第十四話 粛清
今回はバリマを成敗します!
第十四話です!
「なんだ貴様は!」
というわけで現在、アリエスの屋敷、応接間。そこで俺はどこかのラブドラマよろしく結婚をぶち壊しに来たのだ。
まあアリエスを攫って誰もいないところに旅をするとか、いまからハネムーンね!みたいな展開は待っていないのだが。
「え?は、ハク君?君は一体どうしてここに……?」
アリエスの隣に座っているカラキさんが驚愕の声を上げている。どうやらそれはフェーネさんも同じようだ。
「悪いが、その婚姻には異議がある。そのために俺は今ここにいる」
その言葉を聴いた途端、バリマ公爵は、顔を真っ赤に染め上げ怒鳴り散らしてきた。
「き、貴様!無礼にも程があるぞ!一体どこから入ってきたかはわからんが貴族の面前でなんという態度だ!」
うわー。こうして対峙してみるとアリエスがこいつと結婚したくないのがよくわかる。
だってデブでブサイクですもん!
まさにメタボです、メタボ。
いや、俺もそんなにイケメンではないけれど、目の前にいる豚ほどではない。というか、顔、脂でギットギトなんですけど!?どういう生活習慣してるの、こいつ!?
「お、おい!聞いているのか!」
「ああ、聞いているとも。あいにくと俺は貴族っていうものに疎くてな。正直言って、くだらないとしか思ってないんだわ」
「き、貴様ぁ!」
おおう、こわいこわい。
え?何が怖いかって?そりゃ目の前に迫る脂ぎった豚顔がだよ。下手したら魔よけのお面よりも怖いんじゃないか、これ。
「おい!この無礼者を捕られろ!牢屋にぶち込んでおけ!わしに楯突いたことを後悔させてやる!」
「「「はっ!」」」
忠実な部下どもだな。よくもまあこんな主に付いて行ってるな。
正気か?と疑いたくなる。
『うーむ、さすがに私もあれは受け付けんのじゃ。あんなのが主なら一瞬で塵に変えておるのじゃ……』
怖い!リアさんちょっとそれは怖すぎですよ!
まさかバリマ公爵の怖さを軽々超えてしまう存在がこんな近くにいようとは……。
まあ怖さのベクトルは違うんだけどね。
「無駄な抵抗はやめることだ。大人しく捕まっていろ」
というわけでバリマ公爵の部下である兵士に囲まれてしまいました。うーん、なんでまたこういう展開になるかね。
目の端には、カラキさんが手を目に当てて空を仰いでいる。どうやらもうあきらめているようだ。
うん?何がって?そりゃ当然、
「邪魔だ、失せろ」
そう言うと十数人いた兵士の鳩尾に小さな氷塊を打ち込む。うん、大体時速百キロぐらい出ていたんじゃないか?ちゃんと鎧の繋ぎ目を狙ったし、ダメージはそこそこ大きいはずだ。バコーンと音を立てて部屋の壁に兵士たちは激突する。
よし、ちゃんと全員気絶しているようだ。
「な!?貴様……。いったい何をした!?」
「何って、吹き飛ばして気絶させただけだが?何か問題でも?」
「大有りだ!貴族に喧嘩うってただですむと思うなよ…………!」
「ほう?ならばやってみるがいい。ほら、どこからでもかかってきていいぞ?」
俺は両手を広げ、いつでもどうぞ、といった素振りをみせる。
まあかかってこられるわけないのだが……。
そう、こいつはアリエスを寄越せばルモス村を守るとか行っておきながら、武の心得がまったくないのだ。仮に自分が戦えなくとも部下に的確な指示を送れれば問題はないのだが、なにぶん温室育ちのためそんな器用なまねはできない。
俺はそれをわかっていて挑発している。そしてそれを利用してこれからの作戦は動き出す。
「ぐぬぬ……」
「フフフ、そうだろうな。お前は部下を一蹴した俺にはかかってこられない。そんな勇気すらない。そのくせアリエスを渡せば、ルモス村の軍事を支援するだと?笑わせる!ましてお前は今アリエスと婚約を交わそうとしたのだ。事の重大性を理解しろ」
そう、だから俺はアリエスに婚約を引き受けるように頼んだ。一度了承してしまえば引けなくなるのは、何もこちらだけではない。
「だ、黙れ!き、貴様ごとき恐れるに足らんわ!」
「にしては足が震えているが?」
「黙れ!」
するとなにやら外から大音量でウー、ウー、という警報が鳴り響いた。
『警報、警報。ただ今ここルモス村に魔物が接近しています。至急冒険者の皆様は村門にお集まりください。繰り返します。ただ今………』
ようやくきたか。ベストタイミングだ。
正直都合よく魔物を呼び寄せられるか眉唾ものだったのだが、セルカさんは上手くやったようだ。
「ふむ、ちょうどいいな。バリマ公爵?どうだろうアリエスに自分の武勇を示してみるのは?魔物を倒す貴殿の姿を見ればアリエスは貴殿に惚れるかも知れんぞ?それに今婚約は成立したのだろう?契約書は書いてないとはいえいまさら取りやめなど聞くことはできん。貴殿の兵士がいない今、ルモス村を守る戦力は貴殿以外にいないと思うのだが?」
半ば強引だが、言っていることは事実だ。清廉潔白、正当性百パーセントの誘い文句だ。
「ぐ、しかし……」
「何を迷っている、拒否はできんぞ。それとも地面に頭をこすりつけ今回の縁談は取り消すようにアリエスに頼み込むか?」
「え、ええい!わかったわい!早く連れて行け!魔物の一匹や二匹わしが倒してくれる」
フッ、かかったな?
