第百十六話 カリデラ城下町へ
今回は少しだけハクの無双回です!
では第百十六話です!
俺たちは結局それから二日かけてカリデラ城下町にたどり着くことになった。
その二日の間に実はまた賑やかなひと悶着があったのだがそれは今は割愛する。ただただ俺が疲れただけの二日間になっただけだったと言っておこう。
あれはもう恐怖としか言いようがない……。
気苦労が耐えない時間だった……。
まあそれはさておき、今俺たちの目の前に広がっているのは間違いなくガイドブックに書かれているカリデラ城下町と同じものであった。
そもそもカリデラ城下町が何故、カリデラ王国ではなくカリデラ城下町と呼ばれているのかというとこの町はいまだに国になっていないのだ。
というのも城があって、君主がいて、住民がいれば基本的に国として存続が認められるのだが、カリデラを仕切る血神祖がまったくもって国の舵を切らないのだ。
実状、この城下町は圧倒的な力を持った吸血鬼を称えそのカリスマ性に普通の吸血鬼が集まる形で形成された城下町なのである。
そういうわけで血神祖はその場に立ち佇んでいるだけで城下町は回るのだ。このようなところを国と呼ぶにはいささか問題があるといことで、国という名称は付けられていないらしい。
だがその外観は面積は叶わないまでも、発展度は間違いなくシルヴィニクス王国に匹敵する都市で豊かな暮らしを実現している雰囲気が伝わってきた。
ただ一点、特徴を挙げるとすれば住宅が作られているレンガが全て黒色で統一されている点が異質なオーラを放っていた。
「なんか不思議なところだね……」
アリエスが翼の布の中からその町を見てそう呟いた。
まあわからなくもないが、不思議というよりはもはや不気味と言ったほうが似合う外観をしている。これではガイドブックに少ししか掲載されていない理由も頷ける。
決して汚いだとか、治安が悪そうだとかそのような理由で忌避はしていないのだが、やはりなんと言っても中央に聳え立つあの城が明らかに恐怖を煽っている。
それはいわば完全にRPGに出てくるような魔王城風の外観をしており、城のいたるとこに見られる装飾は刺々しく、その雰囲気をさらに増徴させていた
「マスター、感じているか?」
キラが俺の隣にやってきてそう呟く。
俺は何が?と聞き返すことはせずその言葉に頷いた。
「ああ。あれは確かにえげつないな……」
おそらくそれに気づいているのは俺とキラそしてリアだけだろうが、その城の中から放たれている圧倒的な気配は既に俺とキラの肌を叩いていた。
気配の大きさだけで見ればキラと同等レベルで、殺気が混じってないからまだいいもののこれが敵に回るとは出来るだけ考えたくはない。
「どうやら既に人間の域にはいないようだ。神格すらも感じる。まったく妾がしばらく見ないうちに世界はとんでもないものを生み出したようだな」
俺はそのまま翼の布をその町の関所まで走らせながら、蔵の中にあるリーザグラムを取り出し腰に装備していた。
あの竜人族の受付嬢が言うには吸血鬼とは好戦的なものが多いらしい。であれば最低でも戦闘装備は身につけておいたほうがいいだろう。
俺のその姿を見ていたみんなは各々も城下町に入る準備を始める。
そしてようやくその関所に到着した。
やはり翼の布は何も知らない人に見せるとちょっとした騒ぎになるということで少し離れたところで降り、そこから歩くことにした。
関所にはもう既に行商人や冒険者と思われる人々が列を成しており、学園王国に行くまでの中継地点にしている人も少なからず要るようだ。
俺たちはいつも通りその列の最後尾に並び手続きの順番を待った。
ふと目線を城下町に向けると、どこにでもあるような賑やかな住民たちが垣間見えとりあえず安心した。
まさか本当に日々戦いが巻き起こる治安の悪いところだったらどうしよう、と思っていたのだがその心配は必要なさそうだ。
アリエスたちはなにやら俺の後ろで楽しそうに話している。どうやら今はルルンがからかわれているようだ。
「ルルン姉って寝てるとき、凄く寝言が酷いの!みんな気がつかない?」
「うん………。あれはひどい……」
「え!?そ、それ。ど、どういうことかな……」
「簡単に言えば、ルルンは夢の中でもアイドル気分と言うことだ」
「そ、そうなの!?自分では気がつかないから………。っていうかそれもの凄く恥ずかしいんだけど!?」
「えー、私は気がつきませんでしたけど?」
「エリアはずっと爆睡だからよ……」
ちなみに俺はこの三日間基本的に翼の布の外で寝ることが多かったため、その寝言は聞いていないが、アリエスたちがそう言うのならよほどうるさかったのだろう。
寝ているときまでアイドルをやっているというのは、もう重症なのではないか?
