第百四十一話 カリデラ防衛戦、四
今回はキラとサシリの戦闘が終了します!
なんというか、この二人のコンビは格好いいです!
では第百四十一話です!
カリデラの上空を無数の閃光が煌く。
それは瞬く間に全て爆発し衝撃と突風をともなってその台地を揺らす。音は爆ぜ、光は断絶し、空気は無に還る。
そうような光景が空一面に映し出されていた。
その戦いを繰り広げている三人はお互いの呼吸を読みあうかのように空を駆け、莫大な力を放出する。時には力同士が衝突し時には攻撃が体を掠め、お互いにしのぎを削る戦いになっていた。
「まあまあやるようだな、星神の使徒。妾の攻撃に順応しているだけでも褒められることだが、少々その動きが気に入らない。先程の気概はどこにいった?」
キラは自らの手に新たな根源を展開しながらそう呟いた。その表情は冷酷なまでに冷え切っており感じられるのは圧倒的な殺気のみ。それこそが精霊の女王ある風格だと言わんばかりに使徒を見つめている。
「あまりなめられるというのは好きじゃないわ。ここまでカリデラを破壊しておいてその程度のことしか出来ないようなら、次の攻撃で消すわよ?」
キラに続くようにサシリも血剣を握り締めながら破壊的な威圧を放出する。それは次第に空気を軋ませ耳に乾いた音を響かせていた。
「チッ。さすがにイレギュラー二体を同時に相手にするのは辛いか………。だがここで引き下がるほど私は愚かではない!」
口調の強いその少女はキラとサシリを交互に見つめると、その片方に狙いを定めて攻撃を開始した。
使徒は背中から生えている翼に力を集中しだすとその羽から無数の光線を放ってきた。
標的にされたのは剣を構えるサシリで、サシリは一つため息を吐くとその攻撃を身を捻らせながら全て打ち落とす。
「そう。その程度なのね。ならこれでおわ……」
「気をつけろ!奴の攻撃はまだ終わっていないぞ!」
隣にいたキラがサシリの言葉を遮るように大声で危険を知らせる。その声にサシリは咄嗟に身構えるがそれは少しだけ遅かった。
「くたばるがいい、吸血鬼!」
使徒はその間にサシリの背後に回りこみ、魔力でも神格でも根源でもない力を叩きつける。
「きゃあああ!?」
サシリの体は勢いよく吹き飛び地上の建物に激突する。さらに使徒はサシリに追撃を加えようとするが、その前にキラが立ちふさがった。
「調子に乗るなよ」
キラはそれだけ呟くと手に纏わせた根源を打ち放つ。
「根源の爆撃」
それは巨大なレーザー砲のような一撃で使徒の攻撃など全て吹き飛ばしその体を飲み込んだ。
「ぐあああああああああああ!」
その後キラは吹き飛ばされた使徒を追いかけ珍しく近接戦闘を開始する。
始めはその背中を右足で蹴り上げ、その威力を殺すように上空から肘を叩きつける。
「ぎゃあ!?」
次に体を捻らせながら回し蹴りを放つと飛んでいく使徒の足を掴み取り勢いよく地上に投げつけた。
「今だ、サシリ!」
キラは地上にいるであろう吸血鬼の長に声を投げかける。
その瞬間地上で莫大な神格が湧き上がる。それは周囲の瓦礫をことごとく吹き飛ばし、赤白い稲妻を纏わせながら佇んでいた。
「今のは油断したわ。でもこれでお返しよ」
サシリはそのまま神格にさらに自分の持っている魔力と血の力を這わせると術式の文言を口から吐き出した。
「瓦解たるもの覇宮の血魂」
それはサシリが使うことのできる血の力の中でも破滅するは其の血壊と並ぶ強力な技で、赤と黒が混ざったような巨大な竜巻をカリデラの空に出現させた。
その竜巻は飛ばされてくる使徒を容易く飲み込むとその体を何度も切り裂いていく。
「ぐっががあああああああ!?」
サシリは両手でその流れを調節しながら逃がさないように風の檻に閉じ込めていく。
瓦解たるもの│覇宮の血魂はまさに巨大な監獄を作り上げるかのような竜巻で、その攻撃は相手の魂まで物理的に傷つけることができる。
はたしてあの使徒に魂という概念があるのかはわからないが、それでも間違いなくダメージは通るはずだ。
だがそのときその中心にいた使徒が突然とてつもない力を放出しその竜巻を内側から破り裂いた。
「へえ、私の檻を破るなんて、少しはやれるみたいね。というより出来るなら最初から見せてほしかったわ」
サシリは再びキラの横に飛び上がると自分の赤く長い髪をかき上げながらそう呟いた。
