第百十七話 カリデラ城下町内部
今回は城下町の中と血晶について掘り下げていきます!
では第百十七話です!
いきなり仕掛けられた戦いに勝利した俺はそのまま足の上に載せた武器を二人の吸血鬼に返すと、交換条件であった願いをぶつけてみた。
「さあ、俺が勝ったんだから少し言うことを聞いてもらうぜ?といってもこの町について聞くだけだけどな」
一度戦いで打ち解けてしまったので俺は敬語を外す。
すると遠くから見守っていたアリエスたちもこちらに近づいてきた。
「ああ、我々で答えられることであればなんでも答えよう。それが勝負を挑んだ代償でもあるし約束だ」
というわけで俺は皆にどうする?という目線を向けた目でその解答を聞いてみた。まあ、言わずもがなシラは早く血晶について聞きたそうにしていたが、物事には順番がある。ましてこの二人はカリデラの門番をしているのだ。当然その管轄は血神祖に準ずるはず。
ここで下手なことを言って目をつけられるのは避けたい。
で、俺は皆の返答を待っていたのだが、全員が首を傾げてしまって答える気配を見せなかった。
おいおい、お前ら無計画でここに来たのかよ………。
せめて俺が戦っているときに考えておいてくれればいいものを………。
このまま二人を待たせるわけにも行かないのでとりあえず俺が答えることにした。
なにせ早く言わなければ、俺たちの後ろに並んでいる人達に迷惑がかかる。ただでさえ、今の模擬戦でそれなりの時間を消費しているのだから。
「そうだな、なら冒険者ギルドといい雰囲気の宿の場所を教えてくれ。それで構わない」
「いいだろう。これがこの町の地図だ。……………。よし、冒険者ギルドとめぼしい宿には印をつけておいたから確認するといい。これで大丈夫だろうか?」
「ああ、問題ない。すまなかったな、仕事中に」
「いや、そもそも我々がいきなり戦闘を仕掛けたのが全ての原因だ。気にしなくていい」
「ちなみに聞くが、他の吸血鬼も皆こんな風に好戦的なのか?」
「まあな。とはいえその強さなら軽くあしらえるだろうから心配はいるまい」
まあそうなんですけど。
それでもやっぱり面倒事は避けたいわけで、俺たちはここに戦いに来たわけじゃないんですよ!
俺はそう心の中で愚痴るとアリエスたちを連れてカリデラ城下町に足を踏み入れた。
そこは幾重にも重なり合った住宅街が並び、頭上にはその建物を結ぶようにアーチ状の道がかけられている。
また外から見ていたように使われているレンガは全て黒色で日の光を全て吸収しそうなくらい漆黒だった。
とはいえ町の雰囲気はむしろ賑やかで、出店や八百屋、アクセサリー店、服屋と多種多様な店舗が並び、その賑わいはエルヴィニアより遥かに大きなものだった。
よく考えてみたら、吸血鬼といっても人族と見た目の違いがあるわけでもないので文化の発展も似たようなものになるのは頷ける。
見ればそこには吸血鬼だけでなく他の種族も混ざっているようで、八割吸血鬼、二割他の種族、という感じだろうか。
「うわー!すっごいところだね!ねえねえハクにぃ!あとであのお店行ってみてもいいかな?」
「ダメですよ、アリエス。私たちは血晶を探しに来たんです。そんな現は………あ、あのお料理おいしそうですね……」
「エリア姉も同じじゃん………」
本当ならば楽しく観光といきたいところなのだが今回は目的が違う。まして一刻を争うのだ。悠長に構えてられない。
「はいはい、無事に血晶を手に入れてシュエースト村を救ったらまた来ような。今はとりあえずギルドに向かうぞ」
俺が何故あの二人からギルドの場所を聞きだしたかというと冒険者ギルドという立場に原因がある。
というのも冒険者ギルドとうのは学園王国にあるギルド本部より各地に支部を設けている関係上、どの国家権力にも属さない機関なのだ。さらにそこには大量の冒険者が流れ込んでくる。
つまり比較的安全に情報収集が出来るのだ。
俺たちは先程の二人から貰った地図を頼りに冒険者ギルドを目指した。
のだが、やはりアリエスたちは少し目立ちすぎるようだった。
それもそうだろう。
