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第十三話 月夜の思い

今回はシリアス成分多めです!

では第十三話です!

 時はまた戻り、俺が冒険者ギルドから出た直後。とりあえず俺は冒険者ギルドの隣にあった飲食店に入り。昼食を取っていた。来店とともにメニュー表を渡されたが、正直言ってよくわからないので、シェフのオススメで、と注文しておいた。

 しばらくすると香ばしい香りとともに料理が運ばれてきた。なにやら肉をこねて焼いた料理のようで見た目は完全にハンバーグだ。

 しかし肉の色が緑色ではあったが……。

 俺はその料理に舌鼓しながら箸を進めた。それと同時に先程打ち合わせしたアリエス救出作戦について考える。

 作戦自体の内容は言ってしまえば完全に脅しだ。温室育ちの貴族に圧倒的恐怖を叩き込む。

 それ自体はそんなに心配していない。むしろ絶対に成功する。その自信がある。

 まあ色々と物騒なことにはなるのだが……。

 しかし問題なのはアリエス自身の気持ちだ。今はどういうわけかバリマ公爵との婚約を受け入れる気でいるようだ。俺はそれをどうにかしてもう一度拒否させる必要がある。俺やセルカさんたちがどれだけ救済を差し伸べようと、アリエス自身の気持ちが変わらなければ意味がない。

 ようは当人の気持ちが最優先なのだ。どんな結果に転がろうとも。


『まあ、そんなに気張らなくてもあの子の気持ちは変わっておらんじゃろう。大方、貴族の娘だからということで無駄に責任を感じとるのじゃ』


『だろうな』


 そう、アリエスは年齢の割りに聡明なのだ。あれくらいの年頃の少女ならば、もっと自由にしていてもいいものの、アリエスはそうしようとしない。もちろん歳に見合う行動も取るのだがそれは本当に極わずかだ。俺と一緒に村に帰還するときも時々思いつめたような顔をしていたし、今回の件が原因だとすれば全て辻褄が合う。


『まあ今アリエスの屋敷に押し入っても、まだバリマ公爵がいるだろうし、アリエスと接触するなら夜か?』


『まあそうなるじゃろうな。………にしても夜か。如何わしい行動を起こすでないぞ主様?』


『お前は俺を何だと思ってるんだ!』


『うん?真正の変態じゃが?』


『昨日、俺を襲ってきたお前が言うな!』


 そんなやり取りをリアと交わしながら昼食の時間は過ぎていった。







 そして夜。空には真っ白な満月が浮かび世界を照らしている。時刻にして二十二時。俺は気配探知を使いながらアリエスの部屋を探し出した。本来気配探知は気配の位置を探るだけで、人物までは特定できないが、これも神妃の能力なのか、なんとなくだが一度あった人間の気配は識別できるようになる。

 ということでアリエスの部屋はすぐに特定できた。

 空中に浮き、窓からアリエスの様子を確認する。するとアリエスはベッドの上でなにやら蹲っていた。部屋の灯りもついておらず、真っ暗な部屋の佇むアリエスはどこか寂しげに見えた。

 すると部屋の中から、グス。グスという嗚咽とともにアリエスの声が聞こえてきた。


「ハ、ハ、ハクにぃ……た、たすけ、て……。たすけてよう……」


 ……………………。

 なんだ。

 子供らしいところもあるじゃないか……。

 俺は周囲の風を操って、窓の鍵を開け、窓枠に足をかけながらこう呟いた。


「呼びましたか?お嬢様?」








「え?な、なんで?なんでハクにぃがここにいるの……?」


「なんでって……。今お前が呼んだんだろう?」


「え、あ、き、聞いてたの?」


「まあ、少しだけな……」

 するとアリエスは何かを隠すように、俺に笑みをつくり言葉を紡いだ。


「は、はは……。今のはなんでもないの。気にしなくていいんだからね!……それにしてもハクにぃってそんなに私のことが好きだったの?こんな夜中に女の子の部屋に忍び込むなんてあまりにも……」


