第百六十七話 学園長との対談、一
今回は今後の方針について語られます!
では第百六十七話です!
全ての試験が終了し帰宅の道につこうとしていたそのとき、学園の女性職員に呼び止められ案内されたその場所は学園内でもかなり奥の方にある部屋で、その扉は他の教室とは違い重厚な扉が取り付けられている部屋であった。
黒く塗り固められたその扉には、このシンフォガリア学園の紋章の様なものが大きく描かれており、なにやら魔力の匂いまでしている。おそらくは不審者や侵入者を拒むような仕組みが施されているのだろう。何せたかが入学試験であのわけのわからないボックスを出題してくるのだ。この程度はむしろ当たり前なのかもしれない。
「こ、こちらで学園長がお待ちです……」
俺たちはそう言われると目の前の扉に手をかけ勢いよく開いた。今回学園長が何のようで俺たちを呼びつけたおかはわからないが、まあこちらとしてもダンジョンのことや神核のことを聞いておきたかったのでむしろ好都合な展開だったのだ。
入学試験を無事に潜り抜けた俺たちにすればもはや怖いものなど今は何もない。まあ、正直言うと俺は校舎を一度破壊しているのでそのことだけが気がかりといえば気がかりにはなっているのだが。
大きな音立てて開かれた扉を潜るとそこはいかにも高そうなソファーと煌びやかに輝く机が置かれており、その中央には白く長いひげを生やした高齢の男性が椅子に腰掛けていた。
おそらくあれが学園長なのだろう。
俺はそう思うとアリエスたちを後ろに引き連れその男性の前まで移動すると単刀直入に質問をぶつけてみた。
「何か俺たちに用ですか?」
するとその学園長は俺を真っ直ぐ見つめるように目を開くと、そのまま椅子から立ち上がり、言葉を発してきた。
「急に呼び出してすまない。色々とつまる話があるのだが、まずはそのソファーにかけてくれ。ゆっくり落ち着いて話そう」
右手を高そうなソファーに向けながら学園長は俺たちをとりあえず座らせるように進めた。まあ俺たちも立ち話はあまり好きではない、というか疲れるので遠慮なくそのソファーに腰を落とした。さすがにいい素材を使っているだけあってその座り心地は素晴らしくアリエスなんかは軽く飛び跳ねている。
すると急に室内に入ってきた先程の女性職員が俺たち全員にお茶を差し出し、テーブルに並べてきた。
俺はそのお茶を一口喉に長い込むと、学園長に向き直り再び質問を投げつける。
「で、俺たちを呼びつけた理由はなんですか?呼びつけられるようなことはしてないと思うのですが?」
おそらく俺という存在を抜かせば皆しっかり力をコントロールし難なく試験をクリアしている。ただ俺だけは校舎を破壊したという前科があるので正直呼び出されてもおかしくはない。のだが、とりあえずここは強気な態度を貫いておく。
甘く見られるのは後にも先にもあまりいいことではない。まして俺たちは多少の無理を言ってでもこの学園内にあるダンジョンに侵入せねばいけないのだ。であればたかが学園長に呼び出されたくらいで気後れしていては話にならない。
すると学園長もお茶を一度口に運んだ後、その白いひげに包まれた口を開き話し出した。
「そうだな、まず君達を呼び出した理由は簡単に言ってしまえば、今回の試験の結果が全員破格だったからというのが正しいだろう。正直言ってこの学園の教師を倒し、ましてやあの魔術に対策のされた木箱をいとも簡単に破壊する受験生など私は見たことがない。そのため一体どのような者たちがそれをやってのけたのか気になって呼び出したというわけだ」
なるほど。まあ確かにあの試験はそもそも突破不可能なレベルに設定されていたので、そう思うのも不思議ではない。
というかおそらくその突破できない試験にいかにして立ち向かうかというとことが評価の基準だったのだろうが、俺たちはあろうことかその全てを難なくクリアしてしまったのだ。それは目を付けられてもおかしくはないだろう。
「というわけでいくつか聞きたいのだが、君達は全員が同じパーティーに所属しているというのは本当なのか?」
学園長はソファーに思いっきり体重を預けながら俺たちに質問を投げてきた。
その体から滲み出る魔力はさすがというレベルで、俺たちのパーティーメンバーには敵わないまでも冒険者ランクで例えるならばSないしSSランクの強さは持っていてもおかしくない気配を放っている。
