第百七十二話 入寮
今回は入学式の後から寮に向かうまでのお話です!
では第百七十二話です!
ひたすらに長い入学式を終え教室に戻った俺たちはギランを交え軽い自己紹介をしていた。とはいえ完全に正体はバレているので特に話すことはなく普通なら盛り上がるであろう自己紹介も淡々と終了し、話題は次の項目に移った。
「あー、それからお前達がこれから生活する寮に関してだが……」
お、来ました!
これぞ学園生活の鉄板!寮での楽しい学園ライフ!
元の世界では親元の目から離れられるという点からある一定の人気を博している学生寮だが、どうやらこの世界でもそれは同じなようで毎年大量の申込者がいるらしい。当然この学園王国に実家を持っている生徒はそこから通っているのだが、学園、学校というものがこの世界にはどこを探してもここにしかないので、必然的に遠方からの入学生が多くなるのだ。
となれば必然的に一人暮らしか寮生活を強いられるわけで、結果的に学生寮に人が集中するのだ。といっても俺たちはやろうと思えば三ヶ月くらいは宿で生活することも出来るほど蓄えはあったりするので特段寮で生活する必要はないのだが、せっかく学園に入学したのだから入ってみようということで入寮することになったのだ。
「全員、寮生活を希望すると聞いているので申請はしておいた。今日から移動しても問題ないそうだ。部屋は今から配る紙に書いてあるから確認しとけよ」
と言われて俺たちは全員その髪を手にする。
どうやら俺は男子寮の二人部屋らしく既に一人入寮しているようだ。
おお!こういうのだよ、こういうの!
学園生活では除外されたような扱いを受けている俺たちだが、寮はしっかりと普通の部屋を割り当てられているようでひとまず安心する。
しかし他のメンバーたちはそうでもないようで。
「えー、やっぱり私ハクにぃと一緒な部屋がいい!今からでも変えられないかな?」
「私達はハク様のメイドですのでこうも離れてしまうのはちょっと……」
「姉さんの言うとおりです……」
「私!毎晩ハク様のベッドに突撃してもいいでしょうか!でないと自分の欲求を抑えられそうにありませんので!」
「お、いいね!夜這いというのも悪くなさそうだよ」
「なに!エリアとルルンが行くと言うのなら妾も行くぞ!マスターは妾だけの枕なのだ!」
「うーん、私も便乗して行こうかな」
とまあ全員がわけのわからないことを口にし始めていた。本来ならここはいつも俺が突っ込むところなのだが、今回はギランがメンバーに言葉を投げる。
「馬鹿か、お前ら。女子が男子寮に侵入すれば間違いなく襲われるぞ。それでなくても退学レベルの問題になる。もちろん逆もだ」
「「「「「「「えー」」」」」」」
それは俺もまったく同じ意見で何がなんでもこちらに来させる気などない。本来ならば女子に囲まれるというのは羨ましいシチュエーションなのだろうが、こういう時ぐらいは別々に生活してみるのも悪くはないだろう。
というか夜な夜な襲われる俺の気にもなってほしい。
超絶美人な集団が夜中に忍び込んでくるなど、恐ろしいにもほどがある。十八歳チキン童貞には到底受け入れられないことなのだ。
「それと学園の支給品は寮の部屋に直接届いている。後で確認しておけ。………それと、今さらだが、この教室どうした?」
ギランが相変わらずやる気のなさそうな顔をしながらそう呟いてくる。
「というと?」
「いや、だから、この教室はまったく使われてないボロボロ部屋だったはずなのだが……。どうしてここまで綺麗になっている?」
ああ、そういうことか。
どうやらギランもそのことは承知していたようで不思議そうな表情を浮かべながら俺たちに聞いてきた。
「こちらで勝手に掃除しましたが、何かまずかったでしょうか?」
「いや、別にまずいことはないのだが………。なるほど、学園長が言っていたのはこういうことか」
正直なところ勝手に掃除をしてしまったことを心配していたのだが、どうやら問題はなさそうだ。
であればあとで事象の生成で設備も一新してしまうか。
汚れを落としたといってももとのブツが壊れ始めているので長くは持たないだろう。
すると不意にシラがギランに声をかけた。
「ギラン先生、一つ聞きたいのですが私達は一応成績トップであるはずなのに、何故このような仕打ちを受けているのでしょうか?」
その問いはもっともで現に俺たち全員が思っていたことだ。仮に俺たちの入試成績が底辺レベルだったのならこの状況も頷けるが、どうやらこの学園にはそのような制度は無いようだし、そもそもこのように隔離されるのは納得がいかない。
「ああ、そのことか。それははっきり言ってしまえばお前たちが破格過ぎるからだ」
「はい?」
俺はその答えに疑問符を並べるように変な声で問い返してしまった。
いやむしろ破格だったらもっと丁寧な扱いをしてくれてもいいでしょうよ!
