第百七十一話 入学式
今回は入学式をメインにお届けします!
では第百七十一話です!
学園内にある第四ダンジョンの視察を終えた俺たちはそのまま真っ直ぐ自分達の教室に向かった。すれ違う生徒は終始俺たちを観察していたが、それは毎度のことながらキラとサシリが威圧で追い払う。中には俺以外のパーティーメンバーに好意の目を向けている者もおり、余計に注目を集めてしまっていた。
というのもやはり俺のパーティーは美女ぞろいなのだ。正直言って俺という存在が浮いてしまうくらいに皆の容姿は端整すぎる。
その美貌は当然、学園の男子諸君あろうことか一部の女子にまでその人気は広がっているようで入学初日にしてはありえないほどの影響力を有してしまっていたのだ。
しかしメンバーはそんなものまったく気にしていないような態度で俺についてくる。
それは必然的に俺を敵視する目線に変わり、俺をSSSランク冒険者と知らないものはいつ飛び掛ってきてもおかしくないほど感情を高ぶらせていた。
とはいえやはり入学式も始まっていないこのタイミングでそのような愚行をするものはおらず、俺たちは何とか自分達の教室にたどり着く。
教室は基本的にコの字を書くように配置されており、Aクラスから順に並んでいる。その教室は決してJクラスだからといって設備が悪いわけではなく、全ての生徒が平等に教育を受けられるようにどの教室も同じ環境が整っているようだ。
で、当の俺たちの教室はどこにあるかというと。
「い、いやー、まさかここが俺たちの教室じゃないよな…………?」
俺は引きつった笑いを浮かべながら皆に問いかける。
「ど、どうかな………。あはは………」
アリエスも俺と同じような顔をしながら俺の声に返答した。
まず、俺たちの教室の場所について説明すると、それはJクラスよりもさらに離れた校舎の端の端に位置しており、はっきり言ってどの時間帯においても日の光がまったく差し込まないような立地になっており、当然ありえないくらい湿度が高い教室になっていた。
いや、まだこれはいい。
うん、この問題はどうにでもなるからな。
だが、次はどうしても納得が出来ない。
その教室の内部は率直な感想を言ってしまえば物置同然の場所で、埃は床に散乱しており蜘蛛の巣は大量に張り付き、もはやお化け屋敷といっても過言ではないような場所であった。
どのクラスも教室は一緒なんじゃないの?
と正直思ってしまうのだが、扉についているプレートには大きくSクラスと書かれているので間違いはなさそうだ。
普通、こういう展開ってSクラスだから最新の設備があるとか、もっと優遇されることがあるはずだよね………。
俺はライトノベルでそう学びましたよ!!!
と心の中で悲痛な叫びを上げているとなにやら隣からもの凄く危険な気配が湧き上がってきていた。
「………ほう、ほうほう。そういう覚悟で妾たちにこのような部屋を与えるというのなら、もはや文句はないだろう。この学園の職員全て血祭りだ!!!」
キラが根源すら滲ませて怒りを露にしている。今回は場階は完全に同意なので特に反論はしないが、慌ててのキラをサシリとルルンが宥める。
「ちょっと待ちなさい、キラ。色々頷けるところはあるけれど今は抑えるのが得策よ」
「そ、そうだよ!というかキラちゃんがここで暴れたら校舎ごと吹き飛んじゃうから!」
確かにキラが全力の根源を放てばこの学園はおろか学園王国ごと吹き飛んでしまうだろう。それもそれで面白そうと思ってしまうほど俺の心も荒んでしまっているのだが、今はもう何も言わずにその教室の中に足を踏み入れた。
「ハクにぃ、この教室どうにかできる?」
アリエスが俺に縋るような目を向けて尋ねてきた。
「もちろん。だが、今は汚れを落とすだけにしておくよ。後で何か言われるのも嫌だからな」
俺はそう言うとかつてアリエスにも使ったことがある洗浄の言霊を発動した。
「吹き荒れろ」
それは一瞬で教室内に純白の暴風を引き起こし、埃や蜘蛛の巣を巻き上げ消失させていく、ついでにくすんで汚れていた床や壁の汚れも一緒に弾き飛ばし簡単な掃除を行う。
完全に他の教室と同じような状態まで復元された部屋になり俺たちはようやくその席に着くことができた。
しかしもの自体はやはり老朽化しているようでボロボロになった机は端のほうから崩れ始めており、体重をかけるとミシミシと音を立ててしまっている。
とはいえ今はこの程度しか触れないので、俺たちはひたすら担任の教師を待つことにした。
このようなずさんな仕打ちを受けているのにしっかりと担任がついていること自体が疑問なのだが、まあそこはさすがに学園側も配慮しているのだろう。
それから十分ほど他愛もない話をしながら時間を潰していると、ガラガラという音と共に一人の人間がこの教室に入ってきた。
それは俺たちより数年上くらいの若い男性で、短く切られた髪は黒くその瞳もまた同じ色をしていた。
するとその男性教師は教卓の目に立つと俺たちのほうを向いて話し始めた。
「あー、今日からお前らの担任をすることになったギラン=マーカーだ。各自自己紹介といきたいところだが、今はとりあえず入学式が始まるから,講堂に向かうぞ」
と、なんというかまったくもってやる気のない台詞を吐き捨てたその教師は俺たちよりも早く教室を出るとそそくさとその講堂とやらに向かっていってしまった。
するとまたもやキラのフラストレーションが溜まっているようで。
「いいだろう。こうなったら教師という存在自体この世から消してやる!!!」
と力強く叫んでおり、そのキラを今度はアリエスとエリアが止めに掛かっていた。
「だから、そう言いたい気持ちはわかるけど、今は抑えてよ!」
「キラの気持ちももっともですがここは穏便に行きましょう、ね?」
もはや触らぬ精霊に祟りなし、といった状況になっているのだが、俺は一つ息を吐き出すとそのギランという教師の後をつけるように講堂へと足を運ばせるのだった。
これまた面倒なことになるのかな………。
と一人心の中で囁きながら。
講堂と呼ばれるその場所は合格者三百人との家族を含めてもまだ余裕があるほど広く、二千人は収容できるのではないかと思えるほどその会場は大きいものになっていた。
中にはたくさんの花や国旗、また多くの関係者の姿が見られ王国一といいのはまんざら嘘ではないような雰囲気が漂っていた。
当然この入学式においてもAクラスが先頭でそれから順に並んでいるので、必然的に俺たちは一番後ろの席に着席することとなった。見れば先程のギランは他の教師人がいる場所で腕を組みながら一人目を閉じていた。
おいおい、まさか入学式の途中で居眠りか?
