第百四十七話 目指せ、学園王国!
今回で第四章は終了となります!
では第百四十七話です!
結局俺達は再びサシリの城にて夕食を向かえることになった。
理由としては、明日にはこのカリデラを立つことが原因である。問題であった俺の勉強にも一応めどはつき、血晶病の問題も片がついた。さすがにもうそろそろ移動し始めないと入学試験に間に合わなくなってしまうのだ。
それゆえ最後の別れというわけではないが、思い出に残るような場所にしようという案が勝ちカリデラ城に赴くことになった。
今回俺達が通されたのは立食パーティーで使用したような大きな会場ではなく、サスタを加えた俺たち九人が丁度入るようなこぢんまりとした部屋で、落ち着いた雰囲気が醸し出された部屋になっていた。
見ると城のなかの執事やメイドらしき人達が次々と料理を運んできている。どれも見たことがないものばかりで、色合いはかなり不気味ではあったものの食欲をそそる様な香りが放たれており、口の中は涎の洪水が起きてしまっているほどだ。
それから俺達はその料理を口に運びながらカリデラでの最後の晩餐を楽しんだ。俺はサスタと冒険者トークで盛り上がり、女性陣はこのカリデラで過ごした思い出を語っているようだ。唯一キラはその話に参加できないのではないかと思っていたのだが、俺の勉強の愚痴や感想を交えて饒舌に会話を繰り広げていた。
長いようで短い時間が過ぎ去り、食後のデザートを食べ終わったところでサシリが突然俺に話しかけてきた。
「ところでハクたちは旅をするとは言っていたけれど、どこに行くのかしら?」
「ん?ああ、このまま北上したところにある学園王国だ。そこに第四ダンジョンがあるらしいからな。それが俺達の目的地になる」
「そう、学園王国ね……」
サシリはその言葉を聞いた後少しだけ迷った表情をするとテーブルにおいてあった紅茶を手に取った。
「まあでもまたここには来ることになるだろうし、別れっていうほどのものでもないけどな」
俺も同じく紅茶を掴み取り喉に流し込んでいく。その味は俺の舌をじんわりと苦味で覆い隠すようなまろやかな風味で、何度も飲みたくなってしまうほど美味しいものだった。
だがこのやり取りを見ていた俺以外のメンバーはなにやら全員が押し黙っており、その目はまるで戦闘時のときのように鋭いものになっている。
「お、おい、この空気は一体………」
「ハクにぃは黙ってて!!!」
「はいぃ!!!」
俺の言葉はアリエスの口から吐き出された静かな叱責によって封じ込められる。
え、こ、これどういう状況なの?
よくよく観察してみると、サシリは顔を舌に俯けながら何かを考えているようで、そのサシリを全員が見つめていた。
しかしその雰囲気に耐えられないと言わんばかりにサスタがサシリに声をかける。
「姉ちゃん……」
だがそれはサシリが差し出した右腕によって止められてしまう。するとサシリはおもむろに立ち上がり、俺の席の近くまでやってきた。
俺はまったく状況が飲み込めず目を白黒させながら椅子に腰掛けてるのだが、近寄ってきたサシリの顔が何かに緊張しているように赤く、より俺を困惑させた。
おいおいおい、今から何が起きようとしているんだ?
頭の上に大量の疑問符を並べる俺だったが、キッと顔を上げたサシリの目が俺を射とめ、さらに空気を硬直させる。
「あ、あの、ハク?わ、私ね………」
「あ、ああ。ど、どうした?」
サシリの声は震えていたが、はっきり言ってこちらもかなり動転しておりぎこちない反応しかできない。
「ハクの、旅に、ついていてもいいかしら………?」
その瞬間その光景を見ていたアリエスたちがよく言った!という表情を見せており、部屋の雰囲気が暖かいものに変化した。
で、当の俺はというと、理解が追いつかず手に持っていた紅茶を落としそうになるが、ぎりぎりのところで思考回路が動き出し、事態を把握する。
つ、つまり?
サシリは俺のパーティーに入りたいってことだよな?
