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第百八十話 集められる人気

今回はハク達が頭を悩ませるお話です!

では第百八十話です!

 バーリとの決闘を終えた翌日。

 普段通り学園に登校してきた俺たちに少しだけ困った事態が発生していた。今までと同じように俺はグラスとの朝練をつつがなく終了すると、そのまま学園内にあるSクラスの教室に向かったのだが、ここで妙なことに気がついたのだ。

 やたら周囲の目線が俺に集まっている。しかもそれは大半が女子生徒のものでどれだけ鈍感な俺でもそれが好意のものであることは痛いほど理解できたのだ。気配探知を使ってみるともはやそれは学年の垣根を越えて広まっているようでどこに行こうが観衆の目というやつが付きまとっている状況が展開されていた。

 今までも俺がSSSランク冒険者ということが知れ渡ったことによって注目されることはあったのだが、今のようなあからさまなものは少なく気配を消せばなんとか気づかれずに教室にたどり着くことも出来た。しかし現在ではどこに言っても姿を見られているという状況が続いており、気分が落ち着く落ち着かないどころの話ではなくなっていたのだ。

 さすがにこれは気分的にも良くはなかったのでしぶしぶ転移を使い教室まで移動した。

 するとそこには俺と同じような顔をしたパーティーメンバーたちが項垂れながら椅子に着席していた。


「お、おはよう……」


 俺はその光景に若干驚きながらも朝の挨拶を交わしそのまま自分の席に着いた。


「おはよう、ハクにぃ……」


 アリエスがなんとか声を絞り出すように返事を返してくる。しかし他のメンバーは顔を青くしており言葉すら聞こえてこない。

 まあなんとなく原因はわかっているのだが、一応何が起きたのかたずねてみることにする。


「皆、一体どうした?」


 その声に反応するようにシラがなんとか顔を上げ暗い表情で話し始めた。


「実はですね………。今朝から私達をしつこく追いかけてくる生徒が多発しておりましてかなり精神的にダメージを負っているのです………」


 さらに言葉をかぶせる様にキラが口を開く。


「それが一人や二人ならば問題はなかったのだが、数百人単位でこられてしまうと追い払うことも出来ず、逃げるようにこの教室に駆け込んだのだ………」


 やはりどうやらこの現状の原因は俺と同じなようで、熱烈な生徒達が執拗に追い回しているようだ。その根本はおそらく昨日の決闘がトリガーになっているようで俺だけならまだしもその被害はアリエスたちにも及んでいるらしい。

 教室の外を魔眼で覗いてみればそこには大量の生徒たちが群がっており、度々声が聞こえてくる。


「アリエスちゃん!一度でいいから顔見せてー!!!」


「あーキラ様の足に踏まれたいーーーー!!!」


「いやいや、シラちゃんとシルちゃん姉妹には敵わないだろ!」


「何言っているんだお前!もちろんエリアさんのほうが可愛いに決まってるだろうが!」


「待て、俺はルルンさんやサシリさんのように大人な雰囲気の女性も好きだぞ!」


「ハク様―!私にお顔を見せてください!お願いします!」


 とまあ、朝から完全になにかのコンサート会場のような雰囲気に包まれていた。ちなみにルルンだけは苦笑しながらも平然としており、元アイドルもどきとしての精神力を全力で発揮しているようで、何食わぬ顔で佇んでいる。

 とはいえこのままでは埒があかないので一発殺気でも放とうかと思っていたのだが、丁度いいタイミングで担任のギランが教室に到着した。


「おい、お前ら!こんなところで騒いでないで自分たちの教室に戻れ!ホームルーム間に合わないぞ!」


 さすがにここら辺は教師らしい発言を呟き、群がっていた集団をしぶしぶ蹴散らすと、そのまま微妙な顔つきで教室内に入ってきた。


「まったく、お前らも災難だな………」


「本当ですよ………。いい迷惑です」


 俺は頭を抱えながらもギランの言葉にそう返答すると体をギランのほうに向けホームルームの準備を整える。


「まあ、でもこれはわりと毎年見られる光景なんだよ」


「というと?」


「競技祭や学校行事でいい成績を残したりすると必然的に注目が集まるんだよ。その標的になった生徒はよっぽどのナルシストじゃない限り今のお前らみたいな顔をしてる」


 ということは競技祭で優勝してしまったときにはそれはもうとんでもないことになるんじゃないのか?

 と俺は恐ろしい妄想を働かせながらその話の続きを聞く。


「まあ、お前らの場合、前評判とそのルックスで巻き起こされた騒ぎだろうが、多分この騒動はしばらく続くから覚悟しとけ?しかも今回は競技祭で集めたものじゃないからそれなりに長く続くぞ?」


 うへー、それは困るな。

 見るとアリエスたちは全員先程より顔を青ざめさせており、もはや倒れてしまうのではないかと思ってしまうほど衰弱していた。おそらくそれなりに皆注目される経験はあるはずなのだが、どうやらそれとこれはまったく違うようで相当なダメージをくらっているようだ。

 するとここに追い討ちをかけるようにギランの言葉が降り注ぐ。


「あ、言っておくが今日は実技の日だからな。グラウンドには確実に出るし余計に目線を集めるだろう」


 その言葉を聞いた瞬間アリエスたちは一斉に顔を上げ抗議の声を漏らす。


「先生の鬼―!悪魔―!」


「そうです!少しくらいは私達に気を使ってください!!!」


「消されたいのか?」


 しかしギランはそんな声はまったく聞こえないような振りをしてさっさとグラウンドに向かって行ってしまう。


「これも経験ってやつだ。せいぜい苦労するといい、若者よ」


 いやいや、あなただって十分若いですよ!?というか歳の話をしだしたらキラとかルルンははっきり言って老齢とかそういう次元超えてますから!!!

