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第百二十五話 もう一度シュエースト村へ

今回は戦いを終え、シュエースト村に戻るお話しです!

では第百二十五話です!

 人智を超えた戦いを繰り広げた俺とサシリはお互いに握手しあうと、その手を離し力を収めた。

 するとその光景を見ていたアリエスたちが駆け寄ってきた。


「ハクにぃーーーーーーー!!!」


「おわあ!?」


 俺は飛び込んできたアリエスを出来るだけ優しく受け止めると、その体を優しく抱きとめ返り血がアリエスを汚さないように自分のローブで包むと、そっと話しかけた。


「悪いな、アリエス。心配かけた」


「もう!本当だよ!キラが止めてなかったら飛びかかってたんだからね!」


 その目は俺だけを見つめて若干潤いを増している。

 確かにいきなり攻撃されたとか思えば、体の五分の一以上吹き飛ばされ大量の血を流しながら倒れたのだ。アリエスたちからすれば気が気でなかっただろう。

 しかもあれで命の取り合いをしていないというのだから、余計に性質が悪い。

 そのアリエスを止めていたというキラのほうを見てみると、明らかに呆れたような表情をしながらこちらを見つめていた。


「マスターのことだから負けるとは思っていないが、アリエスを止める身にもなってほしいものだ。このお転婆娘はなにを仕出かすかわかったもんじゃない」


「む!キラ、それはさすがに言い過ぎ!」


 アリエスがキラに向かって顔をむくれさせる。

 お、久しぶりに可愛いアリエスを見た気がする。いや、普通にしてても可愛いのだが、やはりこれがギャップ萌えというやつだろうか。


「ですが、私も一瞬ヒヤリとしましたよ………。相手はなんといっても血神祖ですからね。何が起きてもおかしくない覚悟はしていました……」


 エリアがアリエスに続くように声を上げる。それも俺の身を心配している声でその言葉にパーティーメンバー全員が頷く。

 これはなにか埋め合わせが必要かな……。

 と思っていると隣にいたサシリが申し訳なさそうな表情で口を開いた。


「ご、ごめんなさい………。私がハクを傷つけたばっかりに………」


 その言葉は今にも消えてしまいそうなくらい小さく先程の戦いの気迫は完全に消えさってしまっていた。

 だがそんなサシリに対してアリエスは、いつもの笑顔でにこやかに話し出した。


「本当は怒りたいところなんだけど、多分あなたにも理由があったんだと思うし気にしなくていいよ。それより、また無茶したハクにぃにお仕置きしないと!」


 ええ!?

 そ、そこで話が俺に戻りますか!?

 というか、今回は俺、巻き込まれただけなんですけど!?


「そうだね!ハク君にはしっかりと罰を与えないといけないよね!」


 ワクワクという文字が顔に出ているルルンが更に追撃をする。


「ちょ、ちょっと待て!今からシュエースト村の人達を治しに行くんだろ?だったらそんなことしてる暇ないだろ!?」


 すると一瞬の沈黙が生まれ、その後なにかを思い出したかのように口を揃えて言葉を吐く。


「「「「「「あ」」」」」」


 忘れてたのかよ!?

 そこ一番大切なところだから!

 それにシラ!お前は一番忘れたいけないだろうが!