………………。
この展開はなんというか、何度か経験したことがあるな。キラのときもエリアのときもルルンのときも、俺の予想をこういうときだけ超えてきて衝撃を俺に駆け流す。
まあ、サシリとはメンバーたちもかなり深い友好を築けているようだし、おそらく問題はないのだろうが、色々と別の問題が出てくる。
「い、いやー、その場合、このカリデラはどうなちゃうのかなーとか言ってみたり……」
「そ、それは大丈夫!そもそも神祖がいなくてもこの町は回っていくし、吸血鬼は人族よりは強いはずだから、多少の侵攻があっても耐えられるわ……」
は、はあ………、そ、そうですか……。
俺はその言葉を聞きとめつつも、周りの反応を窺ってみた。するとそこには早く答えなさい!と目で語ってきているメンバーの姿が映し出されており、もはや恐怖しか感じられない。
『おい、この状況はどうしたらいい?』
『まったく主様は困れば直ぐに私を頼るのう……。正直言って女ばかり増えるのは私が主様を襲えなくなるからあまり好かんのじゃが、イレギュラーと呼ばれている者が命を狙われている以上、固まっておったほうがいいのは確かじゃろうな。私個人はサシリは嫌いではないし別にいいのではないか?』
ちょっと!?今何かサラッと聞き捨てならない台詞が含まれていた気がするんですけど!?
おちおち一人で寝てられないな!!
とはいえ、確かにリアの言っていることは事実であり、あの星神の使徒たちが言っていたことを信じるならば、奴らは俺とキラ、そしてサシリの命を狙っていることになる。もちろん全員あのような連中に負けるほど柔ではないが、それでも何が起きるかわからない。
ゆえにリアの意見もわからなくはないのだ。
はあ……。どうやらアリエスたちもなにやら繋がっているみたいだし、ここはどうやっても断れないだろう。まあ断る理由もないといえばないのだが。
「………わかったよ、俺は別に反対しない。だけどしっかりこのカリデラのことは蹴りをつけてからにしろよ?多分色々とやることがあるだろうしな」
その返事を来たサシリは目を大きく広げ、肩を上下させる。
その言葉に何か返そうと思っているようだが上手く言葉が出てこないようだ。
だが次の瞬間、そのサシリにアリエスたちが飛びついた。
「やったね!サシリ姉!!これでいつでも一緒だよ!」
「ほら、やっぱりハク様は頷いたでしょ?ハク様はこういうときは押せばいけるものなの」
「ハク様は押しに弱い………」
「どんどんパーティーメンバーが増えていきますね!賑やかなのは嬉しいです!」
「これで私にも後輩ができるんだね!なんか感慨深いよー」
「まあ、サシリの実力は妾も認めている。足を引っ張るということはまずないだろう」
メンバーの各々がサシリの加入に言葉を送る。
当のサシリはいまだに信じられないような表情をしていたが、次第にもとの顔に戻りみんなにお礼を述べた。
「ありがとう……みんな」
俺はその光景をにこやかに見守っていたのだが、一つ疑問が残っておりそれをアリエスに問いかけてみた。
「なあ、アリエス?お前達はサシリがこのパーティーに入りたいってことを知ってたのか?」
「ふふん、それはね、さっきこの城に来る間にサシリから相談を受けたの。私達は当然反対しなかったんだけど、サシリはハクに言う勇気がなかなかなくて私達が背中を押したってわけ」
な、なるほど……。
いや別に俺はそんな緊張させるような人間ではないと思うのだが……。気づかないうちに威圧でも出ていたのであろうか?
