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第百六十五話 入学試験、四

今回は魔術、魔法試験に入ります!

では第百六十五話です!

 結局俺が実技試験において校舎を瓦解させたあと、一応処理は任せるとはいったもののさすがにあのままはマズイだろうと思い、万象狂い(リライクラス)でその破壊痕を跡形もなく消しておいた。

 まあ試験官が全力でやれといったのだから受験生である俺に非があるといわけではないのだが、それでもやはり目覚めが悪いので校舎だけは直しておくことにしたのだ。

 その光景も同時に見ていたほかの受験生たちはあんぐりと口をあけていたが、まだ俺がSSSランク冒険者ということは気づかれていないようで、ただの怪力馬鹿と思われているらしい。

 試験官の教師はその後おずおずと俺の成績を用紙に記入し、そのまま試験を再開した。しかしその顔は明らかに青く、冷や汗が止まっていない。おそらく今目の前で起きた現象を受け止め切れていないのだろうが、それでも試験を続けられる根性は見かねたものがあるようだ。

 さすがにあれほどの被害を校舎に出してしまうと怒られるかとも思ったのだが、直ぐに修復したせいかまったく騒ぎ立てられることもなく無事に俺の試験は終了した。

 のだが、ただ一名だけその状況に納得していないものがいた。

 それは当然。


「お、おい君!今のはどういうことだ!」


 そう、あの自信満々に教師と戦っていたAランク貴族君である。

 何が気に入らないのか知らないがその貴族君は唯一正気なようで、俺に食いかかってきた。


「どういうこととは?」


「だから何で平民ごときの君があの先生を倒せるんだと聞いている!平民の君が僕よりも強いわけがないだろう!」


 はあ?

 まったくもって筋が通ってないことを言い出す貴族君に俺は思いっきり眉を顰めいぶかしんだ表情を向けた。

 というかそれを言うんだったらおそらくSSSランク冒険者全員平民出身だと思うのだが………。


「言っている意味がわからないが、それならばあの教師だって平民だろう。その平民がお前を倒したのは問題ないのか?」


 俺は貴族君を目を細めてにらみながら若干威圧を放つ。殺気ほどではないが多少の効果はあるはずだ。

 それは案の定クリティカルヒットしたようで貴族君の顔から大量の汗を流し始めている。


「ぐっ!そ、それはあの人は冒険者だからいいのだ!それに元とはいえAランク冒険者なんだ、あの人はもはや僕の中では平民ではない!」


 あー、そうですか。

 もはや俺は完全にこの貴族君に対して興味をなくし面倒くさくなったので、自分の冒険者カードを見せ付けることにした。


「あー、そうかい。だったらこれをよく見とけよ」


「い、いきなりなんだ………。こ、これは冒険者カード?なになに………、冒険者ランクSSSランクだと!?」


 俺は驚いている貴族君からそのカードを取り返すとそのまま控え室になっている教室に足を向ける。


「これで文句はないな。それじゃあ」


「お、おい!ま、待て!」


 これを上げる貴族君に俺は手を軽く上げその場から退散すると、どうやらその後ろではさすがに冒険者カードを見せたこともあり俺の正体に気づいたものが出てきているようだ。


「な、なに!?あ、あいつSSSランク冒険者だったのか!!!」


「や、やっぱりどこかで見たことがあると思ったら昨日のパレードにも出てたハク様よ!!わ、私こんな近くにいたのに気づかなかったなんて恥ずかしい………」


「マジかよ………。まさか本物の朱の神が入学試験を受けに来るなんて………。これは終わったかな……」


 いやいや、まだ諦めるの早いから!

 そんな憂鬱にならないで!

