第百五十八話 集会、一
今回はついにSSSランク冒険者集会が始まります!
では第百五十八話です!
結局、アリエスたちの話を聞くところによると、その日はSランククエストを受注し巨大な白虎の討伐に向かったらしい。とは言うものの実際は交戦の意思はなく、何もせずに帰って来たのだとか。その中に不遇な扱いを受けたSSSランク冒険者のイナアも混ざっていたようで何かと楽しそうであった。
正直、俺もその白虎を見てみたかったが、まあ背に腹は替えられないということでアリエスたちの土産話で甘んじることにした。イナアはその後キラにずっと引きずられていたらしく、学園王国に着くころには服が土だらけになっていたらしく本人はむくれて帰っていったのだという。
もはやSSSランク冒険者の厳格もへったくれもないのだが、まああのイナアならそれも頷けてしまうのが悲しい限りだ。
ちなみにその白虎はというと、アリエスたちを見送ったあとなるべく人目につかないように森の更に奥に消えていったのだという。少し悪い気がしなくもないが、お互いのことを考えれば最善手であったと言えるだろう。
そしてそれから約二日間。
俺たちは少しだけ息を抜くような生活に体を置いた。
俺はいつも通りサシリやキラから受験勉強の手ほどきを受け、他のメンバーは街に買い物や食事、観光などに出かけて時間を潰し、件の集会まで時を待ったのだ。
その日付が近づいてくるにつれ、段々と学園王国の人も増えていっているようで外部からの観光客の足数も増えてきていた。さすがにSSSランク冒険者の集会の中までは見ることはできないが、その前によくわからないパレードの様なものがあるらしく、それを見に来ているらしい。
というのもそのパレードというのは冒険者ギルドに続く約一キロの直線道路をSSSランク冒険者が歩くというものらしい。これはなんでも昔のSSSランク冒険者がその道を多用していたことから生まれたイベントらしく、公式のものではない。とはいえ完全に観光イベントになっているので王国側も特段、指摘などはしないのだとか。
この二日間の間にもう一度イロアに会う機会があったのだが、そのときには特段緊張する必要はない、とのことだったが、小心者の俺からすれば注目を集めるのは苦手なので本音では欠席しようかな、とも思い始めてしまっている。
で、その当日の朝。
俺たちはそのパレードが開かれるストリートに向かう前に軽い準備をしていた。
まあそれは俺ではなく、相棒のほうなのだが。
「はい、キラ!こっち向いて!うーん、エリア姉、どっちがいいと思う?」
「そうですね………。やっぱりこの耳飾のほうが似合うと思います」
「それもいいけど、こっちのペンダントもいいわよ?女子はこういうときこそ着飾らないと!」
「皆………趣旨を履き違えてる気が………」
「まあまあ、キラちゃんは普段からこういうオシャレをしないからねー。たまにいいんじゃない?」
「うん、こういうのも楽しいわね!」
「…………納得がいかん……」
今、目の前で繰り広げられているのは俺に同行するキラの衣装選びだ。
俺は特段着飾る必要もないので、いつものローブとエルテナを腰にさす装備で準備完了なのだが、キラに至ってはアリエスたちがそのままではよくない!と断固訴えたので急遽服装を整えているのだ。
実際学園に入学したときのことも考えて、認識阻害の能力でも使って参加しようかとも思っていたのだが、隠しておくと後々面倒なことになりそうだったので、特に正体は隠さずに行くことになった。
一応俺は印象を変えるためと、見た目の威圧感を出すために神妃化して金髪に変えているが、まあさほど気にするようなことではないのかもしれない。
なにせ今回の集会はパーティーでも結婚式でもなく、むさ苦しい冒険者の集いなのだ。そこに綺麗に整えられた美女が入ってしまうと逆に浮いてしまうのではないか?とも思ったのだが、今のアリエスたちに言ったところで聞くわけもないので、黙っておく。
「いや、やっぱりこっちかな?キラの髪は綺麗だし、色合い的にも……」
アリエスがいつになく真剣そうな目をキラに向けて考え込んでいる。他のメンバーも負けじと、衣装を選んでいるのだが、当のキラは今まで見たことがないくらい疲れが溜まった顔を浮かべていた。
「もう、勘弁してくれ………」
俺は心の中でご愁傷様です、と呟いてその着替えが終わるのを待っているのだった。
あ、ちゃんと着替えているときは目を背けているから心配しないでね!
