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第百七十五話 初授業、一

今回は久々の戦闘パートになります!

では第百七十五話です!

 グラスとの朝練を終えた俺は一人でSランクの教室に足を運んでいた。

 というのもアリエスたちとは寮が違うため必然的にバラバラに登校することになってしまうのだ。早い話転移を使ってしまえばその道中すらショートカットすることができるのだが、朝から能力を使用する気にもなれなかったのでそのまま歩いて向かうことにしたのだ。

 グラスはなにやら仕事があるとか言って早々に学園へ向かってしまったので、今日は俺一人だけで学園に向かっている。しかしまたSSSランク冒険者だからという理由で騒がれるのはいやなので出来るだけ人目につきにくい場所を通りながら教室に向かう。

 どうやらそんな心配は奇遇なだったようで、生徒の注目は件の生徒代表君に集められており、Aクラスの前には大量の人だかりが出来ていた。

 朝からご苦労なことだ。

 俺はそれを横目に眺めながらその教室の前を通り過ぎる。時刻は既に午前八時を回っており、もう少しでホームルームが始まる頃を指し示していた。

 そうして誰にも悟られることなく教室に到着した俺はそのまま扉を開け中に入った。


「あ、ハクにぃ!」


 すると元気そうな声と共に白く綺麗な髪を靡かせたアリエスが突進をかましてきた。

 俺はいつものことなので出来るだけ優しく受け止めると、その髪を撫でながら朝の挨拶を交わした。


「おはよう、アリエス」


「うん、おはよう!」


 その後アリエスと共に自分の席に向かうと途中に他のメンバーにも声をかけておく。


「みんなも、おはよう」


 その言葉に反応するように俺のパーティーメンバーたちは笑顔を綻ばせながら返答してくる。


「はい、おはようございます。ハク様」


「おはようございます………」


「おはようございます!!!」


「うん、おはよう、ハク君」


「おはよう、ハク」


「ああ、気分はどうだマスター?」


 最後に呟いたキラが俺の様子を確認するような言葉を投げかけてくる。


「特に問題はないな。そっちはどうだ?」


「ん?こちらも変わったことはない……」


 とキラが俺の問いに答えようとした瞬間、そこに勢いよくシラが声を被せてきた。


「大有りです!キラが昨日あまりにも食べ過ぎたから私たちまで怒られたんじゃないですか!」


「な、なに!?そういうシラも妾に負けず食べていたじゃないか!」


「いいえ、私はキラの三分一も食べてませんよ。というか昨日は全員に責任があります!」


「「「「「えー」」」」」


 朝からこちらもなにやら賑やかなようで、大いに盛り上がっているようだ。おそらく今話しているのは昨日の夕食の話だろう。昨日はいつもと違うメニューが出されたとグラスも言っていたし、なにより新入生の歓迎会を兼ねていた関係で大量の料理が陳列していたのだ。そんな場所にこの面子を放り込めばどういったことになるか、言うまでもないだろう。

 地獄の厨房と化したであろうその光景を俺は思い浮かべながら、一度苦笑すると目の前にある黒板に目を移す。

 それは昨日までのボロボロなものではなく新品と言われても信じてしまうほど綺麗なものに変わっており、俺の事象の生成による効果がしっかりと見受けられている。

 するとガラガラといい音と共に帳簿の様なものを持ったギランが教室に入ってきた。


「よーし、全員居るなー。出席は面倒くさいので省略する。さっそく授業に入るぞ」


 お、おお。確かに型に囚われないのは嫌いではないが、若干あっさりしすぎじゃないか?

