第百八十三話 競技祭予選、個人戦、一
今回はハクの無双回です!
では百八十三話です!
結局俺がシラとシルの試合中に気絶させた生徒はやはりこの学園の生徒会のメンバーだったようでギラン曰くこれから聴取していくのだという。この背景にシラフが絡んでいれば黒、絡んでいなければまた別の可能性を考えなければいけないがほぼ間違いなくシラフが後ろに居るだろうとギランは言っていたので残りの対応は任せることにした。ちなみにギランの話を受けた学園長はすぐさま生徒会のメンバーを集め話を聞きだしており、近いうちに事の真相が全て明らかになるだろうとのことだった。
しかしどうやら全員の記憶が曖昧な箇所があるらしく何らかの魔術や魔法の作用も見られ事態はいよいよ深刻な問題に突入し始めているようだ。シラフという学園の役員が生徒の記憶を改竄していたなどという事実がバレればそれこそ役員解雇どころの話では済まなくなる。
まあ、そのクラスの話になれば完全に俺たちの出る幕はないので、大人しく競技祭に集中することにした。
で、タッグ戦が行われた次の日。
今日はようやく俺が出場する個人戦が開催される。学園長が動き出した今、シラフも下手には動けない以上、俺は気兼ねなく戦えるということだ。
とはいえ手加減は絶対にするのであくまでも楽しむつもりで出場するということになるだろう。
ホームルームを終えた俺たちは早速個人戦が開かれる会場に移動した。今日に至っては魔武道祭のときのように隠蔽術式で予め席を確保しておいたのでどんなに遅れようが確実に座って観戦することができる。
この個人戦は三つある種目のなかでも一番の盛り上がりを見せるようで今日ばかりは他の屋台や出店に赴いていた人もその全てがこの教室に足を運んでいるようだった。
「よし、そろそろ行くかな」
俺はアリエスたちを特等席に案内し席に座らせると自分の装備をチェックしてそう呟いた。今日の装備は一応エルテナとリーザグラムを腰にさしている形だ。というのもこの競技祭において途中で新たな武器を取り出すことは禁止されているのらしい。よって何が起きるかわからないということでフル装備を従えてステージに向かうというわけである。
「うん、いってらっしゃいハクにぃ!」
俺の言葉に元気よくアリエスは返事をすると、その輝いている笑顔をこちらに振りまいてきた。その頭を軽く撫で、他のメンバーにも視線を流す。
「頑張ってきてくださいハク様!」
「ファイトです………!」
「ハク様の勇姿を全校生徒に見せ付けてしまってください!」
「頑張ってねー、応援してるから!」
「マスターなら負けないだろうが、程ほどにしておけよ?相手は普通の人間だからな」
「いってらっしゃい、ハク。応援してるわ」
各々が俺に声援を送ってきたことを確認すると俺は一度だけ微笑んでステージに移動した。今回のトーナメントは昨日のタッグ戦と同じようなものになっており、一年生は俺とAクラスの代表だけが参加している。しかもその代表というのが件のバーリといういかにも作られたようなシチュエーションが出来上がっていた。俺はてっきり入試で一緒だったAランク冒険者の貴族君が出てくるのかと思っていたがそうではないようだ。
あ、ちなみにその貴族君もちゃんと合格してるよ!ちゃっかりAクラスだしね!
まあ、正直言ってAランク冒険者という貴重な人材を落とすほうがどうかしているので当然といえば当然ではあるのだが。
何はともあれ今回のトーナメントも合計三十二人で行われるようでその参加者達がステージには集まっていた。俺もその中にさりげなく混ざりトーナメント表を眺める。どうやら俺とバーリはどう頑張っても決勝まで戦うことはないようで直接対決はなさそうだ。
しかし当のバーリは憎悪の篭った目でこちらを見つめており、その表情はせっかくの容姿を完全に壊してしまうほど歪んでいた。とはいえ気にする必要もないので今は全力で無視し、自分の戦いに備え他の生徒の試合を観戦する。
やはり各クラス最強の生徒を投入してきているだけあって、そのレベルは他の二種目よりも各段に高く、動きもまったく違うものになっていた。
ふーん、これは確かに個人戦が盛り上がるというのも頷けるな。
観客からすれば生徒の実力が上がれば上がるほど興奮するので、この個人戦が人気を博するのも必然ということだろう。
そうしてステージで繰り広げられる戦いを見ることと数試合、ようやく俺の試合の番が回ってきた。
俺はそんまま前の試合をしていた生徒と入れ替わるようにステージに上がると、反対側のコーナーから上がってくる生徒をひたすら待つ。
するとそこに姿を現したのはいつぞかの決闘を申し込んできた高飛車な少女だった。
「また会いましたね、通りすがりの激突魔さん?」
「そのいちいちいちゃもんつけてくる性格どうにかしたほうがいいですよ、カリン先輩?」
そう、この少女はあのバーリが俺に決闘を仕掛けてくる原因になったカリンその人だった。このカリンという少女はどうやら四年生のAクラス所属ということなので実質優勝候補ということになる。
「あら、心外ね。私はこれでも大分譲歩しているつもりですけど?」
「どこがですか。決闘に負けたのにまだ自分の非を認めてないとは呆れて言葉も出ませんよ」