そこらへんは弁えています、紳士ですから!
『その言葉、怪しいのう………』
リアが心外な言葉を呟いた気がするがきっと気のせいだろう。
それから約二時間後。
俺とキラはそのパレードが行われる準備会場に来ていた。
ちなみにアリエスたちはというとちゃっかり通路の最前列に席を取り、パレード開始の時間を待っているようだ。
俺たちはその待合室のような場所で待っていると、後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。
「やあ、ハク君。気分はどうかな?」
それは冒険者パーティーの中でも最強と言われている黄金の閃光のリーダーイロアだった。
「まあ、気分はいうほど良くはないですね」
俺は率直な感想をイロアにぶつけ、その顔を眺め見た。やはりイロアは冒険者とは思えないほど美人で、その端整な顔は見たものを一瞬で虜にしてしまいそうな色香を感じさせる。こんな人を意識がなかったとはいえボコボコにしたと思うと今でも気が引けてしまう。
「ははは、それは私も同じさ。たかが普通の冒険者にこのような催しはやりすぎだと毎回思ってるよ。それにしても今日の女王様は随分と綺麗だな、気合が入っているようでなによりだ」
「からかってるのか?であれば消すぞ」
キラは眉間に皺を寄せ、体のラインを消すように自らの腕で隠しながらそう呟いた。
キラの衣装は最終的にいつも着ている布のようなローブをしっかりと体に巻きつけるようなものに変わっており、よりくっきりと体のラインが出てしまっている。更に長い髪の毛は後ろで一つにまとめられており、よりキラの美貌を際立たせていた。
「口調までは変わってないようだな。ならば問題ない。会議のときもその態度で頼むぞ。でなければ飲まれる上になめられるからな」
イロアは少し強めの口調でそう言うと一度手を振り俺たちから離れていった。
するとどうやらパレードが始まったようで、一番最初に入る序列第五位のイナアがいつもの格好で道に足を踏み出した。
その瞬間、街中から歓声が上がり黄色い声がその空間を包み込んだ。
やはりSSSランク冒険者ともなるとそれなりの人気がつくようで、もはやアイドルか俳優のライブやステージのような盛り上がりを見せている。
イナアはあのような性格なので名前を呼ばれるたびに手を振り返し、更に高感度を上昇させていた。本人にその意思はないだろうが、SSSランク冒険者という地位がそれを無理矢理推し進めている。
すると、その光景を眺めていた俺たちの横を何かが通り過ぎた。
それは目つきの悪い男で、背中には身長を遥かに超える長槍を装備しており、短く切りそろえた銀髪はギラギラと輝いている。またその後ろには似たような服装の小柄な男もついてきており、これがおそらく護衛というやつだろう。
しかもその槍を構えた男から感じられる気配は、はっきり言ってかなり異質なものだった。
「キラ、あいつ………」
「ああ、おそらく件の第四位だろうな。滲み出る気配がかなり黒い」
その男から感じ取れた気配は、敵意や殺意といった明確なものでは現せないほど淡く澱んだものだったのだ。とはいえ何かに呪われているとかそういうことではなく、単純にその男の性格を如実に表していた。
これは、イロアが苦戦するのも頷けるな………。
むしろこいつを上手くいなしていることを褒めるべきか。
俺はその第四位と思わしき人物を眺めながら、そんなことを考えていた。なんと言っても今日のメインはパレードではなくギルド本部で行われる集会なのだ。
その男とその部下の様な人間がストリートに足を踏み入れたとき、飛んできたのはガラの悪い男共の歓喜の声だった。
おそらくそのような者たちに好かれている存在なのだろう。とはいえよーく見れば小数の女性たちも目を輝かせている。あのような男を好む輩がいることに驚きなのだが、自分の番でどうなるかわからないので深くは考えないようにする。
だって俺が出た瞬間、シーンって静まりかえったら俺死んじゃいますからね!?生殺しのような一キロを歩きたくはないんですよ!
