第百九十話 全学園対抗競技祭、タッグ戦、一
今回はシラとシルの試合です!
では百九十話です!
アリエスたちが初日の団体戦を優勝してから翌日。
タッグ戦が行われる今日もこの闘技場はとてつもない賑わいを見せており、昨日よりも人が増えているのでは?と錯覚してしまうほど大量の観客が押し寄せている。
アリエスたちが団体戦を見事優勝したことにより、今までも十分なくらい注目を集めていたのだがその俺たちの知名度が跳ね上がり、通常の観客席では観戦することが不可能になってしまうという事態が発生していた。
会場についた途端、すぐさま人が取り囲んでしまう始末で、身動きすらとれない状況が出来上がってしまったのだ。
するとその光景を偶々目撃していた、我が学園の学園長が俺たちを特別観戦席に誘導してくれるという配慮がなされ、今はどうにか落ち着いて腰を落としているという現状になっていた。
特別観観戦席は学園の役員や学園長、生徒会長などの比較的地位の高い人間が来られる場所のようで本来ならば俺たちのような一般生徒は立ち入れない領域なのだという。
この観戦席は通常の最上列観客席からさらに上に位置しており、この場所からだとステージ全体を見渡すような景色が見て取れた。
俺たちは昨日と同じように学園内で買い込んだ軽食を持ち込み、それを持ちながら試合が始まるのを待つ。
今日参加するシラとシルは既にステージに向かっており、今この場にはその姿はない。二人の連携は身を持ってその凄さを理解しているので負けることはまずないはずだが、それでも怪我だけはしないように二人には伝えておいた。
というわけで、六番というカードを宛がわれている二人の試合はまだ少し先なので、下で行われている一回戦を見ながら俺たちは他愛もない会話を繰り広げる。
「だから、から揚げにはレモンが合うと思うの!他の組み合わせなんて邪道だよ!」
「なにを!言うようになったな、アリエス。ならばこの激辛スパイス仕立てのから揚げを口に放り込んでやる」
「え!?そ、それはさすがにやめたほうがいいと思うのですけど………」
「ふん、誰もそんな真っ赤なものは食べませんよーだ!というかさっきルルン姉とサシリ姉がそれ食べて再起不能になってるし!」
「……………もう、無理だよー………」
「…………い、胃が痛い………」
「いーや、それはまだこの味を理解していないだけだ!ほら、アリエスも食べてみるんだ!」
特別観戦席に移ったことによっていくら騒いでも迷惑になることはなく、まったく問題はないのだが、キラの激辛料理の応酬はさすがの俺でも引きかけていた。見ての通りエリアは心配そうな顔を浮かべているし、ルルンとサシリは真っ青な表情で固まっている。
アリエスとキラがそのから揚げを巡って戦っていると、ふと背後から声がかけられた。
「少しいいだろうか?」
「はい?」
俺はその言葉につられて振り返るとそこには赤い枠の眼鏡をかけたボブカットの少女が立っており、何か言いたそうな表情をしている。ここは特別観戦席なので入れる人間は限られているので、この少女は必然的に………。
「もしかして生徒会長ですか?」
「ああ、君とは初対面だな。初めまして、私の名前はフラン=ポファニだ。一応シンフォガリア学園の生徒会長ということになっている」
おおう、そ、そうですか……。
というかいつの間にこの部屋に入ってきたんだろう?俺たちが来たときにはまだ誰もいなかったはずだが………。
「で、その生徒会長さんが何か用ですか?」
するとフランは非常に申し訳なさそうな顔をして言葉を呟く。
「そ、それなんだが、先日我が生徒会が君達に迷惑をかけてしまったので、その謝罪にと………」
ああ、なんだ、そのことか。
おそらくそれはシラフが起こした一連の事件について言っているのだろう。あの件には無理矢理とはいえこの学園の生徒会も関わっていた。俺やアリエスたちを狙った攻撃は全てこの生徒会が動き実行していたのだ。
しかし今となっては、というか当時であっても俺たちはまったくそのことを気にしてはなかった。
確かにシラフの権力があったとはいえそれを実行してしまったというのは悪いことだろう。しかし、それを責め立てるような小さい器は俺のパーティーの誰も持ち合わせていない。結果的に誰も怪我をしてないのだから別にいいだろう、というのが俺たちの考えだったのだ。
「あれはほぼ無理矢理操られていたようなものですから気にしないでください。俺たちも別に責めたりしませんから」
「そう言ってもらえるのは本当にありがたいのだが、私達が起こした事実だけは覆らない。だから一応筋は通させてほしい。すまなかった」
フランはそう言うと俺に深々と頭を下げてきた。
なんかこういう展開前にも経験したことあるな………。あれってイロアのときだっけ・
と、俺は過去の思い出を振り返りながらその言葉を受け取ると、出来るだけ柔らかい声で話を続ける。
「ではそれは受けとっておきます。それはそうと、他の生徒会役員の方々は大丈夫ですか?聞けばカウンセリングが必要な生徒もいると聞きましたが?」
「ああ、確かにそのような役員もいるが、全員回復に向かっている。こればかりは精神的なものだし時間をかけるしかない。幸い私はこのような事態にはもう慣れてしまっているからダメージはないし、後は時間の問題だろう」
そ、それはまたそれで問題な気が………。
上層部から抑圧されることに慣れてしまっているフランを俺は内心案じながら、言葉を呟く。
「では今日会長はここで競技祭の観戦を?」
するとここでようやくフランは笑みを見せて話を続ける。
