第百八十一話 競技祭予選、団体戦
今回はアリエスたちの戦闘がメインです!
ついでにちょっとした神様もでますよ!
では第百八十一話です!
入学からちょうど二週間が経過した。
今このシンフォガリア学園は全学園対抗競技祭の予選である学内予選が開催されており、参加する生徒もしない生徒も全員が盛り上がっている状況が作り出されている。というのも本番である全学園対抗競技祭では大量の催しが行われる関係上そのリハーサルをかねて生徒達による出店や企画が大量に用意されているのだ。今はこの学園内だけとはいえもはや一介の文化祭レベルに収まらない熱気が押し寄せていた。
しかし俺たちはメンバーのほぼ全てが予選に出場する関係でクラスからの出店はなく、むしろ楽しむ側に回っており、各々練り歩いているようだ。
予選自体は三日間に分けられて行われ、初日が団体戦、二日目がタッグ戦、最終日が個人戦になっており初日である今日は全学年を集めて団体戦が開幕する。会場は入学試験で使った魔術ドームの中でも一番大きな場所を使うようで、大量に設置されていた魔具の類は全て撤去され天井を大きく開けた状態で使われるらしい。
アリエスたちは学園に着くなり皆で出店や学園内で催されている企画をひたすらまわりに行っているようで、午前十時から開催される予選までの間このお祭りムードを満喫しているようだ。
本当なら俺も一緒に行くところだが、今回は丁重にお断りした。では一体俺は何をしているのかというと、神妃化を実行しとある神を呼び出していたのだ。エルヴィニアではヘルを召喚したが今回はまた違った神を現界させる。というのも先日感じられた俺を追跡するような気配、あれの正体を探らせるためにだ。
あれからまったくと言っていいほどあのような存在の気配は確認できなかった。キラやアリエスたちも気にしてはいるようだが、やはり何も感じられないようでその真相はますます迷宮入りしそうな状況にあったのだが、この予選期間中は確実に学園内の警備が手薄になる。であれば誰が考えたところで仕掛けるならこのタイミングしかない。
そう考えた俺は右手を掲げ自分の横に大きな魔法陣を展開する。
そこから膨大な魔力を放出しながら出現したのは見目麗しき一人の女性で、その首には黄金の首飾りがぶら下がっていた。
「いきなり呼び出して悪いな。事態はわかっていると思うがよろしく頼んだぞ」
俺はその女性に目もあわせずそう呟く。
するとその女性は逆に俺を覗き込むように顔を寄せてくると、笑顔でこう答えた。
「はーい、任せておきなさい。このフレイヤ様がぜーんぶ解決しちゃうわ」
そう、俺が今回出現させたのはヘルと同じ北欧神話に登場する女神フレイヤだ。色々とこの女神を呼び出したのには理由があるのだが、一番はその特性が大きな理由になっている。
というのもフレイヤは生き物の愛や感情を司る女神なので憎悪や負の感情というものに敏感なのだ。ゆえに俺たちに向けられるそういったものを観察してもらい追跡者を炙り出そうという算段でこの女神を呼び出した。
のだが。
「もうー、あなたってばなかなか私を呼ばないですもの待ちくたびれたわ」
とフレイヤはもう目と鼻がくっつきそうな距離まで顔を近づけながらそう呟く。俺はその女神をなんとか引き離し、言葉を紡ぐ。
「いいから、早く行って来い。遊びで呼びだしてるんじゃないんだぞ」
「もー、つれないわね。あの女の子達に手を出せてないチキン神妃様の手助けをしてあげようと思ったのに。主に性的にだけど」
「うるせえ!余計なお世話だ!」
困ったことにこのフレイヤという女神は愛を司っている性質上言ってはなんだがこういうセクシャルな部分に見境がない。ゆえに俺はあまり好いていない女神なのだが、今回はその性質を利用するので仕方なく起用したのだ。
「はいはいー。それじゃあ、また何かあったら連絡するわー」
フレイヤはそう言うと手をヒラヒラさせながら姿を消し空中に消えていった。
「はあ、はあ、はあ。あいつやっぱり嫌いだ………」
『だから他の神を呼べばよかったのに………。本当に主様は詰めが甘いのう』
リアからのお叱りをしっかりと心に留めたあと俺はそろそろ始まるであろう団体戦の競技会場に向かうことにした。時刻は九時五十分過ぎといったところで今から行ってもいい席はないかも知れないが、とりあえずアリエスたちの応援は行かなくてはいけないので転移を使ってその場所へ向かう。