 まあ、この学園の授業というものを早く知りたいというのは事実なのだが、もう少し学園気分というものを味わせてほしかったというのも本音である。


「お前らにとってみればおまけみたいな教科書が寮に届いていただろうが、それは正直言って使わん。そなもので授業したところで何のためにもならんからな。そもそも単位という制度を完全に無視できるお前らにこんな陳腐な授業を展開してもおもしろくないだろう」


 まあ、そうなんですけど。

 実際昨日、部屋に届いていた教科書を持ってきているが正直ってそのレベルは入試問題の方が難しいのではないか?と思ってしまうほど低レベルなもので、聞けば一年次に使用するものらしいので当然といえば当然なのかもしれない。


「ということで、全員外に出るぞ。今日は一日中実技だ。そして明日は講義オンリー、また次の日は実技、これを繰り返していく。わかったらいくぞ、グラウンドは抑えてある」


 と言われたので、硬直していた俺たちはとりあえずその背中に着いて行くことにした。さすがに一日中この炎天下の中戦い続けるというのは過酷すぎる気もするが、今の俺たちは一介の生徒なので担任の指示には従う必要がある。

 アリエスたちも困った顔をしていたが、まあ下手につまらない授業を展開されるよりはいいということでその指示に大人しく従っていた。

 そしてグラウンドに着くと、既にそこには二クラスほど実技練習に使用しており、見ればどちらも一年生ではないようで見覚えのある顔は誰ひとりいなかった。

 するとギランは途中に寄った倉庫の中から持ってきた木剣を俺たちに渡してくる。刃渡りは俺のエルテナと変わらないくらいで、随分と使い込まれた跡が見て取れた。


「これは?」


 俺はギランにそう問いかけると自分の木剣を持ち上げ振り回した。やはり木を押し固められて作られているので、その重さはそこそこなものがあり、エルテナと遜色ない重さが手に伝わってきている。

 その言葉に反応するようにギランは歯を出しながら笑い、話し出した。


「今からお前達にはその木剣を使い模擬戦をしてもらう。その際、魔術、魔法、それに準じる力を全て使用禁止とする。また剣を加速させるような技も禁止だ。対戦の組み合わせは自由だが、全員を倒し終えた奴から上がっていいぞ」


 な!?

 ま、マジか………。

 なんとなく魔術や魔法は使ったらダメなんだろうなと思っていたが、まさか剣技まで封じられるとは………。

 まあ確かに俺の剣技はその全てが強力すぎる。それこそ木剣であろうと直撃すれば間違いなく即死コースだ。

 それをわかっていっているのかはわからないが、俺にとってそれを封じられるのはかなり厳しい戦いになることを意味していた。

 特にサシリとルルン、この二人はっきり言ってノーマルな状態で倒すのはかなり骨が折れるはずだ。いつも通り神妃化や気配創造が使えるわけではないので純粋な剣の勝負になる。その状況下でこの二人に勝つのは相当厳しいだろう。

 逆にアリエスやシラたちは完全にやる気を消滅させてうなだれていた。普段からあまり近接戦闘が得意でないので当然である。


「よし、それじゃあ始めるぞ。初めに戦いたい奴らは出て来い」


 と言われてもなあ………。

 この炎天下の中でそんないきなり戦いたいやつはいないだろう。

 そう思っていると俺の腕をものすごい勢いで掴み取ったキラが前に進み出した。


「お、おい!ちょ、ちょっと待てって!」


「ふふん、妾たちから行くぞ!このような条件下であれば妾もマスターに勝てるかもしれんからな!」


「お、ならハクとキラが初めだな」


 ギランはそう言うどこから取り出したかわからない椅子に座り、笛の様なものをポケットから取り出した。


「審判は俺が勤める。今回は腕輪の破壊ではなく、相手の体に一撃叩き込むか、俺がこの笛を吹くまで試合は続く。それじゃあ、行くぞ?」


 俺はキラに投げ出される形でグラウンドの中央に向かうと、仕方なくその剣をいつも通り中段に構えた。

 そう言えばキラと剣で戦うことは初めてだったな。

 そもそも精霊の女王様は武器を使用することはまずない。入試のときはもしかして使うことがあるかもという理由でリーザグラムを貸しておいたが、実際にその剣を振る姿は目撃していない。


