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第百六十四話 入学試験、三

今回は最後にハクの無双パートが入ります!

では第百六十四話です!

 実技試験はこのシンフォガリア学園のいたるところで行われているようで、俺たちの試験場にたどり着く間も威勢のいい声がいくつも聞こえてきていた。

 俺たちは教室のある五階のフロアから階段を伝って一階まで下り、そのままグラウンドの様なところにたどり着いた。そこには既に多くの受験生が詰め掛けておりなにやら多種多様な武器を構えているようだ。


「ではこれから実技試験を始める。最初は近接戦闘の腕前を測る試験だ。順番に全力で俺と戦ってもらう。その実力をこちらで判断して点数をつけるから手を抜いたりしないことだ。また今は魔術、魔法の類は禁止とする」


 ほう、ということは俺はあの教師を倒せばいいというわけか。

 確かに俺たちの担当教諭であるあの男はかなり鍛えられた体つきをしており、それこそ大剣を軽く振りまわしそうなイメージが簡単に出来てしまうほど肉付きのいい体格をしていた。

 また当然だか近接戦闘の試験なので魔術や魔法は使用できないようだ。これは当たり前だろう。

 その言葉を聞いた瞬間青ざめるものもいれば、逆に闘志を燃やすものまでおりその表情を見ているだけでもそれなりに面白そうなのだが、ここでなにやらボソボソと話し声が聞こえてきた。


「おい、あの先生って元Aランク冒険者なんだろう?これは勝つなんて思わないほうがいいんじゃないか?」


「ああ、しかも全盛期はそこそこ名を轟かせていたらしい。まずは一刀当てることを優先したほうがいいだろうな」


「えー、これは私、運がなかったかなー」


 これまた新事実発見。

 どうやらあの教師は元Aランク冒険者らしい。元ということはその冒険者資格をギルドに変換しているのだろうが、それでもその実力派折り紙つきということだろう。


「よし、それではさっそく始めるぞ。受験番号順に前に出てこい」


 俺の受験番号は全体的に見てもかなり後ろになるのでまだまだ先になりそうだ。

 で、注目の第一挑戦者は薄いピンクがかった髪の毛を揺らす中学生くらいの女の子だった。右手にはレイピアを構え、軽めの防具を装備している。おそらくは一撃の重さよりも攻撃のスピードを重視した戦い方をするのだろう。所謂シーナやルルンタイプだ。

 その少女は長剣を構える試験官の前に同じく剣を抜いて立つと気合の入った目で見つめながら、大きな声で挨拶した。


「よろしくお願いします!」


「ああ、どこからでもかかってくるがいい!」


 その瞬間、少女は勢いよく地面を蹴り試験官である男に飛び掛る。初めはどうやら搦め手は使用せず正面から攻撃を仕掛けるようで、丁度目の前まで接近すると素早い手つきで五連続の突き技を放った。


「はああ!」


「ふん、甘いぞ」


 だがその攻撃は見事に重そうな長剣をもつ教師に弾かれ、大きく体をそらしてしまう。


「くっ!?」


 少女は慌てて体勢を立て直そうとするが、その隙を逃すほどこの試験は甘くないようだ。

 その攻撃を弾いた試験官はすぐさま少女の背後に回り腕を掴むと、そのまま地面に押さえつけ、喉元に剣を当てた。


「よし、これで終了だ。下がっていいぞ」


「は、はい……」


 その後拘束を解いたその男性は近くにおいてあった成績記入用紙のようなものに数値を記入していく。一方負けてしまった少女のほうは明らかに意気消沈とした態度でこちらに戻ってきていた。

 まあ確かにあれほどあっけなく負けてしまえば誰だってそうなってもおかしくはない。なにせ試合が始まって三十秒とたっていないのだ。その一瞬の時間で今まで積み上げてきたものを壊されると思うとさすがにショックだろう。

 俺はその少女を横目に見ながら次の挑戦者の試合を観察する。

 仮にこの試験が予め勝てないことを想定して作られていたとすれば、今戦った少女も善戦したことになるかもしれない。試験官を倒すことが目的ではなく本当にその実力を示すだけ、というパターンも今なら十分考えられるのだ。