到着してみると、そこには本当にたくさんの生徒達が詰め掛けており魔武道祭ほどではないがそれに匹敵するレベルの熱気が集まっていた。
となると当然の如くいい席になど座れるはずもないので、俺は仕方なく以前のラオのようにドームの天井付近にふわふわと浮遊しながらその会場を眺める。隠蔽術式は施してあるし俺の姿を見ることが出来るやつは誰一人いない。まあ、これではアリエスたちすら発見できないだろうがそれは仕方のないことだろう。
よーく、目を凝らしてみるとキラやエリアたちは観客席に座っているようで、もし空いているようならそこに行こうとも思ったのだが、やはりこの人口密度ではそのようなスペースはなく、大人しく空中から観戦することにした。ちなみに気温や日差しは完全に能力でコントロールしているので熱中症の心配もない。
するとどうやらもう既に試合が始まっているようでステージの中央では激しい攻防が繰り広げられていた。今回の団体戦は一年生出場は俺たちだけのようで、他学年全てのクラスプラス俺たちグループという計三十一グループの参加が見込まれている。しかも俺たちのグループは唯一の一年生ということもあり、シードに割り当てられトーナメント的にはかなり優遇されたポジションに配置されていた。
で、実際にその戦いを見ているのだが予想通りその実力はかなり低いものとなっているようだ。確かに各クラスの代表として選出されているだけあって動きは悪くないのだが、やはりアリエスたちには遠く及ばない。
結果的に昼をまたいで行われた予選であったが、実力が拮抗している対戦カードは長く、そうでない試合はわりと早く決着がつき順調に試合は消化され進んでいく。
今回の団体戦では先に二勝したほうに軍配があがるので長ければ全三試合、短ければ全二試合という構成が展開される。ちなみにアリエスたちは今回、先鋒がアリエス、中堅がルルン、大将がサシリという配置になっており、試合ごとに変更も出来るようだがそのまま突き進んでいるようだ。
アリエスたちの初戦は三年生のBクラスが相手だったのだが、アリエスの無詠唱魔術とルルンの音速を超えた剣撃によってあっけなく倒されていた。すると当然あのファンクラブなる集団から大歓声が巻き起こりアリエスたちの精神を蝕む。
ああ、これは大変そうだな……。
と、俺は屋台で買ったたこ焼きもどきを口に入れながらその試合を眺める。どうやらこの予選にお昼休憩というものはないらしく、常にそのステージでは試合が行われており、その熱気が途絶えることはない。
そしてなんやかんやで向かえた予選決勝。
当然のその場にはアリエスたちの姿がありとてつもない声援と共に右コーナーから入場してきた。対する左コーナーは、これまた当然と言うべきであろう四年生のAクラスが相手のようで滲み出ているオーラは確かに今までの生徒達とは一味違い、少しだけ興味が湧いてしまう。
では見させてもらいますか、四年生の実力って奴を。
俺はもう何個目かわからない屋台の食べ物を口に投げ込み上空からその試合を観戦するのだった。
場所は地上に移り、ステージ上。
そこにはいかにも強そうなオーラを放ってくる四年生三人の男女がそれぞれアリエスたちを睨みながら佇んでいた。
しかしアリエスたちはまったく気にしていない様子で、各々の装備を確認している。
「それじゃあ、行ってくるね!」
アリエスは魔本を左手に構えるとそのままルルンとサシリに声をかけステージ中央に向かっていく。
「アリエスちゃん、やりすぎないようにねー」
「うん、気をつけて」
ルルンとサシリはその身の心配というよりはむしろ相手方の身を案じているようで、アリエスの勝利にはまったく心配していないようだった。
アリエスはそんな二人に軽く手を振ってステージの中央に向かう。観客席にはキラたちの姿が見えており大きく手を振っている。肝心のハクは先程偶々屋台の前で見つけたときにどこに居るのか聞いてみたところどうやらこのドームの上から見ているようで、客席に座れなかったということが原因でそこにいるらしい。
ということで皆の期待に答えるべくアリエスは胸を張りながらステージに足をつけた。