「ぐっ………。ここまで侮辱されたのは初めてだ………。おのれ地上に這いつくばる劣等種どもが!そこまで死に急ぎたいか!」
その少女は体のいたるところに傷を作りながら憤怒の表情を浮かべながら言葉をキラとサシリに投げつけた。
「馬鹿か。それはこちらの台詞だ。いまだに追い詰められている状況に気づいていないようでは妾たちに傷一つすら付けれんぞ?」
実際サシリは先程吹き飛ばされはしたものの、ダメージはまったく受けておらず気配も魔力も全快状態となんら変わらなかった。
「それに何故お前達は妾たちを狙う?確かに妾は星神のことをよく思っていないが、それでも恨まれるようなことはしていないぞ?」
キラは実際に星神と遥か昔に会ったことがある。当時精霊女王として君臨したてだったキラはその強大な力に怯えはしなかったが、それでも記憶に留めているほどの衝撃は受けたのだ。
だがそこでなにかあったかというとそんなことはなかった。
ゆえに何故星神がキラとサシリを狙うのか理解できなかったのだ。
「世界のイレギュラーである貴様らは間違いなく今後邪魔になってくるからだ!オルナミリス様の意思は絶対。それを遂行するのが私たちの務めだ!」
使徒はそう呟くとその身に宿る全力の力を解放し、青白い光につつまれた。
それは空に暗黒の雲を出現させ天然の雷を呼び起こす。また使徒自身の体にも圧倒的なまでの力が迸り、背中にはえている羽はバチバチと小さな爆発を引き起こしていた。
「話にならんな。星神の傀儡になるのは構わんが、それでも戦いに意義くらいは持てばいいものを。何がそこまでお前を掻きたてるのか知らんが、その腑抜けた思想で関係のない人間を巻き込むな!」
「ええ。あなた達のような自分勝手な連中にカリデラは破壊させない。いい加減くたばりなさい」
キラとサシリは同時に右手を突き出すとそれを起点に根源と神格を集め出した。
「黙れ!所詮は同族同士で殺しあう程度の愚民どもではないか。そのような種族を置いておくような余裕はこの世界にない。イレギュラー共よ、その劣悪な力と共に朽ち果てるがいい!!」
使徒はそう言葉を吐くと全身に漲っている力を全て二人に放出した。その攻撃は真っ白な魔力波のような形状をしており、直撃すればカリデラの町を確実に吹き飛ばす威力が込められていた。
その力は強大ゆえ使徒自身の体も蝕んでいるようで、爆発を繰り返していた翼がボロボロと崩れ始め、体の皮膚に当たる部分もCGのポリゴンが剥がれ落ちていくように消失し始めている。
「哀れな。自分の存在量を動力源にして放つ攻撃など、その危険性がわかってやっているのか?」
「まあ、わかっていてもわかっていなくても止まらないと思うわ。それより、あれは止められそう?」
サシリはキラの問いに答えつつ自分も質問を投げかけた。
「さすがに難しい、とでも言ってほしいのか?あのような紛い物の力、妾であれば一秒も掛からず破壊してやる」
キラは真っ直ぐ使徒を見つめながらそう呟いた。
そう、二人はこの段階で使徒が使う力について確信していたことがある。それはどういう経緯であの力を使徒が使っているかはわからないが、その力をまだ完全に扱いきれてないということだ。
それゆえあの様に力を暴走させ、自らの体を痛めつける。
しかもそれが誰かから与えられたような力であるからさらに性質が悪い。
まあおそらくはこの使徒たちを送り出してきた星神が授けたものだろうが、それをコントロールできないのであれば諸刃の剣なのである。
サシリはキラの言葉に軽く笑みを浮かべると、ドレスの裾をはためかせながら力強く返答した。
「まさか。むしろそれが聞けて安心したわ。なら少しだけ格の違いを見せてあげるないかしら?私はあの使徒を生ぬるい攻撃で痛めつけるなんてことはしたくないもの」
「いいぞ。それならばお互いそれなりに本気を出すとしよう。フッ、お前とは案外気が合いそうだ」
キラもその顔に小さな笑みを浮かべると突き出している右手に更に力を込めた。
それを確認したサシリも同時に神格を上昇させる。
「神外を滅しさる光流!!!」
使徒の両腕から空間を飲み込むような光が放たれた。それは人を滅ぼすためだけに作り出された技で、触れてしまえば例えハクやサシリであろうとただではすまない一撃だった。
その余波は既に崩壊しているカリデラの瓦礫を巻き上げ、さらに破壊しとてつもない威力でキラとサシリに突っ込んでくる。