「アリエス」


 そう俺が一言名前を呼んだ瞬間、アリエスは体を一瞬ビクッとさせて暗い顔で俯いた。


「少し、出るぞ?」


「……うん」


 そして俺はこの村に初めて来たときのようにアリエスをお姫様抱っこして空へと舞った。アリエスの部屋で話をするには少々物騒だ。それに誰かに聞かれてしまうかもしれない。

 俺はアリエスの本音が聞きたい。

 だから誰にも邪魔されない場所を選ぶ必要があった。

 ということでアリエスの屋敷の別館、その屋根の上。月がちょうどよく見える位置に俺たちは移動した。屋根の上にアリエスを降ろし、俺もその隣に座る。

 しばらくはお互い無言だったと思う。五分か十分か、はたまたもっと長かったか。最初に口を開いたのはアリエスだった。


「月が、きれいだね……」


「ああ、そうだな」


 異世界にもちゃんと月と太陽はあるらしく、目を凝らせば星だって見つけることも出来た。それくらい今日の空は澄み渡っていた。


「なあ、アリエス。お前は本当にバリマ公爵と結婚するつもりか?」


 アリエスは直ぐには返答してこなかった。自分の足を眺めたまま、じっと動かない。

 静寂が流れた。風音一つならない静かな時間が。

 そしてアリエスは少し顔を上げると、意を決したように話しはじめた。


「うん……。初めは迷ったんだけどね……。カラリス公爵家は私のフィルファ家よりも遥かに高い家督だし、私が嫁げばフィルファ家もルミナ村も安泰だからね……」


「そうか。だがそれは本当にお前の意思か?」


「うん。そうだよ。私が自分で決めたの」


 即答。先程は暗い顔をしていたのに今は俺を真っ直ぐ見つめ、視線を外さない。


「ならば、なにも言わない。だが注意しておけよ?」


「な、なにに?」


 俺は噂話でも話すような軽い口調で、月を眺めながら話し出す。


「仮にお前がカラリス家に嫁いだところで、この村の安全は確保されない。むしろお前というストッパーがいなくなるんだ。何をしでかしてくるかわからないぞ?」


「そ、そんな……」


 アリエスの顔から徐々に血の気が引いているが、俺はかまわず畳み掛ける。


「それに、カリラス家がルモス村の経済状況を握っているとすれば、最悪このルモス村は完全に掌握されて、いいように使われるかもな。それこそ奴隷とか強制労働とか」


「……」


「まあ、その引き金をお前自身が引くというのだから、住民はさぞ悲しむだろうな?」

 するとアリエスは血が出そうなほど手を握って、立ち上がった。


「だ、だ……だったらどうすればいいの!もし私がバリマ公爵と結婚しないと村の人たちの生活は直ぐにどん底に落ちる!軍事の支援もなくなるから、魔物に襲われたら命だって失うかもしれない!ハクにぃは何もわかってない!そりゃ私だって、あんな豚みたいな人のところに嫁ぎたくない!でも……でも!それでも!私は貴族の娘なの!自分の意見だけ押し通していい立場じゃないの!私だってこの一ヶ月何も考えなかったわけじゃない!いっぱい、いっぱい考えて、どうにかならないかって考えて。でもダメだった!所詮私の力じゃどうしようもならなかった!だからハクにぃみたいに、最後は困っている人を自分がやりたかったから助けようって思った!これが最善なの!何も知らないのに好き勝手言わないでよ!!!」


 途中からアリエスの瞳には大粒の涙が溢れ出していた。ずっとずっと溜め込んでいたのだろう。思えば誘拐されたときもそうだった。命の危険が迫っているのに気丈に振舞って自分を奮い立たせていた。

 それは一般的に言えば強いのかもしれない。どんな恐怖にも屈しない屈強な心。

 しかしそれは本当だろうか?本当に傷ついていないのか?

 答えは否だ。むしろアリエスのようなタイプほど内に秘めている心はズタズタに引き裂かれている。ただそれを隠すのが上手いだけ。

 そしてそれは本当の自分をただただ押し殺す。まるで自分の喉にナイフを突きつけるかのように。

 であれば今、本音が出てきたこのときこそ誰かがしっかりと心の傷を癒してあげなくてはならない。今回その役目は俺なのだ。


「やっと、本音を言ってくれたな」


「……え?」


「悪い、少し焚きつけた。こうでもしないとお前は自分の本当の気持ちを言わないと思って」


「あ……」


「なあ、アリエス。さっきから村の人がどうだとか、貴族の娘がどうだとか、色々難しいこと言ってたけど、お前はフィルファ家の娘である前に一人の女の子なんだ。そんな難しいことは考えなくていい」


