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第百六十二話 入学試験、一

今回はシンフォガリア学園の入学試験がついに始まります!

では第百六十二話です!

「うわー、たくさん人がいるー。みんな入学希望者なのかな?」


 アリエスが窓の外を眺めながらそう口にした。

 SSSランク冒険者の集会があった翌日。

 ついに入学試験日を迎えた学園王国はたくさんの人で溢れ返っていた。外には道を覆ってしまうほど大量の学生らしき人が群がっており、学園にたどり着くことすら難しくなってしまうほどだ。

 今日は王国内一番人気のシンフォガリア学園の試験日とうこともあり、その方向に向かう道がとても混雑しているようで、もはや人の嵐と言っても過言ではないくらいの有様になっている。

 俺たちは転移を使って移動することが出来るからいいが、通常の方法で学園に辿り着こうと思ったらそれこそ何時間も前もって移動しなければならなかっただろう。

 ちなみに今日のスケジュールは午前九時から筆記試験が始まり各教科四十五分単位で進んでいく。一教科終了するたびに十分間の休憩があり、十二時半をもって筆記試験は終了する予定だ。

 その後一時間お昼休憩を挟み午後一時半から実技試験となる。これに関しては終了時間が未定となっており、人数によっては夜までかかってしまうこともあるそうだ。

 しかも何故だか今回は例年よりも受験者が多いらしく定員三百人のところ五千人の受験者が集まったそうだ。もはやそんな人数、あの学園に収まりきるのかも疑問だが、まあ学園側が断っていない以上問題はないのだろう。

 俺はアリエスの言葉を耳に流しながら試験の準備をしていた。

 まあ、特段準備というものは必要ないのだが筆記用具と参考書を蔵の中に入れて、エルテナを取り出す。

 実技試験はどのようなものになるかわからないが、おそらくエルテナ以外の剣を使うことはないだろう。万が一その場で神核が出てくるなら話は別だが、そうでなければ特に強力な武器は使用しなくてもいいはずだ。

 俺は装備を整えると周りにいたメンバーをもう一度確認した。

 今回試験を受けるのはクビロを除いた八人で、各々受験票を手にして準備を整えている。ちなみにクビロは今回お留守番で今もなおベッドの上で眠りこけているようだ。まあ今回一番の問題になってくるのは間違いなく俺の筆記試験なので心配があるとすればそのくらいなのだが、それでも忘れ物がないか問いかけておく。


「皆、持ち物を確認しとけよー。万が一受験票を忘れたら洒落にならないからな」


 その言葉に反応するようにメンバーはもう一度自分の持ち物を確認する。ここまで入念にしておけば問題はないだろう。

 俺はそう思うといつもの白いローブをはおり、転移の準備をし始めた。

 時刻は午前八時。

 さすがにそろそろ移動を開始したほうがよさそうな時間帯である。やはり試験というのは時間厳守であり、教室の確認などをしていたらどうしても時間が掛かってしまうのだ。それに今回は受験番号が完全なランダムで振り分けられているので俺はおろか一緒な教室になっている者は誰一人おらず、間違いなく受験会場を探すのに苦労する状況になってしまっている。

