第百三十五話 再戦、三
今回はサシリの本気が垣間見れます!
では第百三十五話です!
「姉ちゃん………。ついにあれを使ったのか……」
場所は少しだけ離れ、ハクが使用した青天膜内にて。
姉とハクの戦いを見守っていたサスタは、自分の姉が本当の本気を出したことに気づきそう言葉を漏らしていた。
正直って吸血鬼の中でもさほど強くはないサスタは目の前で繰り広げられている戦闘についていくことは出来なかった。何をやっているかもわからないし、どっちが押しているのかも掴めない。
だが明らかにサシリ雰囲気が変化し、今までより神々しいものに変わった気配は敏感に感じ取っていた。
それはサスタも一度しか見たことがない技で、偶然カリデラ城の地下に入ったときサシリの訓練をこっそり除いた結果目撃してしまったのだ。それを今回はサシリは惜しみもなく解放していた。
見ると先ほどまで右手に持っていた血剣サンギーラは近くの地面に突き立てられており、その力すらも邪魔になるほど絶大な力を身に宿しているようだ。
するとその隣で同じくその戦いを見ていたキラがおもむろに口を開く。
「まさか、あれほどまでの力を秘めているとはな………。もはやあれでは妾と遜色ないレベルまで到達している」
キラは唯一この中であの戦闘を見て取れる存在だったのだが、それゆえその異常さが肌で感じられたのだ。
その身から滲み出ているのは圧倒的神格。それは完全に人の領域から逸脱したもので、キラ自身サシリと全力で戦ったとしても勝てはするだろうが、かなり苦戦するという段階まできていた。
『ぬう………。わしではもうあの戦いにはついて行けんのじゃ。だがあの気配、どれだけ持つかのう?』
クビロはアリエスの頭の上で丸くなりながらそう呟いた。先日の戦いであればクビロにもギリギリ視認することができたのだが、今日の戦闘は初めから全力ということもあって地の土地神であるクビロであっても追いつくことは出来ないようだ。
「それってどういうこと?」
アリエスが髪の上にいるクビロに問いかける。
『あの力、おそらくこの土地の恩恵を全てその身に降ろしているようじゃ。それは確かに強力で絶対的な力をはじき出すが、さすがに血神祖といってもあれほどの力を長時間浴び続けるのはなかなかにきついはずなのじゃ』
そう、あの始祖返りという技は厳密に言えばここカリデラに染みている今までの始祖、神祖、真祖たちの力を土地の力と共に使用するもので、莫大な力が得られる代わりに自らの体を蝕むものでもあるためタイムリミットが存在するのだ。
実際サスタが以前あの状態のサシリを見たときは、ものの数分で限界が来ていた。最強である自分の姉が疲弊している姿など今まで一度も見たことがなかったサスタは酷く狼狽していたが、その息を切らしているサシリを一度見ていたので、その技の危険性をよく知っていた。
ゆえにあの技を使ったということはサシリは短期決戦に持ち込むようだ。
実際ハクがそのことに気づいているかはわからないが、それでもハクはサシリの戦闘に全力で答えるだろう。そうなった場合もはやどのような結末が待っているかまったく予想できない。
「大丈夫でしょうか……。二人とも……」
エリアが腕を胸に当てながらそう呟く。
「まあ私たちはハク君を信じるしかないよ。あの次元にはついていけないからね」
ルルンの口調はいつも通り軽いものだったがそれでもその表情は今まで見たことがないくらい険しいものに変わっていた。それは他のメンバーも同じで、今回はあのキラでさえも難しい顔つきに変化している。
「ハクにぃ……、サシリ姉………」
アリエスは目の前で戦っている二人に視線を送るとただひたすら二人の無事を祈るのだった。
「なるほど。それがお前の本気なんだな。これはますます楽しくなりそうだ」
俺は内心ではかなり怯えていたが、それでもなんとか虚勢を張り強気な言葉を口にした。
実際のところここまでの力を隠しているとは思っていなかった。第二ダンジョンで戦ったキラと同等の力が一介の吸血鬼から放たれているなどよもや誰も信じられないだろう。
だが今、俺の目の前ではそれが現実のものとなっている。