「ああ、昨日の君達の試合も見させてもらったよ。同じ学園の生徒として鼻が高い。できればこのまま三冠を取ってほしいものだ」
それはおそらく何の問題もなく取ることが出来るはずだ。何せ俺たちの実力はアリエスたちの団体戦から見てもかなり飛び出ている。この状況で負けろというほうが難しいとうものだ。
そのフランの言葉に呼応するようにキラと格闘していたアリエスが俺の服を引っ張りながら声を上げてくる。
「ハクにぃ!シラとシルの試合始まるよ!」
お、もうそんなに進んだが。
俺は一旦フランとの会話を打ち切るとそのまま視線をステージに向けその光景を眺める。どうやら丁度シラとシルがステージに上がったところらしく会場はもの凄い声援と拍手に包まれているようだ。
フランは俺との会話の後少しだけ距離を置き、自身も椅子に腰を下ろしている。おそらくこのままここで試合を観戦するつもりなのだろう。
俺は普段から尽くしてくれているメイドの二人に心の中で応援の言葉を呟きながら、足を組み体重を背もたれに投げ出した。
頑張れよ、二人とも。応援してるぞ。
するとその声に反応するかのように、俺の中にいるリアが目を擦りながら睡眠から目覚める。
あ、あなた、今起きたんですか……。
どんだけ寝てんだよ……。
自分と同化している神妃様に心底呆れながら、その試合が始まるのを待ったのだった。
「さーーーーーーて!!!!タッグ戦一回戦も後半に突入しました!!!今回の対戦カードはユカリカ学園のバリオット=ファース選手とヴァリル=ワーリナ選手、そしてシンフォガリア学園のシラ=ミルリス選手とシル=ミルリス選手の対決になります!!!バリオット選手とヴァリル選手は昨年準優勝という成績を残しており、今年もタッグ戦にエントリーしています!対するシラ選手とシル選手は実の姉妹だそうでタッグ戦における連携も期待できそうです!」
そのアナウンスを聞きながらステージに上がったシラとシルは小声で打ち合わせをしていた。
「シル、あなたはあの金髪の男性をお願い」
「了解………。能力は使うの………?」
「いいえ、今回はおそらく使わなくても問題ないわ。温存しておきましょう」
二人はその言葉の後、ハクから貰ったサタラリング・バキを同時に構える。
すると相手選手も同じように武器を構えてきた。どうやらバリオットが槍で、ヴァリルが斧のようだ。
そしてその直後、試合開始の合図が会場全体に轟く。
「それでは一回戦三試合目スターーーーーートです!!!」
シルはその言葉を聞き届けた後、目にも留まらぬ速さで会場を駆け巡り、バリオットにサタラリング・バキを振り下ろす。しかし金色の髪を靡かせているバリオットは涼しい顔でその攻撃を自分の槍で受け止める。
「うん、いい攻撃だね、可愛い子猫ちゃん?この後僕と一緒に食事でもどうかな?」
「……………」
シルはその言葉に思いっきり眉を顰め顔をしかめると、そのままサタラリング・バキで次々と攻撃を仕掛ける。
「おっと、これは気に障ったかな?なら僕だって負けないよ!」
その二人の攻防を見つめながらシラは依然動くことなく、ヴァリルを見つめていた。
「あなたのパートナーが私の妹を誘惑しているみたいだけど、そういうのは止めて貰っていいかしら?」
「………ああ、すまない。バリには常日頃から言っているのだが、聞く耳を持たないのだ。後でしっかり言っておこう」
「そう。なら行くわよ?」
「ああ、来るといい」
シラはその瞬間、消え去るようにヴァリルに接近するとシルと同じようにサタラリング・バキを振り下ろす。
「ぐっ!?」
いくら短剣といっても神宝に数えられる武器での攻撃は単純な攻撃の重みに加え、圧倒的なまでの力を備えていた。
それはバリオットとヴァリルの守りを徐々に崩していき、次々とその体に傷を走らせていく。
このタッグ戦は相手二人共の腕輪を破壊しなければ勝利したことにはならず、ひとりでも残っている場合は試合は継続される。
ゆえによりパートナーとの連携が大切になってくるのだが、今のシラとシルにはその様な努力は必要なかった。まるで何かに引っ張られるかのようにシラとシルは動いており、時には相手を入れ替え、同時に攻撃しながらバリオットとヴァリルを着実に追い詰めている。
そしてシラとシルがお互いに一度目線を合わせるとその動きが劇的に変化した。
「これで」
「終わりです……」
瞬間、二人の姿がなくなり響くよう金属音が鳴り響いたかと思うと、バリオットとヴァリルの腕輪が音を立ててステージに落下していた。
「な!?」
「ば、馬鹿な!?」
当然シラとシルは全力など発揮しているはずがなく、少しだけ動くスピードを上げただけなのだが、それは相手の二人にとって神速のような動きにしか捉えられなかったのだ。
これが実力の差。
年齢や性別などまったく介在する余地がない絶対的な壁。
シラとシルは会場全体にそれを見せ付けると二人で微笑みながらステージを後にする。
「決まったーーーーーーーーーーーー!!!終始押し続けていたミルリスメイド姉妹が見事に腕輪を切り落として勝ち残ったーーーーーー!!!よってこの戦いの勝者はシンフォガリア学園ですーーーーーー!!!にしてもあのメイド服可愛いですね………」
実況者に服装を褒められたシラとシルはますます嬉しそうな表情をしてステージから捌けていったのだった。
こうして危なげなく続いたタッグ戦も勝利を収め、残すところ準決勝と決勝戦だけとなり、それに比例するようにシラとシルの人気もアリエスたちと同じく上がり続けていくのだった。
次回はタッグ戦の準決勝となります!
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