第十八話 夜の狩りと資金集め
今回は少々暗い話になります!
自分で書いておきながらハクが怖く思えてきました(笑)
では第十八話です!
目に映っているのは、桃色の髪をした二人の少女がいた。着ている服は既にボロボロで白い柔肌がいたるところから顔を出していた。だがそのどれもが擦り切れており赤黒く滲んだ瘡蓋がいくつも見えていた。鉄球に繋がれている両手足には何度も無理やり動いたような痣が残っていた。
「おい、これはいったいどういうことだ?」
「これはというと?」
その瞬間、俺の中で何かが崩れ始めた。
「この悲惨な状況はなんだと言っている!貴様は!たかが種族の違いだけで!こんな非道な現場を作り出すのか!?」
俺は奴隷商中に響き渡るほどの大声を上げていた。
その怒鳴り声に一瞬、部屋の向こうにいる獣人族の耳がピクッと動いた気がした。
しかし、奴隷商の店長は冷めたような声でこう呟く。
「何をおっしゃっているのかわかりませんが、これは奴隷として当然の仕打ちです。特に獣人族のような半人間のような劣種、そもそもわれわれと同じ地面に立っているほうが悪いのです。これは世間一般だと思いますが?」
ぐっ、これは何を言ってもダメなタイプだ。それこそバリマ公爵の時ぐらいの恐怖を叩きつけない限り改心しないだろう。
ここはこちらが引くしかない……悔しいが。
「……………。怒鳴って悪かった。すまない、少し気が動転した……」
「いえいえ、奴隷商に初めて来る方の中に偶にあなたのような人もいますから、大丈夫ですよ。……それで、買われますか?」
「……………。ちなみにいくらだ?」
「あれはとても上玉ですからね。二人合わせて一千万キラです。どうです?」
一千万キラ。さすがにそんな大金は持ち合わせていない。俺の現在の総財産は六百万キラだ。あの二人を助けるには少なくとも四百万キラ追加で必要だ。
「いや………。さすがにそんな大金今は持ちあわせていない。今日のところは帰らせてもらう」
「……そうですか、残念です。ですがお金が貯まりましたらまたお越しください。いつでもお待ちしています」
そうして俺たちは奴隷商を後にした。
「くそっ!!!」
俺は奴隷商を出た途端、地面を思いっきり踏んづけた。その際道路がひび割れ隆起するが、気にしてられない。
正直なところ俺は奴隷と言っても、元の世界の刑務所くらいの生活は保障されているものだと思っていた。しかし現実は食べ物もろくに与えられておらず、健康管理もなにもなされてない醜悪な現場だった。
あんなもの、ただの虐待じゃないか。
ここにきてセルカさんの怒りの正体がつかめた気がした。
するとアリエスがまた俺の手を握ってくる。それは先程のような何かを訴えるようなものではなく、優しく俺の手を包み込んだ。
「………大丈夫?ハクにぃ……?」
アリエスだって相当ショックだったはずだ。なにせ一歩間違えば自分もああなっていたのだ。それを考えればアリエスこそ恐怖で怯えていてもおかしくないのに、それなのにこの少女は俺を励ますように手を握ってきた。
まったくかなわないな………。
年長者として情けない……。
「ああ、すまない。もう大丈夫だ」
「本当?無理してない?」
「ハハ……。それはむしろこっちの台詞だぞ?アリエスだって怯えてたじゃないか?」
「う、うん……。ショックだったけど、それでも私は大丈夫……」
本当に強い子だな。、アリエスは。
「アリエス、正直なところお前はどうしたい?あの二人はこのまま置いておいたら、どこかの貴族に買われるか、衰弱死するか、おそらくろくなことにはならないだろう。それを踏まえてお前はどうしたい?」
「わ、私は……」
するとアリエスは一瞬迷ったような表情を見せたが、すぐさま俺に向き直り、こう答えた。