 というわけで無事に空の土地神(セラルタ)を倒し、何故だかサシリとも戦った俺は次の行動に足を向けた。


「サシリ、ギルドで話していたシュエースト村の件、頼めるか?」


 俺は引っ付いているアリエスを名残惜しいが離し、サシリに向かって問いかけた。


「ええ………。それは約束だもの………。今すぐにでも行けるわ………」


 サシリは先程の戦闘でかなり消耗しているはずなのだが、今はその疲れをまったく感じさせないほど元気に振舞っている。

 これが吸血鬼の再生能力とうやつか……。とんでもないな………。

 と一人頭の中で囁いていたのだが、ここで大きな声が俺たちに向けて放たれた。


「姉ちゃんーーーーーーーーーー!」


 それはサシリと同じ赤髪を持つ吸血鬼、サスタだった。

 サスタはギルドを出た後、そのままカリデラ城に連れて行かれ半ば強引に、城の中に閉じ込められたのだ。

 サシリ曰く足手まといになるから、だそうだ。なんとも辛辣な言葉であるが、そこには弟の身を案じる姉としての思いやりが感じられたのでよしとしよう。

 サスタは息を切らしながら俺たちの前までやってくると、その顔を上げてサシリに飛びついた。


「姉ちゃん大丈夫か!こんなに煤だらけになってるし、傷だっていっぱい………ってぎゃ!?」


 サシリははしゃぎ立てる自らの弟の脳天に手刀を振り下ろす。


「うるさい……。私は大丈夫……。それよりも町は何もなかった………?」


 おそらくそれはここで起きた戦いの余波のことを言っているのだろう。俺とサシリの戦いは強力であったがお互い攻撃の範囲を絞っていたし、それほどの被害は出ていないはずだが空の土地神(セラルタ)との戦闘は、大規模魔術や爆風が空を駆け巡った戦いになった。それは確実にカリデラまで届いていただろうし、多少の被害は覚悟しなければいけないだろうと俺は思っていたのだ。


「あ、ああ。町は無事だよ。他の吸血鬼や冒険者がなんとかしてたみたい」


「そう………。その人達にも後でお礼を言わないとね……。それとサスタ、私はこれからシュエースト村に向かうわ………。少しの間城を空けるけど、よろしくね………?」


「ん?ああ、ハクが言ってたやつか。おう、任しとけ!姉ちゃんがいなくても城は絶対に守るからな!」


 自信満々にそう呟くサスタを見ていたサシリは額に手をつけながら、大きなため息をついていた。おそらく、その自信過剰な弟に呆れているのだろう。


「わかってはいたが、お前苦労してるな……」


「それはあなたもでしょ…………。女の恨みは怖いわよ………」


「う……!?き、肝に銘じておくよ…………」


 痛いところを突かれた俺は全力でサシリから目をそらし、おもむろにエルテナを撫でてみたりする。特に意味はないが、動揺をなんとか誤魔化そうとしただけである。

 するとサシリはその後柔和な表情に戻り、俺に話しかけてきた。


「それでも、羨ましいわ………。いっそ私もその中に入ってしまいたいくらいにね………」


「は!?」


「冗談よ………。それよりどうやってシュエースト村に行くのかしら………?さっきみたいに飛んでいく………?」


 それは先程の空の土地神(セラルタ)の戦いのことを言っているのだろう。あのとき俺たちは俺の力で全員が浮遊していた。

 ちなみにサシリは初めてアリエスと空を駆け回っときに言っていたように、魔力を浮遊力に変換して飛ぶことが出来る。これは吸血鬼ならば誰でも出来るようでその中でも頂点に君臨するサシリであれば地上と同じ感覚で移動できるのだとか。

 というわけで空を飛んでいくという考えもなくはないのだが、やはりそれでは時間がかかってしまう。なにせ翼の布(テンジカ)を使っても三日は消費したのだ。いくら俺たちが全力で飛行しようと、俺はまだしも他のメンバーがついて来れない。どんなに早くついたとしても一日はかかってしまうだろう。

 よってここはお決まりの転移で向かうことにする。


「いや、それだと時間が掛かりすぎる。ここは転移で移動することにするよ。そっちのほうが時間を短縮できる」


「転移………?そう言えばあなた戦闘中もいきなり消えたり、現れたりしてわね………。それのことかしら…………?」


 俺はその言葉にニヤッと笑うと、少々力を使うが集団転移を使用し、その場から消え去った。

 当然アリエスたちはそのことを理解できているのだが、サシリは初めての経験だったので心底困惑しているような様子だったというのは余談である。

 ちなみに完全に忘れ去られている、空の土地神(セラルタ)はその後意識を取り戻した後、とぼとぼと空を羽ばたきどこかへ消えていったのだという。








 で、とうとうシュエースト村に解決策を持って到着。

 ついてみれば、時間は午後三時を回っており太陽は既に四十五度ほど傾きはじめている。家屋はその太陽の西日を一身に受けその外観を赤く染めており、活気のない村にさらに寂しさを呼び込んでいるようだった。