なんというか、俺はこの少女とは馬が合わない。というかこちらは何とかまともな会話に持っていこうとしているのにあちらがかき乱してくるといった感じだろうか。
正直言って理不尽に切りかかってくる戦闘狂よりも俺はこういうタイプは苦手で、虫唾が走りそうになってしまうのだ。まあ、これは過去に似たようなタイプの人間との思い出があまりいいものではなかったということに起因するのだが、それはまた別の話だ。
とにかく今はこのムカつく少女を吹き飛ばせばいい。それだけだ。
「あなたも口が減りませんね。ではさっそくその口を切ってあげましょう」
「その剣が当たればいいですけどね………。前は掠りもしませんでしたし」
「あ、あれは偶然です!私があなたのような一年生に負けるわけがありません!」
へー、そうですか。それじゃあ、見せてくださいよ、上級生の力ってやつを………まあ無理だろうけど。
と試合前にお互いを罵るような言葉を口にしていると試合開始のゴングが会場に鳴り響いた。
それを聞いたカリンは前と同じように剣を抜きそれを俺に突きつけるような形で切りかかってきた。
いや、だから遅いんだって。
俺は内心そう呟くとエルテナでその攻撃を全ていなしていく。上段から振り下ろされた攻撃は跳ね上がるように下段から上段に戻り連続技が放たれる。
とはいえそんな攻撃今の俺にはもはや止まっているも同然なので全てエルテナの刃をわざわざ向けないようにして弾く。
「くっ!な、なんで攻撃してこないんですか!どこまで私を馬鹿にしたら………」
「それじゃあ、行きますよ?」
俺は無表情でカリンの攻撃を大きく弾き体のバランスを崩すとエルテナで空気を切り裂くように左から右へ薙ぐ。それはカリンの体には当たっていないが、それでも爆風がカリンの体を叩きステージの端まで吹き飛ばした。
「きゃああああ!?」
俺は首の骨をコキコキと鳴らしながらカリンに接近する。しかしいつものように走ってではなく合えて歩いて近づいていく。
「どうしたんですか?俺を倒すんでしょう?」
するとカリンは自分の腹を押さえながら必死に立ち上がると、そのまま俺から距離を取るように離れると剣をステージに着きたて魔術の詠唱を開始した。
いや、だからそれも前やったでしょうが………。
どうやらこの少女は自分の実力を過信しすぎて学習というものを知らないようだ。それが俺との戦闘時だけなのか、普段からこの状態なのかは知らないがそれにしても戦いにおいて学ばないというのは致命傷以外の何者でもない。
するとようやくその詠唱が完了したようで、以前と同じ魔術が発動される。
「風の神官剣!!!」
見ればそれは先日よりは明らかに強化されているようで込められている魔力量も比較的多い。
まさかと思うがこの程度で俺を倒せると思っているんじゃないだろうな………。
「これでどうです!前の決闘のときよりも遥かに魔力を上乗せしたんです!受けてみなさい!」
ああ、そのまさかだったのか……。
いや、この魔術が強力なのはわかる。多分のこの攻撃を防げる者はこの学園に俺たちを除けば殆どいないだろうし、それは自信を持っていいことだろう。
だがそれでも一度防がれている魔術をたかだか魔力量を上げた程度でもう一回使うか普通?
これがアリエスやエリアレベルであれば話は変わってくのだが、正直言ってこのレベルならば火に注ぐ油にすらなっていない。
俺は大きな溜め息を吐き出すと、右腰に掛かっているリーザグラムを抜きエルテナと合わせて構える。
もうこうなったら実力の差というやつを全力で教えてやるしかない。でないとこの少女は永遠にくだらない攻撃しかしてこないだろう。
というわけで放たれた風の神官剣目掛けて俺はいつもの剣技を高速で繰り出す。
「黒の章」
その言葉と同時に俺の二本の剣は風の神官剣を原型が残らないまでに切り刻み消滅させていく。
「そ、そんな………」
だが黒の章は基本的に果てがない技だ。剣を動かし続ける限りその攻撃は終わることがない。
俺はそのまま力なく立ち尽くしているカリンに一瞬で近づくとその体をへし折るかのような勢いで両手の剣を振り回した。
「ッッッ!?」
本来ならそれは死を覚悟してもおかしくない攻撃だったのだが、当然その剣は一太刀もカリンの体には当たっておらず、全て寸止めの状態で風をだけを切り裂いていた。
「え………?ど、どういうこと、ですか?」
しかしその声に反してステージにはバラバラに切り裂かれた何かの残骸が金属音を鳴らしながら落下する。
「あ………」
それは決闘の勝敗を決める腕輪であり、カリンが右腕につけていたものだ。それは綺麗に三十分割され地面に転がっている。今回俺が黒の章で繰り出した攻撃回数は三十回。それを全てその腕輪に当て、切り刻んだのだ。
「いい加減実力の差を理解してください。それがあなたの一番の敗因です」
俺はカリンにそう言い放つと、そのカリンに背を向けてステージから降りる。その瞬間、会場を震撼させるほどの歓声が巻き起こり、空気を揺らした。
俺の後ろには完全に戦意を喪失したカリンが膝をついてしまっているが、まああの少女なら直ぐに復活するだろう、と考え俺は次の試合に備えて他の生徒を観察するのだった。
次回は意外な人物とハクが戦います!
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