 というわけで俺はしばらくその試合をずっと眺めていることにし、集中しながら見守っていたのだった。






 三十分ほど経過した現在。

 いまだに試験官であるあの男性に一矢報いたものは誰一人としていなかった。

 皆、一番初めに挑んだ少女のようにものの数十秒で決着がついてしまい全て敗退してしまっている。ここまでくれば間違いなくあの試験官のレベルがオーバー火力なのだろうが、ここまで綺麗に蹴散らされてしまうと、さすがになんだかあまりいい気はしない。

 別に自分の席まで譲って勝たせてあげたいというわけではないのだが、呆気なく散っていくその様はあまり見ていて気持ちのいいものではなかった。

 と思っていた矢先、ここであの貴族君の番に回ってきたようだ。

 その貴族君は華麗に自身の剣を抜き放つと、その試験官の前にゆっくりと歩いていきその目の前で剣を構えた。

 するとその様子を見ていたほかの受験生が口々に騒ぎ始める。


「お、おい、あいつもしかして『激流剣』じゃないか?」


「あ、ああ。貴族なのに冒険者をやっていてこの間Aランクに昇格したっていうやつだろ?」


「ま、マジかよ!こ、これならあの先生も倒せるかもしれないぞ!」


 へー、あの貴族君Aランク冒険者だったんだ。

 俺とあんまり歳も変わらないだろうに、よほどセンスがあると見える。

 だが、それならなぜあんな動きにくそうな服装で戦うんだ?

 奴が着ているのはれっきとした貴族の正装ではっきり言ってしまえばその硬い材質の服は戦いには完全に不向きな格好だった。

 俺はよく事態を理解しないままその試合を眺める。

 するといきなりその貴族君が試験官である男に話しかけた。


「先生は元Aランク冒険者だそうですね」


「ん?ああ、そうだが………。なるほど、ということはお前が噂のAランクの受験生か。これは期待できるかもしれないな」


「ええ、僕の実力を見せてあげますよ」


「ほう、では来るがいい。その噂の力見せてみろ!」


 お互いがお互いの意思を確認しあったそのタイミングでその貴族君が教師に攻撃を仕掛けた。確かにその動きは今までの受験生とは比べ物にならないほど早く、すぐさま試験官の背後に回りこむと、そのまま喉元目掛けて剣を突き立てた。


「はああああああ!」


「ッ!?」


 どうやらさすがにその試験官もこの動きのスピードには予想外のようで、明らかに驚いた表情をしながらその攻撃を右手の剣で振り向きながら防ぐ。

 ぶつかり合う攻撃はグランドの砂を巻き上げ大きな風を呼び起こした。それは周囲で観察していた俺たちを襲い何人か吹き飛ばしてしまう。

 だがその二人はそんなこと気にしている様子はなく、ただひたすらに剣を打ち続けている。鳴り響く金属音は高らかに鳴り響き、周りで試験をやっている他の受験生の目も集めているようだ。

 俺はその闘いを見ながら腕を組みただ呆然と立っていた。

 まあ、悪くはないがやはり俺たちの戦いに比べるとねえ………。一段どころか、数十段落ちるというか………。

 そんなことを俺が考えていると、試合はそれなりに激化しているようだった。


「はっ!」


「だりゃああ!!」


 何度も繰り出される攻撃は徐々にお互いの体力を削っていき体に傷を作っていく。本来ならここまで実力が拮抗しているというだけで合格してしまいそうなものだが、当の教師がかなりやる気になっているようで決着がつくまで続けるようだ。


「やりますね……」


「それはお前もだ」


「ですがこれで終わりです!」


 すると貴族君は大きく一度後退すると剣を振りかぶって全力で突進していく。そのスピードは今まで見た中で一番速くここにいる大半の奴が目に捕らえることすら難しいレベルのものだった。