「なるほど………。確かに大量の血の匂いを感じるわ………。同胞が迷惑をかけたみたいね………」


 サシリは眉間に皺を寄せながらそう呟くと、髪の毛をワシャワシャとかき回し頭を悩ませた。


「いや、むしろこの村の人はその吸血鬼に感謝してるから、気にすることはないと思うぞ。その怒りの矛先は帝国の勇者に向ければいい」


 俺はそう呟くと、とりあえずヒールの家を目指した。冒険者ギルドに向かってもよかったのだが、やはり今回の件はヒールが原因で始まっている。であればそこに再び向かうのが筋だろう。

 そう思い俺たちはぞろぞろと目的地を目指すのだが、そこでシラが何かを思い出したかのようにサシリに問いかけた。


「あ、そういえばサシリさんはどうして私たちが血晶病を治そうとしていることがわかったんですか?あのギルドで出会うまで私たちは初対面でしたよね?」


 確かにそれは不思議な話である。俺たちがあのギルドで話したのは受付の金髪お姉さんとサスタの二人だけだ。いくらサスタと姉弟だからといっても、そんなテレパシーで伝えましたなんてことはないであろう。

 するとその答えはサシリからではなくキラから飛んできた。


「この吸血鬼はどうやらあのカリデラという土地と妙に親和性が高い。ゆえにおそらく土地を媒介にして妾たちの話を聞いていたのだろう。つくづく人間離れした吸血鬼だ」


 あー、確かあのときもキラはそんなこと言ってたっけ?

 だがそうするともはやあの土地に住む人のプライバシーとかあってない様なものじゃない!?

 と思っていた俺に答えるようにサシリが言葉を繋ぐ。


「普段は使わないのだけど、今回はハクに興味があったから少しだけ使ったのよ………。気に障ったのなら謝るわ………」


「い、いえ、そんな!むしろそれで私たちは助かってるわけですし、気にしないでください」


 シラはそう言うと再び前を向いて歩き始めた。

 というか俺に興味があったって、完全に元の世界じゃストーカーになってるよな……。

 まあ別にサシリの目的はやましいものじゃなかったからいいけど………。

 と他愛もない会話をしていると、直ぐにヒールの家が見えてきた。

 みると、なにやらヒールは外に出て地面に生えている草花と睨めっこしていた。どうやらその草の上に乗っている虫を観察しているようだった。

 ちなみにヒールの両親は血晶病にかかっているもののヒール自身はその病に侵されていなかった。なんでもヒールはかなり運がいいらしく、勇者の光を浴びたにも関わらず発症しなかったのだという。

 ヒールは近づいてくる俺たちに気がつくと、目を丸くしてシラに飛びついてきた。


「シラ………!」


 シラは先程の俺とアリエスのようにその体を優しく抱きとめると、優しそうな顔をして言葉をかけた。


「ダメですよ、ヒール。そんなに勢いよく飛びついてきたら怪我をしてしまいます。お母さんに怒られますよ?」


「う、うん」


 ヒールはそう答えつつもしっかりとシラのメイド服を掴んで離さない。

 俺たちはそれを暖かな目線で見届けるとすぐさまヒールの家に足を踏み入れた。


「すみません。先日お伺いしたハクというものですが………」


「あら、ハクさん。どうされましたか?カリデラ城下町に向かったはずでは?」


 俺がそう声を出すと、中からヒールの母親が穏やかな表情で姿を現した。


「ええ。そこで血晶病を治す手立てを見つけたので戻ってきました」


「ほ、本当ですか!?ということは血晶を?」


 その言葉に浮き足立つヒールの母親を右手で制すと、俺は後ろに立っていたサシリを前に通した。


「血晶ではありませんが、彼女を連れてきました」


「はい?」


 サシリが前に出た瞬間、ヒールの母親の顔が固まった。恐怖というよりは驚きで固まったようだ。

 それもそのはず、俺が連れてきたのはカリデラ城下町君主血神祖サシリ=マギナ、その人なのだから。


「それじゃ、頼んだ」


「頼まれた………」


 サシリは俺の言葉にそう答えると血晶病の治癒を開始するのだった。


次回はシュエースト村の人を全て治し、新たな物語に突入します!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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