サシリの体から感じられるその気配は魔力ではなく完全な神格に変化しており、その美しい容姿も相まって本当の神と見間違いそうになってしまうほどだ。
すると力を体に定着させたサシリは俺に言葉に返答してきた。
「ハクはなにもしなくていいのかしら?少しくらいなら待ってあげるけど」
サシリは今の状態になるのにそれなりの時間を要した。ゆえに俺も時間をかけて準備しなくてもいいのか?ということだろう。
だが俺は神妃下もしているし気配創造も既に発動しているため特段やることはない。
「いや気にしなくていい。むしろこれで俺も本気でいけるからな」
俺は神妃化のランクを上げているとはいえ、まだキラと戦ったときのレベルまでは力を引き上げていなかった。当然今回のほうが神妃化のレベルは高いのだが、それでもその中にある全ての力を使っているかというとそんなことはない。
というわけで内心サシリの力にビビッているとはいうものの、全力を出してこなかったのはこちらも同じなのだ。
「そう。ならそろそろ行くわね?」
サシリはそう呟くと、その姿を一瞬のうちに消失させ掻き消えてしまった。
俺は咄嗟に気配探知を使用しようとするがその前に俺の腹にとてつもない衝撃が走った。
「ぐっがががああああああああああああ!?」
俺は見事に俺の胃付近を捉え、クリティカルヒットした。その攻撃はただ単に拳で殴りつけただけであったが、先ほどまで使っていた血剣サンギーラの攻撃よりも遥かに重く、血はまったく出ていないのにダメージだけはその何倍もの衝撃とともに俺の体に伝わってきた。
そのまま俺の体を勢いよく後方に吹き飛ばされるが、今回はある程度身構えていたこともあり、なんとか態勢を立て直すと、右手に力を込め無造作に振るう。
それは轟音と共に地面を抉りながら風の波を発生させる。
だがその攻撃はサシリの目の前まで接近するとまるで何かに押しつぶされたかのよう、消えてなくなってしまった。
「くそ!」
俺は一時的に神妃化のレベルを上昇させ、潜在能力のリミッターを切る。
先程よりも神妃の力を色濃く纏った俺はサシリに近づき攻撃を開始した。その攻防は先ほどまでとは違い、初めて戦ったときのように拳での殴り合いになっている。とはいえたまに魔力や神格が含まれた攻撃も飛び交っていた。
なんとかサシリの動きに対応できるようになった俺はそのまま戦闘スピードを上昇させ、サシリの右横に移動しながらそのわき腹に右足を叩き込んだ。
「きゃあああ!?」
今回の戦いでは初めての有効打になったようでサシリから悲鳴が漏れる。
だがそれも一瞬ですぐさま態勢を立て直すと、地面を力強く蹴飛ばし俺に頭突きをかます。
「ぎゃ!?」
その攻撃は俺の脳内を激しく揺さぶり、意思を朦朧とさせる。
少しだけ出来たその隙にサシリは次の攻撃に移っており、膨大な神格を集中させていた。それは地響きを上げながら細かい岩や小石を宙に浮かせるほど、強大な力が集中しており目で見なくても危険な技だという事は認識できた。
「前は止められたけど、今の私は本気。だからこの攻撃もあの時とは違う!」
サシリは俺に向かってそう叫ぶと、両手を大きく開いてあの破壊の術式を展開した。
「破滅するは其の血壊!!!」
サシリの手から放たれたその巨大レーザー砲は先程の搾取するは飴色の流血を軽く飲み込んでしまうほど大きなもので、前に見たものとは力の質も量も威力も、全てが別次元だった。
俺は咄嗟に青天膜を展開するがいくら最強の盾とはいえ、今はそれをアリエスたちの分も含め二枚展開している状態だ。こうなってしまうとどうしても一枚の精度が落ちてしまう。
となれば当然、キラと同等レベルの攻撃を受けられるはずがなく、跡形もなく砕け散ってしまった。
「くそ!なんて力だ!!」
俺はそう叫びながら自分の両腕を突き出し、その攻撃を受け止める、
莫大な力は俺の全身の細胞を軋ませ、激痛を走らせる。
このままではまずいな………。明らかにサシリの力が増してきている、今は受け止められているがこのまま行けば直撃もありえそうだ。
そう考えた俺は全ての力を右腕に集中させ、サシリの攻撃から左腕を離す。するとやはりズンっと重みを増して右手に負担が掛かってしまった。
