保有している。
これだけならば他の種族と変わらないのだが、残っている魔力操作というのが極めて強力なのだ。これは魔術や魔法といった魔力を触媒に引き起こすものではなく、魔力そのものの流れを操作できるというものだ。当然通常の人族であってもある程度のことは出来るのだが、魔族が行うそれははっきり言って次元が違う。
具体的には魔術を介さない身体強化と魔力による直接攻撃の二つに分けられる。魔力操作による身体強化は魔力変換効率が百パーセントらしく魔術や魔法よりも大きな効果をはじき出す。また魔力の直接攻撃は威力においては劣るもののその操作性は抜群のようだ。
そして今回シラとシルの相手になっているのが男女の魔族のようで、相当な力を感じたということなのだ。
学園王国において人種の差別は殆どないため、魔族であっても入学はできるのだが、その実力は今までの学生とは比べ物にならないほど強く、少々驚かされた。
どうやら彼らも今年入学したダークホースのようで期待の新人ということらしい。
「で、でも二人なら勝てるよね?」
アリエスは不安そうな表情を浮かべながら俺に確認を促すように聞いてきた。
俺はそんなアリエスを一度抱き上げ自分の膝の上に乗せると、出来るだけ優しく言葉を呟く。
「大丈夫だ。何も心配はいらない。あの二人の強さはアリエスだってわかってるだろう?」
「う、うん……。それはそうだけど……」
「だったら信じて見守っていよう。それにシラとシルも無策では挑まないさ」
アリスを落ち着かせるためにそうは呟いてみたものの、内心では正直厳しい戦いになると思っていた。
おそらくサタラリング・バキを使用すれば問題なく倒せる相手だがそれを使わずして戦うというのはかなりきつい。獣人族も元々のスペックが高いので動き的には問題ないだろうが、やはりその魔力操作は侮ることはできない。
負けるなよ、シラ、シル。
俺は心の中でそう呟くとアリエスを抱える手を強く握りその試合を観戦したのだった。
「さて、準決勝も最終戦です!!!いよいよ決勝という舞台が見えてきました。今回の対戦カードは、ララワール魔術学校よりジュピラス=カリフォ選手とカツリ=ラフォード選手、シンフォガリア学園よりシラ=ミルリス選手とシル=ミルリス選手の対決になります!!!ジュピラス選手とカツリ選手はお二人とも魔族のようで持ち前の能力で予選から次々と勝利を重ねているようです!対するシラ=ミルリス選手とシル=ミルリス選手は一回戦で圧倒的な力の差を見せつけ準決勝に駒を進めています!!!はたしてこの戦いはどちらが勝つのでしょうか!」
シラとシルはステージ上に立ちながらジッと相手の魔族を観察していた。
放たれてくる気配は今までの選手とは一味も二味も違い、確固とした実力が感じられる。
「シル、この戦いは魔剣の力を使うことになると思うわ。でもできるだけ未来予知は使わないこと、いいわね?」
「うん………。それなら私は男の人を倒すね………」
「わかったわ。それなら私は女性の方ね」
その言葉と同時に剣を抜いた二人は真っ直ぐ相手の魔族を見つめ試合開始の合図が鳴るのを待つ。本来であればこの間に相手選手と何かしら話したりするのだが、今回はお互いが相当な実力者であることはわかっているので、そのようなやり取りはなく四人全員が今から始まる戦いに集中していた。
「では準決勝第二回戦スタートです!!!」
その言葉が発せられた瞬間、相手の魔族が二人同時に魔力を体に流しシラとシルに接近してきた。その流れるような動作はシラとシルでもなかなか捉えられるものではなく、一瞬だけ反応が遅れる。
「どっせいいいいいいいい!!!」
「はあっ!!!」
大きく角を生やした二人の魔族はそのまま大きく拳を振り上げ、それを全力で振り落とした。
シラとシルはそれを左右に分かれるように回避し、自分達も攻撃に転じる。
「お返しです!」
「…………!」
サタラリング・バキはそんな二人の意思にあわせるように煌き、魔族の拳に直撃した。
「な、なに!?」
「う、うそ!?」
その刃は魔力操作に長けた魔族の肉体であってもあっさりと傷を付け鮮血を放出させる。とはいえ、この程度では怯むことはないらしくサタラリング・バキを拳だけで払い避けると今度は回し蹴りを二人同時に放ちシラとシルを吹き飛ばした。
「くっ!?」
「っ!?」
それは何とか身を捻りながら回避はしたものの余波までは受け流せず、大きく後退してしまう。
(やはり魔族ともなるとそれなりに厄介ね………。本気は出さなくても魔剣の力はやっぱり使わないといけないかしら)
シラは心の中でそう考えをまとめると、シルに目線を合わせ頷き合うとすぐさま行動を開始した。
二手に別れた二人は八の字を何度も描くようにステージを駆け巡ると当初の予定通り自分の標的を見定め剣を振るう。
対する相手の魔族はその動きについていきながら防御の構えを取っており、身にまとう魔力量はさらに上がっているようだった。
「はああああ!!」
「フッ………!」
繰り出されたサタラリング・バキの刃は、星が瞬くように流線を描き魔族の肉体を切り裂いていく。さすがに神宝クラスになってくるとたかだか魔力操作程度では防げないようでステージの地面には赤い血しぶきがいくつも飛んでいた。
「ぐっ、本当に強いな、お前達」
「まったくね。入学以来こんな強い生徒と戦ったのは初めて」
二人の魔族は苦悶の表情を滲ませながらも、そう言葉を口にし自分達の手に魔力を集める。
「「でも勝つのは俺たちだ!!!」私達よ!!!」
((来る!!!))
