第十五話 地の土地神
今回は少し長いです!
地の土地神の話を一気に書ききりたいと思い文字量が多くなった次第です!
では第十五話です!
「な、なんなんだこいつは…………?」
セルカさんが用意した魔物をちょうど全て討伐したとき、グゴゴゴゴと爆音が鳴り響いたかと思うと前方からとてつもなく巨大な黒い蛇が地面を這って現れた。
これは作戦の内容にはなく、完全なイレギュラーだ。
正直もう何が起きても驚きませんけど、もう少し静かに登場できませんかね?耳の鼓膜が破れるかと思いましたよ。
『主様、さすがにこやつはやばいのじゃ……。十二階神ほどではないがそれに近しいほど力を持っておる』
『ああ、わかってる』
内心俺もこいつはやばいと思っていた。なにがやばいかは上手く説明できないが圧倒的存在感というか、あの赤いドラゴンが可愛く見えるほどの力を感じる。
さて、これは一体どうしたものか……。
するといきなり聞いたことのない声が鳴り響いた。
『この魔物どもを倒したのはお前か?人間』
な、なにーーーーーー!こいつ喋れるのか?ますます規格外だな、おい!
「ああ、そうだ。……そういうお前は何しにこんな所に来た?おいそれと人前に姿を現していい存在ではなさそうだが?」
俺は黒い大蛇の質問に答えると同時にこちらの質問もぶつけてみた。その問いに黒い大蛇は意外そうな声をあげ、答えた。
『ほう、わしの存在を受け止めるか……。ますます気になる奴じゃ。そうじゃのう……。その問いに答えるとすれば、お前の気配を辿ってきた、というところじゃ。わしは地の土地神なんて呼ばれておるが、最近は皆わしに恐れおののいてめっきり戦う機会が減った。わしは戦いに飢えておる!それもわしと対等かそれ以上に戦えるものを!………そんなときお前の気配を見つけた。駆けつけてみれば百体は超えようという魔物を片手で蹂躙しておるところじゃた。そんなものを見せ付けられれば血が滾るというもの…。してお前の前に姿を現したということじゃ』
………………。
『…………。む、むう……。主様……。こやつは多分……その……戦闘狂じゃ…』
やっぱりそうかーーーー!
なんだよ!なんか乱入ボスみたいな登場の仕方をしてきたから身構えちまったよ!
というか、地の土地神ってなに!?物凄く危険な匂いしかしないんですけど!?
「あーつまり、なんだ?お前は俺と戦うためにここに来たのであって、村を襲いに来たのではないのか?」
「うん?その通りじゃが、なにかおかしいかの?わしは普通の魔物ではないゆえ、なんでも見境なく襲うことはせん。……してわしと戦ってくれるかの!」
十分おかしいよ!
そもそも強者と戦いがためにわざわざ人里に下りてくる時点でおかしいよ!その巨体、だいぶ目立ってますからね。
にしても、こいつ、俺と戦わないことには引かないだろうなあ……。
『主様、こやつクラスになると、周りの被害とか気にしてられなくなるぞ?』
『だよなあ……。一度セルカさんに聞いてきたほうがいいか……?』
「はあ……。お前が俺と戦いたいというのはわかった。だがこちらにも事情がある。少し待ってほしい」
「かまわん、かまわん!わしはいつまでもここで待っておる。お前ほどの強き者、ここ数百年では見かけんかったからのう。待つのは慣れっこじゃ!」
いやーさすがにいつまでもっていうのは困るんですけど……。
こいつはRPGにおけるエンディング後の常設裏ボスにでもなるつもりですか!?
まあというわけで気絶しているバリマ公爵も連れて転移でセルカさんたちのところに一旦戻る。
「あ!ハク君!なんで地の土地神がいるんだい!?私たちの作戦にあんなものが出てくるなんて話はなかっただろう!?」
そう言いながら転移して戻ってきた俺の胸倉をつかんでグワングワンと俺を揺さぶる。
「ちょ、セ、セルカさん!あれは俺も完全な想定外です!ですから揺らすのやめて……」
「あ、ああ。す、すまない。いきなりあんな怪物が出てきたから気が動転していた。で、なんで君は戻ってきたんだい?」
「それなんですけどね、どうやらあの大蛇、俺と戦いたいらしいんですよ。しかも俺と戦えるまであそこで待つって言うんです。どうしましょう?」
そう言うと、セルカさんはピシリッと音を立てて動かなくなった。
おおう……。この光景もまためずらしいな……。
するとギルドマスターのジルさんが前に出てきた。
「本当にあれと戦うのかい?ハク君?」
「え、ええ、まあ。戦わないとあいつは引き下がりませんし……」
「そうか……。なら一応言っておこう。あの魔物は地の土地神といって数少ないSSSランクの魔物だ。目撃情報も少なく、もう寿命で死んだかとも思われていたが、今目の前にいるところをみるとそれは間違いだったみたいだね……」
ま、じ、か!SSSランク!?
