表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/1020

第百四十六話 夢、そして日常の再来

今回はアリスについて少しだけ掘り下げています!

では第百四十六話です!

 夢を見ている。

 その感覚が今の俺にはあった。

 いやこの状態を夢と言えるのだろうか。それすらもわからないがとりあえず現実世界ではないことだけは理解できていた。

 能力も武器も使用していないのに俺の体は宙に浮き、その真っ黒な空間に漂っている。

 ローブの裾が何かに揺らされるようにはためくと、俺の目の前に一人の少女が現れた。

 その少女は俺が会いたくても会えなかった、否、救えなかった人物で長い金髪の髪を揺らしながらそこに立っていた。

 やはり、この夢の中では彼女の名前を声に出そうにも出てくることはなく、思い出すことも出来ない。なぜこのような現象が起きているのかはわからないのだが、今は目の前にいる少女をまじまじと見つめ、目の中に焼き付けていた。

 するとその少女はおもむろに口を開く。


「まさか、私の一番大切なものを封じ込めるなんて、あの子もなかなかえげつない事をするよね。まあ、そのおかげでこうやって出て来れているわけだから文句は言えないけど」


 その少女は俺とは目を合わせず、まるで空を見上げるようにそう呟いた。

 そして、一度目を閉じた後回転するように俺に向き直るとそのまま話を続けた。


「ハクとこうやって話すのは久しぶりだね。元気だった?」


 その笑顔はあの真話大戦のときのまま変わっておらず、見つめてくる瞳の色も、はにかむ口の形も、俺の記憶にある姿のままだった。


「元気か……。まあそうだな、元気といえば元気なのかもしれない。色々と大変ではあるけれど」


「ハハハ、確かにそうだね。今のハクは確かに大変そう。でも楽しいでしょ?」


「何を根拠に?」


「私と戦ってた時よりも笑ってる時間が増えたからかな?」


 その言葉は俺の心に深く突き刺さった。

 真話大戦のときはろくに休んでいる暇すらなく、殺気しか感じられないほど切羽詰っていたのだ。巻き込まれた俺にすれば、そんなもの嫌悪を抱くには十分な要因で確かに笑うことは少なかったかもしれない。


「ああ、気にしなくていいのよ。私は私で楽しかったから。それに最後も私の言うこと聞いてくれたしね」


「ッッッ!そ、それは………」


 その少女が言っているのは真話大戦における本当の最後、俺がこの少女を救えなかったときのことだろう。気持ちの整理はつけたのだが、やはりあのときのことを後悔していないというのは嘘になる。

 だが仮にやり直せるとしてもあの状況を打開できたかと問われれば、今の状態であってもおそらく不可能だろう。


「やっぱり、ハクは優しいね。世界を天秤にかけていたとはいえ、あれは私の我侭だったし、ハクが気に病むことはないのに」


「…………で、わざわざ俺の夢に出てきてまで何のようだ?正直言って今のままだと俺の悲しい妄想が夢の中で具現化しただけという幻想になってしまうぞ」


 実際、その少女は俺の記憶の中では完全に消滅しているはずなので、こんな異世界に来てまでこの少女が現れることは絶対にありえないのである。


「どうかな?そうとも言えるし、言えないかもしれない。今の私はそれだけ不安定な存在なのよ。………でも、そうね。一つだけ言えるとしたら」


 その少女はそこで言葉を切ると、俺に背を向けて歩き出した。


「『鍵』は大切にしておくこと、これくらいかな?それが上手くいけばもしかしたら私とハクがもう一度会える日が来るかもしれなから」


「ど、どういうことだよ、それ………」


「うん、やっぱり時間切れみたい。それじゃあね、ハク」


 意味深な言葉を残しその少女の体はこの空間から消え去った。残された俺は自分の右手を見つめながら少女が言った言葉を口の中で反芻する。


「鍵って一体なんだよ………」


 その瞬間、ガラスの窓が追われるかのような音が空間に響きわたり、この夢の世界は決壊した。








「………ん。……こ、ここは……」


 瞼を閉じていても突き刺してくるような赤い夕日が俺の意識を覚醒させた。どうやら四時間ほど寝ていたらしく、俺の体は広場の壁に立てかけられるように鎮座している。

 溜まっていた疲れもさっぱりなくなっているようで体が思ったよりも軽い。そのまま俺は立ち上がろうとするのだが、ふとそこで俺の膝の上に何かが乗っていることに気がついた。