「ということはサスタも当然?」
「ああ!俺ももちろん知ってたぜ!正直、姉ちゃんが打ち明ける前からわかってたことだったから、驚きはしなかったけどな」
「え、私そんなに顔に出てた?」
「そりゃもちろん!毎日毎日、ハクやその仲間のことをブツブツ呟いて城中歩き回ってりゃだれだって………んぎゃ!?」
「もういい、黙ってて」
サシリのことになると饒舌に語り出すサスタに、自分の恥ずかしい姿を暴露されたサシリは弟の脳天に拳を振り下ろし黙らせる。
その光景に俺達は一斉に笑い出すと、場の空気が完全に和やかなものに変わり、サシリとサスタの顔にも笑顔を作り出すのだった。
するとサシリが急にサスタのほうに向き直り言葉を紡ぎ出した。
「それじゃあ、後はお願いね。私がいなくてもあなたなら大丈夫。なんて言っても私の弟なんだから」
サシリはそう言うとサスタをその胸に抱きしめた。
「姉ちゃん………」
サスタはその瞳に大粒の涙を浮かべるがすぐさまそれを振り払うと、サシリの体から自分を離し、その目を真っ直ぐ見つめた。
「ああ、カリデラのことは俺に任せとけ!姉ちゃんは姉ちゃんらしく旅をしてくればいい」
サスタはそう言うと次に俺に向き直ると少し力の篭った声で言葉を発した。
「姉ちゃんを頼むぞ」
「ああ」
俺はその言葉に反応するように自分の拳をサスタに突き出した。サスタも合わせるように己の拳を差し出してくる。
その光景を見ていたサシリは近くにいる執事のような人に軽く声をかけた。
「そういうことだから、お願いね」
「はい、かしこまりました。姫様もお気をつけて」
サシリはもう一度その執事に笑いかけると、目の前にいるサスタにあるものを手渡した。
「これはサスタにあげるわ。このカリデラを守っていく以上なにかしらの力は必要でしょ?」
そう言って差し出されたのはサシリの腰にささっていた血剣サンギーラである。なんでも始祖が持っていた魔剣らしくその力は俺との戦いから見ても強大であることは間違いない。
「いいのか、姉ちゃん?」
「ええ、これで町の人達を守ってね」
そう言うとサシリはサスタの腰に剣帯ごとその剣を巻きつけると、再び席に着き食後の時間を楽しみ始めた。
俺たちもそれに続き紅茶に手をつける。
こうしてカリデラでの最後の晩餐は終了した。
カリデラでは血晶病から始まり、星神の使徒との戦いまで発展したが、その中心にいた血神祖というお姫様は俺たちと出会い、その生き方を大きく変えたのであった。
翌日。
さすがにカリデラの門から堂々とサシリを連れ出すというのはとても出来ないので、カリデラ城の大きなバルコニーから飛び立つことになった。
俺は翼の布を広げ旅立つ準備をする。アリエスたちは各々忘れ物がないかチェックしているようで、俺の蔵の中に荷物を注ぎ込んでいた。
サシリは軽くまとめた自分の荷物をアリエスたちに続くように蔵に入れると、初めてみる翼の布に驚いていた。
「これで空を飛べるなんて信じられないわ……」
「みんな初めはそう言うんだよ。私もハクにぃがこれを出してきたときは凄く驚いたし」
アリエスとサシリはそう話すと他のメンバーとともに翼の布の上に飛び乗った。
それを見送っているサスタにサシリは最後の声をかける。
「それじゃあ、頑張ってね、サスタ」
「おう!姉ちゃんも元気でな!」
俺はその二人のやり取りを確認すると、自分も翼の布に乗り込み勢いよくその空に向かって走らせた。
「次の目的地は今度こそ学園王国だ!行くぞ!」
そう言って出発した俺たちは、カリデラの空をたっぷりと堪能すると一直線に学園王国を目指したのだった。
これにて第四章は終了となります!
この章は色々と今までのお話とは趣向を変えてみました。というのもこの章は「血神祖サシリ」という少女の成長物語と言っても過言ではない作りになっているからです。
神核もハクの隠された人格も出てくることはなく、只管吸血鬼の少女にスポットライトを当てる、これが大きな軸になっています。またこの第四章の名前が他の章のように地名になっていないのは、土地に縛られたサシリを強く描くためにそう設定させていただきました。
そして次回からはついに学園王国編に突入します!これは間違いなくテンプレートな展開がたくさん出てくることになると思います!そういったストーリーを待っていた方は楽しみにしていてください!
それとこの学園王国編はプロットの段階でかなり長くなることが予想されます。ですので気長に見ていただけると幸いです!
誤字、脱字がありましたお教えください!