おいおい、これは本格的にやばくないか?伝説級の魔物じゃないか!?
これは戦ったらたたじゃすまないかもね……。色々な意味で……。
「でも、あいつ。村を襲う気はないらしいですよ。俺と戦えればそれでいい、みたいな感じで……」
「そうか……。噂では強者を求め、世界中をうろうろしているということだったが運が悪かったようだね……。ではハク君、君は一体どうするのかね?」
そりゃ、戦わないとあいつ、いなくならないんでしょ?
だったらやるしかないじゃないですか……。
「まあ戦ってみるつもりです。そこそこ激しい戦いになると思うので村の外には出ないようにしたほうがいいと思います。……それと、バリマ公爵の件はそちらに引き渡します。後は頼みました」
「ああ、それは頼まれた。むしろ私の仕事はここからが本番だ。アリエスちゃんの婚約は破棄するようにもって行こう。……それと、君は強いけれど命を粗末にしてはだめだよ?危険だと判断したら直ぐに逃げなさい、いいね?」
この人は本当に信頼できる人なのだろう。こういう器を持つ人だからギルドマスターをやっていられるのかもしれない。少なくとも俺はそう思った。
「ええ、大丈夫ですよ。俺、逃げ足の速さだけは自信あるんで」
すると後ろに控えていた多くの冒険者が一斉に声を上げだした。
「おう!いっちょぶちかましてこい、ルーキー!あ、Aランクならもうルーキーじゃないか!ハハハ!」
「あのでっかい蛇に一泡吹かせてやりな!なんかあったら私たちも助太刀するからね!」
「お前は、やればできる!俺は信じてるぜ!」
お、おう……。なんでこうもまた応援されてるんですかね?
俺、冒険者登録してからまだ一日しか経ってないんですけど!?
「ハハハ、皆先程の君の戦闘をみて君の強さを認めたのさ。昨日の時点じゃ君を面白くなく思う者も少なからずいたんだけれど、これほどの実力差を見せ付けられれば皆尊敬したくもなる、ということだね」
「そ、そうですか……」
するとジルさんの隣にいたアリエスが一歩前に出て言葉を紡いだ。
「ハクにぃ……。本当に大丈夫なの?……オカリナも怯えてるし、あの魔物普通じゃないよ……。ハクにぃ、死なないよね?」
アリエスの表情は今にも泣き出しそうなくらい暗いものになっていた。
俺は腰を屈め、アリエスの頭に手を置いて、その綺麗な髪を撫でると、
「大丈夫、心配するな。俺は死なない。ちゃんと戻ってくるよ」
と言った。
「本当……?」
「ああ、だからそんな泣きそうな顔をするな。美人な顔が台無しだぞ?」
「ふぇあっ!?び、美人だなんて……!……ハクにぃったらこんな時になにいってるの!」
「ハハ、すまん、すまん。……それじゃ行ってくるよ。くれぐれも村の外には出ないようにね」
俺はそう言うと黒い大蛇の目の前まで転移したのだった。
『準備は出来たのかの?』
「それはこっちの台詞だぜ。聞けばお前しばらく戦ってないらしいじゃないか。鈍ってんじゃないのか?」
『ほざけ、この程度で鈍るわしではないわ。……ではそろそろ行くぞ?』
すると大蛇から圧倒的殺気が迸った。
これは……すごいな……。
マジで本腰いれないと、腕の一本や二本持っていかれるかもしれない。
『リア、今回は十二階神の力も使うかもしれない。それほどの相手だ』
『わかっておるわい。心配せんでもいつでも準備完了じゃぞ?』
「よし!行くぞ!」
『来い!好敵手よ!』
そう言うと俺は今まで異世界で出したことのないスピードで大蛇の眼前まで迫った。そして大蛇の喉下を狙ってエルテナを振り上げる。
「はあっ!」
『ふん!』
「なあ!?」
しかしエルテナの刃は大蛇の鱗に当たった途端はじき返されてしまった。
なんつう硬い体だ!