 それは刻みのいい寝息を立て、体を揺らしているアリエスだった。その顔ほんのり上気し赤く染まっている。白い髪の毛は夕日の光を綺麗に反射し、銀箔を空中に巻き上げたかのような光を放っていた。

 気配探知を使うと、あれほどたくさん避難していた住民達は普段の生活を取り戻しており、この大きな広場には俺とアリエスの二人しか見受けられない。ついでに他のメンバーについても探ってみるが、皆泊まっていた宿に戻っているようで、そこにはサシリの気配も感じられる。

 俺はアリエスを起こさないように背中におんぶするとその寝息を乱さないようにゆっくりと宿へ歩き始めた。

 夕日に照らされた町並みはいつもよりも若干静か目で家の外に出ている人は少ない。道や家屋は俺の力ですっかり元通りになっているようでバキバキにひび割れていた道も、壊れていたことが嘘のように綺麗なものになっていた。

 歩いている間、俺は先程の夢を思い出していた。

 何故か俺はあの世界にいるときはアリスの名前を思い出せない。それは以前からそうなのだが、それが何を意味しているのかは今の俺にはわからなかった。

 またなにやら「鍵」を大切にしろ、とも言っていた。そんな隠語の様なことを言われても到底俺には理解できないのだが、そもそも俺にはあのアリスが本当にアリスなのかということも疑問に思っていた。

 単に俺の妄想が作り上げたものであったとすれば、そんな言葉信じる必要もないし、信じたところで悲しくなるだけだ。

 ………やはり、この件はわからないことが多すぎる。最近やたら真話大戦の夢を見ることとなにか関係しているのかもしれないが、情報量が少なすぎる今、深く考えたところでわからないものはどれだけ悩んでもわからないだろう。

 俺が思考を投げ捨てたそのとき、背中からモゾモゾと動く感触が伝わってきた。


「……ん……あ、あれ?………私……寝ちゃってた?」


 アリエスは誰に問いかけるわけでもなくそう呟くと、半開きの瞼を持ち上げながら周りをキョロキョロを見渡した。


「おはおう、アリエス」


 俺は前を見たままそう呟く。


「うん、おはようってハクにぃ!いつの間に起きたの!?っついうか私おんぶされてるし!?」


 ようやく現像を飲み込んだアリエスは顔を先程よりも真っ赤にしながら慌て始めた。その光景は妙に可愛らしく愛くるしいもので、アリスの夢のことを考えていた心の中が少しだけ落ち着く。


「ハクにぃ!降ろしていいよ!私、その、重たいだろうし………」


「ん?そんなことはないぞ?むしろ背負ってるのを忘れそうになったくらい軽い。気にしなくていい」


 実際アリエスはモデル並みに細く美しい体をしているので、重たいなんてことはまったくないのだが、アリエスも気を使っているようだ。

 俺の言葉を聞いたアリエスは一瞬、さらに顔を赤くしたのだが、そのまま何も言わずに俺の背中に再び顔をつけた。

 それを俺は確認すると寝ていた間に何が起きたのか聞いてみることにした。


「なあ、アリエス。俺が寝た後一体どうなったんだ?」


「うん?ああ、そうだよね、説明しないと。えーと、あの後街の修復はハクにぃがやってくれたからまったく問題なかったんだけど、避難している人たちの中には怪我をしている人もいたからその手当てかな。といってもキラがお決まりの根源で治したんだけどね」