だがそれでもその二人は笑っていた。
その戦いを心から楽しんでいるように。命の取り合いであっても、それを全身で感じ取るかのように高揚感を滲ませている。
はっきり言ってその姿は異様なものだろう。命の危機に直面してもなおも笑い続けているなど、狂気の沙汰としか思えない。
しかしそれは普通の人間だった場合だ。
片や精霊の頂点に君臨し根源を操る大精霊。もう片方は最強の吸血鬼にして始祖の力を宿す者。
二人にとってそれは危険などという範疇に入っていない。
むしろまだ戦闘ではなく、なにかの試合の領域を出ていなかったのだ。
それゆえ余裕。力とは時に隔絶された壁を生み出し、不条理を突きつける。
今回は使徒の認識が甘かったのだ。
伊達に世界のイレギュラーはイレギュラーと呼ばれていないということを。
キラとサシリは二人同時に術式の解放の言葉を唱える。
「根源の停滞」
「破滅するは其の血壊」
その言葉と同時に二人の手から放たれたそれは、螺旋を描くように絡みつき巨大な力の塊を形成した。
黒と赤が混ざり合ったその攻撃は使徒が放った神外を滅しさる光流を勢いよく衝突し、光と爆風を発生させる。
それは衝突点を中心に拮抗し、余波だけで巨大なクレーターを作り出す。カリデラの地面は大きく抉られ人外領域の攻撃がその場に出現していた。
「はあああああああああああ!!!」
使徒は自身の体のことはまったく気にせず更に力をこめる。
対するキラとサシリは涼しい顔でその光景を見守っていた。
そして突然キラが口を開く。
「忘れているようだから、もう一度言ってやる。お前は先程から追い詰められていたんだ。それに気づかず妾たちと真っ向勝負のような攻撃を仕掛けるなど、馬鹿にも程があるぞ?」
「なに?」
使徒はその言葉を理解できていないようで苦しそうに問い返す。
「つまりはこういうこと」
サシリがそう呟いた瞬間、空中に浮いている使徒の上下に巨大な魔法陣が出現した。
片方は虹色でもう片方は赤色になっている。
「ま、まさか!き、き、貴様ら!?時限式でこ、これを!?」
それは戦闘が始まってしばらくした段階でキラとサシリが仕掛けていた攻撃だ。それは使用者のタイミング合わせて発動する設置型のもので、より使徒を追い詰めるために敷いておいたものだ。
そして今、攻撃が拮抗しているこの状況でそれが放たれればどうなるか。
言わなくても結果は目前だろう。
「これで終わりだ」
「これで終わりね」
「貴様らああああああああああああああああああああ!!!」
瞬間、使徒の頭上と足元にある魔法陣が煌き使徒を押しつぶすように力を放出する。それは大したダメージにはならなかったが、使徒の集中を大きくかき乱した。
その影響は今放っている神外を滅しさる光流の光を歪めバランスを崩す。
拮抗していた力は完全にキラとサシリに傾き、その光を吹き飛ばすように使徒の体に迫る。
「馬鹿なああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
キラとサシリの攻撃は見事に使徒の体を飲み込み粉々に破壊した。
それは精霊女王と血神祖の合わせ技という規格外中の規格外の攻撃がカリデラの空に轟いた瞬間だった。
二人はしばらくその光景を眺めていると、次第に肩の力を抜き息をついた。
「これでここは大方片付いたな」
「ええ。さっそく私達もアリエスたちの手助けに向かうわよ。どうやらエリアたちもそうしているみたいだし」
「むう……。お前、心を開くと若干人使いが荒くないか?妾は精霊の女王だぞ?」
「あら、友人というのはこういう関係じゃないのかしら?」
サシリはそういいながら空中を跳ねるように駆ける。その顔は満面の笑みを浮かべており、太陽の光がそれをさらに輝かせていた。
キラは大きくため息をつきながらも同じく笑顔を出しその背中を追いかける。
「はあ………。まったく困った友を持ったものだ……」
こうしてキラとサシリの戦闘は終了した。
二人はいまだに戦っているであろうハクの存在を思い浮かべながら、カリデラの空を駆けるのだった。
次回は唯一語られていないシラとシルサイドに移ります!
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