「私はあの二人を助けたい!あんなの間違ってる!どうしてもだめならお父さんにたのんで……ん!?」
俺はその言葉を言い切る前に人差し指でアリエスの口を塞いだ。
「それはダメだ。この件にカラキさんを巻き込むことは出来ない。やるなら俺たちだけでやらないといけない。仮にもお前はもう家を出た身だ。それなのに今さら貴族の財力を振り回すなんて都合のいいことなんてできない。そうだろう?」
そう俺が言うとアリエスは悔しそうに顔をゆがめながら、俺に尋ねてきた。
「そ、それじゃあどうするの?一千万キラなんて直ぐに用意できる金額じゃないよ?」
俺はアリエスの問いに直ぐに答えず、頭上に煌く星ぼしを眺めた。
不思議だ。こんなにも心が煮立っているのにこの夜空をみていると、頭が冴え渡ってくる。元の世界にいたころは星なんてろくに見たことなんてなかったからな。なんというか新鮮だ。
「どうしたの?ハクにぃ?」
「なあ、アリエス今日はもう宿に帰っていってくれないか?」
その言葉を聞いた、アリエスは一瞬目を見開き、直ぐにもどかしそうな表情を見せてきた。
「そ、それは……。今の私じゃあ、足手まといってことだよね……?」
「…………。まあ身も蓋もなく言ってしまえばな……」
「そう……。うん、わかった。私は大人しく宿で待ってるよ。でも絶対に帰ってきてね」
「ああ、もちろんだ。絶対に何があっても帰ってくるよ」
俺はアリエスの目を見てそういうと、アリエスの頭の上に乗っかっているクビロに問いかけた。
「クビロ、アリエスを頼む。もし何かあれば元の姿に戻ってもいい。とにかくアリエスの側にいてほしい」
『心得た。こちらはまかせてくれ。わしも少々頭にきておる。思う存分やってくるがいい』
「ああ、それじゃあ……」
そして俺はアリエスとクビロを残してもう一度冒険者ギルドへ転移した。
「うわ!?び、びっくりした!?またいきなり現れたね、ハク君」
俺が転移するとそこには既に人が少なくなった冒険者ギルドの中に佇むセルカさんの姿があった。
俺はすぐさまセルカさんの下に近寄ると、少々食い気味で問いかけた。
「これも全てあなたの差し金ですか?」
というとセルカさんは少しだけ笑みを浮かべると、いつものように饒舌に語りだした。
「これも、というのが何かはわからないけど、獣人族の奴隷の件ならば間違いなく私が指し向けたね。というのも別に私があの獣人族の二人を陥れたとか、奴隷商に売ったとかではないよ。私がやったことは君にこの話に対する興味を掻きたてること。ただそれだけさ。先程の冒険者たちを用意したのも私だ、否定はしない。本当に私は種族で差別する輩が嫌いでね。ああいう奴隷にされてる子たちを見るとどうしても助けたくなってしまうんだ。それが偽善だってことはわかっているつもりだけれども、それでも私には見捨てることができない……。たがら自分で何もできない私には他人を頼るしかないのさ、申し訳ない話だけどね」
セルカさんの心の中には何かとてつもない闇がある。別にそれを聞きだすつもりはないし、そもそも本人が話さないだろう。
であれば……。
「それだけするってことは何か策は用意してあるんですよね?」
「ああ、一応あるにはある。今君に足りていない金額は四百万キラだろう?ならばゴブリン計算で八千体討伐すれば四百万キラためることができる。であれば、これだ」
そう言うとセルカさんはバリマ公爵騒動で使用した短刀「バビリ」だ。
この短剣は常に魔物をおびき寄せる魔力を発している。つまりこれを使って大量の魔物をおびき寄せろ、ということらしい。
「この短刀は剣自体に魔力を流し込むことができる。その魔力量によってこのバビリの効果は変わってくるんだ。君クラスの魔力量なら、八千体ぐらいなら直ぐに集まるだろう」
たしかにそれはそうかもしれない。
しかし、そんなに上手くいくのか?
