第百八十二話 競技祭予選、タッグ戦
今回はシラとシルがメインです!
ハク達を狙う存在について迫ります!
では第百八十二話です!
翌日の朝、Sクラス教室にて。
俺はアリエスたちに昨日裏で起きていた出来事を伝え今日試合中も気をつけるように声をかけた。実際放たれていた毒矢や槍というのは不意打ちでなければ問題なく防げるものなので常に気を配るように注意をしておけば対処することは十分出来る。
またギランにも一応この事態の内容を伝え策を考えてもらうことにした。
「ふーん、なるほどな。まあ、はっきり言ってしまえば心当たりがないわけでもない」
「本当ですか?」
返ってきた言葉は俺も想像していなかったものでまさかギランがことの真相に近づいていたとは知らなかった。
「まあな。といっても材料さえ揃っていれば誰だって考えることは出来る。俺はこういう立場だから色々上層部から目を付けられてる関係でその内部事情もある程度把握しているんだよ。そしてその役員の中に一人だけ今回のようなことを平気で起こしてしまいそうな奴が居る」
「それは誰なんですか?」
俺の隣で話を聞いていたアリエスがそれをたずねるように問いかける。さすがに俺もフレイヤを動かしているとはいえ学園上層部の中までは探ることが出来ない。というより今のギランの言葉を聞く限り上層部全体というよりはとある一人の仕業である可能性が高いようだ。
ギランはそのアリエスの言葉に反応するように大きく意気を吐き出しながら、その人物の名前を口にした。
「シラフ=ワグナだ」
ワグナ?うーん、どこかで聞いたことがある気が………。
すると何かを思い出したかのようにシラが声を上げる。
「それってもしかしてこの間の………」
「ああ、バーリ=ワグナの父親だ。お前ら俺が寝てる間にあのAクラス成績トップの奴を叩きのめしたんだろ?おそらくそれが原因だ」
な!?ま、マジかよ………。
ここにきて今さらあのイケメン君の父親が出てくるのかよ。しかもそれがこの学園の役員とは………。なんとも狭い世の中だ。
「シラフの奴はこの学園の役員の仲でもそこそこ大きな力を持っている。入試のときも自分の息子をどうにかしてトップにしたいがために色々と画策したらしい。まあ息子のバーリも相当優秀なのは事実なのだが、今回はお前らという規格外が転がり込んできた。聞けば俺とお前達の処遇も奴が概ね決めていたようだし、それが理由は違えど決闘を申し込んだ息子が完膚なきまでに倒されたともなれば何か思うのも当然だろう」
「しかしそれが一体どうして私たちをこのタイミングに狙う理由になるんですか?」
エリアがギランに食いつくように話しかける。確かに俺たちを排除したければこのような方法を取らずともやり方はいくらでもあるはずなのだ。というのもこの競技祭という期間は良くも悪くも周囲の目が集まるタイミングであり、この様な機会に攻撃を仕掛けてくると言うのはメリットもあればデメリットも存在する。まして今回はまるで俺たちの出場を阻むような襲い方をしてきているため、言ってしまえば不自然なことばかりなのだ。
「おそらくやつは他の学園ともそれなりに大きなパスを持っている。ゆえにお前らのような怪物が競技祭に出場してしまうと奴からしても相当困ることになるのだろう。まあ、大人の賭け事とやらが裏で絡んでいると俺は見ているのだが断言は出来ない。それにハクが見た生徒会腕章の件だが、それもシラフの奴が役員権限で動かしているはずだ。この学園の生徒会はそこそこ強い力を持っているがそれでも役員には敵わない。シラフからすればこれほど扱いやすい駒はないということだ」
