第百三十八話 カリデラ防衛戦、一
今回はハク以外の視点がメインとなります!
では第百三十八話です!
「ひ、ひどい………」
アリエスたちはハクに集団転移させられた後カリデラ城下町の惨劇を目の前にしていた。
一応まだ死人は出ていないようだが、このまま戦火が広がればそれも視野に入れなくてはいけなくなってしまうだろう。
目の前にはし白と水色の翼を背中から生やした人間のような生き物が次々と城下町に攻撃を放っていた。それは家屋を店を、道を焼き尽くしカリデラ中を火の海に変えていた。なんとか住民たちは冒険者や先導する吸血鬼たちによって避難しているようで、人の気配は既に感じられなくなっているようだ。
「ではさっそく動くことにしましょう。私とシル、アリエスはクビロを連れて逃げ送れた人達の救出をします」
シラそういいながら自らのメイド服の袖を捲くり上げ動きやすいように背中の方で紐でまとめた。
アリエスとシルはその言葉に大きく頷くとカリデラ城下町の中を散開し始める。ここまで被害が出てしまった以上、動きだすのは出来るだけ早い方がいい。そう判断したアリエスたちは各自方角を分担して逃げ遅れた住民を探すことにした。
「では私たちも行きましょうか。どうやらさっそくお出ましのようですからね」
エリアは自らの腰にささっている王家の紋章が刻まれた片手剣を引き抜くと目線と同じ高さまでそれを持ち上げながら戦闘態勢に入った。
「そうだね。さすがにこれだけの光景を見せられて黙っていられるほど私は世捨て人じゃないかな」
ルルンも自分のレイピアを抜き太陽の光を一度だけ反射させると、腕を下腹部辺りまで下ろし剣先を相手の顔面に突きつけるような高さに持っていき戦闘モードに移行した。
するとその殺気を感知したのか、その翼を生やした人間はエリアとルルンの近くにずらっと輪を描くように集まり出す。
「数的にはざっと百人ほどいるでしょうか?」
「しかも全員女の子だよ。これは本来ならやりにくいんだけど……」
エリアとルルンは背中を同時に合わせるような態勢を取ると、同じ言葉を口にした。
「「そんな死んだような目をしているようなあなた達に手加減なんて必要ないですよね」ないよね」
その瞬間、エリアとルルンは武器を片手にものすごいスピードで戦闘を開始した。
そもそもエリアとルルンはハクとキラの存在によって霞みがちになってしまっているが、二人ともSSSランク冒険者と変わらない戦闘力を持っているのだ。そうであればこの程度の相手に遅れを取るはずがない。
エリアとルルンが動き出したのを上空で確認していたキラとサシリは同じく自分たちの周りに群がっている、その少女たち睨みつけるように見つめるとお互い力を全身に流し始めた。
「わざわざ人町を襲うのだからどれほど強大な存在かと思えば、こちらはただの雑魚か」
キラが虹色の髪を書き上げながらそう呟く。
「そうね。この程度の連中にカリデラが襲われたなんて思うと腸が煮えくり返りそうになるわ」
サシリは眉間に皺を寄せながらキラの言葉に答える。
するとそのサシリの言葉に反応するように連中の中の一人がおもむろに口を開いた。
「上位イレギュラー、精霊女王キラ、血神祖サシリ。ただ今よりこの二大戦力を排除します」
その言葉は周囲にいる二百対ほどの少女たちを威勢に動かし戦いの構えを取らせる。そんな言葉を聞いていたキラは途端に額に右手を当てながら笑い出すと、今回の主犯をつきとめた。
「ふ、ははははははははははは!そうかそうか、お前たち星神の使いか。何年も姿を現さず神核ばかりにちょっかいをかけていると思っていれば、ようやく妾たちを標的にしてきたか。よほど妾たちが怖いようだぞ?」
「星神、ね。私はまだ会ったことはないけれどカリデラをこんな風にする奴は絶対に許さない。いつかその姿を拝みたいものね」
キラとサシリは各々が好きに感想を述べると、個人で大陸を吹き飛ばせるほどの力をもつイレギュラーの力を存分に滲ませながら戦闘を開始した。
「では行くぞ、吸血鬼の姫?そちら半分は任せる」
「ええ、キラもそっちは任せたわ」
二人の表情はいつになく真剣だったがこれでもどこか余裕があり強者の風格を醸し出していた。それが神格を保有するものであり、一族の長に君臨するもの姿である。
