第百二十二話 vs血神祖、一
今回はハクvsサシリになります!
では第百二十二話です!
「な………に……?」
俺は自分の体に起きた出来事が信じられず、そのまま地面に仰向けに倒れ付した。
そこには俺の腹にバレーボールサイズの大きな穴が空いており、血がボタボタとこぼれだしている。
異世界に来た初めに出会った盗賊に俺が空けた風穴よりも、キラが記憶の空間でアリスの胸に空けた穴よりも遥かに大きくもはや自分の体が二つに分かれていないことが不思議だった。
人間というのは一瞬にして体の大部分が消失すると、重心がとれず倒れてしまうようで、今も俺の意志とは無関係に体が地に着いてしまう。
内臓?骨?
そんなものはもはやどこかに行ってしまって俺の感覚の中にはない。
だが次の瞬間、遅れてそのダメージの痛覚が働きだした。
「ぐがああああああああああああああああああああああああああああ!?」
それは痛いとかの次元の話ではない、声すらまともに出てこず流れ出るのは赤い液体のみで、それは確実に俺の体力を削いでいく。痛いではなく燃えるような感覚に襲われ、動くことも出来ない俺の姿はかなりグロいもので、周囲には内臓の破片の様なものも飛び散っていた。
「ハクにぃ!!!!」
アリエスがその光景を見て真っ直ぐ俺に近寄ろうとしてくる。
「待てアリエス!!!行くな!」
キラが今まで聞いたことのない声でアリエスを止めようとするが、その動きを止めたの俺に攻撃をくらわせた張本人であるサシリであった。
「あなた達には用はない…………」
サシリは軽く指を逆さにしながら親指で人差し指を弾いた。
すると、それは空の土地神など相手にならないほど強力な風が巻き起こり、アリエスの前にあった地面を消失させた。
「な!?そ、底が、見えません………」
その攻撃は大地を大きく抉っているようで、天然の渓谷よりもさらに深く削りとらえているようだ。
「早く立ちなさい………。あなたがこの程度で死ぬとは思ってないわ………」
サシリは俺を見下すようにそう呟くと、全身に力を流し再び俺に攻撃の狙いを定めているようだ。
俺は満足に動かない体に無理やり鞭を打ち神妃化を実行すると、同時に完治の言霊を全身にかける。
「ご、ごふあぁ!!!」
傷が無理やり修復されたことで、食道に詰まっていた血液が一気に込み上がってきて、俺の口の中を濡らす。その血塊を思いっきり吐き出すと、俺は息を切らしながらサシリと距離を取った。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。な、何のつもりだ………?」
それは俺の中に湧き上がる当然の感情だった。
言われたとおり空の土地神を倒し、カリデラを守ったにも関わらず、いきなりこの仕打ち。
これはいくらなんでも想像できなかったことだし、そもそも俺はこんなことをされるいわれはない。
「言ったはずよ………。私とあなたの違いを確かめると…………。あんたがどのような道を歩んで今の環境を手に入れたのか、何故私と同じように強い力を持っていながら仲間に囲まれているのか…………。それを教えてほしいのよ………」
そう口にするサシリの目は今まで見たことがないほど寂しいもので、悲しさという感情があふれ出していた。
瞬間、またしてもサシリの体が消える。
先程は完全な不意打ちだったので反応できなかったが今回は神妃化もしているので、なんとかその動きを追うことができた。
サシリは俺の左横に移動してくると、首元を弾き飛ばすように手刀を放ってくる。
俺はそれを右腕の腹で受けるように弾き返し、サシリの足目掛けて右足を突き出す。それは見事なバックステップで回避されるが、その後すぐさま高速の殴り合いが開始された。
もはや地面に落ちているエルテナを拾う暇さえない。
「だから、それが意味がわからないって言ってるんだよ!そんな当たり前みたいなこと、俺に聞いてどうする!?」
「当たり前?」
俺がそう口にした瞬間、またしてもサシリの動きが変化した。それは吸い込まれるように俺のわき腹を叩き空の土地神が倒れている方向とは逆方向に吹き飛ばす。
「ぎゃああああああ!?」
「当たり前……。そうね………。あなた達にはそれが普通かもしれないけど、私にはそんな普通、ないのよ………」
サシリは威圧と憎しみが篭った声でそう呟くと、吹き飛ばした俺の目の前に一瞬で移動し、蹴り上げようとする。
だが俺はさすがにこれ以上ダメージをくらうのはまずい、と判断し転移でサシリの背後に移動すると、全力でその背中を右足を回すことで叩き飛ばした。
「ッ!?」
それはサシリに対して初めてのクリティカルヒットになり、俺としては初めて息を整えることが出来る時間を確保することができた。
くそ!
