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第百三十二話 立食パーティー、そして決意

今回は立食パーティーメインですが最後に第四章の最終エピソードに繋がるお話があります!

では第百三十二話です!

 キラの抱き枕の刑に処されながら翌日を向かえた俺は、今夜行われる夜会、というより立食パーティーに参加する準備を始めていた。

 というのもこの町の立食パーティーはそれほど気張ったものではなく、平民も多く参加することから衣装などは凝らなくてもいいそうだが、多少の準備は必要だろうということでとりあえず主役であろうサシリに向けて渡すものを町へ買いにきていた。

 だが、いまいち女子がほしそうなものがわからない俺はキラを引き連れて意見を窺うことになったのだ。


「女の子って一体何がほしいんだ?」


 するとキラはそんな俺を見ながら大きくため息をつき、返答した。


「前提が間違っているだろう。今回は単純に喜ぶものではなくて、粗相のないものを渡すのがベターだ。そこをどうして本気で欲しそうなものを選ぼうとする?筋がずれているぞ」


 あ、はい。

 なんかすみません。

 と言われてしまったので俺はとりあえず、お菓子とかでいいのだろうか?という安易な考えの下、焼き菓子屋の扉を潜った。

 そこはほんのりと甘い香りが立ち込め鼻腔を刺激してくる店内で、先程朝食を食べたばかりなのに腹の虫を鳴かせてきた。

 どうやらそれはキラも同じようで、口の淵から涎を今にも垂らさんと言わんばかりに、恍惚な表情を浮かべている。顔だけ見ると完全に変態なのだが、まあそれはさておき、俺は何かいいものがないか、店内を歩き回った。

 置いてある物はどれもおいしそうで、もうどれでもいいんじゃね?と投げやりな考えが脳内に浮かび上がるが、その発想をブンブンと頭を振り吹き飛ばすと再び店内を物色し始める。

 さすがにそんな怪しい姿を晒していては店員さんも気になったようで声をかけてきた。


「あのー……。なにかお探しですか?」


「え?あ、ああ。実は今日サシ……じゃなかった。カリデラ城の立食パーティーに参加するんですが、そこで献上するものでなにかいいものがないかと思いまして……」


 と俺が一通り事情を説明した途端、店員さんの表情が激変した。


「う、うちの商品を持っていってくださるんですか!?」


「え、ええまあ、今は他に考えていませんけど………」


「でしたら!少々お待ちください!全力を持ってご用意させていただきます!!」


「はあ……」


 俺にそう言った放った店員さんは急いで厨房の方に戻ると、なにやら大急ぎで作業に取り掛かりだした。


「なんだったんだあれ……」


 俺は隣にいるキラに問いかけるように、口から言葉を漏らした。


「おそらく今から行こうとしている立食パーティーは余程住民からの人気が高いのだろう。そんなところに自分の店で売り出している商品が献上されれば誰だって嬉しいのではないか?」


 うーん、そういうもんかね………。

 俺はその店員さんの姿を見ながら出来上がりを待つことにした。正直言って特段この店である必要はなかったのだが、あそこまで張り切られてはこちらも断りづらい。

 まあ別に嫌というわけではないので、このまま大人しく店員さんの厚意に甘えることにしたのだ。


 で、今まで姿を見せていないアリエスたちはというと。

 結局朝が明けても返ってくる気配は見せず、どうやら立食の場で顔を合わせる予定らしい。確かにそちらのほうが無駄足にならないで済むので、特に言うことはなかった。

 ということで俺はキラとクビロを連れ、立食までの時間を潰しているわけなのだが、しばらくすると先程の店員さんがなにやら大きなかごを持ちながらこちらに近づいてきた。


「お待たせしました!こちらを是非パーティーに持っていってください!」


「ど、どうも……」


 目の前に突き出されたのは明らかに一人では食べきることの出来ない量の焼き菓子たちで、量もそうだが種類も多く色とりどりのラッピングがなされていた。

 俺はそれをとりあえず受け取ると、その会計を済まし店を出る。

 店員さんは最後まで俺たちに頭を下げており、若干注目を集めてしまった。

 まあこれで立食前の準備は終わったので、焼き菓子を蔵の中にしまうと隣に歩いているキラをじーっと見つめた。


「ん?な、なんだいきなり!?そ、そんな見つめられても妾は……」


 何故かキラは顔を急に赤くし慌てているが、俺は気にせずその姿を観察する。

 キラは圧倒的なほど美人でスタイルもいいのだが、如何せん着ている服が少しラフすぎる。体のラインをはっきりと映し出している衣は似合ってはいるのだが、やはり少しだけみすぼらしい。精霊の女王として長年君臨してきている正装なのだろうが、今夜は少し変えたほうがいいだろう。