これでもうお前は引くことはできない。
「ということだ、カラキ。こいつとアリエスを借りるぞ?」
「あ、ああ。よろしく頼む。君のことだ、今回もなにか考えがあるのだろう?娘をよろしく頼む」
「頼まれた。よし、アリエス行くぞ」
「うん!」
そして俺はバリマ公爵の首根っことアリエスの手を持ち、村門まで転移した。
さあ、面白くなってきたぞ!
「あ!ようやく来たねハク君。こっちの準備はできてるよ。ん?そちらが例の?」
「ありがとうございます、セルカさん。ええ、このブサイク男が、バリマ公爵です」
俺が到着したときには、既に魔物は三百メートルほど先に見えていた。セルカさんの後ろにはギルドマスターのジルさん、そしてさらに後ろには警報を聞きつけ駆けつけた二百人ほどの冒険者が集まっていた。
おお……。この村にはこんなにも冒険者がいたのか…。でもこれでAランク以上はいないのだから世知辛い世の中だ。
「な!?ここはどこじゃ!?さっきまでわしは屋敷に……」
「どこって、村門だよ。ほらあれがお前の獲物だ」
そう言って、俺は目の前にバリマ公爵を投げ飛ばす。
「……お、おい!聞いてないぞ!一匹どころではないではないか!憚ったな!」
「はあ……。言っておくが俺は一言も魔物が一匹だけとは言ってないぞ?ほら、警報を思い出してみろ。『ただ今ここルミナ村に魔物が接近しています』だったろ?警報の内容をよく聞かなかったお前が悪い」
「そ、そんな……」
もちろんこれもジルさんたちとの作戦の一つだ。あえて警報で魔物の数を断定しない。すると、とらえようによっては魔物が一匹だけしかいないという認識を植えつけることができる。俺はそれを誘導した。
「にしてもよく集めましたね、セルカさん。どうやったんです?」
するとセルカさんはギルド服のポケットから紫色の短剣を取り出し、俺に見せてきた。
「この短剣、『バビリ』を使ったのさ。これは常に魔物をおびき寄せる魔力を放出しているんだ。普段は魔力封じの布をまいて保管しているけどね。こういう機会でもないと使わないのさ」
「物騒ですね……。どこでそれを?」
「もう廃業してるけど、昔はAランク冒険者だったんだ。そのときに見つけたのさ。あ、これは秘密で頼むよ、あまり公言していないんだ」
へー、セルカさんは冒険者だったのか。それもAランク。相当強いのだろう。
そういえばジルさんがセルカさんに言っていた「すまないが今回ばかりはよろしく頼む」というのはこのことだったんだろう。何故公言しないのかはわからないが。
「了解です。……ほらそろそろ魔物たちが目の前に迫ってきてるぞ?身構えなくていいのか?バリマ公爵?」
「ま、待ってくれ。か、金ならやる。だ、だから助けてくれ……。こんな量の魔物と戦ったら死んでしまう!」
もう折れたか、面白みがないな。
ただこのままでは終わらせんさ。
「はあ、いいだろう。さすがに俺も無茶なことを言っている自覚はあったんだ……」
「じゃ、じゃあ……」
「だが魔物と戦う恐怖をお前はまだ知らない。お前がアリエスの天秤にかけさせたものの重みを知らずにここで、はいそうですね、なんて俺は絶対にいわない。……だから」
その瞬間俺はバリマ公爵の首根っこを左手で持ち。
「俺が戦う姿を見て恐怖しろ。そしてそれがわかったらアリエスからは手を引き金輪際関わるな。そしてルモス村とは今まで通り外交は継続しろ。これがお前を許す唯一つの条件だ!」
そう俺は叫んだのち、そのまま魔物の群れに突進した。エルテナを横に薙ぎ、魔物の首を切り飛ばす。俺とバリマ公爵の顔に返り血が飛ぶが気にしない。
「ひぎゃああっ!」
俺に掴まれたままバリマ公爵は悲鳴らしきものをあげていた。俺は構わず次々と魔物たちを切り裂く。