で、とうとう俺たちの番が回ってきた。
「緊張しているのか、マスター?」
「まあ、そりゃするでしょ。というかお前も顔真っ赤だぞ?」
「う、うるさい!ほ、ほら、早く行くぞ!」
キラに背中を叩かれ俺はその道を歩き出す。その後ろから護衛のキラがついてくる形で俺たちはギルド本部に向かって出発した。
すると俺たちが歩き出した瞬間、予想もしていなかったほど大きな歓声が巻きおこり空間を振動させた。
「おい!あれが噂の朱の神だぜ!やっぱ風格ちがうなー」
「しかも後ろに連れてる護衛の人、もの凄く美人だわ!とっても綺麗!」
「あれが元第三位を下したハク=リアスリオンか。なるほど確かに強そうだ」
「キャー!ハク様かっこいいー!!!」
『マスター、モテモテだな』
キラが俺の後ろで歩きながら、念話で俺に話しかけてきた。精霊と契約するとこのようなことも行えるので、便利な機能と言えるのだが、今このタイミングで使ってくるというのは悪趣味としか思えなかった。
『それはお前もだろうが。男子諸君の目が輝いてるぞ?』
『ふん、知ったことか。妾はマスターにしか興味がない。そんなもの弾き返してくれるわ』
あ、ああ、うん。俺に好感を持ってくれるのはいいんだけど、そこまでストレートに言われると少し戸惑ってしまう。当然主としてという意味だろうが、それでも悪く思われていないというのは案外いいものだった。
すると俺たちの前にアリエスたちの姿が現れた。全員が力いっぱい腕を振っている。俺たちはそんなメンバーに目線で礼を述べると、そのまま長い道を歩き続けた。
後ろではイロアが出発しており、今日最大の盛り上がりを見せているようだ。さすがは最強パーティーといわれるだけのことはあるようだ。
十五分ほどゆっくりとその道を歩き、ようやく三日前に訪れたギルド本部に到着した。そこには複数の職員が待ち構えており、俺たちを招きいれるような姿勢を取っている。
「ハク=リアスリオン様ですね?冒険者カードの提示をお願いします」
やはりSSSランク冒険者が一斉に集うということもあって、警備の面もかなりしっかりしているようだ。
俺は言われたように自分の冒険者カードを手渡し自分の身分を証明する。
「はい、確認しました。では私についてきてください」
ちなみにこのギルド本部は四階建ての造りになっており、今回会議が開かれる場所はその四階に位置している。
この世界にエレベーターのようなものはないので誘導されるまま長い螺旋階段をキラと二人で駆け上がっていく。
「ここが、今回使用するお部屋になります。他の冒険者の方々が来るまで中でお待ちください」
そう言われたので俺たちは扉を開け、その会議室に入った。
そこは薄暗い部屋で中央には正五角形の円卓が置かれている。その石には番号が振られており、おそらく序列の番号を示しているのだろう。
円卓からは青白い光が発せられており、これがこの部屋唯一の光源になっているようだ。
俺はその椅子に座り、キラを俺の後ろで待機させ、他の冒険者が来るのを待った。
イナアと第四位も既に座っており、あとは残りの二人を待つだけである。
それからしばらくしてイロアがこの部屋にやってきた。後ろには見覚えのある副リーダーを連れており、二人の滲み出る気配はもはや戦闘時となんら変わらないものに変化していた。
そして、最後にやってきたのが序列第一位だ。
その人間は茶色の髪を流し、整った容姿をもつ美男子だった。いわゆるイケメンというやつだ。後ろについてきている女性もキラほどではないが美人と言えるレベルの容姿を有しており、一見すればどこかのカップルに見えなくもない者たちだった。
だがその身から放たれるオーラは尋常ではなく、一気に場の空気を締め上げる。
その男が残った椅子に腰を下ろすと、息を吐きおもむろに言葉を呟いた。
「では、さっそく始めようか。SSSランク冒険者の集いを」
こうして冒険者最強と謳われる五人が集結した会議が幕を開けたのだった。
次回は集会の様子を描きます!
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