全員が全員もはや卒倒するレベルで美人ないし可愛いのだ。それは男衆からすれば清涼剤のようなもので、俺たちは歩いているだけでその視線を集めてしまった。
隙さえあれば今にでも声をかけてきそうな輩がうじゃうじゃと目に付く。本来ならそれは俺が振り払うべきなのだが、今回はあまり注目されるのが好きではないらしいキラが威圧を周囲に放つことで、難を逃れていた。
「チラチラチラチラと、気色悪い目で妾たちをみるなど万死に値する。いっその事消してやろうか?」
「ま、まあまあ抑えて抑えて。そんなことしちゃったら余計に注目集めるから」
ルルンが必死にキラをなだめている。
ちなみにルルンはエルフである以上精霊女王であるキラには頭が上がらなかったのだが、キラの要望もあって同じ仲間としての関係を築いていた。
それは俺も喜ばしいことで次第に仲良くなっていく仲間たちが微笑ましかった。
で、ようやくつきました冒険者ギルド。
そこはシュエースト村の様にわかりやすく看板が立てられていたわけではないが、それでもやはり多くの戦いを見届けてきた風格が漂う建物になっているようだ。
外装は他の建築物と同じく塗りのレンガが使われており、そのレンガには所々に武器で傷つけられたような跡がいくつか見られた。
また入り口付近には、もはやおまけ程度の小さな看板が置いてあり、小さくカリデラ城下町冒険者ギルドと書かれているようだった。
俺たちはその看板を横目に見ながらその内部に入る。
中は思っていたよりもずっと広く、受付の数もさることながらたくさんの冒険者の姿が見て取れた。掲示板にも多くの依頼が取りつけられており、このギルドも町中と同じく賑わっているようだ。
「それでこれからどうするのですかハク様?」
シラが俺の顔を覗き込むように問いかけてくる。
「まあ、とりあえずは受付に行って直接聞いてみるしかないな。ここはギルドだから下手なことさえしなければ有益な情報が入手できるはずだ」
俺はそう言うと適当に空いている受付に向かい、そこにいた金髪のお姉さんに声をかけた。今になって考えてみると受付係の人は比較的女性が多いように感じる。まあ圧倒的に男性が多い冒険者という職を扱うのだから、女性のほうが受けがいいのはわかるのだが、やはり異世界。アリエスに引け劣らず美人の女性が多いようだ。
「すみません。俺たち今日この町に来たばかりなので色々と教えてほしいのですが、よろしいでしょうか?」
「ええ、いいわよ。でもその前に冒険者カードを見せてもらえるかしら?一応初めて来た人には全員確認を取ってるの」
その女性はやはり吸血鬼のようで笑っている口の中から鋭く小さな犬歯が見て取れた。
俺はその言葉に従い自分の冒険者カードを見せる。
「えーと、何々………。ハク=リアスリオン。朱の神。SSSランク冒険者……。って!?SSSランク冒険者!?ま、まさか朱の神ってあの朱の神!?」
「は、はあ………。どの朱の神のことを言っているかはわかりませんがハクというのは俺だけですよ」
おなじみというかもはや慣れてしまった反応を見つつ、俺はそう答えた。後ろではそのやり取りを見ていたパーティーメンバーが必死に笑いをこらえている。
まったく毎回騒がれるこっちの気にもなってほしいものだ……。
ちなみにアリエスの冒険者ランクはエルヴィニアでの件の功績が認められ、今はAランクとなっている。つまりセルカさんと同じなわけで、この短期間では飛躍的な上昇と言えるだろう。
「え、ええ、わかったわ。それじゃあこれは返すわね。そ、それで何を聞きたいのかしら?正直言ってSSSランク冒険者の人に話すことがあるかっていうと微妙なんだけど………。」
やや緊張気味のお姉さんを前に俺たちは一斉に目を合わせると、単刀直入に血晶について聞いてみることにした。
「俺たちは早急に吸血鬼だけが作り出せるとい血晶を入手しなければならないのです。それがどこで手に入るかわかりませんか?」
俺がその言葉を発した瞬間、その受付のお姉さんは明るかった雰囲気をすぐさま怪訝なものに変え、俺たちをにらみつけてきた。
「あなた、本気で言ってるの?」
「はい?」