すると目の前には華奢な体型をした少年が姿を現し、腰に収めていた双剣を抜き放ち、そのままなにやら話しかけてくる。
「君達が噂のSクラスか?」
「そうですけど?」
「なにやらこの学園をかき回しているみたいじゃないか。僕ら四年生さえも差し置いて」
アリエスには正直言ってこの手の話はわからなかったのだが、特段気にすることなく話を進める。
「何が気に入らないのかわかりませんが、実力主義であるこの学園において実力がないものが退くのは当然です。それともあなたは私に勝てると思っているのですか?」
「もちろんだ。見ていたところ君は魔術が専門のようだから、発動される前に終わらせるよ」
アリエスはその言葉に内心笑いながら、自分も魔本を開き戦闘態勢に入る。
その瞬間、試合開始のゴングが高らかに鳴り響き会場を揺らした。
言っていた通り四年生の少年はアリエスの魔術が発動する前に決着を決めようと、猛スピードでアリエスに剣を振るう。確かにこれが実力の拮抗したもの同士ならば、このような戦法も悪くなかったのだろうが今回は相手が悪すぎた。
アリエスは顔に小さく笑いを浮かべると口をかすかに動かし、大技を叩き込む。
「氷の終焉」
それはアリエスが最も得意としている魔術で会場の上空から大量の雪と氷を叩き落した。それはアリエスに接近していた少年を巻き込んで雪崩のようにステージを埋め尽くすとその意識を一瞬で刈り取る。
以前のアリエスならば氷の終焉は一回使うだけでもきついものだったのだが、今ではオカリナとの親和性も上がり一日に十発ほどなら問題なく使うことが出来るのだ。
アリエスはくるりとその少年から背を向けると最後に一つだけ言葉を呟いてステージを後にした。
「私の魔術は普通の魔術じゃないんですよ?」
その言葉がトリガーとなり再び会場から大歓声が巻き上がった。残っている相手方のメンバーはまるで氷の終焉でも打たれたかのように顔を凍りつかせており、アリエスは今一度その光景を眺めると、中堅であるルルンにバトンタッチするのであった。
「ははは…………。あれはやりすぎだな」
俺はアリエスとルルンが無双する姿をドームの上空から観察していた。さすがに四年生といってもあの二人の実力には敵わなかったようで、ステージにはアリエスの魔術による氷とルルンの剣術による破壊痕が大量に残されていた。
ちなみにアリエスが勝利した後、交代したルルンはおびえている四年生の生徒に容赦なく剣を突きたてその実力差を知らしめさせたのだ。といっても本当に当てるのではなくわざと外すような攻撃を仕掛けており、その余波だけで圧倒するというなんとも規格外な戦闘を繰り広げていた。
まあ、これでアリエスたちの学園代表は確定し、順調にコマを進めたということになる。
俺は大きく背伸びをして、そろそろアリエスたちと合流しようとしたのだが、そこで不意に背後からあの女神が現れた。
「今戻ったわよー」
「ああ、それで今日の収穫は?」
すると俺と同じく空中に浮いているフレイヤは右手に掴まれたものをお礼差し出してきた。
「毒剣に毒矢、それに槍なんかもあるわね。それぜーんぶあの子達に放たれたものよ。威力的には別に殺すレベルのものではなかったけれど、当たれば間違いなくこのお祭りには参加できなくなるくらいのダメージは受けていたわね」
どうやら本格的に俺たちを攻撃してきているようで、何が目的かは知らないがもはや遊びの範疇を超え、犯罪クラスの事態にまで発展してきている。
「で、犯人の当たりはついたか?」
「いいえ、それはまだね。でもそれを放ってきたのはこの学園の生徒というのは確定。でも何故だか殺気は感じなかったわ」
「そうか」
俺はフレイヤの言葉に短く頷くと引き続き警戒を強めるように促しその場を後にした。
星神でも神核でもない、明らかに人間であろう存在が俺たちを狙っていることに少々疑問を持った俺だったが、いずれその正体を暴くことを心に決めアリエスたちの下へ急ぐのだった。
今回は少しだけ急ぎ足で書かせていただきました。よって大分内容が薄い箇所もあったと思いますが、そこは目を瞑っていただけると幸いです。
次回はシラとシルのタッグ戦です!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は今日中です!