俺は一切気持ちを油断させずに、その言葉に返答する。
「ええ、その通りです」
「では君がそのリーダーであるSSSランク冒険者のハク=リアスリオン君かな?」
おおらくこれは必要最低限の確認事項なのだろう。淡々としたやり取りが空間に木霊する。
「そうですが、何か?」
すると学園長は嬉しいやら悲しいやらよくわからない複雑な表情をしながら話し出した。
「なるほど、やはりそうなのか。ならばあの試験結果も頷ける。件の朱の神が引き連れるメンバーであれば、むしろあの程度の試験は温かったのかもしれないね」
まあ、実際その通りだしキラやサシリはその試験に対し大いに不満を持っていた。まあ、だからといって試験全体のレベルが低かったかと聞かれればそうではないだろうし、俺たちが突出した実力を持っていただけだろう。
「俺たちにすればそうかもしれませんが他の受験生達はかなり苦戦していましたよ?」
「ああ、むしろそれが狙いだったのだが、君達には通用しなかったからね。学園側からすれば喜んでいいのやら悔しいのやら、正直言って微妙だったのだが君達がSSSランク冒険者のパーティーともなれば当然の結果なのだろう」
そう言うと学園長は一度言葉を切り、再びお茶に口をつけた。
俺はその間にメンバーの様子を確認してみるが、一応話は聞いているようで、しっかりと目を見開いていた。若干ルルンが眠そうにしていたのが気になったがもう少し耐えてもらうことにする。
「で、なのだが。私はそのような力を持つ君達が何故この学園を受験したのか、ということがまったくわからないのだ。ああ、特段受験してはいけないということではないのだが、もはや君達にはこの学園で学び取ることがあるかと言われてしまうと疑問に思ってしまったのでね。そこのところを聞かせてもらえないだろうか?」
学園長はそう言うとソファーから背中を離し背筋を伸ばすと真っ直ぐ俺を見つめてそう呟いてきた。
俺は一応パーティーメンバーに目配せをして話していいか確認を取る。ことは神核という人類の守護者と星神のイメージをことごとく破壊するものだ。おいそれと話せる内容のものではないし、話したところで耳を貸してくれる可能性は間違いなく低いだろう。
ということでアリエスたちに目で聞いてみたのだが、全員問題ないという返信が返ってきたので掻い摘んで話すことにした。
俺は自らのローブから神核の鍵を取り出すとテーブルに並べる。
「俺たちは各地にあるダンジョンに侵入し、その中にいる神核を討伐しています。ここに並べたものは全て神核だったものです」
「なに!?し、神核を倒したというのか?」
学園長は俺が差し出した宝玉をまじまじと観察しながら驚きの声をあげた。まあ、神核は普通にダンジョンを攻略しても滅多に会えるものではないので驚くのも無理はない。
「神核は本来なら人類の守護者をして機能しているはずの存在です。ですが俺たちが出会ったときは全て俺に敵意を向けてきており、危険と判断したため討伐しました。そのため今回の第四ダンジョンもその危険性があると思い、学園王国のシンフォガイア学園に入学したという次第です」
俺は簡単にそう述べると軽く息をつき言葉を切った。本当ならばそこに星神や使徒たちの話題や俺という存在の話が絡んでくるのだが、それは今話したところで余計な混乱を招かせるだけなので割愛する。
「む、むう………。そ、そういうことだったのか。ということは君達の目的と言うのはこの学園にあるダンジョンの神核討伐ということでいいのかね?」
「ええ、平たく言えばそうですね」
すると学園長はさらに困ったような顔を俺に向けて言葉を紡ぐ。
「事態は了解した。君達という強力な存在がこの学園にやってきたことも神核と戦うということなら納得できる。…………しかしなのだが、そこにはいくつか問題が生じてしまうのだ」
「問題?」
俺たちパーティーは同時に首をかしげその言葉に聞き返していた。
「ああ。というのもあのダンジョンに潜入できるのはこの学園を卒業のための試験、つまり卒業試験のときにしか入ることが出来なくなっているのだ。それはこの私でも変えることができず、正直今まで手をこまねいてきているのだが、それゆえこのような事態になったとしても入ることができない。というのもダンジョンの入り口には初代学園長が張った強力な結界があって中に入ることができないのだ」
な!?