「で、でも……」


「そういうことは大人たちに任せておけばいいんだ。子供のお前が気にする必要はない。人間、誰だって自分が一番かわいい。さっきお前は俺みたいに困っている人を助けたいとか言ったな?」


「うん……」


「でもそれ、本当に一番困っているのはお前のはずだろう?村人の安全と自分の人生を天秤に乗せられているんだ。そんなやつが自分は困ってませんなんて言えるか?もし自分の価値が他の誰かより低いなんて言い出すのなら、それは大いに間違っている。お前はもっと自分を大切にしていいんだ」


「で、でも、そうしたら村の人たちが……」


「だから気にするなっていったろう?もしどうしようもなくなったら周りにいる誰かを頼れ、一人で突っ走るな。一人で解決できないことでも、複数なら解決できるかもしれないだろう?お前の両親でも、村の人でも誰でもいいんだ。きっと力を貸してくれる」


「……そ、それは、ハ、ハクにぃ、も、入ってるの?」


 アリエスは何かを確かめるように聞いてきた。それはなにかに縋る純粋な十一歳の少女の姿だった。


「当たり前だろう?でなきゃこんなことはしていない」


 するとアリエスは盗賊から解放されたときと同じように俺の胸に飛び込んできた。


「私結婚したくないようーーーー!あんな人についていきたくないよ、うわーーん!だから助けてはくにぃーーーー!うわーーーーん!」


 まったく、本音が出ると泣き虫なんだな、アリエスは。

 俺はそのままアリエスが泣き終わるまで、白く長い髪を撫で続けた。その白い髪は空に浮かぶ月と同じ色に見えた。







「それでハクにぃ、これからどうするの?」


 一応目は腫れているが泣き止んだアリエスは俺に次の行動を聞いてきた。


「とりあえず、明日正午にバリマ公爵をこの屋敷に呼び出してくれ。内容はお前との結婚についてだ」


「うん、わかった」


「それから、おそらくバリマ公爵は直ぐに結婚の話を切り出してくるだろうから、お前は全て要求を呑む、と言っておいてくれ。それだけでいい」


「え?でもそうしたら婚約が成立しちゃうんじゃ……」


「そのあとは俺が引き継ぐ。心配しなくていい」


 アリエスはなんのことかわかっていない様子だったが、直ぐに笑顔になると元気よくうなずいた。


「うん、ハクにぃを信じるよ」


「よし、じゃあ今日はもう寝よう、ほら」


 そう言って俺はもう一度アリエスをお姫様抱っこするとアリエスを部屋に返し、俺はアリエスに一言、


「んじゃ、また明日、お休み、アリエス」


 と声をかけた。


「うん!また明日!」


 そして俺は空へと舞い戻ると、昨日の宿屋へ足を向けた。

 ここまでは順調だ。全ては明日にかかっている。

 俺は明日やるべきことを頭で整理しつつ宿へ向かうのだった。









 翌日。時刻は正午を指している。フィルファ公爵家応接間には現在、四人の貴族と、複数の兵士の姿が見て取れた。俺はというと自分に透明化を施し既に潜入している。

 向かい合っているのはアリエスを挟む形で左隣にカラキ、右隣でフェーネさんと座っており、向かいにはふんぞり返っているバリマ公爵がいる。

 するとバリマ公爵が不意に口を開いた。


「こうして呼び出されたということは婚約の話は承諾していただけるのかな?」


 すると中央に座るアリエスがバリマ公爵を真っ直ぐ見つめ返答した。


「はい、その話はお受けいたします」


 見てみると、両隣に座るアリエスの両親は苦虫でも食べたかのような表情をしている。どうやらアリエスはこれから起きることを二人に話してないようだ。


「おお!そうか!ではさっそく手続きに移ろう!…………おい!契約書をもってこい!」


 明らかに歓喜の表情を滲ませているバリマ公爵が部下に契約書をせかす。

 まあ出るならこんなとこか……。俺は自分にかけていた透明化を解除する。


「その婚姻、少し待ってもらおうか」


 そして次の瞬間、応接間の扉がバタンっと勢いよく開かれた。

 そこには腰にエルテナをさした俺が立っていた。

 さあ粛清の時間だ。


次回、ハクが貴族を成敗します!また無双です!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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