 俺は自分の存在が予想以上に受験生の皆にダメージを与えていることに気づき内心凄く申し訳ない気持ちになってしまった。

 とはいえこうなった以上、どういった言葉をかけていいのかわからないので俺はすぐさま元いた教室に移動したのだった。








 教室に着くと既に俺の噂は広まっているようでその扉を開けた瞬間、大量の人が転がり込んできた。


「おわああ!?」


 俺は咄嗟に身構えてしまうが、そんなものお構いなしに受験生達は目を輝かせながら詰め寄ってくる。


「あ、あの!本当にハク様なんですか?昨日、お見かけしたときには君の毛が黄色だったような気がするんですが……」


「ハク様、ハク様!私、サインほしいんですけどいいですか?」


「お、俺もほしいです!」


 何故かいつの間にか歳も大して変わらない連中から様付けで呼ばれるようになっており、改めてSSSランク冒険者の知名度の高さを実感してしまう。

 いや、別に俺が望んだことではないのでむしろ止めてほしいくらいなのだが、ここまで騒ぎ立てられている以上、もう引き返すことは難しいだろう。


『ふふふ、人気者じゃのう主様?』


『お前、絶対に褒めてないだろ』


『さあのう、それは主様の想像に任せるのじゃ。にしてもこれは私の世界では絶対に味わえない空気じゃろう?ならば楽しんでおくのも一興じゃぞ?』


 まあ、確かにそうなんですけどね。

 元の世界の俺はどちらかといえば比較的暗いほうで、今の今までモテたことや告白されたことなど一度もなく、運動も勉強もあまり出来るほうではなかったので華のない学校生活を送っていたのだ。

 神妃の力が宿ってからもその力を使うわけにもいかないので依然状況は変わらず。まさにグレーカラーな生活を送っていた。

 それに比べれば今の状況は確かにに喜ばしいものかもしれないが、注目を集めるというのもなかなかに疲れるもので、現に俺はもの凄くこの集団から離れたいと思っているのだ。

 すると扉の前で右往左往している俺の後ろから、試験を全て終えた試験官の教師が部屋に入ってきた。


「お前ら、何をやっている!席に着け!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺に群がっていた集団は砂を吹き飛ばすかのように散っていき各々の場所に戻っていった。


「ほら、お前も戻れ。次の試験の説明をする」


「あ、はい」


 どうやら今は気持ちの整理がついているようで、その教師は落ち着きを取り戻し俺との会話も成り立っていた。もしかすると俺がSSSランク冒険だということが既にこの教師にも届いており、その結果納得したのかもしれない。

 という想像を働かせながら、俺も自分の席に着席する。


「えー、これにて近接戦闘の試験は終了だ。一部アクシデントもあったがとにかく無事に終わって何よりだ。では次の魔術、魔法試験だ。席に着いたばかりで悪いが、他の受験生がつかえているのでさっそく会場へ向かうとしよう。今回はこの学園の魔術競技場で行う」


 そう教師が言った瞬間、周囲からざわめきが巻き起こる。俺は何のことかわからなかったが、小耳を立てているとどうやらその競技場は最新の魔力設備が整っているらしく、世界でも有名な場所なのだとか。しかもその競技場は大小合わせて五つ、この学園にあるらしく魔術、魔法試験はそこで行われているようだ。

 俺たちはすぐさま立ち上がるとその教師の後を付けていった。

 この感じだと俺たちのグループは大分進行が早いようで、夜まで試験が掛かるということはなさそうだ。

 またしても長い階段を降り、広大な敷地の校舎を歩いていくと急に開けた場所に辿り着いた。

 そこはドーム状の大きな闘技場の様なものが五つ建てられており、見たところその中央にある会場が一番大きいようだ。

 するとその瞬間、中央の会場からとてつもない力が湧き上がると、送れて爆風と轟音が鳴り響いた。それは虹色の光を発しているようで、空高く打ちあがった後軽く爆発を起こし消滅した。

 張り切っているなー、キラの奴。

 俺はその現象を引き起こした張本人を頭に思い浮かべつつ、さらに足を速めた。おそらくあれでも手を抜いているのだろうけど、俺と同じく周りに甚大な被害をたたき出す勢いで力を行使しているようだ。

 ついでなので俺は気配探知を広範囲に広げ仲間の場所を探ってみることにする。するとどうやらアリエス、エリア、ルルンは先ほど俺たちがいたグラウンドにいるようで、シラとシル、そしてサシリはまだ教室で待機しているようだ。

