第百七十話 クラス発表、そして四番目の神核
今回はハクたちのクラス発表がメインです!
では第百七十話です!
シンフォガリア学園合格発表当日。
その日は入学試験があった二日前と同じように道に大量の学生が並んでおり、学園へ一直線に列を成し行列を作り出していた。やはり合格発表というのは誰でも気になるようで中には受験生ではない親御や街に住む住民たちでさえも家の外に飛びだし、その光景を見守っている。もはやそれは完全に何かのお祭りと遜色ないほどの盛り上がりを見せており、耳を澄ませばなにやら大きな声をあげているものの声も聞こえてくる。
俺たちはいつも通りの時間に起床し身支度を整え二日前と同じく転移で学園に移動した。その場所に到着してみると既にそこには大きな壁に合格者の受験番号が張り出されており、その周囲には喜びで跳ね上がっている人や反対に泣き崩れている人と様々な反応をしている受験生が集まっているようだ。
「なんか凄い光景だね………」
アリエスが俺のハクを掴みながらそう呟いた。
まあ確かに普通に考えれば定員三百人のところ五千人という数の受験生がいるので、その大半が不合格になっているはずなのだが、今は合格している人間の歓喜の声鳴り響いており、泣き啜っているものの存在が薄くなってしまっているようだ。
「さすがに申し訳なくなってしまいますね……」
エリアがそんなアリエスの隣で微妙な表情をしながら口を開いた。だがその言葉に即かぶせるようにキラが声を発する。
「何を言っている。あの者たちは単純に己の力が足りずに落とされたに過ぎない。世の中とは常に不条理の塊だ。それは戦闘でなくとも同様に作用する。それをいちいち気にしていたらこちらの身が持たんぞ」
「ええ……。それはわかっています………」
確かに俺たちにとってみれば先日の試験は楽勝以外何者でもなかったのだが、それが世界の標準レベルでは決してない。むしろ俺たちが異常なだけで他の受験生のレベルが普通なのだ。だがそこから生まれる実力差というのは時に圧倒的な隔たりを作り出す。今回はその差が大きく現れる結果になっただけで、そこに同情の余地はない。
俺はそんなエリアの頭を軽く撫でると、そのまま自分達の番号を確認しに歩き出した。
「よし、俺たちも一応受験番号を確認しに行くぞ」
その言葉に続くようにパーティーメンバーは俺の後ろから歩いてくる。群がる人を掻き分けなんとかその合格番号が張り出されている場所まで到達すると、俺たちは各々の番号を探し始めた。
というのも今回俺たちの受験番号は完全にランダムに振り分けられており、全員が連番にはなっていないからだ。ゆえに受験のときも同じ教室ではなかったし、今も同じ場所に番号が記載されてはいないのだ。
てなわけでその番号を探していると。
「あ、あったよ。私の番号!」
真っ先に見つけたのはルルンでその言葉に続くように他のみんなも同様に声をあげて言った。
「私もありました!」
「私もです………!」
「妾もあったぞ」
「はい!私も見つけました!」
「うん、私も大丈夫」
「私もあったよハクにぃ!」
絶対に合格しているということはわかっていたのだが、全員無事にその番号を発見したようで俺はとりあえず胸を撫で下ろす。ちなみに俺の番号も他の生徒と同じように黒い文字でしっかりと記載されており、合格はしているようだった。
で、こうなると晴れてシンフォガリア学園の生徒と言うことになるのだが、次は肝心のクラス発表である。
それはどうやら学園内の正面玄関に張り出されているようで、この合格発表の場所ほどではないもののそれなりに混雑しているようだ。
なんといっても学園、学校の類はクラス発表の瞬間が一番わくわくしたりするものだ。まだ知らない友人と合間見える機会であったり、元々中のいい友人とさらに友好を深めたりと、それはそれは楽しみがたくさん詰まっているのである。
俺たちはそんな期待に胸を膨らませながら、その正面玄関に足を向けた。
到着してみると、どうやらそのクラス表には入試の点数も同時に発表されているようで、その点数が高い順に暮らすが振り分けられているようだ。
一番成績のいいクラスがAクラスでそこから順にJクラスまで割り振られており計十クラスによって構成されているらしい。ということは三百人の合格者がいるので一クラス三十人程ということだろう。
ということは全員が試験において満点をたたき出している俺たちは当然Aクラスにいるだろうと考えた俺たちはその表を確認するためにその場に訪れた。
のだが。
「あれ、私達の名前ないよね?」
「ないわね」
「ない……」
「ないですね……」
「ああ、ないな」
「ないねー」
「うん、ない」
とまあ、俺たちの名前はそのクラス表にはどこにも見当たらず、はっきり言って俺たちは困惑した。であればBクラスに入っているのか?とも思いとなりにある表も確認してみるのだが、やはりそこにも俺たちの名前は記入されておらずますます俺たちは頭を悩ますのだった。
「おい、これはどういうことだ………」
俺は事態を飲み込むことができず、その後も残っているクラス表を確認していくのだがその中にも俺たちの名前を発見することが出来なかった。
おいおい、本格的に困ったことになったな、これは。
もう一度学園長に問い合わせてみるか?
