第百六十一話 集会、四
今回でSSSランク冒険者の集会は終了です!
では第百六十一話です!
帝国軍への対抗策。
これに関しては俺も事前には聞いていないことだった。というのも俺は今回イロアの指示通りその意思には同意したもののその他のことについては語られていなかったからだ。
しかも対策を立てるにも先程イナアが言ったように、常に俺たちSSSランク冒険者が常駐できるわけではない。むしろその場にいられないことのほうが多いだろう。
時限式の魔術を拵えるにしてもそれでは無関係の人を巻き込んでしまう恐れがあるので、それもできない。
俺にはさっぱり案が出てこなかったので、どうやら何か考えがあるらしいイロアの話を黙って聞くことにした。
「具体的な打開策についてだが、私は探索結晶による監視網をしくことによって帝国軍の動きを観察しようと考えている」
探索結晶?
俺はまったく聞き覚えのない名詞が登場したことで頭の上に疑問符を掲げるのだが、どうやら回りは違うらしく、なにやらため息を吐き出している。あろうことかそれはザッハーやジュナスも同じような反応をしていて俺の頭の中はますます混乱した。
「はあ………。また出たよ、イロアっちの結晶マニア……」
「だな、こいつの収集癖はキリがない………」
「まあ、イロアのことだから仕方がないさ……」
すると皆の態度を見ていたイロアが顔を赤くして肩を上げながら抗議する。
「な!?マニアとはなんだ、マニアとは!わ、私だって役に立つと思って集めてるんだぞ!」
その姿は珍しく動揺しているようで少し不謹慎だが実に微笑ましかった。
とはいえ俺には何のことかまったくわからないので、とりあえず聞いてみることにする。
「いまいち、話の流れが読めないのだが………」
「ああ、そうか!君は初めてだもんね!」
イナアが今気づいたように顔を上げ声を吐き出してくる。それに続くようにザッハーが話を組み合わせて答えてきた。
「このリーダー様は昔から結晶と名のつく物には目がねぇんだよ。それこそ街の雑貨屋とかにまで入り浸って収集するレベルでな」
あ、ああ、な、なるほど。
そういえば、エルヴィニアでも帝国軍の侵攻をこれ以上させないために障壁結晶?なるものを使用していた気がする。あれは対象以外のものをはじき出す障壁を張り続けるものだったが、そのようなものが他にもあるということだろう。
「これはもうイロアの癖でね、僕たちも呆れを通り越して感心しているんだけど、今回もそれを使おうというのかい?」
ジュナスは俺にそう説明した後イロアに視線を戻し問いかけた。
イロアは眉に皺を作りながらコホンと小さく咳払いをするとそのまま話しだした。
「あ、ああ。そういうことだ。ちなみに言っておくがなハク君。私は断じてマニアではないからな!絶対に!」
「お、おう……」
隣に座っているイロアが俺にグイっと顔を近づけて念を押すよう話しかけてくる。正直言ってそれはもの凄く怖かったのだが、なんとか冷静を装って返答した。
いや、だってあの綺麗な顔にもの凄い剣幕が宿ってたらさすがに誰でも引くでしょ普通……。
ある意味この部屋の空気より心臓に悪い気がする……。
「あー、はいはい。イロアっちのマニア話はこれくらいにして話を進めようよ」
「だがらマニアじゃない!」
イナアの催促する言葉にイロアはまたしても敏感に反応し声を荒げる。
よっぽどマニア扱いされたくないようだ。もしかすると過去に何かあったのかもしれない………。
という発想を膨らませながら俺はイナアに続くように話を進める。
「で、その探索結晶というのはどういう代物なんだ?」
するとその答えはジュナスから返ってきた。
「探索結晶というのは効果範囲内に入ったものの反応を使用者に伝えることができる一種の魔具といったところかな。その範囲は結晶によってバラバラなんだけど、それを敷き詰めればたしかにイロアが言うような監視網を作り上げることもできるだろうね」
「だがその効力ゆえにその結晶自体を調達することが難しいのが難点なんだが、このリーダー様はそれを大量に持っているからな、こういう強行手段にも出られるってわけだ」
ジュナスの後にザッハーが細かい説明を投げかけてきた。