そんな会話をしているうちに俺たちの番が回ってきた。
その受付に立っているのは男性二人であり、見るからに肉付きがいいようだった。まあ不審な輩を追い払う目的もあるのだろうが、それを差し引いても厳つい面子が揃っていた。
「あの、すみません。俺たち城下町に少しだけ滞在したいのですがよろしいでしょうか?」
「ふむ、では身分を証明できるようなものを見せてもらおう」
とお決まりの台詞が返ってきたので各自冒険者カードや王家の紋章を見せていく。
ちなみにその王家の紋章というのはエリアの片手剣に掘り込まれているものであり、それは王家の者しか持つことが許されない代物なのだ。
よってエリアはその剣が身分証明となる。
「な!?お、おい!?SSSランク冒険者とSSランク冒険者がいるぞ!?こ、これはまたとんでもないパーティーがやってきたものだ」
「なんだと!?これは……。どうやら本物みたいだな……」
どうやら俺とルルンの冒険者カードを見て驚いているようで、それは今までも経験してきたことであったがやはりなかなか慣れることではなく、少しだけ照れくさかった。
「よ、よし。通っていいぞ、と言いたいところだが一つだけ頼みがある」
「頼み?」
俺はその言葉にさらにと言うかけると首をかしげた。
だが俺はここで早速吸血鬼というものの特長と、前情報が正しかったことを痛感するのだった。
「SSSランク冒険者など滅多に出会えるものではない。よければ我々と手合わせをしてくれないだろうか?」
「はい?」
どうやら城下町に入る前から少しばかり問題が生じるようです。
というわけで俺は今門番であった二人の吸血鬼と剣を構え向かい合っていた。
それを取り囲むように俺たちの後ろに並んでいた行商人や冒険者たちもその戦いを眺めている。
本当はそんな頼みは願い下げだったのだが、俺のパーティーメンバーが思いのほか盛り上がってしまったのだ。
『ハクにぃ、やっちゃいなよ!』
『これはハク様のお力をさらに広めるチャンスですね!』
『頑張ってください!』
『ハク様のお姿、しっかりと目に焼き付けますよ!』
『ハク君、災難だと思うけど頑張ってね』
『たまにはマスターの戦いを間近で眺めるのも悪くはないな』
という流れになったので俺は仕方なくその模擬戦を受けることにしのだが、これをただで受けるほど俺は甘くはない。
どうせやるのであれば対価がほしい。
俺はこの戦いに俺が勝てば一つだけこちらの頼みを聞くという条件をだした。これは特段強制させるものではないが、これから初めて城下町に入る俺たちに何か役立ちそうな情報がないか聞き出したかったというのが俺の考えだったのだ。
それを説明すると二人は快く頷き、今に至る。
「さて、どこからでもかかってきていいぞ?」
俺はエルテナもリーザグラムも抜かず、腕を組んだ状態でその二人に声をかけた。
その二人はそれぞれ片手剣と槍を装備しており、見ただけでかなり使い込まれたものだとわかる。
おそらくBランク以下の冒険者なら一瞬でやられてしまうレベルだ。
「では、行こう!」
「ああ!」
その瞬間、吸血鬼の二人は同時に血を蹴るとそのまま俺を挟み込むような形で襲い掛かってきた。それはやはり何度も経験しているような動きで、流れるようなその動作はとても洗練されていた。
ちなみにこの戦いでは周りに被害を出さないように魔術、魔法の類は禁止している。それは俺に置き換えれば十二階神の力や妃の器の力も使えないことを意味している。
だが俺はそれでも腰の剣を抜くことはなかった。
俺はそのまま空中に少しだけ浮かび上がると、左から攻めてきた片手剣使いの吸血鬼の攻撃を左足で吹き飛ばし、そのまま一回転するとその左足で右から来た槍を受け止めた。
「な!?」
「馬鹿な!?」
「どうした?俺はこの戦い、剣はおろか手すら使うことはしないぞ?この状況で一撃も与えられないとかなり寂しいぜ?」
俺は挑発するようにそう答えると、槍を突き飛ばしその場に佇んだ。
「どうやら、本当にSSSランク冒険者らしいな……」
「実力が違いすぎるか……。だがここで諦めれば吸血鬼の名が廃る!」
その言葉を発した瞬間その二人は同時に俺に攻撃を仕掛けてきた。
俺はそれにニヤっと笑みを浮かべると、それを全て迎え撃った。
上下左右、様々な方向から繰り出される攻撃は俺の体に当たる寸前で交わされ、弾かれ傷をつけることはない。
俺は空中を浮遊しながらその攻撃を受け続けた。
「いい動きだ。ただの吸血鬼にしてはいい反応してるぜ」
「くっ!こ、これならどうだ!!」
刹那、片手剣使いの動きが急に変化した。
それは槍使いの吸血鬼の動きを覆い隠すように剣を動かし、槍の軌道を隠した。
それは俺の目では捉えることができず、完璧なコンビネーションになっており、ここで初めて俺はその二人の攻撃に驚いた。
「もらった!!」
槍が俺の腹部に一直線に突き進む。風を貫くような一撃はあたりの砂埃を巻き上げ爆風を引き起こした。
だが。
「悪くはないが、目だけで相手の動きを読んでいるわけじゃないぞ?」
俺はその槍を先程より高く飛び上がり左足の膝裏でその腹を挟み、攻撃を防いでいた。
「「な、なんだと!?」」
二人の吸血鬼の顔に驚愕の色が走る。
んじゃあ、そろそろ終わらせるとしよう。十分楽しめたからな。
「そして、これで終わりだ」
その言葉と同時に挟み込んでいる槍を、右足で弾き上空に突き飛ばすと、そのまま片手剣使いの腕を空いた左足で取り上げる。そして空から降ってきた剣と槍を右足の甲で受け止めると、吸血鬼にそれを差し出しこう告げたのだった。
「俺の勝ちだな。吸血鬼さん?」
こうしてカリデラ城下町に来て初めての戦闘は幕を下ろした。
その光景を見ていたアリエスたちは当然と言わんばかりの表情をしており、その他の人々は口をあけて呆けていたのだった。
次回はカリデラ城下町内部に入ります!
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