すると大蛇は体をくねらせ俺を押しつぶそうとしてくる。
「くそ!」
俺はとっさに上空に飛び上がり攻撃を回避する。
『かかったの!』
「な!?なに!?」
俺が飛び上がったさらに上空、その上からなにやら黒いウネウネとしたものが迫っていた。
俺は本能的にあれはくらったらまずいと思い、エルテナに斬撃をのせ全て打ち落とす。腕がジーンとしびれるが、構ってられない。
そのまま俺は大蛇の脳天にエルテナを振り下ろすが、またもやはじかれてしまう。仕方ないので俺はその反発力を利用して距離をとる。
「硬すぎだぜ、その鱗……」
『ハハハ、かくいうお前も上空で我が影を打ち落とすとはさすがじゃ』
その言葉と同時に俺は次の行動に出る。エルテナを構えながら大蛇に肉薄し、俺は言霊を放つ。
「死すべくは、風の理!」
その言霊は大蛇を中心として大きな風の渦を巻き起こし大蛇の動きを阻む。
『ぬうっ!』
俺はその間に、赤竜戦でも使った巨大な氷塊を作成する。それはルモス村の面積をすっぽり覆ってしまうくらいの大きさで、あまりの冷気で周囲の草木が凍り始めている。
「くたばりやがれ!!!」
全力で氷塊を叩きつける。
さすがにこれは効くだろうと思い、身構えていると、大蛇の体からなにやら細い糸のようなものが大量に出たかと思うと、一瞬にして俺の氷塊を削り飛ばした。
「ま、まじかよ!まるでレーザーか何かか!?」
『ふむ、なかなかよい攻撃じゃ。……しかし次はこちらから行くぞ?』
すると大蛇の体から無数に伸びた黒い糸が空中でなにやら形状を変え、無数の刃に変化した。
その数、優に一万以上。
『これぞ、「影の雨」よ。お前に受けきれるか?』
ハハ、まじかよ……。
これは骨が折れるな!
『くらうがよいぞ!』
そして俺の頭上にある無数の刃が俺に向かって降り注いだ。
「青天膜」
俺は俺の持ちえる最大の盾を取り出した。この盾はどんな攻撃でも防ぐ絶対の盾。いくら手数が多かろうと、当たらなければ意味がない。
そして次はどのように攻めようか考えていると、大蛇の顔が不敵にも笑って見えた。
『少し寂しいがこれで終わりじゃ』
「え?」
次の瞬間、グジャアという音とともに、俺の腹を黒い刃が貫いた。
「な、なに……?」
その刃はどうやら俺の足元にある、俺の影から伸びていた。
「が、がはっっっ!!!」
俺はその刃に貫かれたまま口から大量の血を吐き出した。
『悪いのう……。わしの能力は影を操る能力なのじゃ。それは自他共に有効で、今お前の腹を貫いとるそれはお前自身の影を使ったのじゃ』
ぐ、そういうことか……。
こいつの先程までの能力は奴自身の影を使って攻撃しており、絶対に外したくない攻撃を俺の影に忍ばせていたのか。
まあ相手の背後の影を使えるのなら、最高の死角から攻撃できるようなものだ。使わないわけがない。
すると俺に突き刺さっている影は次第に薄れ、完全に姿を消した。それにより俺はうつ伏せに地面に倒れこむ。
『ふむ、いい動きをしておったから、期待しておったのじゃが、大したことなかったのう。すまぬな、人間。これも勝負じゃ。悪く思うなよ』
そう大蛇はいい、くるりと俺に背を向けると村とは反対の方向に進みだした。
弱いものには興味はないってか、辛辣だぜ。
……………………。
まあこの程度で死ねたら苦労はないんだけどね。
「戦火の花」
するとあたり一面に極彩色の巨大な花が大量に咲き乱れる。
『なに!?』
これには大蛇も驚いたようで、すぐさま戦闘態勢に入る。
だがもう遅い。
既に事は完了している。
瞬間、空間自体がゆがみだし花たちがさらに輝きを増す。
『ぐ、なんじゃ……きゅ、急に力が……』
そう、その力の正体は生気吸収。それも空間自体に干渉しているので回避は不可能だ。これは十二階神序列十位、であるとある女神が使っていたものだ。
曰く、その女神は三つの目と四つの腕をもち戦いの神として君臨した。あまたの武器を使いこなし、戦場を駆け回った。その女神は結婚する前は一つの独立した女神であり、そのころの方が力を持っていた、と。
実はこの十二階神、真話大戦時にもっとも倒すのに苦労した女神なのだ。それも能力自体が多彩で、どれも回避不能なものが多かったからなのだが。
『むきーー!主様!なぜあんな憎たらしい女神の力を使うのじゃ!もっと、もっと他にあったじゃろう!』
『それは俺も同意見なんだけど、まあ実際便利だしこの力。まあ許してくれよ……』
『むう……。あとでお仕置きじゃ主様!』
怖いな……。
頼むから変なことはしないでくれよ?