 それを確認すると俺は案内された競技場の中に足を踏み入れその中を観察する。

 そこには多数の魔方陣が幾重にも張り巡らされており、もはや誰のものかもわからない魔力が蔓延していた。中には何かの触媒のようなものや、魔本も浮かんでおり、まさしく魔術の研究機関というようななりをしている場所で、仮にこの会場がドーム状になっていなければ完全にホラーハウス化していそうな内観である。


「では今から試験内容を説明する。今目の前に浮いている魔法陣が大量に掛かっているボックスがあるだろう?あれを自身の最強魔術、もしくは魔法で壊すのがこの試験の内容だ。放てる回数は一回限りで、それ以上の制限はない。仮に壊せなくても傷をつけるとか、ひびを入れるとかでも問題はない。ただし壊したほうが当然評価は高いがな」


 そう言われて俺はそのボックスとやらを見つめてみる。

 それは各属性の魔方陣が何十にも掛かっている木箱のようで、その表面にもなにやら起動式のようなものが深々と刻み込まれていた。

 ようはあれを一発の攻撃で叩き割れということなのだろう。


「よし、さっそく試験を開始するぞ。先程と同じように受験番号順に実施していく。では一番、前に出て来い」


 すると先程近接戦闘試験のときも初めに出てきていたピンク色の少女が勢いよく飛び出した。


「はい!よろしくお願いします!」


 その少女は今回も元気のいい挨拶をすると、両手を前に構えて魔術を詠唱し始める。どうやらそれは大分強力なもので詠唱式も長く時間が掛かっていた。

 アリエスたちやエリアの魔術を見ているせいで忘れがちになってしまうが、魔術、魔法というのは詠唱を唱えなければ本来発動するものではない。技名だけ叫んで発動できるほうが珍しく、誰もが憧れるものなのだ。

 アリエスたちは魔本や持ち前のセンスで難なく発動させているが、それは世間一般では神業クラスの出来事で普通は出来るものではない。

 よってこの少女も詠唱を唱えているわけだが、その文がやたら長い。すると次第に魔力が集まり出し、巨大な魔法陣を形成する。色から察するにおそらく炎魔術だろう。魔法のレベルの魔力は感じられないので確定だ。


火の不死鳥(フェニックス)!!!」


 その技は魔武道祭で俺と戦ったルタヤが使っていた技だが、あのときと比べると技の制度も魔力量も格段に下で、その魔術を存在させておくので精一杯というような感じだ。

 ちなみにあの時戦っていたルタヤやハルカも魔術の詠唱は必要で、あのときは詠唱の貯め置きをしていたものを発動していたのだ。基本的に魔力は体内に宿っているものなので何かに貯めておくことはできないが、詠唱ならば直接力に関係ないので問題なく貯蔵できるのだ。とはいえ何個も貯めることは出来ず、精々一個や二個といったところが限界だろう。さらにその上から普通の詠唱や省略詠唱を重ねがけすることも可能で魔武道祭のときは皆このような手段を取っていた。

 なお今回はその詠唱からも評価するということだったので、あの少女は詠唱から魔術を発動したのだろう。

 しかしその火の不死鳥(フェニックス)はボックスに直撃すると、何かに潰されるような形で消滅し、傷一つつけることは出来なかった。


「よし、もういいだろう。下がっていいぞ」


「は、はい……。あ、ありがとうございました……」


 少女は息を切らしながら、その場から下がると再び教室に戻っていった。

 やはり今回もこの試験の難易度設定はかなり高めに設定されているようで、壊すことはおろか傷をつけることすら難しそうであった。


 だが俺は口に軽い笑みを浮かべその箱をどの様に破壊しようか悩んでいた。

 SSSランクとばれた以上もはや遠慮などいらない。

 いずれ回ってくる自分の番を楽しみにしながら、俺はその他の受験生の試験が終わるのを待ったのだった。


次回は入学試験の全日程が終了します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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