それをなんとか歯を食いしばりながら堪え、空いた左手を蔵の中に突っ込むと目的の剣を一目散に掴み取ると、直ぐにその剣を抜刀する。
「絶滅する乖離の剣!この攻撃を砕け!!!」
俺はそういいながら赤黒く染まった幅広の片手剣をサシリの破滅するは其の血壊に叩きつける。
その瞬間、一度だけ力と力が拮抗したが、それもすぐさま崩れ去り破滅するは其の血壊の力場が消失した。
「ッッッ!?こ、これも効かないなんて!?」
サシリが初めて驚きの声を上げるが、どちらかといえば俺のほうが驚いていた。まさかここで絶滅する乖離の剣を使うはめになるとは思っていなかったのだ。
神妃化にはまだ余裕は合ったし、そのまま戦えると思っていたのだが、サシリの力は俺の遥か上を行っていたようで絶滅する乖離の剣を出さざるを得なくなってしまった。
絶滅する乖離の剣は基本的に防御不可属性が着いているのでそれなりの実力者が使用すれば切れないものはない。
だから俺はこの局面で絶滅する乖離の剣を選んだのだが、それは俺の中でかなり意外なことだった。
「………。まさかこれを使うことになるとは思ってなかった」
「そ、その剣………。もの凄く強力な武器みたいね……。私の血剣より力を感じる」
サシリは俺の絶離剣を見ながらそう呟く。確かに初めてこの武器を見ればその圧倒的存在感に一瞬たじろいでしまうのも頷ける。
つまりはあのサシリでさえおののくほどこの絶滅する乖離の剣は強力なのだ。
俺は一度目を閉じると、絶滅する乖離の剣を蔵の中にしまい目を見開いた。
「その剣はもう使わないの?私は破滅するは其の血壊を数発は放てるけど?」
サシリは全身に再び神格を流しながらそう言葉を紡ぐ。
だが対する俺は、その言葉に笑いかけるように笑みを浮かべると、同じく魔力を全身に流し出す。
「いや、もうあの剣は使わない。確かにお前の破滅するは其の血壊は強力だが、それを潰す策はまだあるからな」
するとサシリはそんな俺を見て、戦いを更に楽しむかのように再び破滅するは其の血壊の構えを取ってきた。
「だったらお望みどおりこの力を使ってあげるわ。それも今よりもさらに強力な一撃にする」
サシリはそう言うと先程よりも莫大な神格を滲み出させながら、周囲の空気を歪ませ巨大レーザー砲を放ってきた。
「破滅するは其の血壊!!!!!!」
それは今しがた放ったものよりも大きく軽く倍の大きさはあるのではないかと思われるほど巨大な攻撃だった。
だが俺はその攻撃を笑顔で眺めながら、口の中でとあるものの文言を呟いていく。
しかしその瞬間サシリの攻撃が俺に勢いよく直撃した。
まともにくらえば間違いなく即死レベルの攻撃だったが俺は構うことなくその身で受け止める。
周囲の砂埃を巻き上げ大きなクレーターと共に大爆発を引き起こし、地面を揺らす。
「こ、これはさすがに……効いてるでしょ……?」
サシリは少しだけ息を切らしながらそう呟いた。その額には既に大きな汗が滲んできており、疲労が溜まってきていることが窺えた。
だが。
そんなサシリの思惑とは裏腹に俺はというと。
「今のはいい攻撃だったぞ?絶離剣のお眼鏡にかなうほどではないが、なかなかの威力だった」
「ッッッ!?」
サシリは煙の中から出てくる俺の姿と声を改めて確認するとその顔に驚愕の表情を浮かべた。
俺はゆっくりとサシリに近づきながら、自分が発動している力をなおも展開させ話しかける。
「魔術。それが一体何を基にされているのか。そしてそれはどれだけの事象を引き起こすのか。それを突き詰め極めた神の力だ。乗り気じゃないがここらで解禁といこう」
煙が晴れた俺の背後には奇妙な文字が羅列された巨大な魔法陣が大量に浮かんでおり、その魔法陣はサシリの攻撃を跡形もなく粉砕している。
十二階神序列十二位オーディン。
十三番目のゼロを抜かせば、十二階神のなかでは最強の座に君臨する、魔術の神の力を俺はここで発動したのだった。
ようやく十二階神のトップの名前を明かすことが出来ました!
次回はその力を使って戦うハクがメインとなります!
誤字、脱字がありましたらお教えください!