「試合開始!!!」


 ギランの言葉と同時に、俺はすぐさまキラに接近する。

 どのようなスタイルを好むかわからない以上、待つのではなくこちらから攻めなければ話にならない。


「はああああ!!」


 俺は今出せる全力の力でキラに剣をつきたてた。

 だがそれはキラが無造作に差し出した剣によって阻まれる。


「なに!?」


 するとキラは笑いながらこちらに話しかけてきた。


「やはり、今ならマスターに勝てるかもしれな」


 その瞬間、寒気を覚えた俺は出来るだけ早く後ろに飛びのく。どうやらその判断は正しかったようで俺が先程までいた場所は空気が切られたかのように風が轟き、キラが笑みを浮かべて立っていた。

 は、ははは………。

 こ、これはかなりやばいかもな………。

 神妃化をしていない俺の力では精霊女王のそもそものスペックには届かないようだ。腕力だけにしても天と地ほどの差がある。型もなにもない振りだったはずなのに、あの威力だ。

 俺は冷や汗を流しながらそう考えると、再び剣を構えなおしてキラの攻撃を待った。


「では、次は妾から仕掛けるぞ?」


「ああ、来い!」


 キラは目を見開くと、そのままありえないほど速いスピードで俺に切りかかってきた。その速さは俺の目でもようやく捉えられるレベルで、その攻撃を受け止めた俺の腕は骨が折れるかと思うほどの激痛が走る。


「ぐっ!!!」


 しかもその攻撃は衝撃だけでグランドを叩き割り小さな地割れを引き起こした。

 俺はこのままではまずいと判断し、その剣をどうにかして弾き飛ばすと横一線に薙ぎ払った。


「これで、どうだ!!」


「ほう」


 だがそれでもキラは余裕の表情を崩さず、俺の剣をかわし次の攻撃につなげてくる。本来なら俺が優位に立てる剣の戦いでここまで追い込まれるのは初めてで、俺自身特段武器を使った戦闘は得意ではないのだが、それでもそれなりの自身があった。しかしここまで実力差を見せ付けられるとさすがに滅入ってしまう。


「ほらほら、どうしたマスター?いつもならこの程度の攻撃余裕で対処できるだろう?」


「う、うるせえ!!!」


 その戦闘は実力にリミッターをかけた戦いではあるものの常識を超えた速度で展開されているため、周囲で授業していた多学年の生徒達も釘付けになっているようだ。剣撃が放たれるたび、声援が沸き起こっている。

 するとキラは一度大きく剣を振り上げると、完全に勝利を確信したような顔で言葉を吐き出してきた。


「これで、終わりだマスター!」


 繰り出された攻撃は俺の剣を見事に潜り抜け、喉元に直線を描くように突きつけられた。

 だが、その攻撃を予測していない俺ではない。武器を使った戦いというのは基本的に駆け引きが大切になってくる。いくら精霊女王とはいえ一朝一夕でそれは身につくものではない。

 ゆえに完全に見切っていたその攻撃を木剣の鍔ではじき返し、こちらも最後の攻撃を放つ。


「な!?」


 その光景に驚きの色を隠せないキラであったが、その隙が命取りだ。

 俺は弾いた剣を回して地面に突き刺すとそれを足で踏みつけ、さらに深く突き刺すとその流れを維持しながら喉元に右腕を伸ばしながら木剣を突きつけた。


「悪いな、まだ主として負けるわけにはいかないんだ」


 その瞬間、ギランの笛が鳴り響きキラとの模擬戦は終了した。

 終始冷や冷やした戦いだったが、まあ偶にはこういうのも悪くはないだろう。

 俺は悔しそうなキラを連れて、アリエスたちの下に戻っていった。


 うーん、それにしてもあと六人か………。

 体力持つかな………?

 と、先行き不安な想像を膨らまし、次の戦いに備えるのだった。


次回もこの授業は続きます!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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