「根源の明かり!」
「流動せし血風!」
二人の攻撃は見事に少女たちに直撃し戦闘開始の合図となったのだった。
場所は変わりカリデラ城下町西地区にて。
アリエスは頭にクビロを乗せながらそのボロボロに壊された道をひたすら走っていた。
それは瓦礫の下敷きになっている人や、逃げ遅れた人達を救助するためであり、今回戦闘はエリアやキラたちに全て任せていた。
ちなみに反対側の東地区ではシラとシルが二人がかりで同じことをしている。
とはいえやはりこれだけの広さの街区を回っていると何度かあの不気味な少女たちに遭遇してしまうことがあった。
その際はアリエスが魔本の魔術を使ったり、クビロが影で攻撃したりと様々なコンビネーションをとりながら移動していた。
『邪魔じゃ!』
クビロがまたしても現れたその少女を影で突き刺すような形で吹き飛ばす。
「ありがとう、クビロ!」
『お安い御用じゃ。じゃが、こやつらまるで死んでおるような雰囲気をしておるのう。殆ど喋らなければ、感情を表に出すこともしない。不気味極まりないのう』
そう、この少女たちは襲い掛かってくるものの、放ってくるものは殺気だけでそれ以外の気持ちや感情は感じ取れないのだ。
まるで戦うことだけを義務付けられた自動人形のように。
それに倒しても倒しても赤い血の色すら滲ませず、力尽きると空気に溶け込むような形で消滅するのだ。
もはやこれで人間と呼べというほうが難しいだろう。
アリエスは最初、攻撃するのに抵抗があったのだがそれでもその存在が人間ではなく生きているのかもわからない存在だと認識すると躊躇なく魔術を解き放っていた。
そしてさらにアリエスたちは町の中を進んでいく。
するとそこで明らかに人の気配が感じられた。
「クビロ!」
『了解じゃ!』
二人はすぐさまその場所に駆けつけると、そこには瓦礫の下敷きになっている子供とそれを必死に助け出そうとしている母親の姿があった。
「い、今助けるからね!」
母親は自分の子供に出来るだけ笑みを浮かべながら話しかけているが自身も右腕を負傷しており、満足に動ける状態ではなかった。
一応吸血鬼の親子のようだがサシリほどの再生能力は持ち合わせていないようで傷の治りもかなり遅い。
アリエスはその鵜方を確認すると腰にさしている絶離剣レプリカを勢いよく抜くと、そのまま瓦礫に切りかかった。
「はあああ!!!」
その攻撃は見事に瓦礫を両断し、とてつもないスピードで瓦礫を払いのけていく。絶離剣であればたかが瓦礫程度なら何の問題もなく吹き飛ばすことが出来る。魔術をここで使用してしまうと下敷きになっている子供を傷つける恐れがあったためアリエスはこの手段を選んだのだ。
クビロはそのアリエスを助けるように空中に舞った岩を影で掴みながら安全な場所に投げ飛ばしている。
「あ、あなた達は………」
母親がそんなアリエスの姿を見て驚いているが、その言葉に答えるように絶離剣を振り回し子供の救助を優先する。
それからしばらくして無事に敷き詰められていた瓦礫を排除したアリエスは蹲っている子供に優しく手をさし出した。
よく見るとそれはアリエスよりも小さな少年で顔には涙が伝ったような跡がくっきりと残っている。
「もう大丈夫だよ?ほらおいで?」
「あ、ありがとう、お、お姉ちゃん……」
少年はアリエスの手を掴むとその体を起こし、母親の元まで送り届けた。
「ほ、本当にありがとうございます!なんとお礼を言ったらいいか……」
その言葉をアリエスは右手を突き出し制すると、緊張感を解かないまま避難所の場所を説明した。
「出来るだけ早く避難してください。カリデラ城前の広場が非難場所になっています」
これは先程から街区を回っているときに得た情報でどうやら住民の全てはその広場に集まっているようなのだ。確かにあそこならばかなりの面積があるし、大抵の人間は収容できるだろう。
アリエスは端的にそう伝えると、またしても全力疾走で西地区の中を駆け回った。
今はなんとしても避難できていない人を助けるのが優先だ。
自分を信じて託してくれた一人の青年のためにも、ここでしくじるわけには行かないのだ。