 ゆえに一時間前でも遅いくらいなのだが、転移が使えることもあってある程度はゆとりをもって行動していたのだ。


「よし、それじゃあそろそろ行くとしよう。準備はいいか?」


 俺がそう問いかけると全員が装備を整えて俺に近寄ってきた。

アリエスは魔本と絶離剣レプリカ、シラとシルはサタラリング・バキ、エリアは王家の剣、ルルンは持ち前のレイピアを装備していた。

 そこでふと俺はキラとサシリが武器を持っていないことに気がついた。

 キラは普段から武器を使わない性質なのだが、サシリはサスタに血剣を渡したことによって得物をなくしている状態だ。

 今回実技試験でどのような課題が出されるかわからない以上なにか持っておいたほうがいいかもしれない。

 そう思い至った俺は再び蔵の扉をあけ二本の長剣を取り出した。

 一本はいつも使っているリーザグラム。これはキラに渡すものだ。キラはあまり近接の攻撃を好まないのでこれは今日限定で試験を乗り切るために貸すことにした。

 で、もう一つの長剣。

 これは完全にサシリ用だ。その剣は血痕がその刀身に浮かび上がってくるほど血の気配が滲み出ており、あの刀身はサシリが使っていた血剣と似たような色をしている。刀身の幅はエルテナと同じくらい広く、重さもそこそこ重量になっており圧倒的な存在感を放っていた。

 名を紅剣(レエイナータ)という。

 この剣は真話対戦中に俺の傷を癒すために一瞬憑依させた元の世界最強の吸血鬼が使っていたもので、使用者の血を一滴でも垂らせば絶大な力が発揮されるという代物だ。

 俺はこの二本の剣を二人に手渡す。


「一応実技試験で武器を使う試験がでるかもしれないから、渡しておくよ。キラはリーザグラムを渡すけどこれは後で返してくれ。サシリは丁度得物をなくしていたことだし、その剣はあげるよ」

 二人はその剣を受け取って自分の腰にさすと大きな声で返答してきた。


「ああ、了解した」


「うん、ありがとう」


 その様子を確認した俺は今度こそシンフォガリア学園に向けて転移を開始したのだった。










 転移を終えたどり着いた場所には既に大量の人が集まっていた。見ればここは入り口付近らしく、受験生が行列をなして学園内に入場しているようだ。

 その光景はもはや魔武道祭を彷彿とさせるような景色で、人の山が目の前に乱立している状況だった。

 とはいえこのまま立ち止まっているわけにも行かないので俺たちは受験票に書かれている教室に向かうことにした。


「それじゃあ、各自頑張ってくれ。昼時になったら探しに行くから」


 するとアリエスたちは俺の言葉に反応するように声をあげる。


「それはこっちの台詞だよ。ハクにぃこそ筆記試験頑張ってね!」


「そうです、ハク様が今回は一番心配なんですから、今日ぐらいは自分のことに集中してください」


「姉さんの言うとおりです………」


「ええ、こちらの心配は何にも要りません!私だって王城でたくさん勉強したんですから!」


「そうそう、私も伊達に五百年生きてるわけじゃないんだよ」


「マスターに教鞭を振るったのは誰だと思ってるんだ?この妾がこの程度の試験を突破できないはずがないだろう?」


「右に同じね」


 皆の言葉を一通り聞いた俺は苦笑いをしながらその場を離れた。確かに今回は俺が一番集中しなければいけないのだ。余計なことを考えている場合じゃない。

 俺はそのまま学園内に入ると受験票に書かれている教室に向けて歩き出した。どうやら目的の場所はこの校舎の五階にあるようで少し疲れるが重い足を動かして階段を上る。

 校舎の中は基本的に石造りで白を基調にしたその内部は非常に清潔感が漂っており、見ていても気持ちのいいものだった。

 そしてとうとう俺の試験会場の前まで到着した。

 一応その中に入る前に教室をもう一度確認する。なぜならこの扉を潜ってしまうと、出てくるというのはかなり恥ずかしいからだ。受験する教室を間違えてそそくさと逃げるように出てくるなど羞恥の極みなのである。

 よし、ここであってるよな。

 俺は左手に持った受験票を右手の人差し指で確認するように照らし合わせ確認する。そのチェックを何度か繰り返していると、不意に後ろから声が飛んできた。


「おい、君!そんなところに立たれたら僕が入れないじゃないか!さっさと退くんだ!」


 俺はその声につられて振り返ると、そこにはいかにも貴族風の格好をした茶髪の少年が立っていた。年齢は俺と同じか少し下くらいだろう。腰には豪華な装飾が成された長剣がささっており、服装も煌びやかなものが多かった。


