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第百十九話 空の土地神

今回は土地神という存在についてです!

では第百十九話です!

「ね、姉ちゃん……」


 俺の前に現れたのは、真っ赤なドレスと長い髪を携えたスタイルのいい女性で見たものの心を奪わんとするくらい綺麗だった。

 だが対照的にその顔はまったくの無表情で感情はおろか何を考えているのかさえわからなかった。

 また体からにじみ出るオーラは最強の吸血鬼と言われるだけあり、神核やキラと同等の威圧感を感じ、俺の肌を突き刺す。それは俺の中で冷や汗に変わり首下を塗らす。

 それはアリエスたちも一緒のようで皆硬直して体を動かせないでいた。

 サスタが姉ちゃんと呟いたところを見るとどうやらこの女性は血神祖サシリ=マギナで間違いないようだ。

 正直そうでなければ困る。こんな強さのやつがゴロゴロいるような世界で安心して生活できるはずがない。いくら神妃の力を持っていたところでこのクラスになってくると、多少身構えてしまうのだ。


「あら、サスタ………。こんなところにいたのね………。聞けばエルヴィニアの樹界で魔物を洗脳しようとして失敗したらしいけど…………。どうなのかしら………?」


「何で知ってんの!?俺一言も言ってないはずなんだけど!?」


「サスタ………」


「ひいぃ!?た、確かに俺は樹界に行って、魔物を、操ろうとした。いやしました、です」


 おいおいおいおい!

 もはや恐怖で口調がおかしくなってるよ!

 というかこの姉弟、上下関係厳しすぎるでしょ!?もう完全に下に敷かれてるぞ弟君!


「そう………。出来ることなら今この場でお仕置きをしたいところだけど…………」


 そういいながらサシリは辺りを見渡しながら俺に視線を合わせる。

 見れば俺たちの周りには大勢の吸血鬼たちが集まってしまっており、サシリに対して尊敬や歓喜の目線を向けていた。


「早くしないとあの匂いが来ちゃうもの…………。そこのあなた、名前はなんていうのかしら…………?」


 サシリは俺に指を指しながら、そう呟いた。

 その瞬間、周囲からはどよめきが走りざわつき始めた。

 よく聞いてみると。


「おい、サシリ様が人族に名前を聞いたぞ!?」


「なんて羨ましいの!私もサシリ様とお話したい!」


「やはりいつ見てもサシリ様はお綺麗だ……!」


 といった声が聞き取れた。

 なるほど。どうやら通常の吸血鬼であってもこの血神祖とはなかなかお目にかかれないようだ。でなければこの様な反応が返ってくるはずがない。


「ハク=リアスリオンだ」

 俺が名前を名乗ってもサシリは表情一つ変えず俺の声を聞き届けた。


「そう、ハクというのね………。ならハク、今から私についてきてくれないかしら…………?」


「………理由を聞いても?」


空の土地神(セラルタ)が近づいてきている、っていえばわかるかしら………?」


『なんじゃと!?』


 その言葉に一番反応したのは地の土地神(ミラルタ)であるクビロであった。

 俺はその音場を聞いた瞬間、気配探知を限界範囲まで広げる。

 するとそこには明らかに通常の魔物の範疇を越えた巨大な反応が確認された。どうやらこの血神祖の言っていることは間違いないらしい。

 元々土地神というのはこの世界に三匹存在する。

 地の土地神(ミラルタ)

 空の土地神(セラルタ)

 海の土地神(カラルタ)

 この三体は長年生きることによってその土地を制するに至った魔物たちだ。それはどれもが知能を持ち、力も強大ゆえ冒険者ギルドからはSSSランク指定の魔物となっている。

 その中の空の支配者がこの城下町に近づいて来ているらしい。


「で、なんで俺がそれについていかないといけない?理由がないはずだが?」


 確かに空の土地神(セラルタ)強力だが、特段攻撃しなければ襲われるということはないだろう。

 であれば別に触らなくていいはずだ。


『それは違うのじゃ主。やつは、空の土地神(セラルタ)はわしら土地神の中でもかなり気性が荒いのじゃ。なにかの拍子に人間を攻撃することなどざらにある。危険極まりない存在なのじゃ』


「…………そこにいるのは地の土地神(ミラルタ)かしら?よく見ると………あなたのパーティー凄いわね…………。とくにその虹色の髪の女性………。強大な匂いを感じるわ……」


 サシリはキラのほうを見ながらそう呟くと、すぐさま俺のほうに向き直り言葉を紡ぐ。


地の土地神(ミラルタ)が言った通りよ………。空の土地神(セラルタ)はかなり危険………。だから間違いなくこの中で一番強いであろうあなたにお願いしてるの………。私と一緒に空の土地神(セラルタ)を撃退してくれないかしら…………?」


 確かにクビロがそこまで言うのならよっぽど危険な存在なのだろうし、放っておけばこの城下町にどれほどの被害が出るかわからない。

 吸血鬼は人族より遥かに強力な種族だが、それでも空の土地神(セラルタ)クラスが出てくるとそのアドバンテージもあってないようなものだ。

 ゆえに俺に協力を求めてくるのはわからなくもないが。


「お前は俺の力を借りずとも空の土地神(セラルタ)を追い払うないし討伐できるはずだ。それなのに何故俺の協力を仰ぐ?」


 確かに空の土地神(セラルタ)は強い。それは俺の気配探知から感じられる反応から見ても一目瞭然だ。

 だがそれでも今俺の目の前にいるこの血神祖はその更に上を行く。というか空の土地神(セラルタ)は足元にも及ばないだろう。

 なのに俺の力を借りたいと言うのはおかしな話である。

 するとサシリはやはり表情を変えず、こう呟いた。


「協力してくれたら、あなた達の目的も聞いてあげなくないわ…………。それでも拒否するかしら………?」


「「「「「ッッッ!?」」」」」


 その言葉は俺とキラ以外のパーティーメンバーに衝撃を走らせ、声を失わせる。


「なるほど。お前、よもやその領域まで到達したか。土地との親和性、それを使って感応。盗み聞きとはいい度胸だ」


 キラが俺にでさえわからない単語を並べサシリを睨む。


「どうするかしら………?」


 サシリは俺をじっと見つめてさらに問い詰めてきた。

 どうやら何があっても何故俺の力を借りたいのかという理由は言う気がないらしい。だがそれでも俺たちは今、ある意味人質をとられているような状況だ。この場合俺たちに拒否権はない。


