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第百五十五話 集会までの日々、一

今回はハクサイドとアリエスサイドに分かれています!

では第五十五話です!

 ルルンに謎のスイッチが入りアイドル心が覚醒した次の日。

 俺はいつも通り午前七時くらいに起床し、朝食を取った。やはりこの学園王国においても朝食はパンとスープという仕来りは変わっていないようで、軽めの腹ごしらえとなった。

 アリエスたちもそこに加わり久しぶりに落ち着いた朝を迎えており、気持ちのいい朝から一日がスタートしたのだった。

 で、俺は今何をしているかというと、カリデラでの日々が再来しているのである。

 カリデラでは殆ど毎日キラの付きっ切りの指導により魔力学を徹底的に叩き込まれた。結果的にそれは俺を急激に成長させ、一瞬にして学力を上昇させたのだ。

 とはいえそれは魔力学だけの話であり、今はもっぱら歴史の参考書と格闘中である。朝から勉強付けの毎日はまさにカリデラでの日々と同じであり、唯一つ違うとすれば付き添いの教師が異なるということだけだろう。

 そう、カリデラではキラが主に教鞭を振るっていたが、今回はサシリが俺に歴史を教えていた。なぜ人選が変わったかというと、俺的にキラをずっと拘束しておくのは気が引けたということと、サシリが自分は歴史にはある程度詳しいということだったので、急遽交代したということなのだ。


「ここ、また間違えてる。歴史は最終的に暗記になっちゃうけど、そこに至るまでのプロセスがしっかりしてないと長期記憶にはならないわ。だからもっと理論立てて覚えないと、今みたいに何度も間違えるのよ」


 サシリが自分お手製の問題が書かれた紙を見ながらそう呟いた。その紙には俺が頭を捻りに捻った解答が、ズラリと並んでいる。

 が、そこには大量の赤い文字が並んでおり俺の解答がことごとく書き換えられていた。


「つってもなー。これ理論もへったくれもあるのか?正直いって時代の流れを覚えるだけだろ。それなのに理論とか頭が痛くなってくるぜ」


 するとサシリはそんな俺の頭に優しくチョップを繰り出すと、ため息を吐きながらその紙を俺に返してきた。


「文句を言わない。ほら、次の問題も解いて。覚えるためにはやっぱりそれなりの量をこなさないと頭に入らないわよ?」


「はいはい。それじゃあ、真面目にやりますか」


 俺はそう言うと再び鉛筆を握り直し、その白い紙と戦い始めた。そこに書かれている問題は基本的に先程と同じ解答のものが多いのだが、何分問題文が巧みに変わっているので、なかなか解答にたどり着けない。それに関してはさすがとしか言えないのだが、俺の周りにはハイスペックな人間が多すぎて、羨ましくなってきてしまっている。

 サシリやキラ以外のメンバーも俺が今解いている問題など、ものの数秒で解いてしまうので劣等感を覚えるなというほうが無理な話なのだ。

 とはいえこればかりは他人の力を借りることは出来ないのでひたすら鉛筆を動かす。もはや何を考えているかわからなくなってきているが、今はこうでもしないと間に合わないのだ。

 というのもシンフォガリア学園の入学試験はSSSランク冒険者の集会の翌日に控えているのだ。つまり今日から三日後という計算になり、非常に切羽つまった状況といえる。

 なぜこのようなスケジュールになっているのかというと、SSSランク冒険者の集会は一種のお祭りの様なものらしく、学園側からすればその強者の極みのようなポジションに立つ存在を見て少しでも触発されてほしいという考えがあるようだ。それゆえわざと集会の翌日に入試を持ってきて受験者のやる気を更に上げようとしているということなのだ。

 今回はその中に現役のSSSランク冒険者である俺も受験するのだが、それはまあ例外ということだろう。

 聞くところによれば学生の中にも現役で冒険者をやっている者もいるらしく校則的には問題ないようで、むしろ上位のランクを持っていると色々と優遇されたりするらしい。

 とはいえ実力が全てなのであくまで指標というくらいにしか見られないらしいが。

 まあ、そんなこんなで俺は習得できていない歴史という科目を残り三日で覚えきらなければいけないため、サシリに協力を仰いでいるということなのだ。

 ちなみに他のアリエスたちはというと、今日はなにやら冒険者ギルドに赴き依頼を何個か受けるそうだ。これもカリデラのときとまったくいっしょなのだが、今回はギルド本部でクエストを受注するので、アリエスたちは高揚感が抑えられないような感じで本部に向かっていった。

 基本的に冒険者の資格を持っているものが一人でもいれば、クエストは受けることができる。よってあの中にはアリエスやルルンがいるので受ける分にはまったく問題がない。

 また実力面でも俺を除いたパーティーメンバー屈指の実力を持つキラがいるので特に心配はしていないのだ。

 そこで一つ思ったことがあったので俺は参考書に目を合わせながら声だけサシリに向けて放った。


「なあ、今さらなんだがサシリとキラってどっちのほうが強いんだ?」


「え?」


 サシリは思いがけない俺の質問にひどく驚いていたが、すぐさま元の表情に戻り話し始めた。


「うーん、多分私のほうが弱いわよ。確かに土地の力を身に宿せばある程度はついていけるけれど、キラはそんな私にも何の代償もなく反応できるし、私はそれを使ってしまったら体がボロボロになっちゃうから。だから、全力状態では五分五分、でも長期戦は圧倒的に私が不利って感じかしら?」