と思ったのだがどうやらしっかりと意識はあるようで時々眼を開けながらあたりを観察しているようだ。
すると隣に座っていたエリアが俺の耳元でなにかを囁いてくる。
「あの前の壇上に座っている女性見えますか?」
「ん?ああ、見えるがそれがどうした?」
エリアが言っているその女性は俺たちと殆ど変わらないであろう歳の少女でこのような式典でも若干浮いてしまうくらい煌びやかなドレスを着ていた。
「あれはこの学園王国における王女のルピカさんです。私も一度お会いしたことはありますが、丁寧な物腰でとても優しいお方でした」
へー、あの少女がこの王国の王女なのか。
さすがは王立の学園、来賓はやはりとんてもなく豪華らしく王女殿下直々に登場するというのは俺も驚いてしまった。
するとまるで俺たちの入場を待っていたかのように入学式が始まった。
流れとしては元の世界と同じようで学園長が開会の挨拶をして、来賓のありがたーいお言葉を貰った後、学園長のどうでもいい話を延々と聞かされ、最後に生徒代表がドヤ顔を滲ませながら選手宣誓のような言葉を声高らかに述べるというものだ。
もはや俺たちからすれば殆ど聞く気がないので、正直退屈以外の何にでもなかったのだが、とりあえず起きてはいようということで、目だけは開けていることにした。
ちなみに今さらなのだが、この学園は生徒の自由性を意識しているようで制服という概念は存在していない。
俺としてはアリエスたちの制服姿を見ることが出来ないというのは非常に残念なのだが、まあ我侭を言うわけにもいかないので、いつもの服装で甘んじているというのが現状だ。
つまり今この会場にいる合格者達の服装もみんなバラバラであり比較的正装のようなものを着てはいるが統一性という点から言うとそれはまったく感じられず、むしろ目立ってしまっているのだが、これでいいという学園の方針なのだから仕方がない。
入学式の進行具合は既に学園長の長いお話まで終了しており、色々と考えているとあっという間に時間が過ぎていっていた。アリエスたちも眠そうな瞼を擦りながらなんとか睡魔と格闘しているようで意識だけはまだ残っている。
するとおそらく今年の生徒代表であろう少年が舞台上に上がった。
その瞬間、大きな拍手と若干の黄色い声が会場に木霊し、主に女子生徒達の表情がいきなり変化している。
その原因は他でもない壇上の少年にあった。
というのもその少年は俺が見ても綺麗な顔つきをしており、言ってしまえば超絶美形な容姿を携えていたのだ。容姿だけならあのジュナスよりも整っているのではないかと錯覚してしまうくらいに。
しかもどうやらあの生徒が俺たちを抜かした最優秀生徒らしく、胸を張りながら俺たちのほうを向きながら声を上げて話し出した。
「僕たち生徒一同は、この歴史あるシンフォガリア学園で多くの学を学び、社会に貢献できるような人間を目指し日々鍛錬していくことを誓います。また常に向上心を忘れず、世に恥じない力と精神力を育むことを目標に、学園での生活を豊かなものにしていくことを誓います。生徒代表バーリ=ワグナ」
その宣誓が終わった瞬間またもや黄色い声が飛びかい、もはや本当に入学式なのか?と疑いたくなってしまう光景が俺たちの目の前で展開された。
俺たちは全員が口をあけた状態で固まっており、呆けてしまっていた。
いや、あの少年が悪いわけではない。
実際、話したこともないしああいう存在をテンプレートに押しはめてしまうのはまだ早い。
とはいえあの少年を取り囲む環境が俺たちを引きつらせていた。シラとシルに至っては顔が青ざめており、エリアとルルンは完全に目線を逸らしている。
キラとサシリはまったく興味がないと言わんばかりに髪の毛を弄っており、アリエスは俺のローブに顔を埋めていた。
うーん、なんというか魔武道祭の聖剣士のときもそうだったが俺のパーティーメンバーはこのような雰囲気を受けつけないらしい。
俺はそんな両極端な風景を見ながら、早くこんな入学式終わってしまえばいいのに、とひたすら願うのだった。
次回は寮生活の始まりです!
やはりこの第五章というのは膨大なシナリオ量になってしまうようで、まだ三分の一にも到達していない状況です。作者としては早く戦闘パートを書きたいのですが、それはもう少し先になってしまいそうです。
それまでしばしお待ちください!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
 