 そう思った俺は転移で宿屋に戻ると、蔵の中を弄り始めた。


「えーと、確かどっかにあったんだよな、あれ」


「な、なにをやっているんだマスター……?さっきから色々と行動が謎だぞ?」


 するとここで俺の手は目的のものを探り当てた。


「お、あったあった」


 俺はそれを蔵から引っ張り出すと、そのままキラに向けて言葉を放つ。


「動くなよ?」


「は?」


 キラはその言葉に呆けていたが、俺はお構いなく力を解放する。

 それはルモス村に訪れる前にアリエスに使用したものと同じで、神妃の力でキラの新しい服を作りだしたのだ。

 それは薄い桃色の衣で、今までキラが来ていた服をベースにするような形状になっており、その表面には若干ラメのようなものを散りばめてある。

 それはキラの肩を完全には隠さず、オフショルダーのようなドレスになっており、普段着でも使えるように動きやすく調節しておいた。


「な!?こ、これはなんだマスター!」


「せっかくの立食なんだし、着飾らなくていいっていっても少しくらいは整えておいたほうがいいだろ?ほら、髪かして」


 俺はキラの後ろに回りこむと蔵から取り出した、金属質の髪留めをキラの髪を結いながら装着していく。


「ッ…………」


 俺がその綺麗な髪を結っている間、キラは俯き俺に目を合わせることなく黙ってその作業が終わるまで待っていた。


「よし、出来たぞ」


 その髪留めはティアラほどまでいかないが、それなりに装飾がなされておりキラの虹色の髪とよく似合っていた。

 自分でやっておいてなんだが、やはりキラは見とれてしまうほど綺麗で少しだけ緊張してしまった。

 キラは終始無言であったが、最後に少しだけ小さな声でなにか呟いていた。


「………こういうのは本当にずるいな、マスターは………」


 それはいまいち俺の耳には入ってこなかったが、それでもキラは嬉しそうにしていたので、俺は満足して立食の時間を待つのだった。








 そしてとうとう立食の時間になった。

 俺とキラは時間ぴったりにその会場に入り、並べられた料理に舌鼓を打っていた。

 見るとそこには多くの人達が既に会場入りしており、極普通の服装をした人たちや豪華絢爛という言葉が似合いそうな衣装を身に纏っている人もいる。

 だがやはりその中でもキラという存在は一際輝いていた。何人もの男から声をかけられそうになっており、そのたび俺が威圧で追い払う。この繰り返しになっていたのだ。


「むう……。見られるというのは存外恥ずかしいものだ」


「まあ、そう言うなよ。こういうのも人間の世界を見ておく上で大切だと思うぞ?」


 俺はそう言いながら料理を口の中に放り込んでいく。

 するとなにやら大きな歓声が周囲から沸きあがった。見るとそこにはいつもより豪華な赤いドレスに身を包んだサシリが入場してきており、途端に大勢の人に囲まれてしまう。

 さすがはカリデラ君主、人気が段違いだ。

 そんなことを思っていると、不意に隣から声が飛んでくる。


「あ!ハクにぃだ!」


 そこには昨日の朝ぶりに見るアリエスたちの姿があった。

 見ればアリエスたちは普段の服装のままのようで、特段着飾りはしていないようだった。


「ああ、とりあえず呼ばれたから来てみたが何か目的でもあるのか?」


「へへー、それは秘密!ってそれよりも、キラもの凄くきれいじゃん!羨ましいー!」


 アリエスは俺の背中の後ろに隠れているキラを発見すると、すぐさま目を光らせ近寄っていった。


「ま、待てアリエス!引っ張るな!」


「あら、本当に綺麗ですね。どれどれ私も見てみたいです!」


「確かに全然雰囲気が違うわね……」


「うん、綺麗……」


「うーん、これは私も違う服に着替えたほうがよかったかな?」


 アリエスに続く形で他のメンバーも次々にキラへ襲い掛かる。


「ちょ、まって、マスター!見てないで助けてくれ!」


 俺はその言葉をまったく聞こえないふりをして聞き流すと、再び目の前の料理を頬張っていく。

 目の前には依然囲まれるサシリの姿があったが、その表情は以前よりも遥かに豊かなものになっており、サシリの成長を感じることが出来たのだった。







 結局、サシリはその後もずっと人が囲みっぱなしだったので、俺は近寄れず件の焼き菓子が渡せなかったのだが、それはいずれ立食の後でも渡せるだろうと思い、その場は大人しくしていた。

 その後、立食はつつがなく終了し幕を下ろした。

 キラは終始アリエスたちに弄られており、こちらに助けを求める目線を送り続けていたのだが、それもまた一興ということで引き続き無視し続けておいた。

 で、たくさんいた人たちも殆どいなくなってしまったので、俺たちもそろそろサシリに献上品を渡して帰ろうかと思っていたのだが、そこでアリエスが俺の腕をいきなり掴み取り言葉を投げかけてくる。


