第百八十七話 全学園対抗競技祭、団体戦、一
今回は駆け足ですが競技祭の本選に突入します!
やはり第五章は長くなりそうです………
では第百八十七話です!
競技祭予選から約二週間後。
ついにこの学園王国に一年に一度開かれる最大級のイベント、全学園対抗競技祭が開催されようとしていた。この期間だけはあのSSSランク冒険者の集会が開かれたときよりも遥かに大きな賑わいを見せるようで外部からの観光客も多いようだ。
当然その影響は学園の中にも伝わってきていて、競技祭当日の今日は既にたくさんの生徒が学園内の催しや出店を開いている。
ちなみにこの二週間の間に何があったのかというと、概ね変わったことはなく通常通りに授業を進めていたというのが実の話である。予選の際に起きた騒動は基本的に教師陣が処理してくれたので俺たちが関わることは殆どなく、他の学園にも広まることはなく収束したのだ。
といってもシラフに関してはやはりそれなりの影響力があったため裏では他の学園に伝わっているだろうとギランは言っていた。そればかりは仕方がないし自業自得なので口を出す必要はない。
で、一番問題だったのがいいように使われていた生徒会のアフターケアである。さすがに上級生ともなればある程度自体を受け止めることができたようだが、下級生はその精神状態がかなり揺らいでおり、しっかりとしたカウンセリングが必要だろうとのことだ。
というわけで特段俺たちには何も影響がない二週間を過ごした後、こうして競技祭の本番を向かえたわけだが、はっきり言って俺たちはこの賑わいに相当押されていた。
魔武道祭が行われたときもかなりの人が押しかけ熱気が舞い上がったはずなのだが、この競技祭の期間中はそれを凌駕するかのような雰囲気が漂っており、学園の屋上から眺めているだけでそのすさまじさが伝わってきたのだ。
「もの凄い人だね。これって入試のときよりも多いんじゃない?」
「ああ、そうだろうな。にしてもあいつらはまだ来ないのか………」
俺とアリエスは学園の屋上で髪を風に靡かせながら、他のメンバーをひたすら待ち続けていた。というのも「せっかくなので何か買ってきますね!」とシラが言い出したことがきっかけで皆各々好きな場所に散らばってしまったのだ。一応、団体戦が始まる午前十時前には屋上に集合しろ、とは言ってあるのだがそれがなかなか来ない。
競技祭は王国所有の大きな闘技場で開かれるようで、それは王城の直ぐ隣に設置されていた。どうやらそこは王国の騎士団や魔道師団が訓練に使う場所らしく全ての学園がもつステージよりも大きく作られている。
当然今回も俺は事前に自分達の席を確保してあるのだが、それにしても開幕十分前になっても姿を現さないのはルーズすぎるというものだ。
アリエスもこういう流れになったときには一目散に駆けて行くタイプなのだが、今はシラたちに任せる形でこの場に留まっていた。
するとようやくシラたちがぞろぞろと屋上に姿を現し、両手いっぱいに抱えた飯やら景品を俺たちに見せながらこちらに近づいてくる。
「ハク様―!たくさん買ってきましたよー」
エリアが大きな声を上げて笑顔を浮かべている。エリアは王族ということもあってこのようなイベントにどっぷりと浸かったことがないため、その表情はとても楽しそうだ。
俺は一度大きく背伸びをすると、アリエスの背中を押しながら皆と合流すると、そのままエリアが渡してくるアイスクリームのようなものを受け取り、競技祭の会場まで転移を実行するのだった。
全学園競技祭に出場する学園、学校は全部で九校ある。それはこの学園王国に存在する全ての教育機関を指し示しており、どうやら滞りなく全九校の代表が選出されたらしい。
つまり団体戦、タッグ戦、個人戦のどれもが九つの枠から構成されるトーナメントが組まれるようで、一番最後の九番目がシードになるようだ。といっても魔武道祭のようにいきなり準決勝に姿を現すのではなく七、八番の勝者と戦うという至ってシンプルなトーナメントとなっていた。
ちなみに抽選は各学園の生徒会長がくじ引きで決めるようで、俺たちの出場カードは団体戦は二番、タッグ戦は六番、個人戦は九番という結果に落ち着いたようだ。
というわけでアリエスとサシリ、ルルンは団体戦の初戦を務めるということで既に準備室に向かっている。今回は予選とは違いサシリとアリエスが入れ替わる形で役職が書き換えられており、サシリが先鋒、ルルンが中堅、アリエスが大将という組み合わせになっているらしい。
「さて、サシリのことだから心配はないと思うが、どう転がるかね」
観客席に腰を落としながら自分の手を顎に当ててそう呟いた。
「なに、心配はいらんだろ。なんと言っても妾と同等に戦えるサシリだぞ?低レベルな人間に負けるはずがない」
キラはフンッと大きく胸を張りながらそう宣言するが、俺が心配しているのはそこではない。
「えー、多分ハク様が懸念しているのはそこではないと思いますよ?」
俺の気持ちを代弁するようにエリアが言葉を紡ぐ。
「どういうことだ?」
「ですから、サシリの強さなら相手選手の身がどうなるかわからないということです。なんといっても血神祖なんですから」
そう、今まで強力な敵と戦ってきたせいで忘れがちになっているが、俺たちのパーティーははっきり言って強すぎるのだ。冒険者最強のパーティーと言われているイロアたちに敵わないと言わしめたことだけあって、その強さは常識を遥かに超えている。そしてその中でも精霊女王と血神祖という二人は測定不能レベルで実力が飛び抜けている。
つまり何かの拍子で殺しちゃいました、というシチュエーションも無きにしもあらずということなのだ。