 その攻撃は真っ直ぐ試験官に向けられており、そのスピードに教師である男性も一瞬だけ驚き反応が遅れてしまう。


「もらいました!」


 貴族君はその様子を見て勝利を確信した顔を浮かべ切りかかる、のだが。

 その瞬間笑っているのは貴族君だけでなく相手の試験官の教師も同じような顔をしていたのだ。


「確かにお前は強いがまだ経験が足りないな」


 そう言うと突き出された剣を根元で払いのけるように弾き飛ばすと、体勢を崩した貴族君の喉元に剣を突きつけた。


「いい腕だ。学園に入学することができたらまたやろう」


「…………ええ、今回は僕の負けですが、次は負けません」


 と、その瞬間このグランド中から大きな拍手が巻き起こった。それは二人の戦いを賞賛するものばかりで、他の受験生さえも手も叩いて褒め称えている。

 その後二人はしっかりと握手を交わし、試験を再開するのであった。

 なんか、ここまで盛り上がると次の人ってやりづらいよね……。

 と思っていると、ここでまさかの事態が発生する。


「よし次は四十七番。前に出てこい」


 その番号は間違いなく俺の受験票に記載されているもので、俺の予想ではもう少し後になるものだと思っていたのだが、どうやら欠席者がいたらしく繰り上がって俺の番になったようだ。

 うへー、この状況で戦うのかよ。

 と内心思いつつも、俺はエルテナを抜きその試験官の前に移動する。

 するとその試験官の男性が申し訳なさそうに言葉を投げかけてきた。


「今のような戦いをする必要はない。むしろ今の戦いが常識はずれだったのだ。しっかりと全力でぶつかってくればしっかりと評価するから気後れするなよ?」


 まあ普通の奴が今の状況で挑むのであれば、そういう言葉もあるのかもしれないが、あいにく俺はそこが普通ではない。まして公言してはいないがSSSランク冒険者なのだ。今は神妃化をしていないので気づくものはいないだろうが、それでも俺をあんな貴族君と一緒にしてもらったら困る。


「そうですか、では遠慮なくいかせてもらいます。ですがおそらく俺は勝ちますよ?」


 俺は少しだけ笑いながらそう呟くと、エルテナを右手に構え距離を取った。


「ははは、いい冗談をいうじゃないか!ではその実力とやらを見せてくれよ?」


 と俺に言葉をかけてくる試験官ではあったが、明らかに先程とは構え方も気配の入れ方も温く、油断の色が色濃く見て取れた。

 周りにいる連中も俺のその態度を見て声をあげている。


「おい、聞いたか?あいつ勝利宣言しやがったぞ。あの戦いを見てまだそんなこと言えるのかよ」


「ほっとけ。ただの馬鹿なんだろ」


「で、でもどこかであの人見たような……」


 どうやら勘のいい奴は俺の正体に気づき始めているようなので、俺はそろそろ攻撃を開始することにした。


「では行きますよ?」


「ああ、来い!」


 俺はその瞬間、一瞬で試験官の目の前まで移動すると軽く触れる程度にその鳩尾に蹴りを突き刺した。


「ぐあああああああああああ!?」


 その攻撃はどうやらかなり効いたらしく、試験官は大きく吹き飛ばされる。そのまま俺はその試験官が着地するであろうポイントまで移動すると、その体をもう一度左足で蹴り飛ばし元の場所まで無理矢理戻した。


「遅いですよ?」


「な!ッぐがあああああああああああ!!!」


 そして最後に俺はエルテナを振りかぶり地面に叩きつけられた試験官の教師の真横を思いっきり切りつけた。

 その攻撃はとてつもない斬撃を走らせ、後ろにある校舎を一瞬で瓦解させる。もちろん気配探知は使っているのでその中に人がいないことは確認済みだ。

 俺はその攻撃を目を見開いて震えてみている試験官に笑いながらこう呟いた。


「あなたが全力で来い、と言ったので多少力は出しましたが、そう言った以上後の処理はお任せしますね?」


 そう言うと俺は勢いよく目の前に剣を突き出すとこの試験初めての勝者としてその存在を知らしめるのだった。


次回は魔術、魔法の試験になります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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