 としてはいけない想像を働かせていると、俺の両肩に手がポンっと静かに置かれた。


「何か今失礼なことを考えなかったかマスター?」


「うん、私も直感だけどそんな気がしたよ?」


「い、いえ、そ、そんなことは決してありません………。はい、絶対に……」


 怖い!怖すぎるよ!というかなんで考えてることわかるの!?二人とも読心能力でも持ってたっけ!?

 俺はその二人から逃げるようにグラウンドまで一人で転移を実行した。


「あ、ハクにぃ、ずるい!」


 アリエスが俺に対して悲痛な叫びを上げるが、今は俺の命を優先するほうが先決なのだ。でなければ俺はこのままこの二入にどんなことをされるかわかったものではない。

 すまない、アリエス!

 心のなかでそう叫ぶとつつがなく転移を完了させ一人でグランドについたのだった。しかしまるで世界が忘れさせないようにしているかのように、先に授業を開始していた生徒達が俺を発見するとまたしても襲い掛かってくる。

 しかも今はギランよりも早くグラウンドについてしまっているので逃れる手段がない。


「またこうなるのかよーーーーーーーーー!!!!」


 そんな俺の悲しい声は誰にも聞き届けられることはなく、大量の生徒達にもみ消されたのだった。


『自業自得じゃ、主様………』


 ちなみに遅れてきたアリエスたちとギランは俺のそんな姿を見て大層笑っていたというのは余談である。







 結局その日の授業はいつも以上に過酷なものとなった。それは周囲の目がいつもより煌いているからということもあるのだが、それ以前に今回行われた授業がこの前の内容とまったく逆のものだったからだ。

 剣だけを使用する戦いではなく、魔術、魔法のみを使った模擬戦。

 これははっきり言って今までの順位を根底からひっくり返した。俺はこの世界の魔術、魔法というものを殆ど移用することができない。前に一度第一ダンジョンでオリジナルのものを使用したことはあるが、それ以外には使ったことはおろか使おうとしたことすらないのだ。気配創造や十二階神の力は今回も禁止になっておりまたしても苦戦を強いられる戦いとなったのだ。

 ちなみにそれはキラやサシリも同じようで根源や神格が含んだ技を使用できずやはり手を拱いているようだった。だが反対にいつもと変わらない力を発揮できたのがアリエスとエリアだ。この二人は基本的に圧倒的な魔術、魔法のセンスがあるのでむしろ完全な無双状態といっても過言ではなかったのだ。

 とはいえリーダーの威厳は守らないといけないので、何とか魔力波だけでそれらの魔術を凌ぎきるという脳筋的な発想でその場はなんとか切り抜けた。

 やはり魔術や魔法というのは使用者の魔力に依存するところがあるので俺のように膨大すぎる魔力があれば術式を組み立てずともそれなり威力を生み出すことが出来る。

 とはいえアリエスの氷の終焉(アイスインフェルノ)六魔の全能奔流(フルバースト)ははっきりいってかなり厳しかったというのは俺の正直な感想だ。二人とも時間を重ねるごとにその実力を上げていっており、リーダーとしては嬉しいことではあった。

 その後も周囲の視線は収まることを知らず、なにやら最終的にファンクラブなるものまで設立されているようで、ため息をいくら吐いても収拾がつかない事態となっており、俺たちはますます頭を悩ますことになったのだ。とはいえ悪く思われているわけではないので、気にしすぎず平然といるように心がけるように皆に促し今日の一日のスケジュールは全て消化したのだった。







 それから俺たちは各々の寮に戻るため分かれて帰路につき静まり返った道を歩いていた。当然男子寮と女子寮は別なので今は俺一人で歩いており、二年生であるグラスの姿もない。やはり学園が違うと授業が終了するタイミングも違うようで同じ時間帯に帰ることが出来ることのほうが珍しという状況のようだ。

 あれほど向けられていた周囲の目も今はあまり感じられず、一人落ち着いて寮のある方向に足を向ける。

 そしていつもグラスと朝練に使っている中庭につくと俺は不意に足を止め、おもむろに声を上げた。


「いい加減出て来い。ついて来てるのはわかってるんだ」


 そう、まるで俺が一人になるタイミングを狙っていたかのように背後からつけてきている奴がいたのだ。俺は当然気配探知を使っているのでその動きは全てわかっており、今もその隠れている場所を把握していた。

 俺がそう言葉を発した瞬間、そのストーカーもどきは慌てて姿を消し何処かに消えていった。まあ、このまま逃がすのも癪なので俺は魔眼を使用しその姿を確認する。

 するとそこに映ったのはこの学園の生徒会腕章をつけている人間で顔は見えなかったもののこの学園の生徒であることは見て取ることが出来た。


 なるほど、どうやら俺を面白く思っていない連中がまだ他にも居るみたいだな。いや、もしくはまったく別の存在が生徒会を動かしている可能性もあるか。

 俺はそう脳内で結論付けるとキラに念話を飛ばし皆の無事を確認する。

 キラからの返答はまったく問題ない、とのことだったので一先ず胸を撫で下ろしたのだが、どうやらこの競技祭は平和的に終わらないのかもしれない、と少し先の未来を想像しながら再び寮へと歩き出すのだった。


次回はようやく競技祭の予選が開幕します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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