と思っていた矢先。周囲をグルグルと見渡していたシルが何かに気づき声をあげた。
「ハク様………。おそらくあれではないでしょうか………?」
「ん?」
俺はそう言われてシルが指し示す場所を見つめてみた。
するとそこにはもの凄く小さいクラス表らしきものが日当たりの悪い目立たないところに設置されており、クラス番号はSと表示されているようだ。
そのクラス表に急いで近づいてみると、そこには俺たち八人全員の名前と教室の場所
そして担当教諭の名前が記されていた。
「え、このクラスって俺たちだけしかいないのか………?」
「う、うん………。そ、そうみたいだね………」
俺の問いに答えたアリエスもなんとも言えない表情をしており、この事態を受けとめられていないようだ。
というか、なんというジーザス!!!
あれほど華のある学園生活がやってくると思っていたのに、いざ蓋を開けてみればもはやパーティーで生活するのとなんら変わらない光景がそこには広がっていた。
ま、まあ華という点ではどのクラスにも劣らないかもしれないが、ここまではっきりと隔離されてしまうとさすがにくるものがある。
するとその光景を見守っていたサシリがいきなり口をあけた。
「でもよく考えてみれば、普通四年間かけて卒業するところを私達は三ヶ月で終わらせてしまうのだから、一般の生徒に合わせられるわけはないのよね」
まあ、言っていることは当たってますが………。
それでも異世界学園ものに少しでも近づけたかったわけですよ!!!
ほら、ちょっと調子に乗ってる生徒と決闘したりとか、クラスの皆を率いて一緒に何かを成し遂げたりとか、その中で可愛い女の子とお近づきになったりとか、色々あるわけですよ!!!
『動機が不純じゃのう………』
それの何が悪い!
俺は心の中でそうリアに呟くととりあえず、その場を後にし自分達の教室に足を向けた。
「そ、それじゃあ、教室にいきますか………」
「な、何をそんなに落ち込んでいるのだマスター?」
キラがそんな俺に声をかけてくるが今はその問いに反応することはせず、ひたすらその校舎を歩き続けるのだった。
このシンフォガリア学園は基本的に一階が各種実技教室、そして二階以降が学生の教室となっており、二階が一年生、三階が二年生と階を追うごとに学年が上がってく仕組みになっている。
ちなみに二日前に訪れた学園長の部屋は最上階である六階に位置しており、教師の部屋も全てその階に集中している。
というわけで俺たちは自分たちの教室がある二階に向かおうとしたのだが、ここで俺は不意にあることを思い出した。
「あ、ついでだからダンジョンの様子を確認してみるか」
この学園にある第四ダンジョンの場所は学園長から既に聞いているので足を向けることはできる。学園長も中に入らないのなら何をしてもいい、と言っていたので時間に余裕がある今、俺たちはそこに向かってみることにしたのだ。
で、この後の予定というのが、一度自分達のクラスに集まったあと担任の自己紹介をはさみ直ぐに入学式が始まるらしい。まあ明日から授業が始まることを考えれば当たり前といえば当たり前なのだが、よく考えてなかった俺はその事実に今の今まで気づいてなかったのだ。
だから、今日はあんなに大人が大量にいたのか。
よく見れば今もおそらく受験生の親御であろう人たちが学園内をさまよっており入学式の会場を目指しているようだ。
俺たちはそんな姿を横目に見ながら目的のダンジョンまで足を運ぶ。
第四ダンジョンは学園の更に裏側に設置されており、外見は第一ダンジョンに類似したものになっていた。つまり完全な洞窟型で地下に広大な空間が広がっているタイプのようだ。見るとその入り口には赤色の光を放ちながら輝く障壁の様なものが展開されており、おそらくこれが学園長の言っていた侵入防止の結界だろう。確かにそれなりの力が込められているようで、この学園の生徒にはなかなか破れる代物ではなさそうだ。
俺はその前に立ちながら気配探知を使い中の様子を索敵してみる。
するとどうやらここは第一ダンジョンよりも遥かに大きなダンジョンになっているようで、魔物の数も相当な量がいるようだ。
そして俺はとうとうその存在を発見する。
「ッッッ!!!」
「ハクにぃ、見つけたの?」
「あ、ああ。まあな……」
何が、とはもう言わなくてもいいだろう。当然その最深部に佇んでいる神核である。その気配はやはり今までの神核よりも遥かに大きな気配で全身の毛が逆立つほどの力が感じられた。
「………キラ、サシリ。あれ、どう思う?」
俺はこの中でその気配を感じ取れるであろう二人に声をかけた。
「むう………。なんというか少し変だな。エルヴィニアではあれほど感じられた殺気がまったくない。だがそれだからと言って敵意がまったくないというわけでもない」
「うん、というよりは私達を待っているような感じかしら?」
その意見は俺もまったくの同意見だった。
といいうのもキラが言ったようにその気配からはまったく殺気が感じられず殺意すら見えてこない。だがその実から出る気配には明らかに敵意というか威圧が感じられ、全力でダンジョンを死守しているといった雰囲気が滲み出ていた。
「これは星神に洗脳されていないのか?」
「いや、まだわからん。あくまで決戦のときまで抑えている可能性もある。………ただ、これは」
「ええ。………かなり苦労しそうね」
そう、やはりあの狂った第五神核が序列をひっくり返すまで神核のトップにいただけあってその力はとんでもなく、神格を操ることが出来るこの二人にさえも渋い顔をさせてしまうのだった。
俺はそのダンジョンの奥底にいる神核との決戦を想像しながら今度こそ自分達の教室に向かった。
もしかするとこの神核との戦いはかつてないほど危険なものになるのではないか、と考えを巡らせながら。
次回は入学式とハクたちの担任が出てきます!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