「だから本気で血晶がほしいとか言ってるの?この吸血鬼である私の前で?」
その声は明らかに怒りのようなどす黒い感情が渦巻いており、尋常でないほどの憎悪が込められていた。
「悪ふざけなら止めなさい。この町で血晶なんて言葉を口に出さないことね」
そう言われても俺たちも引くに引けなのが現状だ。僅かでもいいから情報がほしい。
「いえ、俺たちは本気です。どうしても血晶がいるんです。ですから知っていることがあれば教えていただけませんか?」
「あなたそれでもSSSランク冒険者なのかしら?吸血鬼において血晶がどれだけ貴重なものかわかってるの?それを大量にくださいなんてデリカシーがないにもほどが……」
その女性がさらに言葉を投げかけようとした瞬間、それを押しつぶすかのように圧倒的な殺気が降り注ぐ。
「言葉に気をつけろよ、鬼の娘。妾たちは別にふざけているのではない。ましてや己の欲のために欲しているのではない。そこを履き違えるな」
「ヒッッッ!?」
「キラ………。抑えてくれ……」
俺は暴走するわが精霊に声をかけると、震えている吸血鬼の女性にこちらの状況を説明することにした。
「俺たちも真剣なんです。ですから話だけでも聞いていただけますか?」
その言葉に吸血鬼の女性は勢いよく頷くと、俺たちをギルドにある飲食ようのテーブルに案内した。
はあ……。まったく、やりすぎだよ女王様……。
それからしばらくして俺たちの事情を聞き終えたその女性は申し訳なさそうな顔をして俺たちに頭を下げた。
「ご、ごめんなさい。私、あなた達を勘違いしていたみたいね………。まさかそんな事情があったなんて思わなかったわ」
「いえ、先に説明しなかった俺たちも悪いですからいいですよ」
「血晶っていうのは希少価値が高いから、その在りかを言い寄ってくる冒険者がもの凄く多くてその人達と一緒にしてしまったのよ。でも、そういう事情があるなら私も気兼ねなく話せるわ」
そう言うとその受付のお姉さんはゆっくりと俺たちだけに聞こえるような声量で語り始めた。
「血晶っていうのは、やろうと思えば今にでも作り出せる代物なの。吸血鬼の体内で生成されるものだからそれほど珍しいものではないわ。でもそれを作り出すにはとてつもない力と気力を必要とする。今私がそれをやろうと思えば間違いなく一年は立てなくなるくらいにね。血晶は確かに血晶病の特効薬でもあるけれど、一部の富豪の間ではその美しい見た目から高値で取引されているらしくて、一時期吸血鬼が攫われて拷問を受けたこともあったくらいよ。だから私たちは極力外部の人達には血晶のことは話さないようにしてるの」
そういうことだったのか。
確かにそれほどの力を代償に作り出すのなら、この町にいる全ての吸血鬼が一斉に作ったところで世の中に流通するほどの数は生成されないだろう。
しかもそれを一つでも取り上げようと吸血鬼を拷問するなんてことが明るみになった以上、おいそれとその情報を伝えたくないのも頷ける。
だが、こうなった以上血晶を大量に入手することは出来そうにない。一つの血晶に対し約十人の治療ができるそうだが、それでも三桁はほしい計算になってしまう。
「ど、どうしましょうかハク様……?」
シラが不安そうに俺を見つめてくる。
もはやこうなった以上俺も腹をくくり、神妃の力を使わないといけないかもしれないと思っていたのだが、ここで思いがけない言葉が飛び込んできた。
「でもまだあなた達には手があるわ。正直望み薄ではあるけれど、あなた達の望みが血晶ではなくて血晶病を治すことであるならばね」
「どういうことだ?」
その言葉の意味がわからず俺は反射的に聞き返したのだが、返ってきた言葉はある噂を確定的なものに変えるものだった。
「血神祖サシリ様に掛かれば血晶病なんて、何人いようと問題なく完治させることができるのよ」
この瞬間、俺たちは血神祖という存在から逃げることが出来なくなったのである。
次回は血神祖の力と樹界で出会ったあの人物が出てきます!
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