ま、まじか………。
と、ということは卒業するまでの間俺たちはこの学園にずっといなければいけないとうことになってしまうのか?
卒業試験でそのダンジョンに潜入できると言う話は前々から聞いていたが、それでもある程度事情を話せば問題ないとも思っていたのだが、どうやらそれすら出来ないようだ。
するとアリエスが隣で俺の服を引っ張ってきた。
「ハクにぃだったらそんな結界、絶離剣で破壊すればいいんじゃないの?」
ま、まあつぃかにそういうことも出来なくはないが、あくまでこの学園の持ち物なので簡単に壊してしまってもいいものなのかわからない。
「その結界は破壊してもいいのでしょうか?」
「いや、さすがに壊されると少し問題が出てくる。あの結界は無謀にもダンジョンに入ろうとする生徒の侵入を防いでいるものでもあるのだ。しかもその結界の術式はかなり昔のものもう一度張り直すことができない。だからできれば破壊というのは止めてほしいというところだ」
ならばアリエスの案は却下だ。
しかしこれといって他に思いつく案は見当たらない。
うーん、どうしたものか。
と思っていると学園長が何かを思いついたように言葉を発してきた。
「うーむ、これは一つの妥協案なのだが、本来この学園の卒業はどんなに早くても一年は掛かってしまう。これはカリキュラム的な問題と言うよりはそういう規則があるのだ。だがそれはある程度私の権限で縮めることが出来る。できたところで最短三ヶ月なのだが、これでよければこちらで手続きをしておこうと思うのだが、どうかな?これ以上縮めてしまうと結界が作動して入れなくなってしまうので、これが限界なのだが……」
三ヶ月か………。
まあ、第五神核はどうやら星神に操られることはないようだし、問題があるとすればこの第四神核なのだが俺たちが学園にいれば仮に襲い掛かってきても対処は出来る。さすがに一年というのは長すぎるが、三ヶ月なら妥協ラインではある。
俺はもう一度みんなに確認の目線を送り反応を待つ。すると皆それでいい、と言った表情を返してきたので俺は学園長に向き直り承諾の意思を示す。
「ではそれでお願いします。俺たちも学園生活というものには興味がありますので」
俺がそういうと学園長は満足そうに頷き言葉を繋いだ。
「そうか、それはよかった。ではそのように手続きを進めよう。我が学園もSSSランク冒険者が入学するという事態は誇らしいことだからな。実に嬉しい気分だ」
というわけで大方話がまとまったところでそろそろ帰ろうとしたとき、不意に学園長が言葉を投げかけてきた。
「では、私がその融通を利かせる代わりと言ってはなんだが、一つだけ私の頼みを聞いてくれないだろうか?」
「はい?」
俺は浮かせ始めていた腰を空中で止めると再び学園長の顔を凝視した。そこには明らかに楽しんでいるような笑いが浮かんでいる。
「一ヵ月後に行われる全学園対抗競技祭に出場してくれないだろうか?」
その言葉はまたしても俺たちの理解を超える発言だった。
次回はちょっとした日常回になると思います!
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