「はい、ストーップ!まだ帰っちゃダメだからねハクにぃ!」


「え?どうして?」


「これからがお楽しみです!」


 エリアが俺の空いている手を掴みながらそう呟く。

 俺は何がなんだかわからない状態で、とりあえずアリエスたちの意思に従いその後をつけることになった。

 いくつかの部屋を通り抜け、たどり着いたその空間は僅かだが中から光が漏れているようで、なにやら香ばしい匂いも漂ってくる。

 アリエスはその部屋の扉を勢いよく開け放つと、俺をその中に放り込んだ。


「え?こ、これは………」


 そこには立食パーティーのときよりも遥かに豪華な食事がそこには並べられていた。


「私たちで協力して作ったんだよ!いつもハクにぃには迷惑ばっかりかけてるからね!そのお礼ってことで!」


「ハク様には助けられてばかりですから」


「ありがとうございます、ハク様……」


「これは私たちからのささやかな気持ちです」


「ハク君には、これを食べてもっと頑張ってもらわないといけないからね!」


 アリエスたちはそう言いながら俺に笑いかけてきた。

 …………。

 なるほど、昨日から泊りがけでやっていたことはこれだったのか。

 正直いって言葉にならないほど嬉しい。

 実際は俺が助けられてばかりなのだが、それでも仲間からの気持ちというものは暖かく、掛け替えのないものだということを改めて思い知ってしまった。

 俺は目尻が熱くなるのを堪えつつ、小さな声で呟く。


「ありがとう、皆」


 するとアリエスは俺の顔を覗き込むように顔を近づけてきて俺に返答した。


「どういたしまして!」


「むう……。ならば早く食べよう。妾は結局先程のパーティーでもろくに料理にありつけていないのだからな」


 キラが若干俺に怒りの篭った目線を向けながらそう呟く。


「ああ、そうだな」


 俺はキラの言葉に同意すると、さっそく席につき勢いよくその料理を口に運んだ。

 見ればようやく人々から解放されたサシリもこの部屋に入ってきており、嬉しそうな表情を浮かべている。

 あ、そうだ、今渡してしまうか。

 俺はそう思い至ると、蔵からあの焼き菓子の入った大きな籠を取り出し、一度席を立つと、それをサシリに差し出した。


「………?これは?」


「立食に来たらやっぱり君主には献上品がいるだろ?お店の人が張り切って作ってくれたから味は保証できると思うぜ」


 その言葉を聞いたサシリは一度目を丸くしたがすぐさま表情を柔らかくすると、ドレスの裾を軽く持ち上げ、丁寧な言葉使いで俺に感謝を述べた。


「カリデラ城君主、サシリ=マギナ。あなたのお気持ちを心から感謝し、そのお品を受け取らせていただきます。これからもご贔屓にしていただけますようお願いいたします」


 サシリは深々と頭を下げると、ドレスの裾を離し、俺の手から籠を受け取った。


「こういう時は敬語は止めたほうがよかったかしら?」


 完全に片言が抜けたサシリの言葉に俺は一度笑いを浮かべながら、その目を見て答える。


「いや、たまにはそういうのもいいだろう。あくまでたまにはだけどな」


 俺はそう口にするとそのままアリエスたちの下に戻り料理に手を付け始めた。

 その料理はどれも凄く美味しいもので、アリエスたちの気持ちが感じられたのだった。








 アリエスたちが用意した料理を食べ終わった俺たちは今度こそこのカリデラ城を後にしようとする。

 城門の前まで移動した俺たちは、そこに立つサシリに振り返った。


「じゃーね!サシリ姉!」


 アリエスは元気よくサシリに向かって手を振った。

 他のメンバーも続くように手を振っている。

 サシリはそれに同じく手を振り替えして答えると、俺に向かって手招きをしてきた。

 ん?なんだ?

 俺はとりあえずそれに従いサシリの側まで駆け寄る、


「どうした?なにかまだあるのか?」


 すうとサシリは俺の耳元に口を寄せると、そのまま感情の篭った声でこう呟いたのだった。




「明日、もう一度全力で私と戦ってほしいの。場所は前と同じところで、今回は本当の全力で行くわ」


「は!?」


 俺がその言葉に驚いている間に、サシリは俺の背中を押し、アリエスたちの下まで吹き飛ばす。

 サシリはもう一度俺たちに手を振ると、今度こそカリデラ城の中に姿を消した。


 その背中は以前よりも何故か力強く見え、君主らしい姿へと変わっていたのだった。


次回から第四章の最終エピソードに突入します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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