瞬間、シラとシルに膨大な魔族の魔力が直接的な攻撃となって襲い掛かった。
これこそが魔族の真骨頂であり得意技だ。魔力本体であるがゆえにその実体を捉えにくく、なおかつ扱いが簡単という受ける側からすればかなり厄介な攻撃だ。
しかしシラとシルがこの動きを予想していないわけがない。
二人はその攻撃が放たれる前に魔剣を虚空に振るい、魔剣の能力を発動した。すると魔力を放とうとしていた二人の魔族の腕に大きな切り傷が走る。
「があああああああああ!?」
「くうううううううっ!!!」
それはサタラリング・バキ本来の能力である時間の一コマを穿つ能力で、魔力がその腕から離れる寸前の未来に干渉し攻撃したのだ。
このタイミングで腕輪を狙えればよかったのだが、サタラリング・バキの能力は使用するタイミングと座標指定がかなり大切なポイントとなっており、今の状況では腕輪を狙えるほどの余裕はなかった。
しかしこれは間違いなく大きなダメージを与えているようで魔族の二人は腕を押さえながら膝を突いている。
「一気に畳み掛けます!」
「行きます………!」
シラとシルは今が好機と思い真っ直ぐその二人に接近する。だがしかし直前でサタラリング・バキが無意識に伝えてきた危機感がその動きを止めた。
その直後、二人の周囲に大きな魔方陣が現れ魔術ではなく、魔法が展開される。
「こ、これは!?」
「時限式………」
驚くシラとシルを見ていた二人の魔族は微笑みながら口を開く。
「最初からこれが狙いだったんだよ……」
「一回戦のあなた達の動きを見て直感的に勝てないと悟ったからね………。これが私達の全魔力をつぎ込んだ魔法だよ!」
それはどうやら光魔法と闇魔法を合わせたもののようで、強大な力が渦巻き白と黒の巨大な球体を作り上げる。
一人では成しえないことでも、タッグ戦ならば問題なく行えるといういい見本がここに完成していた。通常魔法はアリエスのような膨大な魔力量がなければ平然と使うことは出来ず、いくら魔族といってもその魔力を空にしても連発はまず出来ない。しかしこれがタッグ戦になれば比較的余裕を持って魔法の二重発動が可能になるようだ。
シラとシルはその魔法を眺めながら、目の前の光景を楽しむかのように笑みを浮かべると、少しだけ実力を解放することにした。
「まあ、ここまでやられるとこちらも黙ってはいられないわよね」
「うん………」
そう言うと二人は意識を集中してサタラリング・バキを握る。それは完全なる未来予知の境地に突入しており、あの魔法における被害の安全地帯を算出する。正確に言えばそれは未来予知ではなく未来観測なのだが、その誤差を完璧に消してしまうほど二人はこの神宝を使いこなしていた。
そして魔法がステージに落下し爆風と轟音が吹き荒れ、会場を大きく揺らす。
「こ、これでやったか…………?」
「はあ、はあ、はあ、さ、さすがにこれなら倒したはずよ………」
しかしその期待はあっけなく打ち破られる。
「それはハク様風に言うとフラグっていうやつよ?」
「最後まで油断したらダメ…………」
「「そ、そんな!?」」
見事にサタラリング・バキの能力を使用して魔法を回避したシラとシルは二人同時に魔剣を振り上げ相手選手の腕輪を切り裂いた。
カランという綺麗な音と共にステージに落ちたそれは日の光を反射してシラとシルを照らし出す。
「はい、これで終わりね」
「私達の勝ち………」
その言葉は魔族二人の肩をガクリと落とし、戦意を喪失させたのだった。
「試合終了―――――――――!!激しいバトルを制したのはシンフォガリア学園のミルリス姉妹だーーーーーーー!!!まさかあの魔法を避けるとははっきり言って私も理解不能です!!!それでは拍手をお願いしまーーーーす!!!」
シラとシルはお互いに見つめ合うと歳の差が顕著に現れているサイズの違った手を差し出し、ピースサインを作って笑顔を浮かべるのだった。
タッグ戦、残すは決勝戦のみである。
次回はタッグ戦が終了します!
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