まあ、ということは俺の気配探知を大量にばら撒き巨大な監視網を作るということだろうか。確かに悪くはないが、それだけでは根本的な解決にはならないだろう。なにせ肝心な敵の本体を叩くことが出来ていない。
「なるほど。結晶については理解したが、その後はどうする?監視網だけでは帝国軍は抑えられないぞ?」
「ああ、それはわかっている。だからそこに私達SSS冒険者ランク冒険者を各地に満遍なく配置するのだ。そうすれば万が一のことがあったとしても動くことはできるだろうからな」
俺の言葉にイロアはそう言って返答する。
まあ、それもわからなくもないのだがやはりいくらSSSランク冒険者といえども所詮は多勢に無勢なところがある。俺やキラのような膨大な力を所有しているならまだしも、さすがにそれだけの戦力はSSSランクといえども期待は出来ない。
「イロアの言いたいことはわかったけれども、やはりそれでも無茶なところはあるね。今回は前と違って勇者と呼ばれる者たちもいる。聞けばあの舞踏姫も倒すほどの実力者の集団らしい。そうなってくるとさすがの僕らもかなり厳しい状況になってしまうよ?」
「それには俺も同感だ。実際に戦ってみた感想だが、戦闘経験は浅いものの実力だけはSSSランクに匹敵するものをもっている。しかもそれが十一人いるんだ。ここでSSSランクの戦力を分散させるのはあまり得策だとは思えない」
俺はジュナスの意見に同意しながら自らの意見を述べた。
するとさらにザッハーがここに畳み掛ける。
「それにこれは単なる時間稼ぎにしかならねぇぞ?そもそも帝国軍を相手取るなら戦力が圧倒的に少ねぇだろうが。このままだとみすみす死ににいくようなものだぜぇ?」
俺たち三人の言葉の応酬を受けてイロアはしばらく黙っていたが、すぐさま顔をあげ返答してくる。
「それに関しては各冒険者ギルドに注意を呼びかけておく。そうすれば側にいる冒険者たちの力も借りることができるだろう。それに今回の目的はあくまで威嚇でしかない。私達SSSランクの冒険者が各国に散らばっているとなれば帝国も簡単には攻められないだろうからな」
単なる牽制というのなら確かに効果はあるのかもしれない。
どう転がっても俺たちはSSSランク冒険者なのだ。その場にいるだけでそれなりの存在感と存在価値がある。
それにいざとなれば王国側の騎士団も動き出してくるだろう。そうなれば帝国の侵攻までは止められなくても抑圧くらいは出来るかもしれない。
「ま、まあそういうことならわからなくもねぇが……」
ザッハーはそう言われてもあまり納得できていないようすで言葉を濁す。
「で、具体的にはどういった配置にするの?あまり遠いところだとさすがに数日では移動できないよ?」
「ああ、それについても考えてある。まずここ学園都市だがここはハク君に任せおうと思う。ハク君はおそらくこの中で一番強い。帝国から一番近いこの都市は特に狙われやすだろうからな。戦力は確保しておきたいのだ。それに彼は明日の入学試験に参加するから学生との交流も望めるだろう」
するとその言葉を聞いたジュナスとザッハーが声をあげる。
「まあ、君の強さはなんとなくわかっていたけれど、学園に入学するのか。それはちょっと意外だね」
「ククク、SSSランク冒険者ともあろうやつがいまさら学校にいくとか笑えてくるぜ。血迷ったか?」
さすがに神核を倒すために入学する気だ、とは言えないのでとりあえず無視して話を進める。
「それからザッハーはエルヴィニアだ。お前はあの場所をよく知っているのであろう?であればお前が適任だ」
「…………いいのかよ。俺は帝国に情報を流したかもしれないんだぜ?」
「確かに今も疑いを持っているが、お前もわかっているだろう?今度そんなマネをしたら他の誰でもなく、私がお前を切るということを」
その声は今まで聞いたことのないくらい冷えた声で部屋の中の温度を急激に落とす。
「へっ、まったくこれだからリーダー様は気が抜けねぇ………」
ザッハーは誰に言うまでもなく毒つくと顔を正面からそらしてしまった。だがまあこれでザッハーは下手に動けなくなっただろう。正直な話、ザッハーの事実がどうであれ、この話が外部に漏れればザッハーの評判は地に落ちる。それを公開しない代わりに今回の話を持ちかけているのだ。断れるはずがない。