「むう………。しかしサシリならそのくらいの加減はできると思うのだが………」
実際それも一理ある。強者になればなるほど当然力の最大値も上がるが同時にその使い方も上手くなる。ゆえにサシリのことだから心配ない、という言葉はそういう理由があって口にしたのだ。
すると一人無言でジュースを啜っていたシルが顔を上げて声を発した。
「あ、出てきましたよ、アリエスたち………」
その言葉のとおり会場の左コーナーからアリエスたち三人が姿を現した。先頭はサシリのようで、どうやら戦う順に並んでいるようだ。
「ま、気楽にやってくれれば問題ないさ。なんたって、これはお祭りだからな」
俺は最後にそう言うと既に飲み終わったドリンクの氷を口に放り込み、その冷たさを味わうのだった。
「さーて、ようやく全学園対抗競技祭の団体戦がスタートします!!!実況はこの私、シンフォガリア学園三年、ジーナル=イムスが担当します!!!今日は皆さんよろしくお願いしまーーーーす!!!記念すべき一回戦第一試合は去年の団体戦優勝校のララワール魔術学校と王立のシンフォガリア学園が戦います!今回、シンフォガリア学園の代表は全てが一年生ということもあり前評判も相当上がっているようです!!!対するララワール魔術学校は昨年と同じ選手が出場していますので、一番の優勝候補と噂されています!!!はたしてこの勝負はどちらに軍配が上がるのか、非常に気になります!!!」
アリエスたちはその実況をステージの上から聞いていた。どうやら今回の実況は同じ学園の生徒のようで、妙に気合が入っている。
「へー、相手の生徒は去年の優勝した人たちだって。強いのかな?」
アリエスがおの話を聞きながら自身の顎に人差し指を当てながらそう呟く。
「どうだろうねー。でもまあ、サシリちゃんなら心配ないでしょ?」
その言葉に反応したルルンが自分の剣の調子を確かめながらサシリに問いかけ返答を待つ。
「うん、安心していいわ。直ぐに帰ってくるから」
サシリの言葉にはとても強い力がこもっており出ているオーラもいつも以上に楽しそうだった。
(これは……。少し申し訳なくなっちゃうな、主に相手の人たちがだけど)
当然アリエスもサシリの力は知っているのでこれから巻き起こる惨劇を想像して、若干引きつった笑いを浮かべる。
するとステージの向こう側から一人の男子生徒が舞台に上がった。
「それじゃあ、行ってくるね」
サシリはアリエスたちにそう言うと自分も真っ直ぐステージを進みその生徒の前に立った。腰にはハクから貰った紅剣がささっているがそれはまだ抜かない。
「先方戦は、ララワール魔術学校のヒチリフ=ヴィンテリマーザ選手と、シンフォガリア学園サシリ=マギナ選手の対決です。華やかに初戦の勝利を掴むのはどちらの選手なのでしょうか!!!」
サシリはその実況すらも楽しむように聞いていたのだが、ここで目の前の生徒から声をかけられた。
「君は本当に一年生なのかい?」
「そうだけど、何か問題かしら?」
サシリがそう答えるとヒチリフという生徒は両手を天に向けるように上げながら自信満々にこう呟いてくる。
「だったら、早々に降参したほうがいいよ。僕たちララワール魔術学校を一年生が倒すなんてありえないからね」
しかし対するサシリはというとその生徒の装備をじっと見つめながら口を開く。
「…………そう。それよりあなた、武器は使わないの?見たところそれらしきもの持っていないようだけれど」
「おいおい、僕たちの学校の名前を忘れたのかい?魔術学校の生徒が武器なんて野蛮なものを使うはずないじゃないか。そもそも君達とは生きる世界が違うんだ」
もはやシンフォガリア学園の生徒だけでなく他の学園すらも馬鹿にするような発言であったが、サシリはその言葉を聞いてある行動に出る。
「なら私も武器は使わないわ。これで平等でしょ?」
そう言ってサシリは紅剣を地面に突き刺し装備から外す。
「へえ、今年のシンフォガリア学園は自信過剰な一年生がいるようだね。でもそれが命取りになるよ」
そこで二人の会話は途切れ、静まり返った会場はひたすら試合開始の合図を待ち続けた。
「それでは一回戦第一試合先鋒戦スタートです!!!」
その瞬間、ヒチリフは自身の魔力をすぐさま練り上げ魔術を発動しようとする。それはさすが魔術を専攻しているだけあってそれなりに速い。
しかしそんなものは所詮人間の範疇に留まっている者がする行為で、サシリは笑いながら右手を上げて力を解放した。
「切断する血波」
その攻撃は赤い血のような衝撃波をステージに走らせ、ヒチリフの真横を猛スピードで通過する。魔武道祭のようにこの会場は観客席を守る結界が張っていないので、サシリはその攻撃を観客席ギリギリで止める。そしてヒチリフに向かって一言だけ言葉を呟いてステージを後にした。
「魔術なんかじゃ私の速さについてこられないわよ?」
「な!?」
その言葉と同時にヒチリフの右頬には赤い線が走り、腕につけていた金属の腕輪が手に傷一つつけずに崩れ去った。
「こ、これはーーーーーーーー!?なんということでしょう!ヒチリフ選手が行動する前にサシリ選手の攻撃が腕輪を切り裂いた!!!よって勝者はサシリ=マギナ選手です!!!」
サシリはこの実況を聞きながらアリエスたちの下に駆け寄ると、小さく舌を出しながら、恥ずかしそうにこう呟いた。
「少しやりすぎちゃったかしら?」
するとアリエスとルルンは同時に首を横に振りながら言葉を紡ぐ。
「「お疲れ様!」」
次回はルルンの試合です!
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