「というのもお前たちは三ヶ月という短い期間しかこの学園にいない。しかも何を教えていいのかこちらが聞きたいぐらいの実力を持っている集団だ。その連中にわざわざいい施設を渡したところで無駄になるだろうという学園上層部の考えがあってこうなっている。まあ、あの学園長は反対していたが、他の役員が頷かなかったというところか。あ、それと単純に空いている教室がなかったというのもある。知っての通りこの学園の入学者数は毎年三百人だ。ゆえにそれを十等分した十個の部屋しか予め用意されていない。だからこのような教室を配給されたというわけだ」
………。
前半部分は置いておくとして、後半はまあ仕方のないことなのだろう。確かにこのシンフォガリア学園は広大な敷地を有しているが教室の数はそれほど多いわけではない。むしろ少ないと言っても過言ではなく、その大半が実技室や実験室に使われてしまっている。
ゆえに俺たちが使う教室でさえも用意することが出来なかったというわけだろう。
「それにあの上層部はお前らのことをよく思っている連中もいればそうでない連中もいるみたいだ。だから俺みたいなのが配属されたんだが………」
そう呟いたギランの顔は若干覇気がなく、声も萎んでしまっている。
「それはどういう意味ですか?」
そのギランにエリアが食いつくように話しかけた。
「お前たちは知らないだろうが、俺は相当この学園のお荷物になっているのさ。常にやる気がないだとか、仕事をしないだとか散々な言われ方をしている。まあ、そう言われても仕方のない部分もあるにはあるんだけどな」
「そんな……」
予想打にしなかった言葉がその口から飛び出したことによってエリアは自分の口を押さえて悲しそうな表情をしてしまう。
おそらくこのギランという教師の過去には何かがあるのだろう。考えてみればこの若さで王国一の学園に就職しているのだ。それなりの闇を抱えていてもおかしくはない。
しかもその闇を己という存在の劣点と考えているようで、学園上層部もそれを利用しているようだ。
その話を聞いていた俺はそのまま静かに神妃化を実行すると事象の生成を使いこの教室にあるもの全てを新品同然の状態まで戻した。
「これで問題はないでしょう。教室も他の部屋と変わらないものに直しましたし、何より先生が担当するのは俺たちなわけですから、実力において負けることがありません。まだこれでも劣等感を感じますか?」
するとその言葉を聞いていたギランは一瞬驚いたような顔を浮かべたが、すぐさま軽い笑みを見せると覇気を戻し話し始めた。
「まったく本当に規格外だな、お前たちは。いやなに俺もお前たちに教鞭を振るえることを恥じているわけじゃない。むしろSSSランクの冒険者が教え子になるというのは願ってもないことだろう」
「ならば、これからお願いしますね?」
俺は最後にそう告げると神妃化を解除し、力を抜いた。どこの世界に行っても上に立つ人間というのは色々なことを画策しているようだが、生憎と俺たちはそんな愚作に嵌ってやる気はない。
唯一学園長は俺たちに協力的なようだが、他の役員が俺たちのことをよく思っていないのであればこれまた何を仕出かしてくるかわからない。
だがまあ、ギランや俺たちのことをどう思おうが、こちらはこちらで楽しくやらせてもらうとしよう。
何せ絶対最強の能力を持つ俺に対抗できる奴などいないのだから。
そう心の中で呟いた俺は再び業務事項を喋り出したギランの話に、耳を傾けるのだった。
その後ギランから明日の日程と学園について注意を受け俺たちは真っ直ぐ件の寮に足を向けていた。
俺たちにおいて荷物と言うのは殆どなく俺の蔵に全て収納されているので、その蔵における使用権限をアリエスたちに割り振ることでその問題は解決した。
というわけで俺は今この学園の敷地内にある男子寮に向かっていた。当然アリエスたちは女子寮なので分かれて行動することとなる。なにやら名残惜しそうにしていたメンバーたちは最後まで俺に引っ付いてきていたが、俺が無理矢理引き離すとトボトボと大人しく女子寮に向かっていった。
あのままで本当に大丈夫なのだろうか?と思いはしたが、とりあえず俺も男子寮に向かわないといけないので今は考えないようにして歩き続ける。
その際ふと俺の視線は自分の右腕に注がれる。
そこには金属で作られた腕輪のようなものが取り付けられており、しっかりと俺の名前が掘り込まれている。
これはどうやら学生証のような働きをするものらしく学園にいるときは常に携帯しなければならないようだ。しかもこれは生徒間の決闘の際にも使われるようで、この腕輪を破壊すれば勝利するという独自のルールも設けられている。しかもこの腕輪はこのシンフォガリア学園だけでなく、他の学園の生徒も身に着けているようで競技祭のときもこの腕輪の破壊による勝敗決定方式が取られているらしい。
まあ、下手に気絶させないでいいというのは非常にいいことではあるので俺たちは特に異議を申し出ることはなく、大人しくその腕輪を装着した。取り外しも自由なようで外出する際は置いていくことも可能なようだ。
そしてちなみに忘れ去られているであろう留守番中のクビロはいつも通りアリエスの側にいるようで今日は一日中アリエスの髪の中に隠れていた。
まあ簡単に言ってしまえばペットのような存在になるので、学園側も文句は言わないだろう。
と、色々なことを考えているとどうやら時間というものは過ぎ去るのが速いようで、いつの間にか男子寮の前に到着していた。
この男子寮は全部で四階建てになっており、俺の部屋は三階にあるようだ。
そのまま寮の入り口に入り、階段を上りながら自分の部屋を目指す。俺の部屋は二人部屋なのでもう一人の生徒と共同で生活しなければならない。
そのパートナーとも呼べる奴と気が合えばいいのだが、如何せん俺がSSSランク冒険者ということもあり上手く関係を築けるかというと正直言ってかなり微妙なところだ。
なにせ入試の段階でさえ、あれだけ他人行儀な反応をされてしまったのだ。もはや話しかけてくれるかもわからない。
そして俺は自分の部屋を発見しその扉の前に立つと一度大きな深呼吸をした。SSSランク冒険者ともあろうものが何をしている、と思うかもしれないがそれとこれはまったく別の問題なのだ。
しかしこのまま立ち止まっていても仕方がないので、俺は意を決して扉を開け中に入るのだった。
次回は初授業が展開されます!
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