「あ、すみません」


 そう言われてしまったので俺は素早く扉の前から退くとその道を空けた。

 するとその少年は俺の横を通り過ぎるように教室の中に入っていく。その入り際に大きな声で俺への愚痴をこぼしていった。


「まったくこれだから平民は困るんだ」


 おおう……。

 これはまたなんとも貴族のテンプレのような存在だろう。

 俺は大してその言葉にダメージを受けず、能天気な発想を思い浮かべていた。今考えればアリエスも貴族なのだが、決してこのような態度を取ることはなかったし、あの王族のエリアでさえ俺には下に出ているのだ。

 ゆえにこの世界の貴族がみんなこのように高飛車な性格というわけではないのだろうが、やはりこのような属性を持つものもいるんだな、と意味もなく関心してしまった。

 俺は自分の考えに少しだけ笑いながらもう一度だけ教室を確認してその中に足を踏み入れた。

 そこは五十人くらいの生徒を収容できるほどの広さを兼ね備えた教室で、教卓から階段状に上がる形で長い机が乱立している。壁は依然白い石造りのものだったが机は木材で出来ているようでこの部屋に温かみを与えていた。

 その机の端に書かれている番号に添うように俺は自分の席を探していく。五十人ほどしか入らない教室なので案外自分の場所を探すのは簡単でその番号が書かれた場所に腰を下ろした。

 周りを見てみるともう既に殆どの席が埋まっており、俺とさっきの貴族君がラストのようにも見受けられた。他の受験者たちは皆戦いやすい服装で着ているようで、おそらく午後の実技試験を意識してのことだろう。

 まあ、俺とて服装のことは言えないのでとやかく考えるのは止めにする。黒のティーシャツと同じく黒の七分丈のズボンに真っ白なローブを身に着けているのだ。あまり締まった服装とはいえないだろう。

 俺は蔵から筆記用具と参考書を取り出し、担当教諭が来るまでそれを眺めていることにした。

 やはりキラとサシリに教えてもらっただけあって、試験前であるこの瞬間でもスラスラと知識が溢れ出して来る。

 そしてもう一度初めから見直そうかとしていたとき、教室の扉が勢いよく開け放たれて大柄の男が室内に入ってきた。おそらくあれが俺たちの試験官だろう。


「よし、全員集まっているな。では手に持っている教科書や参考書を全てしまえ。当然だが不正行為をすれば一発で落ちるからな」


 そう言われたので俺は出していた参考書を蔵に放り込み鉛筆を手の中で回す。


「ではただ今よりシンフォガリア学園入学試験を開始する。午前中は筆記試験を執り行うが、スケジュールは各自が持っている受験票に書いてあるとおりだ。午後は実技試験を行い最終的にその二つの成績をあわせ見て合否を判断する。以上だ、質問はあるか」


 今言われた内容は事前に知らされでいたことなので何も心配はない。

 どうやらそれはここにいる受験生全員が思っているようで質問をあげるような奴はいなかった。


「よし、ならば今から算術の解答用紙と問題用紙を配布する。解答用紙には初めに名前と受験番号を書いておけ」


 その声と共に前のほうから試験問題と解答用紙が配られてくる。

 俺はそれを受け取ると素早く自分の名前を記入し試験が始まるのをひたすら待ち続けた。


「午前九時になったら試験開始とする。それまでは黙って待つように」


 静まり返ったその教室は何故だか昨日の集会の席と同じような雰囲気を醸し出しており、若干息苦しくなってしまう。

 とはいえ俺も短時間ではあったが勉強はしてきたので問題はない。

 するとそんな俺の胸の声を打ち消すように大きな音でチャイムが鳴り響いた。


「始め!」


 試験官の合図と共に受験生が一斉に解答を紙面に記入していく。


 こうしてシンフォガリア学園の入学試験は開始されたのだった。


次回は筆記試験と実技試験の両方を描ければいいと思っています!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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