第百三十四話 再戦、二
今回もサシリとの戦闘回です!
では第百三十四話です!
俺は血が湧き出る腹を押さえながら、何とか立ち上がり魔剣を携えたサシリを睨み返した。
その姿はまったく淀みなく張り巡らされた魔力と神格を同時に放出しており、手に持つ血剣サンギーラはサシリの意思に答えるようにその輝きをさらに増徴させている。
血剣サンギーラ。
その魔剣はサシリの説明曰く、相手と切り結ぶたびに自身の攻撃速度を上乗せさせて上昇させるという、非常に強力かつ厄介な能力を保有しているようだ。
おそらくその動きは使用者がついてこられなくなるまで上がるようで、サシリという最強のポテンシャルを秘めた存在が使用するとさらに絶大な力を発揮するらしい。
俺は完治の言霊で腹の傷を修復すると、蔵の中からリーザグラムを取り出して中段に構える。エルテナは先程サシリに弾き飛ばされてしまったので、サシリのさらに後ろの大地に突き刺さっているため使用することはできない。もちろん、俺の武器は基本的に俺の手元に戻ってくるので呼び戻そうと思えば出来るのだが、そんな隙はこの戦いにあるはずがない。よって青く透き通った神宝で俺はサシリの剣を受けることにしたのだ。
すると、サシリはやはり尋常でない速度を保ったまま俺に切りかかってきた。
「フッ!!!」
「くっ!」
俺は出来るだけその動きに合わせてリーザグラムを振るう。サシリの説明であればあの血剣サンギーラは相手の剣速を自身の攻撃に上乗せしているようだ。
であれば全てのものに同調するリーザグラムであればその影響下には入らないはずだ。
「ッッッ!?」
どうやらサシリは何合か俺と打ち合うことでその事実に気づいたらしく、顔をしかめながらそれでも魔剣を俺に放ってくる。
俺はこのタイミングでお得意の剣技を使用することにした。
「青の章!」
リーザグラムから放たれるそれはあの第二神核にもダメージを与えた技だ。次元境界をゆがめることはなくても神妃化した今ならあのときよりも遥かに威力が上がっている。
この斬撃は真っ直ぐサシリに放たれると、その魔剣と衝突し、血花を散らした。
「くっ!?くううぅ!!!」
さすがにあのサシリであっても青の章は堪えるようで、苦悶の表情を浮かべながらその攻撃を押しとどめている。
俺はその間に周囲のあらゆるものから気配をかき集め気配創造を発動する。
あらゆるものを生成する妃の器の力は、青白く光り輝き俺の体に集結してきた。その力を左手にかき集めると、その気配を一つのエネルギー弾として形成し追い討ちとしてサシリに投げつける。
「ついでだ。これを防げるか?」
気配の塊は青の章といまだに格闘しているサシリを寸分たがわず射止め大爆発を引き起こす。
少しやりすぎな気もしたのだが、この程度であの血神祖がくたばるはずがないことを俺はよく知っている。
すると煙の向こうからなにやら膨大な力が膨れ上がると、その砂埃を振り払うように赤い糸のようなものがサシリを攻撃から守っていた。
「換わり巡る血壁」
「本当にその力は厄介だな!」
俺は自身が放った気配が完全に消失しサシリに取り込まれていることを確認すると、再び気配創造を使用し、無数の刃を作り出した。
「これならどうだ!」
これは先程とは違い確実に手数がものをいう攻撃だ。いくらサシリの攻撃が早く、また換わり巡る血壁が使えるからといって簡単に攻略できるものではないだろう。
「フッ」
だがサシリは俺の反応とは裏腹に、薄気味悪い笑みを浮かべると何故だか気配ごとその場から消えうせた。
俺は気配探知を使って必死にその存在を探すがどこからも反応は返ってこない。
「ど、どこに行った……?」
「そんなに探さなくてもここにいるわ」
そのサシリの声は直ぐ後ろ、完全な背後が聞こえてきた。
俺は咄嗟に身の危険を感じ、転移を使用しようとするのだがその前にサシリの攻撃が俺に突き刺さる。
「血の開拓」
それは血剣サンギーラから放たれた強力な一撃で、俺の肉はおろかあばらを軽々と粉砕し俺の右胸付近に直撃する。
「がああ、がああああああああああ!?」
俺は何とかこの状況から逃げようとするが思ったように体が動かず離脱することが出来ない。
これも魔剣の力なのか……?