「ハクにぃ……」


「ハク様……」


 アリエスとシラが俺の返答を急ぐように水分を多く含んだ目で俺を見つめてきている。

 俺は一度大きく息を吐き出すと、サシリの目を今度はこっちが威圧の篭った目でにらみ返しながら口をあけた。


「はあ………。わかったよ、ついて行けばいいんだろう?だったら早く案内しろ。それと絶対にシュエースト村の人達を治してもらうからな」


 その言葉にサシリは無言で頷くと、サスタの腕を引っ張りながらギルドを後にした。


「痛い!痛い痛い!も、もう少し優しくしてくれよ、姉ちゃん……」


「言い訳無用……」


 俺たちもその二人を見失わないように後をつける。ようやく見つけた治癒の手立てだが、あまりにも唐突過ぎたのと、血神祖の圧倒的気配に若干気後れを感じながら、空の土地神(セラルタ)の撃退に向かうのであった。







 サシリについていくこと約十分。

 たどり着いたそこはこの城下町を一望できる高い塔の屋上だった。どうやらここは敵の侵入に見張り台として使用されているようで、何人かの部下であろう吸血鬼たちも見受けられた。

 一応今回は俺たち全てのパーティーメンバーが戦いに出る予定だ。本当なら俺一人で戦うはずだったのだが、それはアリエスたちが断固拒否したので全員で戦うことになったのだ。

 というわけで俺はエルテナを右手に構え左手はいつでも能力が使えるように待機させている。アリエスは魔本と絶離剣レプリカを構え、シラとシルもサタラリング・バキを装備している。

 エリアとルルンも自らが所持している武器を抜き水平線と同じ高さに構え目を細めていた。

 唯一キラだけは腕を組んだまま目を瞑っているがそれでも気配は揺らぎなく精霊の女王にふさわしいものへと変わっている。


空の土地神(セラルタ)のやつは常に宙に浮いておる。主の能力で飛び上がれるとはいえ注意しなければ間違いなく大ダメージを受けるじゃろう』


 クビロはアリエスの首に巻きついたままそう話し出した。蛇であるクビロは例え元の姿に戻ったところで、巨大すぎて空の土地神(セラルタ)と戦うのはかなり難しい。当然俺の力で持ち上げることも出来るが、やはり小回りが利かない。

 よっていつも通りアリエスの首に引っ付いているのだが、同じ土地神が攻めてくるということもあり、いつになく真剣な声色をしていた。


『奴の攻撃は基本的に風を操るものが多い。それはわしの影のように自由自在に形状を変化することができるが、そもそもが物理的物体であるがゆえに影ほどの自由度はないはずじゃ』


 風の攻撃。

 俺がその言葉で真っ先に頭に浮かぶのはあの第二神核だ。

 全ての自然を操ることが出来た奴はとてつもないまでの力を纏わせながら、こちらに攻撃してきた。

 正直ってあれほどの力を保有しているとは思ってないが、場合によっては神妃化も使わないといけないかもしれない。

 俺はそう考えながら、俺たちよりも少し離れたところにいる赤髪の少女、血神祖サシリに目を向けた。

 サシリは微動だにせず空の一点をただ見つめて佇んでいる。腰にささっている剣すら抜かず、力すら放出していない。

 だがその姿はどこにも隙がなく油断という言葉が最も似合わない存在となっていた。

 すると俺の視線に気づいたサシリは俺のほうを向き、おもむろに口を開く。


「なにか変なところでもあるかしら………?」


「いや別に。ただ本当にこの城下町の主なんだなと思っただけさ。普通こういう仕事って主自ら出てくることってあんまりないだろ?」


「…………そうでもしないと、今回の空の土地神(セラルタ)は他の吸血鬼だと荷が重い。それに私は強すぎるから…………こうやって町を守るしかないのよ……」


 その言葉を吐くサシリは依然無表情であったが、どこか寂しげな雰囲気を感じた。それは一度見た程度では計り知れないほど深い闇を、俺に感じさせたのだった。

 俺はそのサシリに軽く笑いかけると、剣を構え直しこう呟く。


「そうか……。まああんまり気張りすぎるなよ?どうやらお前は住民に信頼されてるみたいだし、倒れられたら悲しむのはここに住む全員だからな」


 俺の言葉を聞いたサシリは一瞬だが、目を丸くし言葉を吐かなくなってしまった。


「お喋りはそこまでだ。来るぞ」


 キラが俺たちに注意を促す。


 するとそこには元の姿のクビロと同じサイズはあろうかという巨大な鳥が姿を現した。

 その鳥は銀色の羽を持ち、体全体に風の障壁を纏わせている。




『ほう、人間風情が私を待ち伏せとは、なかなか肝がすわっとるではないか』


 空の土地神(セラルタ)は俺たちにそう呟くと、風の塊を周囲に放ちながら雄たけびを上げたのだった。


次回は完全にバトル回になります!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

次回の更新は明日になります!

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