体の器官が全て悲鳴をあげている………。やはり最初の攻撃が重たかったみたいだな………。
俺は先程まで風が通り抜けていた腹を撫でるように摩ると能力で服を戻し、蔵に入っているリーザグラムを取り出そうとした。
だがその寸前でその手を止める。
いや、だめだ。
サシリのスピードについて行くには剣振るっている時間はない。このまま拳と能力で突き進むしかない。
おそらく戦闘能力自体は、キラと同じくらいかそれより少し下なのだろうが、戦い方がまったくもって違う。
キラは根源や記憶を操る遠距離タイプの攻撃だったのでリーザグラムを初めとする魔剣や武器の類は通用したが、サシリの場合剣を振るう前に、間合いよりも更に中に入られてしまう。
よってここで武器を使用することはかえって危険だ。
そう判断した俺は自らの体に宿る神妃を力を少しだけ上乗せして、サシリの行動を待った。
神妃化というのは、文字通りリアの力を完全に自分の体と同化させる力だ。今はプチ神妃化に留まっているが、これが百パーセント同化してしまうと全盛期のリアよりも遥かに強力な力を扱えるようになる。
だがこれは事象の生成よりもさらに大きな力をかき集めるので、次元境界など一瞬にして崩れ去り、世界丸ごと吹き飛んでしまう恐れもあるのだ。
しかし今はそれの出力を少しだけ上げなければついて行くことができないので、その力を限界ギリギリまで引き上げる。
「それが今のあなたの本気なの………?」
「さあな。お前もなにやら訳ありみたいだが、仕掛けられた戦いを拒むほど俺は腐っちゃいない。続けるのか?」
神妃化を上昇させたことによって、落ち着きを取り戻した俺はサシリに向き直りそう問いかけた。
サシリとの今までの会話から考えると、サシリもこの行動には意味があるようだ。城下町の君主であるサシリがわざわざ本気で戦ってまで、俺に訴えかけたいことがあるというならば、乗りかかった船だ。まとめて相手をしてやる。
俺がそう頭で考えていると、サシリは初めて嬉しそうに口をあげこう呟いた。
「もちろん………」
神格を保有するもの同士、イレギュラー対イレギュラーの戦いがここに幕をあげた。
対して、その光景を見守っていたアリエスたちはというと。
ハクの腹に大きな穴が空いた瞬間、全員が反射的に動き出そうとしていた。
その顔には焦りと怒りが滲み、とても人に見せられるものではなかった。
「ハク様!?」
「ハク様……!?」
「ハク様!!!」
「ハク君!!」
そしてその中でも最も大きく反応し、真っ先に動き出したのはこの世界にてハクと一番長い時を共にしているアリエスだった。
「ハクにぃ!!!!」
だがその行動を予測していたようにキラが声を上げる。
「待てアリエス!!!行くな!」
その瞬間、サシリから放たれた爆風はアリエスの一メートルほど前の地面を抉り飛ばし、その行く手を阻む。
「ッ!?」
その攻撃によって出来た溝はどこまでも暗黒が広がるかのような闇が続いており、底が見えない。
「な!?そ、底が、見えません………」
エリアが驚きの声を上げるが、それでもアリエスはハクに駆け寄ろうとしていた。目の前に倒れている青年はその体を中心に血の池を作り出し、まったく動いていない。
そんなものを見せられて黙っていられるはずがない。
アリエスはすぐさま魔本を開き、魔術を唱えようとするが、それはキラの手によって阻まれる。
「止めろと言っているだろう!」
「なんで止めるの!ハクにぃが死んじゃう!」