 確かに俺は町を直しはしたが、怪我人のことは考えていなかった。

 あれほどの戦火が広がったのだ。怪我人の量はかなりのものになっていただろう。正直その場にいてやれなかったことが悔やまれるが、無事に終了したのなら問題はないはずだ。


「あとは、サシリ姉が住民の人達に軽く状況の説明をして、今はギルドと協力して城下町の周辺の警備を行ってるみたい」


 使徒たちが攻め込んできた状況をどう説明したのかしらないが、今俺達が歩いていても騒ぎ立てないところをみると、それも上手くやったようだ。そこらへんはさすが血神祖というべきだろう。


「で、今私達はどこに向かってるの?」


 アリエスが俺の顔を覗き込むような形でそう呟いてきた。


「ああ、普通に宿屋だよ。どうやらそこに皆集まってるみたいだし」


 するとアリエスは頬を膨らませながら、口を尖らせた。


「もう、皆ったら私達を置いていくなんて酷いよ!」


 おそらくそれは気持ちよさそうに寝ていた俺達を気づかってのことなのだろう。あの場には誰もいなかったし、もしかしたらサシリ辺りが気を利かせたのかもしれない。

 俺達はその後も他愛もない話をしながらゆっくりと宿屋に向かった。

 途中、何度か住民の人にお礼を言われることがあり、そのたびに色々なものを貰ってしまった。お菓子や、飲みもの、武器や薬草などが主なもので、アリエスをおんぶしながらでは持つことは出来なかった俺は、一旦蔵の中に入れて歩き続ける。

 その作業は蔵を開いて、アリエスが放り込んでいたのだが、そこで不意にアリエスの手が止まった。


「ねえ、ハクにぃ、これなに?」


 アリエスは蔵の中から青く輝くペンダントを取り出し俺に差し出してくる。それはアリスがつけていたものにそっくりだからという理由で購入したものだった。


「それはエルヴィニアのガラス細工の店で買ったものだよ。まあ誰に渡すわけでもないし適当に買っただけだけどな。ほしかったらあげるけど?」


「え!いいの!やったー!」


 アリエスはそのペンダントを直ぐに首に通し、身に着ける。

 それはアリエスの目の色と同じ輝きを放っており、とても似合っていた。

 と、そんなこんなで気がつけば宿に到着していた。

 俺はアリエスを背中から下ろし自分達の部屋に向かう。

 すると部屋の奥からなにやら話し声が聞こえてきた。

 それは何かを言い合っているような声で、剣呑とまではいかないがそれでも言葉に力が込められているようだ。

 とりあえず、それを気にせずその扉を開けて中に入る。


「よっ、今戻ったぜ」


 俺は中にいる六人のメンバーにそう声をかけた。


「あ、マスターいいところに!少しだけ手を貸してほしい!妾ではもうどうしようもなのだ!」


「はあ?それはどういう………」


 俺がキラに問いかけようとしたそのとき、残っている五人のメンバーの話し声がその言葉をかき消した。


「今日の夕飯は私とシルで手作りします!これだけは譲れません!」


「うん………!絶対に………!」


「いいえ!ここはやっぱり高級料理店に行くべきです!疲れている今だからこそ他の人の手を取るのです!」


「えー、私はいっそのことお菓子パーティーでも言いと思うけどなー」


「ここは私の町よ!だからもう一度城でもてなすわ!それの方が誰にも迷惑はかからないし!」


 ………。

 それは戦いの後とは思えないほど見当違いな会話で、その光景を見ていた俺とアリエスはガクリと肩を落とすのだった。


「お前らなあ……」


 俺は額に手を当てながら呆れつつも、いつも通りの空気がそこにあったことに安心し、アリエスと目を合わせるのだった。

 アリエスもやれやれといった表情で手を上げている。


 カリデラが襲われた壮絶な戦いがあったものの、その香りはもはやこの町には残っておらず、いつもの平和な雰囲気が漂い始めたのでった。


次回はようやく第四章最後のお話です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