そして俺は立ち上がり大蛇の前に立つ。
「戦いは最後まで油断しちゃいけないって習わなかったのか?だから足元すくわれるんだよ」
『お、お前!な、なぜ立てる!?わしは確かにお前の腹を突き刺したはずだぞ!』
「ああ、刺されましたとも。それもすごく痛かったし。まあ正直言うとよけることも出来たんだけど……。それと俺は突き刺して血を吐き出したくらいじゃ死なないんだよ。直ぐに傷も再生するしな」
そもそも俺は常に気配探知を使いながら戦っている。それが影の攻撃であろうとこの大蛇の気配がべっとりとこびりついていたため、わからないはずがないのだ。
『な、なに!?お前わし相手に手加減しながら戦っていたのか!?』
「まあ、そういうことだ。……それでどうする?このままだとお前の体力全て吸いきっちまうぞ?」
すると大蛇は滲ませた殺気を完全に消し、頭を下げた。
『降参じゃ、もうわしに反撃する力は残っておらんよ……。わしの負けじゃ』
そうして俺と地の土地神の戦いは幕を下ろした。
戦闘後。
俺は戦火の花を解除し、大蛇を解放した。すると大蛇は悔しそうに言葉を発した。
『ぐぬぬ、強き者とは思っていたが、手加減されたうえに軽くあしらわれるとは、さすがにショックじゃ』
「いや、お前も十分強かったよ、氷塊を壊されたときは結構驚いたし……」
『むう、それは嬉しいのじゃが……。してお前、これからどうするのじゃ?それほどの強さを持っておるのじゃ、どこへ行っても困ることはないじゃろうが、目的とかはあるのかの?』
うーん、考えたこともなかったな。
まあとりあえずもう少しルモス村にはいたいと思っている。さすがに来て数日で出るのもちょっと気が引けるしね。
「いや、特には考えてないけれど、一応色々なところに行ってみるつもりだ。それがどうした?」
『ならば!わしをお前の旅に連れて行ってくれ!お前の側は面白そうじゃ!』
はぁ!?何言ってんのこいつ?
「いやいや、付いてくるっていても言っても、お前、その巨体でどうやって付いてくるんだ?さすがにその姿で村には入れないぞ?」
『それは心配いらんのじゃ、こうやって……』
すると急に大蛇の姿が光だし、大蛇の姿が見えなくなった。
うん?あれあいつどこ行った?
きょろきょろと辺りを確認してみるがあの巨大な黒い大蛇は見当たらない。
すると急に左肩から声がした。
『わしは体のサイズを自由に変化できるのじゃ!』
そこにいたのは手乗りサイズまで小さくなった、二頭身ほどの黒い蛇だった。
「うわっ!びっくりした!」
『わしクラスになればこういうことも出来るじゃ。どうじゃ連れて行ってくれんかのう?』
あーこれはどうするか。
正直このレベルの強さの仲間は心強いのだが……。どうするか。
『どうする?リア?』
『うん?別にかまわんのではないか?そやつは初めから悪意があったわけではあるまい。だから私は賛成はしても反対はせんよ』
そうか、なら問題はないか。
んじゃお前は俺の異世界に来てからの仲間第一号だ!
「よし、べつにいいぞ。ただ俺の許可なしに元の姿に戻るなよ?それが条件だ」
『もちろんじゃ!ではこれからよろしく頼むぞ、主!』
「ん?いきなり呼び名を変えたな……。なんでだ?」
『もうわしは主の配下になったようなものじゃ。それにこれはわしがしたくて呼んでおるだけじゃから主は気にせんでいいぞ』
ふーん、そういうもんか。
ま、それはこいつに任せよう。
「んじゃ、ルモス村へ戻るぞ」
というわけで色々ありましたが、俺の仲間に地の土地神が新たに加わりました。
次回はようやくアリエスの話に区切りがつきます!
とはいえアリエスはまだまだ出てくるのでご安心を!
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