第百七十八話 メンバー決め
今回は競技祭のメンバーが決定します!
では第百七十八話です!
結局、俺たちの初授業で最後まで残ったのはアリエスとシルであった。
この二人に関しては年齢は小さいといこともあり腕力や筋力的な面でも皆に劣っていたということもあり勝利数を稼げなかったようだ。
そもそもアリエスにしろシルにしろ、本来の力を俺以上に発揮できない環境であったため仕方がないといえば仕方がない。というのもアリエスは基本的に魔本による魔術とそれを補う形で絶離剣を使用している。今回のような魔力が一切介在しない戦いというのは元々領分ではないのだ。またシルにしてもサタラリング・バキの力を主体にしていることもあり、真っ向勝負という戦い方は苦手で、未来予知を使えない状況はかなり厳しいものになっているようであった。
とはいえそのレベルであっても他の生徒などとは比べ物にならないほど強いので、ギランにしてもどう言葉をかけていいか戸惑っている、その光景はどことなく面白かったというのは内緒話だ。
それからというもの実技と講義という一日間隔の交代授業が繰り返される日々が続いた。講義といってももはや俺以外のメンバーは超人レベルで頭がいいのでギランも特段何かを話すのではなく、雑学のような知識をひたすら開陳し続けるというシュールなシチュエーションが展開されたのだ。
まあ、たまにはということでキラやサシリが踏み込んだ内容の授業をギランに取って代わる様な形で行ったり、俺の中にいるリアが物理法則の基礎を叩き込んだりと、もう誰が教師なのかすら理解できない状況になっており、比較的わいわいと楽しい学園生活を送っていたのだった。
初めは暗い表情だったギランも最近では笑顔を見せるようになってきており、教師と生徒という垣根を越えて接することが出来るようになってきている。これが普通のクラスであれば当然このようなことにはならないのだが、お互いはぶられ者ということでなかなか気が合うのかもしれない。
ちなみに毎朝のグラスとの朝練も欠かさず行っており、ようやくではあるが俺の剣線を捉えられるようになってきたようで、成長が著しいルームメイトを見ることができ、俺としては充実した生活を楽しんでいたのだ。
で、初授業から約一週間が経過した今日。
俺たちはいよいよ来週に迫った競技祭の予選メンバーの選出を考えていた。この日は丁度講義を行う日だったのでその時間を使って決めているという流れだ。
「さて、個人戦にタッグ戦、それと団体戦。合わせて六人しか出ることが出来ないが、絶対に出たい!っていうやつはいるか?」
俺は自らの机にメンバーを集め、そう切り出した。ちなみにギランは教卓の上で爆睡している。なんでも昨日、知り合いの教師から他クラスの授業資料を作ってほしいと頼まれたらしく、徹夜でその作成をしていたようだ。そのため疲れが取りきれていないようで今日このタイミングで仮眠を取っているということらしい。本来なら教師としてあるまじき行為ではあるが、別に誰も見ていないので今はそっとしておこう。
すると俺の言葉に反応するように、メンバー全員がそれはもう空に腕が届くかのような勢いで綺麗に手を上げた。しかもアリエスに至っては両手まで挙げてしまっている。
それはちょっと古いというか、幼稚ですよアリエスさん………。
ま、まあこの光景は予想の範囲内だったので一つ咳払いをして話を進める。
「コホン、皆が出場するなら俺を抜いても一人だけ参加できなくなってしまうがそれはどうしようもないから勘弁してほしい。どの競技に参加するかは自由に決めていいぞ」
俺たちのパーティーはクビロとリアを抜かすと合計で八人だ。その中から俺を差し引いたとしても全部で七人。つまり俺と一緒に見学するメンバーが一人増えてしまうということだ。
ちなみに俺は誰も名乗りを上げなければ参加してもいいかな、という程度の気持ちしか持っていなかったのでここは皆に譲り身を引くことにした。おそらく全学園、学校が集まろうと俺のパーティーメンバーたちに敵う奴らはいない。ならば俺が出る幕はないだろう。
と、思っていたのだが。
「何を言っているマスター?マスターの個人戦出場はもう既に決まっているだろう?」
「は?」
え、なにそれ?
俺はあたかも当然のように語り出すキラの言葉に目を丸くしながら疑問符を頭に並べる。
「ですよね。ハク様は個人戦で決まりです」
それに続くような形でシラも同意の意見を示す。
「いや、だから、どうしてそう………」
「だって、ハク君がこのパーティーの中で一番強いんだから出場するのは当たり前でしょ?そこを差し置いてまで私達は出たいとは言わないよー」
俺の言葉を遮るようにルルンが言葉を紡ぐ。
いやいやいや、何故そうなる?別にこの競技祭は任意なんだから俺は出なくてもいいでしょうよ!?
と内心嘆いていた俺だったが隣にいたアリエスがこちらに振り向き最後のダメ押しを放ってくる。
「諦めて、ハクにぃ。これは私達全員の意思だから!」
なんですかその絶対強制は………。
しかもこういう時に限ってアリエスの表情はありえないくらい可愛い。もちろんいつもその顔には癒されているのだが、今回は少し小悪魔的な表情という変質的なベクトルが放たれていたため、もう頷くことしかできない。
ああ、もう可愛すぎるしょ、このお嬢様!!!
『これは落ちるところまで落ちたかのう………』
な、なにおう!?