息子の敵討ちに賭け事。もはや闇に塗れているといっても過言ではない事態がギランの口から語られた。おそらくここまで事態が進行している以上学園長はこのことを知らないのだろう。もし知っていれば何かしらの対応をしてくるはずだ。
それにもしかすると競技祭におけるシンフォガリア学園の成績が芳しくないというのもこのシラフという奴が絡んでいるのかもしれない。
はっきり言って気に入らないやり方だが、役員まで上り詰めてしまうとそのような行為に味を占めてしまうのかもしれない。
とはいえ絶対に容認はできないことなので、俺たちなりに出来ることはないか模索しようとしたのだが、ここでギランが口を挿んだ。
「今回の件は俺の方から学園長に言っておく。そうすれば事態の収拾までは行かなくとも生徒会は動かせないようになるはずだ。それとお前らはひたすら勝ち続けろ。それがシラフを最終的に潰す鍵になる。問い詰めるのはそれが終わってからでも問題ないだろう」
と言われてしまっては俺たちに返せる言葉はなく、そのまま頷くしかなかった。俺は一応フレイヤを動かし続け警戒はしておき、気配探知もいつも以上に広範囲に使用しておくことにしてこの場は収めることにした。
「それに今は競技祭を全力で楽しんで来い。今日はシラとシルの試合だったな。俺も余裕があれば見に行くよ。こういう裏の仕事は教師に任せておけばいいのさ」
ギランはそう言うとおれたちに手を振り颯爽と教室を出て行ってしまった。
俺たちは一度顔を見合わせた後、それもそうかとお互い笑みを作り転移で会場まで移動する。
なんといっても今回の俺たちは生徒としてこの学園にいるのだ。難しい事情はギランに任せて置けばいいのかもしれない。そう思い至った俺たちは会場につくとシラとシルを送り出し、今日こそはしっかりと観客席に腰を下ろすのだった。
タッグ戦。
この戦闘形式ははっきり言って非常に難しいスタイルの戦い方だ。というのも常にお互いの行動を把握しながら連携を続けなければならない。これをどれだけ成功させるかによって勝負の行方が分かれてくる。
そしてその点で言えば俺たちのパーティーの中で連携を難なくこなせるのは間違いなくシラとシルの二人であった。この二人は夫婦剣であるサタラリング・バキを渡していることもあり、未来予知を駆使したコンビネーションが武器の戦い方を得意としている。また姉妹なだけあってその息はぴったり合っており、おそらく二人同時に相手をするとなると俺も多少苦戦してしまうほど強力なレベルに到達しているのだ。
今回のタッグ戦は一年生からは俺たちとAクラスのグループが出場しており、全部で三十二グループのトーナメントが組まれている。
とはいえシラとシルにとってみればこんなトーナメントなどあってないようなもので、次々に相手を撃破し勝ち進んでいった。
「す、凄いね二人とも……」
アリエスがその二人を眺めながらそう呟いた。
「ああ、まさに阿吽の呼吸というやつだ」
キラがそれに返答する形で言葉を投げる。
って、ちょっと待て。なんで異世界に済んでいるはずのお前が阿吽の呼吸なんて言葉を知ってるんだ?その言葉って確か日本とかサンスクリットの宗教が語源ですよね?