そう思いながらアリエスは壊れかけた道を力強く踏みしめながら走り続けたのだった。
「まったくどれだけ湧いてくれば気が済むのかな」
「本当ですね。さすがにこの量は疲れてきます……」
ルルンとエリアは依然しろと水色の少女たちと剣をつき合わせていた。
一人ひとりの戦力は大したことはなく、やってきたとしても魔力で作り出した刃を振るったり軽い魔術を打ってくる程度なのだが、それでも量が尋常じゃない。
一体一体がどれだけ軽かろうが、塵も積もれば方式で攻撃は上乗せされていってしまう。
それはじわりじわりとだが二人の体力を奪っていた。
「はあああ!!!」
ルルンは持ち前の舞踏ステップを刻みながら残像が残るレベルの速さでレイピアを突き出していく。それは全て少女たちに命中しその体を吹き飛ばすが、それを覆い隠すようにさらに大量の少女が襲い掛かってくる。
「果てがないというのは本当に厄介だね!」
ルルンハそれでも気後れせずにレイピアを振り続ける。
すると隣で同じように戦っていたエリアがルルンに背中をくっつけるような形で近づいてきた。
「ルルン、何かいい手はありませんか?」
「それがあればとっくに実行してるんだけどね。………でも、強いて言うなら、エリアちゃん。君、魔法使えたよね?」
「はい、使えますが………。それが何か?」
ルルンは迫ってくる少女を切り払いながら言葉を紡ぐ。
「その魔法でここら一帯を吹き飛ばしてほしいんだけど出来るかな?」
「ですが、そんなことをしたら町が崩壊してしまいますよ!?」
エリアが使うことの出来る魔法は基本的にオリジナルのものが多い。それは才能の塊であるエリアだから出来ることなのだが、魔法は総じて威力が魔術の何倍も出てくる。
このような込み合った街中でしようすれば間違いなく周りの建物に被害を出してしまうだろう。
「正直言ってそれはハク君がどうせ後で直してくれるよ。それにここにはもう誰もいないから気にしなくていい。今はむしろ奴らを一瞬でかき消す火力のほうを優先しないといけないよ。でないとこちらが追い詰められていくだけだしね」
その言葉にエリアは大きく頷くと、目を閉じて魔力を手中していく。それはあの魔武道祭でハクに打ち放ったものであり、六属性全ての魔法を集結させた魔法の中の魔法とも呼べる術式だ。
「六魔の全能奔流!!!」
エリアの掛け声と共にその魔力は事象に置き換わり、絶大な威力の攻撃へと成り代わる。
その攻撃はひとたび少女を飲み込むとその存在を根底から消しさり、一介の人間がたたき出せる攻撃の範疇を超えた結果を呼び起こした。
「上出来だよ、エリアちゃん!」
ルルンは覇気のこもった声でそう呟くと、残っている数体の少女に剣をつきたて消滅させていく。それは流れるような剣捌きで惚れ惚れするほどきれいな剣線を描き出した。
「ふう、これでここは終わりですか……?」
「うん、そうみたいだね。それじゃあ私たちもアリエスちゃんたちの手伝いをしに行こう。手は多いほうがいいだろうからね」
エリアは息を整えながらその言葉に大きく頷くと、二人並んで町の中に駆け出していったのだった。
とある空間の狭間。
世界の割れ目では、今回の事件の主犯格である存在がその光景を面白そうに眺めながら足を組みなおしていた。
その姿は男性にも女性にも見える中性的な容姿で、見たものを確実に引き付けるその風格は人の領域になど留まっておらず、完全に神のステージに到達していた。
だがそれは人間が到達しうる神格ではない。
完璧な神のオーラ。
それは人類未踏の境地であり孤高の天蓋を上り詰めるよりも先の見えない気配であった。
「ようやく始まったか。結果は正直言って見えているけれど、その力とくと見させてもらうことにするよ」
と、その存在は一言だけ呟くと、再び視線を世界の割れ目に向け笑いながらその光景を見つめるのだった。
だがその瞬間、空間の光が何かに反射して煌いた。
それはなにやら見慣れない金色の光で、これが一体何なのか理解できる者はこの世界に三人だけしかいないのだった。
次回はキラとサシリサイド、ハクの戦いを描きたいと考えています!
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