俺は心外な言葉を投げかけてくるリアに過剰に反応し心の中で声を上げた。
『いや普通、こんなものを見せ付けられたら世の男性諸君は全員頷きますよ、ええ、そうですとも!!!』
『それが落ちたと言っているのじゃ。まったくこれならまだ元の世界に居るときのほうが眺めておれたわい』
ぐっ。
そ、それは、い、一理あるかも………。
リアは俺の中でため息を吐き出しながら両手の平を空に向けるように投げ出し、呆れていた。
むう、そういうお前も夜な夜な俺を襲ってくるくせによく言うぜ……。
とまあこのようなリアとのやり取りをひそかに終えた俺は一つ疑問だったことを皆に聞いた。
「はあ………。それじゃあ俺は出るけど、なんでまた個人戦なんだ?別にどの種目に出ても問題にだろう?」
するとこの問いに対する答えはサシリが返答する。
「なんでも個人戦が一番実力の偏りが激しいらしいのよ。他の種目の場合、他のメンバーとの兼ね合いがあるから確実な勝利を予測することは難しいけど、個人戦になれば必要なのはその個人の力だから、各学園最強の生徒を送り出してくるみたい」
へー、そういうものなのか。
まあ確かに勝ちやすさという点だけ考えれば個人戦はかなりシンプルだ。連携も他のメンバーの戦力も考えなくていい。それゆえの偏りということだろう。
「なるほど。まあそういうことなら仕方がないか………。なら他の競技はどうする?」
個人戦という枠は俺が入ったので、残りはタッグ戦と団体戦だ。団体戦ははっきり言って個人戦を連続でこなしていくだけなので、比較的考える必要はないかもしれないが、問題はタッグ戦のメンバーだろう。
タッグ戦は完全に連携を重視した戦い方をしなければまともな戦いが出来ない。というのも一人の実力者が無双するという攻め方もないではないのだが、その一人がもし何らかの方法で負けてしまうと一瞬で形勢が逆転する。また連携をまったくせず各々が相手を撃破しようと動いたところでやはり強力なコンビネーションの前には敵わないのが鉄則だ。
であればそのコンビネーションを戦闘で構築しやすいメンバーを構築しなければならない。まあ、キラやサシリであれば一人で無双したところでまったく問題はなさそうなのだが、やはりこういう場ではルールに乗っ取って動いたほうが楽しいだろう。
「そうですね………。正直言ってタッグ戦は私達姉妹に任せていただければ大丈夫だと思います。連携の練習も特に必要ありませんし」
その言葉に頷くように隣にいるシルも大きく頷いている。確かにこの二人であれば本来血の滲むような訓練が必要なコンビネーションという点は難なくクリアできるだろう。サタラリング・バキを使用すれば実力も申し分ない。
あとは皆の反応だけだが……。
「うん、異議はないよ。私も出たいけどシラとシルの連携にはどう頑張っても勝てないしね」
「むう……。そうだな、妾も一人であれば問題はないが二人となると少し不安ではある」
アリエスとキラが口を揃えてそう呟いた。どうやらその意見には他のメンバーも賛成のようでタッグ戦における選手の選出はつつがなく決定した。
「なら、残りは団体戦か。でもこれは特段これといった決定要素がないからな……。どうやって決めるんだ?」
ちなみに今の段階で残っているのはキラとサシリ、そしてアリエス、エリア、ルルンの五人だ。この中から三人を選び出さなくてはいけない。
正直言って誰が出ても問題なく優勝は確定なので、適当に決めてもらってもいいのだが、やはり全員が出場したいと言っている以上皆が納得する決め方でなければいけないだろう。
と思っているとアリエスがなにやら服の中からゴゾゴゾと何かを取り出し始めた。
「じゃーん!こういうこともあるかなって思って作っておいたの!これで決めよう!」
それはごく普通のタコ糸であり、その先端には何本か赤く色づけられているものがある。つまりこれは完全無作為抽選、つまりくじ引きということだろう。
ま、まあこれならば確かに全員の確率が平等になるから問題はなさそうだが、本当にこんな決め方でいいのか?仮にも全学園、学校が集まる競技祭のメンバーを確率に委ねるなんて前代未聞の事件だぞ、これは。
だがそんな俺に反してキラたちはやる気のようで全員がアリエスの差し出したくじ引きに手を伸ばしていた。
「それじゃあ、いくよ!…………はい!」
その掛け声と共に五人の手に各一本ずつタコ糸が握られる。だがその先端に色がついているのは全部で三つ。
結局のところそれはアリエス、ルルン、サシリの三人で、キラとエリアに至っては教室の床をドンドンと叩きながら嘆き悲しんでいた。
ああ、こういう結果になったか………。
まあ今回はキラとエリアはドンマイってことだな。
俺はその光景を眺めながら出場者名簿に名前を書き込んで聞く。ちなみにこの競技祭の予選は各クラス一グループずつしか参加できないようになっており、参加者多数の場合はまずそのクラス内で決闘が行われるようで立候補したからといって必ずしも出場できるわけではないようだ。俺たちはこのように無難な解決方法で決定したが、聞くところによると本当に各クラス決闘が勃発しているらしい。
そんなことを考えながら鉛筆を走らせていたのだが、ここで不意に教室のドアが開かれた。気づけば既に休み時間になっているようで他の生徒の声もちらほら聞こえ始めている。
なにごとか、と思い開かれた扉の方向を見つめるとそこにはいつぞかの入学式で生徒代表を務めていたイケメン君とその他ギャラリーが群がっていた。
そのイケメン君は俺のほうに真っ直ぐ歩いてくると、何かを確かめるように言葉を吐き出してくる。
「君が、ハク=リアスリオン君かな?」
俺の勘はこのとき、間違いなく面倒なことになると警鐘を鳴らしていたのだった。
次回はテンプレート的な展開を描きます!
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次回の更新は今日中です!