俺は内心そう突っ込んでしまったのだが、どうやら由来は知らなくてもこの言葉自体はあるようで異世界にもこのような慣用句は存在しているらしい。というかおそらく俺の翻訳能力が自動的に認識しているだけなので、本来はおそらく違った言葉なのだろう。
とはいえ確かにシラとシルの動きはズレることなく見事な連携を描き出しており、負ける気配などまったく感じられなかった。しかもいまだにサタラリング・バキの能力は使っていないようで地力だけで戦っているようだ。
そしてあっという間にそのトーナメントは進んでいき、決勝戦。
二人の相手は三年生のAクラス代表らしくいかにもカップルと言わんばかりの男女が対戦相手のようだ。
どうやらその二人はこの学園内ではそこそこ有名なカップルらしく、シラとシルを応援する声の中にその二人を応援する声も混ざっている。まあ、見たところ悪そうな人たちでもなさそうなので正々堂々戦うタイプの人間なのだろう。
俺はとりあえずそこに安心しながら試合が始まるのを待っていたのだが、するとここでフレイヤからいきなり念話が飛んできた。
『聞こえてるかしら、神妃さん?』
『ああ、どうした?』
『その会場内の西側、その最上席に狙撃者がいるわ。確認してみなさい?』
俺はそう言われて魔眼と気配探知を同時に使い、その場所を探った。あうるとどうやら本当にシラとシルを狙っているような態勢の人間が捉えられた。
『一応事前にわかったことだし報告したけど、どうするのかしら?』
『こうしておくさ』
フレイヤの言葉にそう答えた俺はその狙撃者に気創造をかけ気配を吸い取り気絶させると、手に持っていた武器も破壊しておいた。
『これで問題ないだろう。お前はギランにこのことを報告しておいてくれ。そうすればあの気絶している奴の正体も割れるはずだ』
『了解よ』
とまあ、どこにいっても執拗に狙ってくる連中を組み伏せた俺は再びステージの上に立つ仲間に目線を向ける。
負ける心配はしていないが、気は抜くなよ。
そう心の中で呟いた俺はしっかり二人の活躍を目に焼き付けるためにステージの戦いに集中するんのだった。
そして場所は変わりステージ上。
シラとシルはサタラリング・バキを構えながらその二人が攻撃してくるのを待っていた。試合開始のゴングはもう既に鳴っており、刻一刻と時間は過ぎ去っていくのだがそれでも攻撃してくる気配がないのだ。
というのも。
「うーん、どうやって攻撃しようかハニー?」
「あなたに任せるわダーリン!」
という熱くも甘いやり取りが続いていたのだ。さすがにこれはシラとシルも予想外で面をくらったのだが、とにかく相手の出方を待つことにしたのだ。
「それにしても君達はすごいね。まだ一年生なんだろう?それなのに決勝まで勝ち上がってくるなんて驚いたよ」
カップルの男性が二人に向かってそう呟く。
「お褒めいただき光栄です。しかし私達はまあこのようなところで甘んじる気はありませんのでどうかご覚悟を」
シラは依然戦闘態勢を崩さないままそう呟くと更に腰を低くし威圧を強める。
「あら、怖いこというのねー。ダーリン、それじゃあ始めましょ!」
「ああ、そうだねハニー」
相手のカップルはお互い頷きあうとそのまま手を繋いで魔術の詠唱を開始した。それはどうやら無理矢理二つの属性を複合させているもののようで力と力が競合して小さなスパークをステージに走らせている。以前ハルカが使用していた省略詠唱のようなものではなく、単純に魔術を重ねているだけの力技。それをこのカップルは発動しようとしていた。
一方シラとシルはその動きを見てもまだ動こうとはしない。
そしてその瞬間、相手の魔術が発動する。
「「風と氷の乱演舞!!!」」
それは風魔術と氷魔術というなんともアンバランスな組み合わせ攻撃だったがその威力は確かに上がっているようで、通常の生徒たちが使う魔力量とは比べ物にならない力が放たれていた。
だがその魔術を見てもシラとシルはまったく動揺せず、行動を開始する。風と氷の乱演舞は相当大きな魔術で避けるということは殆ど不可能に等しい魔術で、切り倒すか捨て身覚悟で突っ込むかと言う二択を迫られている状況になっていた。
しかしそれは普通の人間が考えることであって今の二人にはまったくもって当てはまらない。
シラとシルはお互いの息を合わせるようにこの競技祭で初めてサタラリング・バキの能力を発動した。それは的確に未来を予測しステージ上の安全地帯を描き出す。二人はすぐさまその場所に移動し、風と氷の乱演舞を見事に回避すると、二人同時にカップルの喉元にサタラリング・バキを突きつけこう宣言した。
「「戦いは常に先を見据えて行動しないとダメなんですよ?」………?」
それはシラとシルが予選の決勝戦を勝ち抜いた瞬間になったのだった。
次回はついにハクの個人戦がスタートします!
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