「あの程度で死ぬマスターではないことぐらいアリエスが一番知っているだろうが!!!」
キラはアリエスの右腕を掴みながら、鬼気迫る表情でそう怒鳴った。
確かにハクは今までどんな傷を負っても直ぐに回復してきた。
今回ほどのダメージは受けたことがないだろうが、それでもキラは自分の全てを捧げた主を信頼しているようだ。
「う………。ご、ごめん………」
アリエスはキラの表情から全てを察すると魔本を閉じ、その光景を見守った。
するともう既にハクはその傷を修復させており、神妃化も行っていた。
アリエスとキラは再びエリアたちのところまで戻り、その戦いを観戦し始める。正直いってもはやこの戦いの次元になるとキラとクビロ以外は目で追うことも出来ないが、それでもハクの戦いからは目が離せなかった。
その戦いを見ていたキラが大きなため息をつきながら、皆にこう呟いた。
「はあ………。またあのマスターは。手を抜くのも程々にすればいいものを」
「「「「「え!?」」」」」
『まったくじゃのう。辛そうな表情をしているが、あれは初撃をまともに受けた後遺症といったところかのう』
クビロがそう続ける。
アリエスたちの目にはサシリの攻撃にギリギリでついていっているハクの姿しか映っていない。それは折れてしまいそうなほど衰弱しているようにも見え、額からは大きな汗が見て取れる。
「ど、どういうことキラ?」
アリエスはキラを見上げながらそう問いかけた。
「言ったとおりだ。マスターは完全に手を抜いている。仮にも妾を倒した神妃化を使っているのだ。本来あの程度の攻撃についていけないはずがない。であれば」
『なにか目的があるようじゃのう。確かにあのサシリとかいう吸血鬼は心に大きな闇を持っていそうじゃし、それが原因かのう』
その二人の言葉につられてもう一度、ハクの方をアリエスたちは確認してみた。
依然その辛そうな顔は変わっていないが、それでも何か観察しているような素振りをちらちらと見せている。
「まあ、わからんでもない。あれほどの力を精霊でもなく神核でもない者が保有しているのだ。逆に不自由なこともあっただろう」
キラは何か思うところがあるようにそう呟いた。
「それをハク様にぶつけているということですか?」
エリアがさらにキラに問いかける。
「というより確認だろうな。同じく人でありながら強大な力を持つマスターと自分の差異を。どうやらこの鳥との戦いで妾たちを引きずり出したのも、全てはこのためというわけだろう」
キラは記憶を管理できる精霊だ。もちろん根源を使う戦いも強力だが、記憶の断片をかき集めてハクと戦っていたのも事実。
ゆえにキラはあの血神祖の記憶を少しだけ覗いたのかもしれない、とアリエスたちは考えその言葉に納得しておいた。
するとハクの攻撃が初めてサシリに通った。
それはただの足蹴りだけだったが、それでもハクにとっては十分すぎる時間を作り出す。
「ほう、まだ出力をあげるか。どうやらマスターは本気であの吸血鬼と遊ぶらしい」
キラの顔は怪しくも笑っていたが、同時に何かを楽しんでいるようであった。それはこのレベルの戦いを前にしても、一切驚かないキラの器の大きさを体現していたのだった。
アリエスはそれでも不安そうな表情を浮かべながらその戦いを見守った。
ハクが何もなく戦いを終えられるように祈りながら。
次回もハクとサシリの戦いになります!
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