ときには、心臓が、ときには脳みそが弾けだすが、俺はわざとバリマ公爵に見せ付けるように動いた。
「ぎゃああああ!も、もうや、やめてくれええ!」
そんな言葉は聞くわけもなく、俺はひたすら魔物を切り伏せていく。どれだけ斬ろうがエルテナの切れ味は落ちない。故に常に最高の切断面をたたき出す。それは抵抗のないものにはとてもグロいものだろう。精神的なダメージも相当たまっていっているだろう。
俺たちの作戦の狙いはここにある、魔物との戦闘を目の前で見せ、恐怖で完全に精神を叩きおるというものだ。もちろんこれが歴戦の冒険者ならばまったく意味をなさないだろうが、相手は温室育ちの貴族だ。生まれてこのかた血すら見たこともないというやつには、この方法は効果覿面だ。
そしてその折れた精神状態でアリエスとの婚約を自ら取り消させる。これが俺たちの作戦の全容だ。
まず、俺がアリエスの本当の気持ちを聞きだす。そして翌日セルカさんが魔物たちを呼び寄せ、ジルさんが村中に警報をならす。最後に俺がバリマ公爵を引きずりながら魔物を討伐し、バリマ公爵に手を引いてもらう。
全て計算どおりに進んだ。
後は俺が全ての魔物を討伐すれば完了だ。
集まってもらった冒険者には申し訳ないが、これは半分自作自演的なところがあるので勘弁してもらおう。
見るとバリマ公爵は白目をむいて泡をふきながら気を失っている。まったく以って情けない。
まあとりあえず、残りの魔物もサクッと倒してしまいますか!
そして俺はさらにギアを上げて動き出した。
「す、すごい………!」
同時刻、アリエスはセルカの隣で作戦の内容を聞きながら、ハクの戦闘を見ていた。ハクが戦っている姿を見たのはこれで二回目になるが、今回ははっきり言って目で追うこともできなかった。ハクが動いたと思えば魔物が吹き飛び絶命する。ただそれの繰り返し。
するとギルドマスターのジルの隣に来て、苦笑しながら話しかけてきた。
「まったく、凄いものだよハク君は。私が考えた無茶な作戦をいとも簡単に実行してしまうし、なにせ君の本音を聞きだした。私はそれが一番難しいと思っていたんだ。アリエスちゃんは普段あまり気持ちを表に出さないだろう?」
気づいていたのか、この人は……。
アリエスは普段、いつもニコニコと笑っているのだが、常に気を使って本心というものを隠していることが多い。
このギルドマスターはそれを見抜いていたのだ。
「まったくすさまじいですね。私の目から見てもなにをやっているか判別することが出来ない。本当、何者なんだろうか、ハク君は…」
隣にいたセルカも半分呆れ交じりの言葉を漏らす。
後ろにいるたくさんの冒険者もハクの動きに言葉を失っていた。
そこでアリエスは思ってしまった。
ああ、やっぱりハクにぃはすごい、と。
自分では手すら届かない高みにいると、悟ってしまった。
だから、返り血で血まみれになりながらも戦っているハクのことがとても眩しく見えた。
すると、いきなり大地が割れるような音をたてて地面が揺れだした。
「きゃあ!な、なに!?」
なにが起きたのかわからないアリエスは、隣にいるセルカに何が起きたのか聞こうと振り返ると、そこには今まで見たことがないくらい目を見開いて固まっている、セルカがいた。
「あ、あ、あ、あ、あれ、は……。地の土地神!?」
そしてアリエスは視線を元に戻すと、そこには魔物を全て倒し終わったハクと全長百メートルはあろうかという黒い大きな蛇が対峙していた。
次回は地の土地神との戦闘になります!
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