俺は霞み始める瞳で現状を素早く確認する。
見るとサシリの腕からはドクドクと滴る様に赤い血があふれ出ており、無造作に引き裂かれたようなあとがついていた。
「サスタが言っていたでしょ?私たち吸血鬼は洗脳類の魔術がそもそも得意だって。だからハクに悟られないように深層心理に働きかけ誘導するも簡単。それに今ハクに刺さっているのはこの血剣のいわば第二形態。この剣は私の血を吸うことによって新たに覚醒するのよ。それは相手の血を吸い上げ行動不能にするというもの。ハクの剣がどれだけ特殊でも、一度突き刺してしまえばこの剣からは逃れられない」
そ、そういうことか………。
どうりで今俺は動けないわけだ。
しかも俺の気配探知で捕らえられないほど気配を消して動けるなど、もはやサスタが言っていた吸血鬼の性質を遥かに超えている。
確かにサスタは吸血鬼は洗脳魔術が得意だ、と言っていたがもはやサシリレベルになると次元が違いすぎて笑えてくる。
とはいえ、このままじっとしているわけにも行かないので少々無理やりだがこの状態から脱出することにした。
「た、確かに、今の状況はきついが、それでも何も出来ないってことはないぞ?」
俺は胸の痛みを堪えながら、そう呟くと神妃化のランクをプチから一段階引き上げ、体の中に眠る力を呼び起こした。
「な!?」
それは何も言わずともサシリの剣を俺の体から引き抜いていき、完全に俺は解放された。これは神妃という本来頂点に立つはずの力が作用した結果であり、万物は全て神妃に還る物という理を植えつけたのだ。
そうするとあの血剣は一時的にだが、俺の命令を受けつけるようになり自ら俺の体から離れたということである。
とはいえほんとに一瞬なので、直ぐにサシリの制御下に戻ってしまうが。
だが、今の俺にはその時間は余裕過ぎるほど十分な時間であり、その隙に傷を治し距離を取る。
「………。まさか血剣から逃れる人がいるなんて………。やっぱりハクは強いのね」
サシリは少しだけ悔しそうにしていたが、その表情は先日と同じように高揚感が漂っており、戦いを楽しんでいるようだった。
「それはこっちの台詞だ。腕の傷も直ぐに修復しているし、なによりその速さは反則だぜ」
俺はリーザグラムを真っ直ぐサシリに向けながらそう呟く。
「立ち直りが早いのはお互い様だと思うけど?」
「生憎と俺はさすがに吸血鬼ほどの再生速度は持っていないんでね。気兼ねなく攻撃を受けるなんてことは出来ないんだよ」
リアと同化していることで通常の人間の再生速度よりは驚異的な修復能力を持つが、それでも再生のプロである吸血鬼には敵わない。
よって俺は神妃の体質に言霊を重ねがけすることで対応している。
「なら、こういうのはどう?」
その瞬間サシリはおもむろに右手を像空に掲げたかと思うと再び魔力を練り始めた。
「搾取するは飴色の流血」
それは全長二十メートルはあろうかという紫色の大鎌で、血が滴るように鋭く尖ったその鎌先は俺の首を刈り取るだけために用意されたような輝きを放っていた。
「おいおい………。マジかよ……」
あんなもの振るわれたらひとたまりもないぞ!?