 確かにキラは俺と戦ったあとも消耗はしていたが、その体にはまったくダメージが通っていなかった。対するサシリは始祖返り(スローブラッド)を使えば絶対的な力を宿すことが出来るが、その分タイムリミットもあれば体に深刻なダメージを出してしまう。

 やはりそう考えるとキラのほうが一枚上手のようだ。といっても人間の身で精霊の女王と互角に戦える時点でどうかしているのだが、これはさすがイレギュラーということだろう。


「でもどうしていきなりそんなことを?」


 サシリが首をかしげながらそう呟いてきた。


「まあ、特に意味はないんだけど、これからパーティーを率いていくときにみんなの実力は的確に把握しておいたほうがいいと思ったんだよ。そうしないといざという時に冷静な判断が出来ないからな」


 それを聞いたサシリは目を丸くして、俺をじーっと眺めてきた。


「な、なんだよ?」


 俺は一度参考書から目を離すと、サシリに向き直り問い返した。

 するとサシリは途端に笑みを顔に浮かべると少しだけ体を横に傾けながら言葉を投げてくる。


「ハクって戦闘やそういう戦略的なところでは冴えてるのに、いざ勉強になるとその片鱗がまったくないなって思っちゃっただけよ」


「あの………、遠まわしに馬鹿にするの止めてくれます?」


「あれ、ばれちゃった?」


「んなもん誰だってわかるわーーーーー!」


 という俺の叫び声は部屋の中に轟き、空気を振動させた。

 こうして俺の紙面との格闘はまだまだ続いていく。









 一方そのころ冒険者ギルドではハクとサシリを除いたメンバーが大量に張られた依頼書を眺める様に観察していた。

 掲示板全てを埋め尽くすその紙たちは、そのどれもが基本的に討伐依頼のもので、低ランク冒険者には優しくないものが多かった。とはいえちゃんとFランクの依頼もあるようで、たまたま今日という日に限ってその依頼が少なかったようだ。


「んー、どれにする?」


 アリエスが腰に絶離剣レプリカをさしながらみんなにそう呟いた。確かにこれほど大量の依頼が溢れていたらなかなか決まるものも決まらないだろう。

 それに現在進行形で他の冒険者がその掲示板から依頼をもぎ取っていく。仮によさげなものがあったとしてもう直ぐに取られてしまって、どの依頼を受けるか決めかねていたのだ。


「そうね……。あ!あれなんかどうかしら?ゴブリン百体の討伐、Bランク指定だしそこそこ歯ごたえもありそうだけど」


「あれは少し厳しいですね……。確かに依頼内容はいいのですが、場所が少し遠すぎます」


 とエリアがシラの提案に反対の声をあげる。

 確かにそこに明示されていた出現ポイントは翼の布(テンジカ)を使っても一日以上かかってしまう距離にあるようで、今日一日だけでは達成できそうもなかった。


「それじゃあ、あれはどうかな?青竜の討伐、なんか小ぶりなドラゴンって書いてあるけどAランク指定だし、私達には丁度いいんじゃないかな?」


 すると今度はキラがその意見に反論した。


「いーや、あれもだめだ。そもそも今の妾たちが今さらBランクだのAランクだのの依頼を受けたところで満足できないぞ?最低でもSランクのものではないと話にならん」


「それじゃあ………どうするの………?」


 シルが皆に再び聞き返すように言葉を発する。そもそもSランクを超える依頼など、いくらギルド本部といえどもなかなか発見できるようなものではない。

 いや、確かにあるにはあるのだが、正直って胡散臭いものばかりなのだ。

 基本的に依頼ランクはそのクエストを発行している依頼者が決めてしまう。よって最悪の場合そのランクを偽造することもできるのだ。それをしたからどうということはないのだが、場合によっては高ランクの依頼が低ランク冒険者に渡ってしまう危険性も出てくる。今回はそれのまったく逆だから問題はないのだが、この制度には改善の余地が見られるだろう。

 ということでSランクの依頼を眺めているのだが、そこには明らかに低レベルな依頼内容が並んでおり、どれもあまり信用ならないものばかりだった。


「どうしよう、本当にいい依頼がないよ………」


 アリエス眉毛を大きく下げながら息を吐いて顔を暗くする。確かにSランクの依頼はろくなものがないのだが、それはSランク以上の冒険者というのがとても少ないことも表しており、単純にそのランク帯の依頼に需要がないというのも原因の一つだろう。

 するとそのアリエスの頭の上に乗っていたクビロが何かを発見したようで、いきなり声をあげた。


『あれなんかどうかのう、巨大白虎の討伐。あれは出現場所も近いし、なによりSランクじゃ。目撃証言もしっかりとれているようじゃし、問題ないのではないかのう』


 と言われたメンバーは全員でその依頼内容を確認する。

 見ると本当に怪しい箇所はなく、正真正銘のSランク依頼であった。アリエスたちは一度全員で目を合わせると同時に頷き、その依頼を受けることを決めその依頼書を取りに行くことにする。

 それは一番その依頼書に近かったアリエスが向かっていくことになった。

 アリエスは早足でその掲示板に近づくと、その紙を勢いよく掴み取った。

 だが。

 その瞬間、同じようにその依頼書に手を伸ばしている者がいた。




「あれ!君は確か昨日の……」


 そこにいたのは昨日と同じように果物を口に頬張っているSSSランク冒険者イナア=フリージスその人であった。


次回は完全にアリエスサイドのお話になります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日になります!

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