「次はイナアだが、イナアはシルヴィニクス王国を頼む。あそこは騎士団が優秀だから、ソロであるお前が行っても十分に対処できるはずだ」
「りょーかーい!」
「最後にジュナスだが、お前はそのその他の場所を移動しながら観察してくれ。探索結晶は各国を結ぶように配置していくが、それでもカバーできないところもあるだろう。身軽なお前だから頼めることだ」
「いいよ、了解した」
「で、私は残っている獣国ジェレラートを担当する。おそらく帝国が一番目の敵にしているのがあの獣国だ。人種差別を激しく行っている帝国が間違いなく一番攻め落としたい場所だろう。そこには人数的に考えて私達パーティーが適任なはずだ」
帝国は獣人と魔法を使えない人を酷く差別している。いや獣人に関していえばどの国でも同じなのだが、それでも帝国の仕打ちは酷いものだろう。
ゆえに大量のパーティーメンバーを保有しているイロアたちが赴くのは妥当ということだ。
「探索結晶は私達が配置しておくから問題はない。では、他に質問があるやついるか?」
イロアはそう呟くと俺たちの顔を順に確認していった。
結局、この考えには反対の意見が上がらず無事にイロアの考えが通り、本命の議題はとりあえず解決を見た。
俺はその様子に肩の力を抜き、体重を椅子の背もたれに預ける。
『随分疲れているようだな、マスター?』
『まあ大半は気疲れだけどな。誰だってこんな空間に長くいたら疲弊するだろう』
キラの念話に軽い返答を述べ、俺はもう一度目線を円卓に戻した。
「それじゃあ、本議題はこれで終了だ。各々役目を果たしてほしい」
ジュナスが最後にそう締めくくりSSSランク冒険者の集会はとりあえず終了した。
ちなみにその後はSSSランク冒険者による世間話が飛び交うことになるのだが、それがあまりにもくだらない内容だったので今は割愛する。
ともあれ長く続いた集会も終わりSSSランク冒険者の皆は各々帰路についていった。俺たちもギルドを出て宿に足を向ける。
するとギルドを出た直後、イロアが話しかけてきた。
「今日は色々と助かったよ。ザッハーのことにしてもそうだが、君を信用して正解だったようだ」
「いえいえ、俺も帝国軍にはいい思いをしていませんから当然です」
俺はイロアにそう言いながら笑いかける。
「では我々はそろそろ行くとしよう。早く探索結晶を設置しないといけないからな。………ああそれと」
「まだ何か?」
「大したことではないのだが、私に敬語を使う必要は無い。集会の席でのように接してくれるとありがたい」
確かに考えてみればイロアに対してはずっと敬語だった。それはエルヴィニアでの件もあるが、単純に年上だからという理由が大きい。
だがどうやらそれはイロアにとってあまり好ましいものではなかったようだ。
「………わかった。なら獣国は頼んだ、イロア」
俺は敬語を外してそう呟くと、色は何故か嬉しそうな顔を浮かばせて返答を返してくる。
「ああ、お互い頑張ろう」
その言葉を最後に俺たちはイロアに手をふり、別れの挨拶をするとそのまま宿へ向けて歩きだした。
「はあー、疲れたー。さすがにあの空気は堪えるな」
「まあ、さすがはSSSランク冒険者ということだろうな。威圧だけならおそらくアリエスたちでも根をあげるぞ」
俺とキラは声を出して会話しながら歩き続ける。
「それはそうと、マスター?明日は入学試験だが大丈夫なのか?」
「はあ、わかってるよ……。よし、それじゃあ転移で戻るか」
確かに今まで勉強してきたとはいえ、前日の確認というのも必要だろう。おそらくキラはそれを心配して問いかけてきているのだ。
俺はそう呟くとキラと一緒に宿の入り口まで転移した。
エルヴィニアから色々なことがあったが、明日はいよいよ入学試験だ。
ザッハーが言ったように今さら学園に入学するなどおかしな話だが、ダンジョンのためなので仕方がない。
俺は元の世界での学校生活を思い出しながら、アリエスたちが待つ部屋に向かうのだった。
次回はいよいよシンフォガリア学園の入学試験です!
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