少々不安が残る。
「はあ、まあいいでしょう。今回は俺も相当腹が立っています。セルカさんが俺を焚き付けなくてもいずれは同じ道を辿っていたでしょうし……。でも少なくとも俺たちを利用したんです。飯の一つぐらい奢ってもらいますよ?」
するとセルカさんはいつも通りの柔和な笑顔を浮かべ呟いた。
「ああ、それくらいならいくらでも奢ろう。それとすまない。私の我侭に付き合わせてしまって……。では御武運を」
その最後の言葉は今まで聞いたなかでも一番重く感じられた。
それだけセルカさんは本気なんだろう。
しかし、気持ちは俺も同じだ。ここは彼女たちのために頑張らなくてはいけない。
そして俺はセルカさんから受け取ったバビリを持ち夜の狩りに駆け出した。
『にしても、八千体というのは少々多くないか主様?一欠けらも残さず吹き飛ばすだけならばいくらいようと問題はないが、体を完全に残して討伐するのは骨が折れるじゃろう』
そう、今回はただ倒せばいいだけではない。金にならなければ意味がないのだ。というわけで今回も広範系の攻撃は使うことが出来ない。
しかし、今の俺は通常時とは少し違っていた。別に我を失うほど頭に血が上っているわけでもないし、あの奴隷商を死ぬほど憎んでいるわけでもない。
ただ単純に、スイッチが変わった。
こうなると俺は基本的に容赦はできない。自分の決めたことをただ完璧にこなすだけの存在へと化す。
『リア、今回は器の力を使う。やりすぎだと思ったら止めてくれ』
『…………わかったのじゃ。けれど無茶はせぬようにな』
そして俺は上空に飛び上がりバビリにバビリ自体が壊れないように魔力を込めていく。
場所は先日クビロと戦った場所。いまだに痛々しい破壊痕がいたるところに残っているが、今回はもっととてつもないことになるだろう。
すると徐々にだが俺の下に魔物たちが集まりだした。
だがまだ足りない。もっと、もっとだ。
俺はさらにバビリに魔力を込めていく。バビリの色が淡い紫から黄金色に変化した。おそらくこれがバビリの真の姿なのだろう。魔力を込めている俺であってもビリビリと力の波動を感じる。
そして数分後、辺り一面魔物の大群が埋め尽くした。
これで準備は完了だろう。
では直ぐに片付けることにする。
今から俺が使う能力。
それは妃の器からもれ出た三つの能力のうちの二番目。
これは気配探知とは違い、圧倒的に強力で、危険極まりない能力だ。
だが今はそんなことを構っていられる時間はない。なにせ八千体だ。倒すのは一瞬でも精算には一体どれだけ時間がかかるかわからない。
その間にあの獣人族の二人が誰かに買われてしまっては話にならない。
ゆえに急ぐ必要がある。
俺は一言息を吐き、自分の能力の名前を口にする。
「■■■■」
その瞬間、俺の下の地面は血の海と化した。
時は進み、ハクがギルドを出て行って一時間ほど経過した現在。
セルカは自分の行いを悔いていた。
いくら獣人族の子を助けるためとはいえ、自分は何の関係もない青年を巻き込んでしまった。
確かに青年は強い。地の土地神を簡単にいなしてしまうくらいに。
でも心はまだ大人の域にはいない。
そして自分はその心の純真さに付け込んで利用したのだ。
そんな自分が憎くて憎くて仕方がない。
昔からそうだ、何かにのめり込んでしまうと周りが見えなくなってしまう。さんざん注意されてきたのにこれだけは直る気がしない。
今からでも止めることは出来ないだろうか……。
そんな思考がセルカの頭によぎった刹那、ドカンっ!!!!!という爆音とともに地震が起きた。それは村全体を揺らす規模のもので、何も知らない人達からすれば何かの災害かと勘違いしてしまうかも知れない。
すると目の前に、つい今しがた頭に思い浮かべていた青年が姿を現した。
そして青年は一言、
「そら、終わったぞ?早く精算してくれ」
こう言ったのだった。
翌日、朝八時。
アリエスは眩しい朝日に当てられ目を覚ました。
昨日はどれだけ待ってもハクが宿に帰ってくることはなかった。それでもアリエスは待ち続け、気が付いたら寝てしまっていた。
ふと隣を見るがまだハクは帰ってきていない。
仕方ないので、顔でも洗おうかと立ち上がった瞬間、ガチャッという音とともに部屋の扉が開かれた。
そしてそこに立っていた白いローブを着た青年は、昨日の怖い雰囲気をまったく感じさせずこう言ったのだ。
「行こう、アリエス。あの二人を助けるぞ?」
次回でこの獣人族の話は一旦終わりになるかと思います!
短かったですがいずれ第六章にて獣人族にはまたスポットライトがあたるので、そのときにまた詳しく書きたいと思います!
誤字、脱字があればお教えください!