サシリは俺のそんな内心は露知らず、全力でその鎌を振り下ろしてきた。
風を切る轟音ともにその鎌は俺目掛けて放たれる。もはやその光景はなにかの巨大生物と戦っているようであり、これが一介の吸血鬼が引き起こした現象だということは、にわかに信じられなかった。
俺はこの攻撃はまともに受けるわけには行かないと判断し、気配創造における全力の刃を一本作り出し投擲する。
その大きさも五メートルを超えていたので大分大きいはずなのだが、それでもサシリの大鎌には見劣りする。
この二つの武器は空中で勢いよく激突し、空気の塊を辺りに巻き上がらせ拮抗した。
「はああああああ!!!」
「はああああああ!!!」
俺とサシリの力がぶつかり合い空間の境界を歪める。やはり血神祖なだけあってその力は本物であの第二神核に致命傷を与えた気配創造の力でも打ち落とすことはできないようだ。
だが、この攻撃はただの刃ではない。
俺という器から漏れ出た気配創造の力の塊。これが普通の能力と思われては困る。
俺とサシリの攻撃はお互い引けを取らず衝突を繰り返していたが、しばらくするとサシリの鎌にひびが入り始めた。
「え!?な、なんで!?」
俺はその表情を見てニヤリと笑うと、先ほどのサシリのように説明してやることにした。
「俺の力は周囲の気配を無造作にかき集める能力だ。その対象にその鎌が含まれてないと思うなよ!」
そう、この気配創造の刃はどうひっくり返っても気配創造で作り出されたものだ。であれば形を変えた今でも周囲から気配を吸い取るという力は生きている。
つまりはサシリの鎌と互角の衝突を繰り返しながら、その力を吸収していたのだ。
そしてとうとうその鎌は修復できないほど大きなひびが入り、バキンっと言う音と共に叩き折れた。
残っている俺の攻撃はすぐさまサシリに標的を定めると、その体目掛けて突き進んだ。
「くうううぅ!?」
サシリは右手に持っていた魔剣でその攻撃を何とか防ぐが衝撃全ては消すことができなかったようで、二十メートルほど後ろに吹き飛ばされる。
これはさすがに効いているだろう。
俺はそう思うと依然警戒の色を消さず、リーザグラムを構え直した。先ほどのように俺の気づかないうちに接近してくることもある。注意しておいて損はないはずだ。
すると地面に這いつくばっているサシリはよろよろとその体を起こすと、一瞬にして俺との距離をつめ、なにやら嬉しそうに話し出した。
「本当にハクは強いわ。まさか搾取するは飴色の流血まで防がれるなんて。正直ここまで完膚なきまでに叩かれるとさすがに気落ちしそう」
「何を今さら。それもどうせ計算にいれてるんだろ?」
俺は少しだけ挑発するようにそう問いかける。
確かに一までのサシリの攻撃はどれも強力だったが、そのどれもが先日戦ったときの範囲を出ていない。
とうことはサシリが言っていた本気というのはまだ出てきていないとうことだ。
「そうね……。私も本気を出すと言った以上、このまま引き下がる気はない。これからが本番よ」
サシリはそう呟くと、静かに目を閉じ集中し始めた。
当然この間に攻撃することもできるのだが、さすがにそのような無粋なマネはしない。そんなことをすれば俺はサシリに一生恨まれるだろう。
という安易な発想を頭の中に浮かべていると、途端にサシリの気配が大きくなった。
それは大地を揺らし、空には何本もの稲妻が走っている。もはやそれはこの土地を支配しているかのようで、まさに神々しい気配を滲ませていた。
サシリは目を閉じたまま、ゆっくりと口を開き、自身の力を解放した。
「始祖返り」
その瞬間、今まで感じたことがないくらいの莫大な力がこの空間に渦巻き、圧倒的存在をこの場に降臨させる。
それはもはや人間の気配ではなく、感じられるのは一点の濁りもない神格のみ。
これは全力状態のキラと同等レベルで、威圧感だけならばキラを凌駕していた。
サシリの見た目は若干変化しており、もともとふわふわしていた赤く長い髪は更に逆立ち、その先端は黒く染まりかけている。
おそらくこれがサシリの本気ということなのだろう。
これはまたとんでもないものを隠していたな………。
俺は心の中で冷や汗を流しながらその光景を見つめていた。
サシリは力を充填すると静かにその瞼を開け、俺の頭に話しかけるかのような響きのある声で言葉を投げかけてきた。
「これが私の本気。全力の全力。覚悟はいい?」
そう言葉を発するサシリはもはや神の姿そのもので、俺の体を少しだけ後ずさらせるのであった。
次回はサシリの全力の凄さを存分に書いていきます!
誤字、脱字がありましたらお教えください!
次回の更新は明日になります!




